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第三話 『漂着した皇帝』


蘇り


死者を復活させる、人類の殆どが望む、理想の形。

もう一度死んでしまったあの人と……

会いたかったあの人……


並の人間ならば誰しもが望む理想。


それが俺には叶おうとしている。


「どう言う事だ?」


「人間が望む理想の一つ。……死者の蘇生。誰もが望むその夢物語を、実現させる事ができる。そう言っている。」


ドラグは疲れているのか、重い首を地面に寝かせながら、そう語る。


「死者の蘇生。おっさんが蘇るのか?」


「ああ、そうだ。」


ドラグが鼻を鳴らすと、俺の目の前に、小さな空間が現れ、そこからひと握りの、小さな壺が現れる。

それを片手で受け取り、さらに空間から現れる、ノートように薄い、本も受け取った。タイトルはない。真っ白の何も映されていない、綺麗な本だ。


「これは?」


「その壺は、『アムリタの秘薬』その未完成の中身が入っている。」


「『アムリタの秘薬』?」


随分とセンスがない上に、おっさんの名前が入っている事から、何となくこの秘薬の開発者が、読めてきた。


「そうだ。アムリタが開発していた、いわゆる『死者蘇生の秘薬』だ。」


「ほぅ……」


「詳細はその本にも載っているが、その秘薬を、死者の身体に掛ければ、その死者は、生前の様に記憶も持ったまま、蘇る。だが……」


素晴らしいじゃないか、こんな物があるなら、初めから出せよ。

なんて、口には出さないようにする。


「だが……なんだ?」


「ああ、先も言った通り、そいつはまだ未完成。本にも作り方が乗っているが、あとその秘薬には、『八頭白象アイラヴィタ』と呼ばれる魔物の、牙が必要だ。」


「そうか、ならば今すぐ取ってこよう。」


「待てバンシィ早まるな。そもそもお前、『アイラヴィタ』が何の魔物かわかるのか?」


今すぐにでも飛んで行こうと、ドラグに止められる。

そして、『アイラヴィタ』とか言う魔物が、どんな奴なのか、そう言えば知らない事を、俺は今更気が付いた。


「魔物の姿も分からんのに、よく行こうと思ったな。」


「いや、牙を持ってる魔物全部潰してくれば良いかなと……」


「絶対やめろ、生態系が崩れる。」


凄い真面目な顔で怒られたので、一応言い訳を言っておく。


「冗談だ。」


「お前が言うと、冗談ではなくなる。」


失礼な。俺だって常識くらいはあるぞ。


「言っておくが、お前には大陸を吹き飛ばした前科が有るからな。」


「すみませんでしたー」


それを言われると困るな。いやいや、言い訳すると、あんな簡単に消える大陸が悪い。


「本当に反省しているのか、バンシィ?」


「しているとも、だから早くその……アイラヴィタとか言う魔物の詳細を教えてくれ。」


「急かすなバンシィ。まずは聞け。」


座れ、などと命令されたので、仕方なく座る。


「先ずは注意する事がいくつもあるぞ。……良いか?」


「あいあいさー」


「ハァ……まぁいい。まずはな、今は魔術暦1521年。お前が封印されてから、101年後の世界だ。」


「なんだと……」


101年かぁ……また変に時間がかかったな。


「『沈黙の皇帝』が崩御し、《大皇国》は、《アルグレイド大王国》の植民地として、今は支配されている。」


「そうか。それで?」


別に思い入れはない国だ。俺が支配していた大皇国は、皇帝たる俺が居なくとも、しっかり経済を回し、動いていたので、俺が何かをした訳では無いので、特に思うところはない。


