ー前章ー 『滅び』
_____魔術暦1420年某日
世界有数の軍事魔術国家である、グレドニア帝国はその日、『天災級』の大魔王。ティー・ターン・アムリタの討伐に成功した。
…………しかしそれが、同じく『天災級』である『沈黙の皇帝』の逆鱗に触れた事など、当時の帝国が知る由も無かった__________
グレドニア帝国より遥か西方に位置する、『沈黙の皇帝』支配下の大陸。
『大皇国』
沈黙の皇帝が住う黒の巨城『黒星殿』にて、沈黙の皇帝は最上階から眼下の景色を眺めていた。
皇帝の衣装とは呼べない、足元まで隠した紫のローブを着こなす、黒髪黒眼の男。
沈黙の皇帝は突如、自らの魂の異変を感じ取り、そしてその原因を知った途端。………絶叫した。
目の前のガラスを自らの覇気のみで破壊し、沈黙の皇帝は空を飛んだ。……右眼には、怒りに燃える炎を宿して………
『大魔王』討伐の報告を通信機より受けたグレドニア帝国は、歓喜に打ち震えた。首都はお祭りの様に盛り上がった。しかしそれは、泡沫の出来事であった……
「なんだぁ……ありゃ!?」
遥か西方から雲を割いて『飛んでくる』一筋の紅い光。
その光は真っ直ぐ首都へ落下し、大爆発を起こした。
一体なんだと覗いた瞬間、一帯は業火に焼かれた。
突然の奇襲に首都は混乱し、民衆は突然の恐怖に打ち震えた。
刹那。
何百年にも渡って作り上げられた、魔術すら弾く鉄壁の城壁が吹き飛ばされた。
その衝撃は人や建物も巻き込んで、吹き飛ばした。
まるで話にならないとでも言いたげな表情で、城壁を吹き飛ばした張本人が帝国首都内へと足を踏み入れる。
「なっ……貴様は、、、。」
最悪の事態にいち早く駆けつけた、禿頭の大男は、その男の姿を見て恐れ慄く。
「沈黙の皇帝……」
一言で言い表すならば『憤慨』。否、そんな言葉では、言い表わせないほどにその男は怒りを露わにしていた。
「………『黒の勇者』を差し出せ。さすれば、貴様らの命は見逃してやる。」
「……なにを______」
禿頭の大男はその先の言葉を口には出来なかった。
何故なら、既に男の口は沈黙の皇帝によって塞がれていたから………
「余計な言葉は必要ない。『黒の勇者』を差し出すか、否かだ。」
「ウヴヴヴ!」
「そうか、では死ね。」
大男はまるでボールのように、軽々と投げ捨てられ、地面に顔面を打ち付け動かなくなる。
同時に沈黙の皇帝が、身体を捻り、側面から飛来する炎の球を脚で消しとばす。
「……おいおい、マジかよ。ありゃ、本物だぜ。」
「大皇国の象徴たる存在……『天災級』沈黙の皇帝……不可侵不干渉を貫いていた存在が何故……?」
数十メートル離れた位置から観察する男女二人。彼らは帝国が誇る『十二勇士』の二柱……『青の勇者』と『黄の勇者』であった。
それを見て、沈黙の皇帝は小さな溜め息を吐いた。「下らない」と呟きながら。
「ベルメットさん!フィーナさん!ご無事ですか!」
「よーお、ニコランじゃねーか。どうだ?ちゃんと『黒の勇者』様には連絡ついたか?」
「はい!現在全力で向かっているとのことです!」
「そうかい、じゃあよ、俺たちも『勇者』として、時間稼ぎ位はしますかね。っと、どうやら先越されたみたいだな。」
黄の勇者の視線の先には、既に他の七人の勇者達と、帝国軍兵士達が沈黙の皇帝の前に立ちはだかっていた_____
何もかもが、下らない。
人の為にと言っていた男が、人によって殺された。
まるで平和を拒む様に………
考えれば考えるほど、この胸に昂ぶる『怒り』が治らない。
争いを極力減らす為に、圧力を掛けていた存在が消えた。否、殺された。
何故だ?
争いの無い世界を拒むのか?
