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第十話 『月下の皇帝』

大変お待たせしました。

Dランクダンジョンだからといって、油断していいわけではない。

自分の力を過信し、慢心すれば、直ぐに足元を掬われる。


四方から俺を観察する『眼』達を睨む。


威嚇をしても、動きが止まるだけで観察の眼が無くなるわけではない。

しかし……いつ来るんだ?


既に二階層の攻略も終盤。このまま行けばあっさりと、三階層も攻略出来るだろう。

ダンジョンの魔物が、まさか人間観察が趣味だとは思えない。

であるなら、必ず何処かで仕掛けてくる。

誰かが孤立した時か?

それとも魔物が待ち構える場所で挟撃か?


いずれにせよ、警戒を解く事は出来ない。


俺は大丈夫でも、俺を護る三人は大丈夫ではない。

足手まといだと思われている俺を、守りながら、ましてや乱戦状態でなど自殺行為に等しい。


ヤバくなったらフォルテを武器にして戦おう。


『バンシィサマ、ゼッタイニ、ナゲナイデクダサイネ。』


三人には気付かれない程に、フォルテが声を掛けてくるが、多分これは存分に投げて下さいと言うフリだろう。

安心しろ、お前はいつでも投げてやれるぞ。


肩まで登ってきたフォルテを押し戻し、違和感を感じられないよう、マーティの後について歩く。


「……階段だ。」


「おっ、今度は早く見つかったな。」


「早く降りましょう。」


三人の会話は直ぐに終わり、階段を下りていく。


三階層へ降りても景色は変わらず、松明がダンジョン内を明るくし、至れり尽くせりだ。


俺たちの観察を続ける『眼』は、松明の明かりの陰を常に移動し潜み、俺には気づかれているが、三人には全く気付かれずに隠れている。


本来なら俺に見つかっている時点でアウトだが、ここで俺が下手に『眼』を潰しに行けば、確実にこの三人に不審に思われる。

できれば、戦いたくない。ならばわざわざ面倒な事をする必要なんて無いのだ。


「待て……アレってもしかして……」


先頭を歩くマーティが指差す先には、何か箱のような物がそこにはあった。

赤く塗られた鉄製の箱は所謂。

『宝箱』であった。


「宝箱?」


「そうみたいね。」


「………」


「開けてみるか?」


「そうだな。でも気をつけろよザーツ、何が出るか分かんないからな。」


やめた方がいい。

……と言うのは、言わないでおこう。


『宝箱』とは……夢がいっぱい詰まっているものだ。


金銀財宝

魔剣

聖剣

宝の地図


世界中の誰もが、その中身を欲する、一攫千金のチャンス。

だが現実、そんな物を手に出来るのは本当に一握りだけだ。


未だ嘗て誰も辿り着くことのなかったダンジョンの宝箱ならまだ、その希望があっても良い。

しかしここは既に何度も攻略されたダンジョン……希望など無い。

詰まっているのは夢と希望だけだ。

何かがあるなどあり得ない。


「鍵は………開いてるな。」


パカっとマーティの手によって開けられた。

その中身は何も入っている筈はなく………


「なんだ、草?」


「……みたいだな。」


「えー……何よそれ、他には無いの?」


「…………」


三人は宝箱に入っていた、所謂ハズレを見て落胆する。

だが、彼らは知らない。

その草は、一級の冒険者が必ず持ち歩く、最高級の【解毒薬】。その原料の一部であると……

おそらく彼らは一生知る事は無いだろう、冒険者の中でも抜きん出た存在、Aランク冒険者達が持ち歩く物なのだから、きっと今まで来た冒険者達も知らなかったのだろう。一見ハズレに見えるその草は、一キロ銀貨十枚程で取引される、超レアなお宝である事を……


おいおい、ボーナスステージじゃないか!!


「あ……まて、『薬草マン』。この草は何か分かるか?」


チッ……勘のいい餓鬼は嫌いだ。

ザーツの奴がまるで俺を、希望か何かだとでも言いたげな表情で俺を見つめる。


どうする?


