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第八話『傍観する皇帝』

大変長らくお待たせしました。


どんなに寒い朝でも、勤勉な太陽は空を昇る。

怠惰な俺は、どんなに太陽が部屋を照らしても、こんな寒い日には布団から出ようとは思わない。


だが世界は俺を、布団と言う天国から地獄へ落とそうとやってくる。


「フクロウ!アンタいつまで寝てんだいッ!?今日は厨房を手伝ってくれるって言ったじゃないかい!」


ドアの向こうから大声で呼びかける地獄からの使者は、全く身に覚えのない事を呼びかけてくる。


「バンシィサマ。デナクテ、イイノデスカ?」


「何を言っているフォルテ。お前が聞こえているのはきっと、幻聴だ。」


「フクロウッ!アンタ良い加減にしないと、滞納してる事を理由に、憲兵に突き出すよッ!」


「……ト、イッテマスガ?」


地獄からの使者は、どうやら俺の弱みを握っているらしい。


俺がこの街に住み着いて、半年以上が過ぎた。未だに俺は冒険者の最低ランクである、Fランクから上がらない。


本当に謎だ。


しっかりクエストを受け、完璧にこなしても、街の住人からどんなに有り難く想われていても、俺にランクアップの話は回ってこない。


何故だ?


この街の為に、有りとあらゆる薬草を採取し、時には大怪我などを治療してやり、一応神官として、祝儀や葬儀も取り計らうなど、冒険者として……人間として、完璧な筈だ。


何故だ。

何故俺は未だにランクが上がらない?


お陰で銀貨四十三枚など、とうの昔に消えて無くなり、再び俺には、銀貨三十六枚の宿代が滞納されてしまっている。

そこで俺は、宿代をなんとか軽くしてもらう為、食堂の手伝いをする事にした。報酬は銅貨四枚。

つまり1日分の宿代は返上する事が出来る。


ちくしょう……やるしか無いのか………


「女将さん!ご安心下さい!ちゃんとやりますので、憲兵へ突き出す事だけはやめて下さい!」


扉の向こうにいるであろう、女将さんに聞こえるように、こちらも大声で対応する。


「……分かったよ!早く降りてきな!皆んなアンタが作る料理を待ってんだからね!」


だったら給料増やして下さい。


心の底から噴き出した思いは、喉の手前で押し止まる。

只でさえ宿代滞納しておいて、そんな図々しい事など言える立場では無い。


「よっと___」


布団と言う天国から抜け出し、綺麗に折り畳まれたローブを纏う。

軽く鈍った身体をストレッチでほぐし、息を大きく吸い、吐いた___


「良し……行こうか。」


気合いを入れ、フォルテには金を守っていて貰い、留守を任せ、俺は部屋を後にした________________



「フクロウ!『ポルシチ』四人前追加だよ!」


「ああ、直ぐに出す。」


女将から俺の立つ、厨房へと注文が通され、直ぐにその料理を器に盛り付け、盆に乗せ提供カウンターに置いておく。

直ぐに料理は運ばれ、止まる事の無い注文が、次々飛び込んでくる。


「フクロウ!チャーハン八人前、追加だよ!」


「了解。」


中華鍋を熱し、油を多めに入れる。

この宿、自家製の焼豚を放り込み、ネギとニンニクを少し炒める。

とっとと米をぶち込んで、鍋の中で炒め混ぜ、摩り下ろした生姜を混ぜた溶き卵を流し入れ直ぐに炒め、醤油と塩、胡椒で味を付ければ、完成。

皿に盛り提供カウンターへ料理を乗せる。


一年中寒いこの地方は、身体が温まるものが一番欲しい、俺のアレンジで、全ての料理に摩り下ろした生姜を、アクセントを効かせる程に、放り込んである。


これが意外と好評で、何故か飯を食べる為だけに、宿の食堂に街の住人が頻繁に来るようになった。


やめて欲しい。


好評にならなくていいから、俺に休暇を与えてくれ。


休みたい休みたいとは思いつつ、次々来る注文をジャンジャン作っていく。

忙しい事は、時間を忘れさせてくれ、いつしか食堂はお昼を過ぎて、やって来るお客は居なくなった。


「フクロウ、お疲れさん。はいこれ、今日の賃金だよ。……ご飯は食べていくかい?」


「ありがとうございます。ご飯も食べていきます。」


「あいよ。好きに作りな。」


好きに作りな宣言、頂きましたぁ!


シャァッ!早速チャーハン大盛り、チャーシュー増し増しだぁぁ!!


最近は、寒さがより酷くなり、薬草が育ち辛い環境になってしまい、俺の収入は激減し、飯すら有り付け無かったのだが………やっぱ、まかないは最高だぜっ!



