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ー閑話ー 『ロマニュ・コンディー』

お待たせいたしました。今年最後の投稿です。

某所の一角に存在する赤扉のドアに、今夜も『Open』のプレートがかけられた。





初めはゲームみたいだと喜んだ。

でもそれは、時を追うごとに現実味を帯びて、いつしか俺は、この世界にいる事が、当たり前の事だと思うようになった。


『勇者』カミカド・ナガト。


世界に平和をもたらした勇者。

そう呼ばれていた。


俺は邪神を倒さなかったし、魔王と戦った事だって、決められた道を進んで来た様なものだ。

何もかもが紛い物。

勇者って呼ばれて、浮かれていたのかもしれない。

後先も考えず、自分勝手に物事を解釈していた。


邪神が討伐され、タリウスが結婚し、俺は旅に出て、月日は五年が過ぎた。

未だに世界一周は出来る気がしない。

魔導科学という分野に特化した、バラギル帝国を見てきた。

そこには魔法に適性が無くても、誰でも扱うことのできる『鉄砲』が開発されていた。

強力な破壊力で、理論上は大陸の半分を破壊する事のできる、『魔導核』と呼ばれる兵器だって開発されていた。

魔族と人族の戦争が終わっても、争いが無くなる事はない。

近い将来、必ず戦争が起きる。

そして、そこには『勇者』という存在なんて必要ない。

そう実感させられた。


バラギル帝国では、色んな話を聞いた。


曰く、世界の反対には、龍が住む大陸が在ると。

曰く、反対の世界には、こちらでは考えられないほどに強い魔物が跋扈していると。


世界の反対側、見てみたいと思った。でもそれは、もう出来ないと言われた。

飛行船で向かえば、龍達に撃ち落とされるらしい。

かと言って海から行こうものなら、こちらと、向こうの世界を隔てる、底なしの滝、『死海』を超えなくてはならなく、現在の技術では、どうすることも出来ないのだという。


残念。行ける機会があれば、是非行きたいと思った。


バラギル帝国を離れ、不可侵不干渉の絶対領域、エルフの住む大陸へと足を運んだ。

そこでは何故か、リンが妖精に好かれ、そのおかげでエルフ達にも心を許してもらえ、大陸を見る事が出来た。

そこでは色々な事があったけど、人や魔族が信用出来なかったエルフ達は、俺とリンが出て行く時に、こう言ってくれた。


『お前達の様な人に出会えて良かった。これからは我々エルフも、世界と向き合って行く事にしよう。』


そう言われた時、自己満足かもしれないけど、嬉しかった。

世界との友好の架け橋、俺という存在を、残せた様な気がした。


そして今は、300年前まで魔王ティー・ターン・アムリタが支配していた大陸。

ブゥルムンド大陸に足を踏み入れた。


ブゥルムンド大陸で一番活気のある首都。フレクトリアに今俺たちはいる。

ここには、ティー・ターン・アムリタの居城が今も残り、それを中心に経済が発展している。

リンがティー・ターン・アムリタの居城を見たいと言ったので、観に行く事にしたけど、今は誰も入る事が出来ない立ち入り禁止区域に指定されていて、中を見る事は出来なかった。


既に夜も遅く宿も閉まり、泊まる場所を確保出来なかった俺とリンは、あても無く、城の周りをフラフラと歩いていると、暗い町の一角に、まだ明るいお店を見つけた。


バー『フレスト』


赤い扉に『Open』と書かれたプレートを見て、今日は野宿しなくて済むと、喜んで入ったのだった_________






リア充が街に溢れかえる、地獄の『Xマス』を乗り切り、今日はその熱も冷めきり、お客さんの気配すら無かったので、店を閉めてやろうと決意し、『本日休業』と書いた張り紙を、店のドアに貼ってやろうとカウンターから出ると、ドアに吊るした小さなベルがチリンと鳴った。