ここで俺がこの情報を話せば、確実に報酬は山分けだ。

見た感じこの量は、三キロあるかないかだな。


………となると、銀貨三十枚が山分けで、一人当たり七枚か……ふむ。


「残念だが、これはただの草だ。何の価値もないな。」


「そうなのか……」


おっと、どうやら何の価値もないと言われて落ち込んでしまった様だ。

仕方ない、嘘をついている負い目などは微塵も感じてはいないが、今後の行動に支障をきたされると厄介なので、フォローだけはしておく。


「そう落ち込むな、そもそも俺たちの目的は宝箱ではなく『大目玉ビッグ・アイ』だろう……?」


そうだ。ダンジョンに来た目的は宝箱ではなく、クエストクリアな条件である、『大目玉ビッグ・アイ』の討伐……それだけだ。

俺はゴブリンの耳でも持っていけば良いんだったかな?


「……それもそうだな!よしっ!じゃぁとっとと『大目玉ビッグ・アイ』を倒して帰ろうぜ!」


フッ………所詮は子供。適当な事言っておけば直ぐに切り替える。チョロい。

そして俺はザーツが、お宝から目を逸らした所で怪しまれないよう一言言っておく。


「これは、何か研究に使えるかもしれないからな、私がもらってもいいか?」


「良いけど、攻略の邪魔にならないようにな。」


「安心しろ、ちゃんと袋は持っている。」


マーティからの許可も得た事だ、今のところは・・・・・・、何の価値も無い薬草を、一文無しの金袋に全て押し込む。


良し……これで所持金は銀貨三十枚になったも同然だ。


お金……いや、何の価値も無い・・・・・・・ただの草を懐のフォルテに預け、マーティの後ろにつく。


「……お前のその袖どうなってるんだ?」


ザーツ、勘がいいな。だが所詮は餓鬼、俺の敵ではない。


「気にするな、世の中には知らなくていい事が沢山ある。これはその一つだ。」


「え?……あ、そうなんだ。」


納得はいってないだろう。だが、この袖の中を見られる訳にはいかない。

フォルテが居るからとか、そんなことは関係ない、別に見られて困るものなど一切ないが、見られたくないだけだ。


っと……何か居るな。


それは本当に微かな物音だった。

小石でも踏んだような小さな音。

俺たちを観察する『眼』の音ではない。

もっと大きな……何かが居る。


ゴブリン?

オーク?


確実に違う。それらの物音とは全く異なる隠密行動に長けた何か。

おそらくこの『眼』達を放った本体。

もっと大きな……眼の蜘蛛か?