お皿山盛りのチャーハンを片手に厨房を出て、空いているテーブルに腰を掛ける。


「いただきます。」


………うむ。流石は俺だ。良い味を出している。焼豚が美味いな。


無言でチャーハンを食べていると、何やら他の席から、俺の事をヒソヒソと話しているようだ。


まぁ良い、俺は寛大だ。その程度の陰口など、聞いていないフリでもしておいてやる。


それにしてもチャーハン美味いな。


最近は薬草の育ちが悪い、それはつまり俺の収入が悪くなる。最近になって思いついた事なのだが、薬草を栽培してみようかと、思ったり思わなかったり、何だったか、温室の部屋でも作って薬草を安定的に手に入れる事が出来れば、俺の収入も安定する。


しかし、残念な事に温室の部屋を作る事にも金がいる。


ちくしょう……元手が無いのは完全に詰んでるな。


「なぁ……フクロウ……ちょっと良いか?」


「む?」


どうやら深く考え込んでいたらしい、俺とした事が、背後の人間に気づく事が出来なかった。


その少年は、冒険者の風貌。赤い髪が特徴的な剣士の少年だ。

先ほど俺の陰口を言っていた三人組の一人だな。


一体何の用だ?


「あの……その………」


「チッ……」


なんだ、言うなら早くしろよ。帰るぞ?


「フクロウッ!俺たちと一緒に、『ダンジョン』に潜ってくれないか!?」


「………は?」


いきなり過ぎて話について行けない。

なんだ、何故俺は知らない少年少女から、ダンジョンの攻略を誘われているんだ?


「何故だ?」


「それが……その、ダンジョンには必ず、回復薬を持ち込むか、神官プリーストを連れて行くかしないと入る事が出来ないんだ。」


………ふむ、ダンジョンは危険だからな。回復アイテムなしで挑むなど、死にに行くようなものだ。

だが、それだけでは俺を誘う理由にはならない。もっと他に優秀な神官プリーストはいるだろうし、回復薬を買えば良い。わざわざ俺に頼みに来るなど、屈辱にも等しい筈だが……


「何故わざわさ俺に声を掛けた?他にもっといるだろう?」


「………それは………お前しか……暇そうな神官プリーストが居ないから……」


ノォ!俺はそんな風に見られていたのか!暇人だと思われていた!?何故だ!勤勉である俺が、暇人だと思われているなど、あり得ん……そんな馬鹿な……


暫く黙っていると少年は、俺が気を悪くしたと勘違いしたのか、慌てた様子で訂正する。


「あ……ちがっ………本当は、ギルド長に薦められたんだ。あんたなら、暇だろう……って。」


「そうか。」


ギルド長……貴様覚えていろよ……いつか必ず、恥をかかせてやる。


「それで……良いか?」


「いいじゃないか、行って来なよ。」


断ろう。

即決断した俺が、口を開く前に、俺では無い、別の人間の声で遮られた。


「女将さん………」


「フクロウ。あんた絶対断ろうとしてたでしょ?……やりなさいな、こんな話滅多に無いんだから、手伝ってあげなさいよ。」


「いやしかし……」


面倒なんだよなぁ……


そもそも、手伝わなければならない理由がない。俺は少年少女の名前すら知らない、全くの他人。そんな奴と一緒にダンジョンに潜る事など、できるわけがない。やりたくない。めんどくさい。


「行ってあげなよ、別に誰も、アンタに戦えなんて言っていないだろ?」


「そ……そうだよ!お前は俺たちが守るからさ!頼む!」


別に戦いたく無いとは言っていない。

なんだよ、それじゃあ、まるで俺が戦うこともできない軟弱な奴だと思われているじゃないか。


「………チッ、銀貨五枚だ。これは譲らんぞ?」


「フクロウ!アンタ、すぐ金を要求する癖、なんとかなんないのかい!?」


貴方は俺の母親か何かですか………女将さん………


「銀貨五枚ですよ?良心的ではありませんか?」


「そう言うことを言ってんじゃないんだよ……ったく………」


「分かった。フクロウ。銀貨五枚だな。それでお前はついて来てくれるんだな?」


「ほぅ……物分りのいい奴は嫌いじゃないぞ。それで手を打とう。」


女将さんとは違い、この少年。随分と話が早い。余ほど、ダンジョンに赴きたいのか、俺が金がないと動かない事を悟ったか、どちらかだろうが……おそらく後者だな。

少年の癖に、随分と俺を哀れな目で見て来るから間違いない。


「じゃあ、頼んだ。明朝、ギルドの前に来てくれ。」


「良かろう。では明日、こちらもそれなりの準備をしておく。……さぁ、用が済んだらさっさと帰れ。」


「………分かったよ!頼んだぞ!絶対こいよ!」


「あぁ、分かった。何度も言うな。」


食いかけだったチャーハンを口に運び、少年少女が去って行くのを耳で聞き、大きくため息を吐いた。


「フクロウ……アンタねぇ………」


「女将さん。これが、俺の性分なんだ。すまないが、紙とペンを貸して貰えないか?なに……すぐに返しますから。」


呆れた様子の女将さんは、肩を竦めて、食堂から紙とペンを取りに、出て行くのだった。


_________________________________________________________________________________________________________




肌を刺すような寒さと共に迎えた朝。

まだ太陽も昇らない頃、非常に面倒だが、ローブを纏い紙とペンを袖の中へとしまい、フォルテにも袖の中で待機してもらう。

買って一度も使っていない剣を肩に掛け、一度深く息を吐く。


「バンシィサマ!ソロソロデナイト、オカミサンガ、チカズイテイマス!カナリオコッテイルヨウデス!」


「それは不味いな、では早く出るぞ。」


「ハイ!」


ドアを開け、早足で宿の廊下を抜ける。女将さんが俺の存在に気づくと、ほっとしたような表情で見送ってくれたが……何故だ。まるで引きこもりが、仕事に行ってくれた。みたいな顔で見送らないでほしい。


