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第五話 『楽しげな皇帝』


「大変です!大変です!ギルド長!嵐の予感がします!」


騒がしい。

容姿、家柄、仕事の出来、ほぼ全てにおいて完璧と表現しても良い程の、我がギルドの看板受付嬢は、それら全ての『良さ』を塗り潰してしまうほどに、『騒がしい』。

慌てた様子で現れた『お嬢』は、一枚の受付書類を片手に、俺の目の前まで駆け寄った。


「どうした?」


「大変です!ギルド長!まずはこれを見てください!」


手に持っていた受付書類を渡され、簡単に目を通す。


……これは、冒険者登録の書類だ。

ええ……名前が……『フクロウ』………職業ジョブが、神官プリースト


珍しい。確かに神官プリーストは珍しいが、大事にする程でもない。


「なんだ。別に神官プリーストは冒険者に登録しても大丈夫だぞ?」


「そうじゃないんです!」


ドン!と机を叩き、物凄い形相で顔を近づけてくるお嬢を、押し戻す。


「はぁ……じゃあ、なんだ?」


「この人、製作者クリエイターなんですっ!」


製作者クリエイター


主に魔術陣を製作する魔術師の事を指すが、製作者クリエイターはその殆どが王国に雇われ、野良の製作者クリエイターなど居ないはずなのだが……

もし居たとして、この辺境の街にいる事は非常に不自然だ。

それに、冒険者登録を済ませに来たとなると、何か裏があるのではないかと、邪推してしまうが……

この手の相手は、一度会ってみないと分からない。

その答えによって、登録させるか否かを決めなければ……一応冒険者ギルド全体のルールには乗っ取らなければな。


「よし、今こいつは居るのか?」


「いえ!また明日の昼前に、来てもらう約束をしました!」


流石はお嬢だ。騒しくはあるが、残念な事に有能だ。

他の受付嬢達とは、違いそういう部分はしっかりしている。


「流石だな、お嬢。では明日の朝は空けておこう。」


「はい!お願いします!


元気の良い返事を聞き、渡された書類を目のつく場所に保管し、笑顔で立つお嬢に指示を出す。


「そろそろ冒険者達がクエストから帰ってくる。クエストボードの更新と、クエスト報酬の報酬金のやり取りはしっかり頼むぞ。」


「はい!お任せ下さい!」


パタパタと部屋を出て行ったお嬢の姿を見届けて、まだまだ山のように有る、書類の束を片付けていくことを決心したのだった。



______________________________________________________________




冒険者からお礼と称し、路銀を入手した俺は、早速その金で武器を買う事にした。


非常に残念な事に、魔法の制限を受けた俺は、魔法の分類に入ってしまうらしい、アイテムボックスという便利な道具の使用すら出来なくなっている。


なので、下手に大金を持ち歩いても、かさ張ってしまうので、何か物に変える事にした。

やはり、職場は神官でも、武器くらい持っていないと怪しまれる。

実際にあの受付嬢には、随分不審な目で見られたからな。

武器にしよう。

使い勝手が良いのはナイフだが、これだけの大金を無くすには、ナイフ一本では足りないな。

かと言って剣だと、神官のイメージが悪くなるしな。


クソ……そう考えると、魔力樹は便利だったな……魔法が使えない今の俺では、ただの棒でしかないが……


袖の中に隠してある、魔力樹に触れる。

今はこの袖の中に、魔力樹以外にもう一つ別の武器が収納されている。

それに触れると、それは袖の中をモゾモゾ動き、袖口からその小さな顔を出す。


「バンシィサマ。オヨビデスカ?」


「いや、居るかどうか、確認しただけだ。」


今のフォルテは、本当に弱い。

この大きさだから、なんて理由はこいつに存在しない。分裂すればするだけ、同じ強さのフォルテが増えるチート仕様の魔物だったのだが、今ではそんな分裂など出来ず、しかも防御力以外は、雀の涙ほどしかない、最弱モンスターだ。


ゴブリンにぶつけて倒す事は出来るが、フォルテ自身がゴブリンを倒そうとすると、ゴブリンに踏まれて三秒でやられる。

道中何度もフォルテを戦わせてみたが、殆ど魔物に気づかれることなく踏み潰されて終わるので、流石の俺でも、いい加減諦めて今は袖の中に待機させている。


「ソウデスカ……ナニカ、テツダエルコトハ、アリマセンカ?」


「今のところは無い。」


「ソウデスカ……」


ショボンと凹むフォルテが、袖の中に戻ろうとするのを見てふと、試したい事を思いついた。


「待てフォルテ。」


「ハイ……」


フォルテと魔力樹をしまってある袖とは逆の、金が入った袋を袖から取り出し試しにフォルテに渡す。

自身の数倍の金袋を持っても、フォルテが潰される事はなく平然としている。


「その中身を取り出す事はできるか?」


「エット……コレデスカ?」


フォルテは軽々と金袋から取り出した、自分と同じサイズの銀貨を持ち上げ見せつけた。

これは………これなら使えるぞ!!