「……っ!誰っ!!」


エリンが突然声を上げ、本体を見失う。


「どうしたエリン!?」


「何かが今……私の背後を通った気がするの……」


あぁ……さっきの『眼』か。そう言えばさっき通ったな。


「くっ……フクロウを守る形で、三方向を警戒しよう。」


少年少女は、俺を中心におき、それぞれが背中を合わせることで視野を広く保つ。


ほぅ……存外に彼らは冷静だな。

普通この歳でこの危機的状況に陥れば、冷静など保っていられないものだが……

俺の想像以上に、コイツらは出来るようだ。


しかし、まだまだ青い。

視覚だけを頼りに、敵の位置を把握しようとするのは慣れていない証拠。

必要なのは視覚と、嗅覚、そして『聴覚』だ。


音が響き易い洞窟において、視覚よりも必要になってくるものが『聴覚』だ。

障害物が多く、魔物にとって身を潜めやすい洞窟は、眼だけの情報では魔物を見つける事が非常に困難である。


音だ。魔物の足音を感じ取れ。


これは恐らく『試練』だ。


非常に才能のある彼らにとって、未知の敵とは非常に厄介だ。

姿の見えない敵、それを見分ける為には、一体何をすれば良いのか、それを考えさせる為のクエストでもある気がした。


ならば気づかせてやらねばならない。


地面に転がる小石を蹴って、恐ろしく静まり返る空間に、転がる小石の音が響いた。


「………石?……そうか、音だ。音を聞き取るんだ!」


俺の出したヒントに、マーティがいち早く気づく。


「…………」


魔物は待てない。潜む事を得意とする魔物であっても、獲物を目の前にして待つ事など出来ない。

故に、勝敗は直ぐに決する。


「……動いた!そこだっ!」


『ギュユユユ!!』


マーティの投擲は、見事に巨大な目玉の魔物の脚を貫く。


「畳み掛ける!」


ザーツが飛び出し、剣を振り上げる。

しっかりと鑪を踏み込んだ強力な一撃は、ザーツの気合と咆哮と共に、巨大な目玉に振り落とされた。


『ギュユユユユユユッ!!』


声帯などなさそうなのに、何処から音を発しているのか、巨大な目玉の魔物は断末魔と共に半分に割かれて倒れた。


「やったぜ!コイツは間違いなく『大目玉ビッグ・アイ』だぜ!」


「よし、早くその目玉を持ち帰ろう。あまり長居すると、他の魔物が寄ってくる。」


「そうだな、じゃあこいつは、俺が持っていくぜ!」


そう言ってザーツは、気色の悪いボーリングの球程の目玉を鞄に押し込み背負った。

自ら率先して目玉を回収するとは、なかなかやるな。

俺だったら絶対に触りたくないたぐいの気色悪さだ。アレは………


む……


「行くぞフクロウ。」


「おいてくわよ。」


「早くしろよーフクロウ!」


「む……ああ。」


それは紅く色付いた小さな球体だった。


俺がそれを拾い上げると、その球体はまるで生きているかの様に暖かかった。

俺はその感覚に、覚えがあった。

遥か昔に味わった右眼の激痛。


確か……この後眼を抉られたんだっけか?


「フッ……」


先を行くマーティ達の後を追いながら、球体を指先で弄ぶ。

マーティ達はまだまだ青い。


大目玉ビッグ・アイ』はまだ生きている。


だがそれを、口にするのは辞めた。

代わりに俺は、手に持った『大目玉ビッグ・アイ』を、片手で握り潰しトドメをさした_____________


《___称号『記憶眼』を再解放しました___》


_________________________________________________________________________________________________________________________________




「はい!……これで、手続きは終了です!おめでとうございます!フクロウさん!今から貴方は一人前のDランク冒険者です!」


「そうか。」


毎日テンションの高い、この看板受付嬢こと通称『お嬢』は、そのテンションの高さから、何かイケナイ薬でも使っているのではないだろうかと言う、変な心配をしてしまうほどであるが、慣れとは恐ろしいもので、今ではこのテンションにも当たり前のように慣れてしまった。


お嬢から手渡された、新たな冒険者カード。今度は白のカードではなく、青い冒険者カードに仕様が変わっていた。

後々聞いた話だが、どうやら冒険者カードの色は、その冒険者のランクの色を示しているらしい。凄くどうでも良いな。


「あ、それと今からギルド長室へ向かって貰えますか?ギルド長が、お話があるそうです。」


「そうか。」


ギルド長直々のお呼び出しとあっては、断れんな。

別に、暇だから断る理由も無いのだが。


お嬢にはもう用は無くなったので、とっとと次に待つ冒険者に譲る為、足早にギルド長室へと向かった。




三十秒も経たない内に、ギルド長室の前に辿り着いた。

ノックは……まぁいいか。


「失礼するぞ。」


「……ノックくらいしてよね……フクロウ君。」


「どうせ来ることは分かっていただろう?」


「そうだけどね……マナーってものがあるでしょ……」


「そんな事はどうでも良い、用とは一体なんだ?」


用件があるならさっさと言え、でなければ帰れ!