………ならば望み通りにしてやろう。
《人間ハ、全テ抹殺スル。》
望むのだろう?争いを。………だったら賭けろよ、その命。
「破滅魔法……『ワールド・バーン』」
混沌と破壊。明確な殺意を持って魔法を発動する。
「なんだあの魔術は!?」
「任せろ!『不滅の盾』!」
小賢しい……たかだか盾の一つに、魔法が防がれた。挨拶程度に軽く放っただけとは言え、防がれるのは癪に触る。しかし、『不滅の盾』とやらは、不滅では無かったらしい。
ワールド・バーンに衝突した衝撃で、盾は粉々に粉砕し、最早使い物にならない。
弱い、弱すぎる。
だが、鬱陶しい。
数々の魔術を片手で弾き、次々と飛んでくる矢や鉛玉の応酬。
大して強くもないが、群れなす軍隊とはこんなにも鬱陶しいものなのか……
「『フォルテ。来い。』」
「ハッ!バンシィ様。」
空間を超越し飛び出す、一体の岩の魔物。こいつは攻守共にトップクラスのステータスを誇り、更に厄介な能力が、身体を細かく分裂できる事にある。
面倒な軍隊相手には、コイツで十分だ。
「フォルテ、お前はあの軍隊を潰せ、手前の『勇者』共は俺が相手をしてやる。」
「了解しました!」
フォルテが粉々に砕け、石粒となって軍隊に襲い掛かる。
それを見届け、面倒だがもう一度だけ警告する。
「帝国の誇る『十二勇士』とやらよ。改めて警告しよう。『黒の勇者』を差し出せ、さすれば貴様らの命は見逃してやろう。」
「なにをっ!そんな脅しが俺たちに通用すると思うなよ!沈黙の皇帝!」
「そうか、ならば死ね。」
手始めに、俺に喧嘩を売った男の首を、魔力を練った刃を放ち刎ねる。
「ベルメット!!」
「そんな!いつの間に!」
勇者?……これが勇者だと?
脆く、なんと脆弱な事か。
下らない。争いを望む割には、この程度か………
声も上げれぬまま、他の三人の勇者の首も同じく、魔力の刃で刎ねる。
「沈黙の皇帝ぇぇぇ!!!」
「むっ……」
足が竦んでいる他の勇者とは違い、叫び声を上げながら剣を構え接近する一人の男。
予想よりも疾い。
咄嗟に袖の魔力樹を抜き出し、剣に形を変え、防いだ。
「俺に剣を抜かせるか……だが、遅い。」
男の剣を弾き、その勢いで首を刈り取る。威勢は良し、それ以外は全く駄目だ。
「ニコランっ!クソッタレがぁぁぁ!!」
「耳障りだ。」
怒りに任せて突撃して来る馬鹿を、魔力の衝撃波のみで消しとばす。
残る勇者達もその余波で、心臓の動きが止まる。
なんと弱い存在だろうか………やはり、『勇者』はただ一人だけだな。
刹那。
背後から刃が振り下ろされ、魔防壁を用いて防ぐ。
振り返り、距離を置いたその存在を見やる。
人並み以上の魔力を持った、全身が黒の鎧を身に纏った男。
やっと来たか……
「貴様が、『黒の勇者』か?」
「ああ。」
本命。全ての元凶。俺の怒りの原因。
誰が何と言おうと、コイツだけはズタズタにして殺す。それと………
右手に魔力を溜め込んだ球を握り、地平線の向こうに見える山に目掛けて投げつけた。
轟音。
吹き飛んだ山の衝撃が、ここまで地面を揺らし届いた。
「これで、十一人……残るはお前だけだ。『黒の勇者』。」
「………気づいていたのか?」
「ああ。どうせ俺が貴様を痛めつけている間にちょっかいをかけてくるだろうと思ってな。先に消した。」
超遠距離からの狙撃。常人ならばそれを防ぐすべなど無いが、それを俺に当てはめるのは間違っている。
「………ふっ!」
「遅い。」
目の前に残像を残し、背後から刃を突き立てた、黒の勇者の剣を拳で砕き、首をひっ掴み持ち上げる。
「ぐっ………」
「なぁ、何故お前は大魔王を殺した?」
純粋な疑問。敵討ちとは言わないが、殺された奴が何故、殺されなければならなかったのか、ただそれが知りたかっただけ。
「……決まっている。それを陛下が望まれるからだ。」
「そうか。」
実に下らない。
そしておっさん………アムリタの死は全く報われない。
そうと知りつつ、俺のこの胸に昂ぶる怒りは、殺せと唸る。
黒の勇者を地面に叩きつけ、軍隊を潰し待機していたフォルテと共に、空を飛ぶ。
遥か上空から、帝国が支配する大陸を見下ろす。
「バンシィ様。一体何を?」
「決まっている。消すんだよ。」
魔力は勿論有り余っている。
無数の魔法陣を展開し、照準を合わせる。
「滅びろ。破滅魔法……」
展開した魔法陣は収束し、俺の両腕にその力が集まる。
消えてくれ、永久にな。
弔いか?違うな。これは俺のただの自己満だ。
「『永久の終わり』」
その魔法は大陸を滅ぼした。
では、次は争いが大好きな愚かな人間共を潰しに行こうか。
ガタガタと肩を震わせながら、沈黙の皇帝に恐れ慄くと良い。
ども、毎日投稿(予定)のほねつきです。
一応、これから毎日投稿していきたいと、思っております。
よろしくお願いします。