「……薄情だな。バンシィ。……まぁいい、『アイラヴィタ』だが……今のお前では、倒す事は難しいだろう。」


ドラグは偶に面白い事を言う。

俺に倒せない者は、お前か、おっさんくらいのものだ。


「『八頭白象アイラヴィタ』はな、その名の通り、八つの頭を持った白い象だ。」


「それが、俺に倒せないと?」


「いいから聞け、『アイラヴィタ』はな……兎に角、デカい。人間達が言う、『天災級』の魔物だ。確か……俺の十倍はデカいぞ。」


「山かなにかか?」


「そうだな。あれは殆ど、『山』だな。」


ドラゴンの中でも大きい方のドラグが、そんな事を言うのだ。実際本当に大きいのだろう。


「それに、見つける事が困難だ。」


「デカいのにか?」


「ああ、奴は雪山に擬態し、よっぽどの事でもない限り、殆ど動かん。擬態されると、この俺様でも見分ける事が出来ん程だ。」


「じゃあそんな奴、一体どうやって倒すんだよ。」


「案ずるな。俺の見立てでは、あと数年のうちに動き出す。その間に、お前は。冒険者になるのだ。」


「は?」


今の話の流れで、一体どうしてそうなるのか、ドラグの思惑が全く読めないでいた。


「良いか、アイラヴィタは《アルグレイド大王国》に生息している。そこで冒険者となり、時が来たら、冒険者一丸となり、アイラヴィタを討伐するのだ。」


冒険者と一丸となる?

……ふざけるな。


「俺を連中と仲良く過ごせと言っているのか?」


「ある意味、そうでもある。しかし、アイラヴィタは団体で討伐を仕掛けねば、倒す事は出来んのだ。」


随分と意味深だな。


「なんだ?足を同時に攻撃しないと倒せないとか、そんな事か?」


「そうだ。」


当たったよ。どうしよう。俺エスパーかな?


「一部を攻撃しても無駄だ。四つの足を同時に、攻撃しなければ、奴が倒れる事はない。」


「面倒だな。」


「正直なところ、今のご時世どうやら冒険者の方が、何かと都合が良い。素性も隠せる上に、階級が上がれば、王族への謁見も可能になる。」


「俺は王族に挨拶する予定は無いぞ。」


「例えばの話だ。」


……確かに、冒険者ならば身分が無くとも、冒険者登録をする事は可能だ。

都合はいい。だが、俺はそんな冒険者なんて面倒な事はしたくない。

まだ神官の雑務をこなす方が幾分かマシだ。


「言っておくがバンシィ、今のご時世魔物と戦えるのは聖騎士か冒険者くらいのものだ。下手に動いてみろ、悪目立ちするぞ。」


「そうか?バレなきゃいいだろ。」


「なんだその犯罪者みたいな考えは……あのな、郷に入れば郷に従えと言うだろう?悪目立ちするよりも、確実に動きやすいだろう。」


「そう言うもんか?」


「そう言うものだ。」


………ふむ、ならば致し方ないか。

まぁ、別に冒険者になっても単独行動でやっていけば良いからな。

その辺の魔物なら、拳で抵抗してやる。


「……やっと納得したようだな。よし、ではバンシィ。もしもの時の保険だ。俺の権限をもって、お前に魔法を三度まで発動する事ができる、権限をやろう。」


「もっとくれ。」


「……これが俺の限界だ。」


チッ、使えねぇな。


ドラグが小さく呟くと、俺の身体に少し変化が加わった。

身体が軽くなった、とでも言うのだろうか?


「……これで魔法が三回まで、発動できるようになったのか?」


「ああ。」


身体を伸ばし、少しくつろぐ。

日は沈み、丸い月が辺りを薄っすらと、照らしてくれる。


「……おいバンシィ。俺はまた少し眠る。あとは、お前の好きにしろ。」


「ああ……おやすみ。」


ドラグの巨躯が、小さくうずくまり、鋭い瞼は、ゆっくりと閉じられ、やがて小さな寝息が聞こえた。


やる事は出来た。


『アイラヴィタ』……だったな。

面倒ではあるが、ドラグの言う通りにしよう。

まずは大陸を離れ、海を渡り、アルグレイド大王国を目指そう。

どこか辺境の街にでも、冒険者として登録し、アイラヴィタが現れるまで、じっくり待つとしようか。


小石サイズのフォルテを肩に乗せ、海を目指す。


フォルテの眼を頼りに、俺は一ヶ月ほどで、アルグレイド大王国が支配する。オースティード大陸の海岸へと、漂着したのだった。


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