俺はちゃんと仕事はしていたぞ。収入が全く割に合わないだけでな。


未だ日も出ていないにもかかわらず、街には既に、人が行き交っていた。

商人に冒険者、それを見回りする憲兵やら、まぁ兎に角、朝っぱらからご苦労様です。と言った職業の人が行き交っている。


冒険者ギルドは、宿から五分程でたどり着ける距離だ。

近場なので、なかなか楽で良い。


俺が冒険者ギルドに着いた頃には既に、昨日の少年少女がギルドの暖炉の前で緊張した様子で、ギルド長と話をしていた。


ギルド長が俺の存在に気づくと、手を招くので、仕方ないがそちらに足を向ける。


「よし、これで全員揃ったな。」


随分と張り詰めた空気だ。

少年少女が息を呑むのを横目に、ギルド長が話を始めた。


「では、これよりDランク昇格試験。【ダンジョン攻略】の概要を説明する。」


おい待て、Dランク昇格試験だと?

聞いていないぞ、そんな話。

軽く少年を睨んでも、少年少女はギルド長の話を聞き取ろうと必死で、俺に顔を向けることはなかった。


「君たち四人が攻略するダンジョンは、レベルDのダンジョン。【眼の洞窟】だ。このダンジョンは三階層の階層式ダンジョンで、出現する魔物はゴブリンやオークは勿論、【眼の洞窟】と呼ばれる由縁、Eランクモンスター『眼蜘蛛ジース・アイ』が多く出現する。」


おかしいな、俺は確かFランクだったはずだが、いつからDランク昇格試験を受けれる様になったんだ?

Eランクに昇格した覚えは全く無いのだが………


そんな俺を他所に、ギルド長の話は先へ進んでいく。


「【ダンジョン攻略】達成条件は、【眼の洞窟】三階層に出現する。Dランクモンスター『大眼玉ビッグ・アイ』の討伐だ。今までの様な、オークやゴブリンとは比べ物にならない程に手強い相手だろう。だが、君達三人が力を合わせれば、倒せない相手じゃない。」


三人って………俺を忘れていませんか?


「フクロウ。君もこのクエストでゴブリン討伐の証明を持ってくれば、Eランクに昇格できるし、この【ダンジョン攻略】クエストをクリア出来れば、直ぐにDランクに昇格できる。良いね?必ずゴブリンを倒してくるんだよ?それくらいは出来るよね?」


「ああ。」


………Eランクの昇格条件って、もしかしてゴブリンの討伐だったのか?

だとしたら、俺の半年間の【薬草採取】は一体何だったんだ………

クソ、初めからゴブリンの耳でも持ってくれば良かった………

何故俺はいつも、ゴブリンを投げてしまっていたのだろう………


いや、まぁ……ゴブリンって、投げやすいサイズしてるからな……仕方ないよな!うん!そういう事にしよう!


「よし!じゃあ、マーティ、エリン、ザーツ。君達にとって、戦うことのできない・・・・・・・・・フクロウは・・・・・、足手まといかもしれないが、しっかり守る事だ。皮肉にも彼は、【ダンジョン攻略】において、一種の生命線でもある、神官プリーストだからね。」


おい待て、今なんて言った?


「はい!ギルド長!フクロウは必ず守ります!任せてください!」


「私たちなら絶対に大丈夫です!」


「薬草マンは怪我ひとつなく返しますよ!」


だから待て、一体、何を言っている?


何故だ……


何故俺は、戦えない前提で、話を進められているのだ?


彼らの、訳の分からない俺への偏見を、俺は正す事はせず、ただ、事の成り行きを見守る事にしたのだった………


なんだかよく分からんが、戦わなくても良さそうだな。


ほんの少しだけ楽が出来ると、喜んでいたのは、ナイショだ。


戦う事が出来ないらしい俺は、楽できる事の喜びのあまり、後の話を聞いていなかったのは、言うまでもない。

ども、ほねつきです。

なんでしょうか……話が全く纏まらず、今に至ります。

早いとこ勇者編に入りたいのですが、何故でしょう……ディラの話を書こうとすると、余計なネタまで思いついちゃって、脱線してしまいます。

……まぁ、いっか!


次回更新は未定ですが、一週間以内には出したいです。(願望)

では、また。

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