「これは、これは……まさか、かの有名な『勇者』様に、『賢者』様が、この様な店に来られるとは……」


「あっ、すみません……大丈夫ですか?」


「構いませんよ。どうぞお掛け下さい。」


営業スマイルは欠かさない。ついでにもう他のお客さん来られても面倒になったので、店のプレートは『close』に替えておく。


カウンターに戻り、手を洗って、椅子に腰かけた勇者と賢者の前に立つ。


「何にしましょう?」


「………私はジン・トニック。」


「じゃあ俺は……ハイボールで。」


勇者と賢者にしては安定なものを頼んで来たな。

まぁ、金さえ払えば何でも良いが。

とっとと冷蔵庫からグラスを取り出し、氷を入れ、ジンを注ぐ……トニックウォーターを注いでグラスを満たし、バースプーンで軽く混ぜ、ひし形に切ったライムを飾って、賢者に差し出す。

ハイボール?ジョッキに氷入れて、注いで終わりだ。


「……じゃあリン。乾杯。」


「乾杯。」


あれ?なんだコイツら……仲睦まじいな………リア充か?

……どうやら『Xマス』の悪夢は続いている様だな……クソが……


「………美味しい。」


「本当だ……今まで飲んだ中で一番だ……」


うん……賢者リンの感想は分かる……俺が作っているし、品質管理も徹底しているからな………だが勇者。お前のハイボールは世界どこでも味は一緒だ!!適当に感想言ってんじゃねーよ!


「かの勇者様と賢者様に、そう仰って頂けるとは……恐縮です。」


「いやいや!そんなに畏まらないで下さい!僕らも他のお客さんと同じように対応して下さい!」


「そうか、分かった。」


「……え?」


なんだ、他のお客さんと同じような対応しただけなのに、この顔である。

その呆気に取られた顔はなんだ。

折角のイケメン顔が台無しだな。


「どうした、他の客と同じ対応をしただけだが?」


「あ……いえ、その……態度コロッと変わったので、ちょっと驚いただけです。あ、あの、小腹が空いたのですが、何かありますか?」


「基本スタンスは、頼んだものなら何でも出すのが主義だ。今食べたいものを言いたまえ。」


「あ、じゃあ。ピザをお願いします。」


申し訳なさそうに頼んで来るが、こちらとしてはなんのピザを出せばいいのか全く分からない。


「どういうピザだ。魚介が乗っているのか、肉が乗っているのか、チーズが多いやつか?」


「チーズが多いやつでお願いします。」


「了解した。賢者様は?」


「……私はシーザーサラダ。」


「わかった。少し待っていたまえ。」


俺はそう言い残し、厨房へ入った。

食材はバカみたいに沢山ある。

調理器具も、俺の知っているものから、知らないものまで、揃っている。

まずはピザ窯に火をつけて、ピザ窯の温度を上げておく。


ピザ生地だが、そもそもこの店にピザを食べにくる馬鹿など居ないので、無い。いちから作るにしても、発酵させるのに時間がかかる。

ここは、面倒なので創造魔法で創り出す。

ピザ生地に、トマトソースを塗り、その上に冷蔵庫から取り出した、一番初めに目についた、チーズを四種類。何のチーズかは知らないが、バラバラにぶっかける。これだけでは、手抜きとか言われかねないので、コーンを適当に散らす。

ピザ窯に放り込めば、本当に直ぐに焼きあがる。

チーズがトロリと溶けたことを確認して取り出し、皿に乗せ、細かく刻んだパセリを散らす。


サラダは作り置きだ。なるべく痛んでいないものを選び、冷蔵庫から出してシーザードレッシングかけて、終わりだ。

しかし、少し物足りなくもあるので、粉チーズもかけておこう。




「お待たせした。」


「おお!」


「クワトロ・フォルマッジョと、シーザーサラダだ。」


それぞれの前に料理を置き、酒がない事を確認して、今度は俺が適当に作る。

俺が丁寧に作った氷をグラスに入れ、45mlのカンパリに、オレンジジュースを注ぐ。軽く混ぜて、カットしたオレンジを飾れば完成だ。

これを賢者リンに差し出す。


「カンパリ・オレンジだ。アルコールは薄めにしてある。軽く飲めるはずだ。」


「……ありがとう。」


続いて、グラスに、ジン。それと、ベルモットを注ぐ。

ジンが4で、ベルモットが1だ。しっかりと混ぜてオーリブをひと粒沈めれば、完成。


「マティーニだ。ピザに合う筈だ。」


「ああ、ありがとうございます。」


「構わん。」


飲み終わっているグラスを下げて、静かに洗う。

水が流れる音だけが、店の音を満たす。

………BGMとか有れば良いんだがな……そんな技術は、まだ無いか。

無言で料理を食べる二人……それを見て俺はふと思う。


そう言えばコイツら、何で二人でいるの?