「喜べフォルテ。お前に重要な役割を与えよう。」


「ヤッタ!イッタイ、ナンデショウカ?」


一先ず道を外れ、誰もいない裏路地に入り、フォルテを袖から出し地面に降ろす。

腰を落とし、手に持つ銀貨を取り上げフォルテに説明する。


「良いな?フォルテ。これは銀貨と言って、人間が生活するのに必要なものだ。他にも金貨と銅貨が存在するが、基本的に必要なのは、この銀貨だ。」


「ハイ!」


コクコクと必死に頷くフォルテを見て、話を続ける。


「銀貨百枚は、金貨一枚と同価値になる。逆に銅貨の場合は、銅貨十枚で、銀貨一枚の価値になる。分かるか?」


「ハイ!ワカリマス!」


「良し、例えば銀貨二枚と言われたら、これを二枚渡せば良い。」


俺は分かりやすく銀貨を二枚、フォルテに見せる。

フォルテがコクコク頷くのを見て、やはりこいつは、ダルクやガンマとは違い頭が良い。実に喜ばしい事だ。


「ハイ。デスガ、ドウシテソレヲ?」


「ああ、お前にはこれから金銭管理をやってもらう。袖の中で、この金袋を持ち、必要になれば、その中から必要な金を袖の中から出してくれれば良い。」


そうすれば俺は、いちいち袖の中に手を突っ込んで、金を漁らなくて済む。

実に便利じゃ無いか!


「ナルホド、ボクハコレヲ、マモッテイレバ、イイノデスネ!」


「ああそうだ。非常に重要な役目だ。やれるな?」


「ハイ!コノ、フォルテ!バンシィサマノタメ!ゼンリョクデ、ガンバリマス!」


「うむ。では任せるぞ。」


「ハッ!オマカセクダサイ!」


銀貨を戻した袋を持って、フォルテは袖の中へと飛び込んだ。

フォルテが袖の中に作られた、小さなポケットに入った事を確認し、立ち上がり、元の道へ戻った。


そして俺は、結局剣を買う事に決めた。


中世ヨーロッパ風の建物が建ち並ぶ、メインストリートから外れた場所に、武器屋を発見した。

俺は迷わず、その店に足を運んだ。


「いらっしゃい。」


出迎えたのは、青い眼を宿した、禿頭の大男。

無愛想な表情だが、俺はそんな事は気にしない。


「剣とナイフが欲しいのだが……」


「鉄製で良いか?」


「剣はそれで良い、ナイフは良く切れるものが欲しい。」


そう言えば、禿頭の大男は奥へ入り、直ぐに鞘に収まった剣と、刃渡り10センチほどのナイフを持って現れた。


「これで良いか?」


「ふむ……」


置かれた剣を鞘から取り出し、状態を見る。

至ってシンプルなロングソード。

刃の状態は新品の為、特に傷などは見られない。

グリップは新品の為、固く扱い辛いが、それは追々使いやすくなる。

剣を鞘に納め、カウンターに置き、ナイフも見る。

爪で斬れ味を確認し、値段を確認する。


「幾らだ?」


「ロングソードで銀貨四枚、ナイフで銀貨六枚、占めて銀貨十枚だ。」


「分かった。」


袖の中でフォルテから銀貨を受け取り、それを男に渡す。


「これで良いか?」


「ああ、確かに受け取った。」


男が銀貨を回収した事を確認し、剣を受け取り、肩に掛けた。

良く剣を腰に付ける奴が居るが、俺はアレがあまり好きではない、邪魔だ。

腰に付けると、だんだんズボンが落ちて来て、本当にイライラするので、俺は絶対に、腰には物を付けないようにしている。


ナイフはどうしようか、持っていて困る物ではないから買ったのだが、この状態のままだと、ローブを裂いてしまうかもしれないからな……


魔法の使えない俺は、ローブを替えることも出来ないからな、もし破れでもしたら、服を買わなくてはいけなくなる。それは面倒だ。


「これを持っていけ。」


少し動かなかった俺に、察したのか、男がナイフの収まる鞘を取り出してきた。


「ほう……いいのか?」


「サービスだ。鞘代は無しで良い。持っていけ。」


「ありがたく頂戴しよう。」


ナイフを貰った鞘に納め、魔力樹がセットされている袖のポケットに引っ掛けた。

袖の広いローブだからできる事だな。

ナイフが袖から落ちない事を確認して、俺は店を後にした。


いい買い物がどうかは分からんが、スムーズに金が手に入り、すぐに武器が手に入った事で、割りかし良いスタートを切れるのでは無いだろうか?


ちょっと楽しくなってきたな。


今まで経験した事の無かった、ちゃんとした冒険って、感じだな。


さて、冒険者になったら、クエストは勿論だが、しばらくこの街に滞在する事になるからな。

どこか、長期滞在出来る宿を確保しなくてはな。



その後、楽しげに宿を探したバンシィは、『金が無い』と言う最大の失態によって、宿が借りられない事態に陥る事を、その時のバンシィが知る由もなかった。



次回、『金欠の皇帝』

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