的なノリでギルド長に用件を急かすが、割と癪に障ったらしい、あからさまに面には出さないが、雰囲気が少し変わった。


「まぁいい、フクロウ君。君に指名クエストがある。」


「報酬は?」


「銀貨八十枚。」


「やろう。」


即決。

高報酬には危険が付き物ではあるが、常に金欠である俺にそんな選り好みする余裕など一切ない。

ギルド長の気が変わらない内に、クエスト内容を聞き出す。


「……【マグナ教立魔術学園】は知っているかい?」


マグナ教立魔術学園。

世界でも三本の指に入る程の実力を誇る魔術の学園。

マグナ教立となると、教国運営の魔術学園だな。

彼の国は世界で名を馳せる超魔術国家であり、世界の仲裁国たる存在。

いわゆる中立国家と言う国だな。


その国は種族や出自など関係なく、全てが実力で決まる実力国家であると同時に、世界で最も信仰のあるマグナ教の大聖地である国だ。

世界各国に散らばる神官たちを束ねる、その圧倒的な統率力を前に、いかに最強を誇る軍事国家でさえも頭が上がらない程の力を持っている。


それ故に中立を保つことのできる国家、言ってしまえば、世界最強の国家である。


そして俺は一応、そのマグナ教を信仰する神官。と言うことになっている。


「知らない筈はない。【大聖地】たる教国の運営する学園だぞ?……腐っても私は神官だからな。」


「そうだったね。神官プリーストである君に、旅の終着点を説明しても意味がないね。」


「そうだ。だから前置きは良い、本題を話してくれ。」


ギルド長は手に取ったコーヒーを一口飲むと、軽く息を吸って口を開いた。


「その、【マグナ教立魔術学園】の中でも優れた、Sクラスの生徒18名が、この街にやってくるんだ。」


「ほぅ……」


Sクラスと言えば、天才集団と言っても差し支えない程の、実力を兼ね備えた生徒か……

冒険者ランクで表すならば、その全員が二つ名持ちのAランク冒険者になる事は確定だ。

それ程の実力がある将来有望の天才集団が、こんな殺風景な辺境の街にやって来ると……一体どう言う事だ?


「そのSクラスの生徒達に、フクロウ君。君は二時間だけ、魔術の教鞭を取ってもらいたい。」


「……分からんな。何故、魔術の学園……それも最優秀の成績を誇る生徒に、魔術を教えねばならんのだ?」


馬鹿にされるのがオチだ。

やるけども。二時間で銀貨八十枚とか、こんな話無いからやるけども。


「学園側が魔術師を所望するから仕方ないよ。」


「ふむ……しかし、魔術師ならば他にも居るだろう?ほら、あの……薬屋のババアとか。」


「君は多分知らないだろうから、あえて言わせてもらうよ。まずこの街で、君を上回る魔術師は居ない。既にこの時点で君が適任であることはほぼ確定して居る。」


「そうか。」


何でも良い、とりあえず金さえもらえれば、俺は何でもやろう。


「そして、君は口こそ悪いが『製作者クリエイター』だ。かのSクラス生徒であっても、冒険者として生きる『製作者クリエイター』は見たことがないからね、この街の一種の名物みたいなものだよ。君は。」


知らない間に名物にしないで欲しい。


「……まぁいい。ヘマをしないように、天才様方の教鞭を取れば良いのだろう?」


「ああ、そうだ。ちなみにこのクエストは、超重要クエストだからね、もし失敗でもして、この街のイメージが悪くなった場合、君の冒険者としての資格は剥奪されるから、気を付けてね。」


「………そうか。」


フザケルナァアアアアアアアアッ!!


いけない、思わず覇気だけで建物を吹き飛ばす所だった……


なんだよ……高額報酬には危険が付き物ってか?


危険のジャンルが違うよ……クソが。



冷え込む夜の街中に、ぽつりと帰路に着くバンシィを、月は静かに見守っていた。




ども、ほねつきです。

最近まで、都合上とても書く暇がなく、長い間放置してしまい、申し訳ないです。

これからは、少し落ち着きそうですので、なるべく早い投稿を頑張ります。


あ、これで『眠れる皇帝編』は終了です。

次回から、『目覚めし勇者編』に切り替わります。この編では、メインが勇者くんです。

ディラの出番は僅かでございます。ご了承を。


では、また。

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