俺の記憶が確かならば、賢者リンは裏組織バラリアードに所属し、結構な階級まで上がっていた筈。

勇者に至っては、話すら聞かなくなったので、死んだか、元の世界に帰ったのかと思っていたが……なんだ。居たんだな。


「それにしても、二人は何故、この街に?」


ピザを美味そうに食べていた、勇者の手が止まる。

マティーニを一口飲み、喉を潤すと、若干酒が回っているのか、楽しそうに語り始めた。


「二人で世界を回る旅をしていて、この街に来ました。」


ほぅ……随分と楽しかったようだな。俺はお前達がイチャイチャ旅を続けていた間、カクテルのレシピを頭の中に叩き込む事が出来てしまったよ。


「何故、世界を回る旅を?」


すると、先ほどまで陽気な表情だった勇者の顔が、真剣になる。

再びマティーニを飲むと、息を吐き、思い出すかのように、口を動かした。


「邪神が討伐される少し前に、とある神官に言われたんです………勇者の意味とは。……ってね。」


………うーん………なんか俺、そんな様な事言ったような気がするな。


「……知っています?高位聖神官って。教会で二番目に偉い方なんですけど。」


「ああ、知っているとも。」


俺だからな。


「その人に言われて、自分も疑問に思ったんです。……勇者ってなんなんだろう?……って。まだ、三つしか大陸を旅していませんが、何となく、勇者の意味が分かって来たような気がするんです。」


「そうか。」


勇者の意味ねぇ……何なんだろうな?結局答えは、他人から教えてもらうよりも、自分で納得するしか無いんだよな。

……ってか俺、そんな事言ったかな?

覚えがないぞ。

何しろ1000年は昔の事だからな。憶えている方が凄いと思う。


気が付けば二人とも、料理を食べ終わり、俺は静かに皿を下げる。


「美味しかったです。」


「当然だ。世界中の良いものだけを集めているからな。」


正確にはおっさんがな。

だがしかし、今日はおっさんは居ない。何を言おうが、俺の自由である。


それにしても、賢者リンが殆ど喋らないので、俺と勇者ばかりが喋っているな。

……そうだな。

俺は優しいからな。ちょっとしたものをプレゼントしよう。


棚から一本のワインボトルを取り出す。それを勇者と賢者リンの二人の間に置いた。


「……これは?」


「かの有名な、ロマニュ・コンディー。その一年ものだ。」


決してロマネ・コンティではない。この世界にロマネ・コンティなど無い。そもそもロマネ・コンティと言うのは、ロマネ・コンティと言う名前の葡萄畑から、そのままつけられたものだ。

この世界に、ロマネ・コンティと言う葡萄畑は無い。

代わりにロマニュ・コンディーと言う畑ならある。

このワインも、畑の名前からそのまま名付けられている。


「ロマニュ・コンディーって……世界で最も美味しいとされてるワインじゃ……」


「そうだな。だがこれは一年ものだ。先ずは飲んでみたまえ。」


そう言ってコルクを抜き、グラスにワインをゆっくりと注ぎ、二人に差し出す。

二人はそれを、少し見回し、匂いを嗅いだりした後、グイっと、口に含む。

数秒、舌で味わった後に飲み干した。

世界で一番美味いとされるワイン。

しかし二人は、何とも言えない微妙な表情で、グラスを置いた。

さすがに美味しくないとは言えずに、しばらく黙っているので、こちらから口を開いた。


「……正直。微妙だろう?」


「あ、いえ……はい。」


「本来ならば、このロマニュ・コンディーは、五年ものから市場に出回る。一年ものは決して、市場に出回らない。……美味しくないからな。」


ワインボトルには、コルクを差し込み傍に置いておき、新たにもう一本、ロマニュ・コンディーを取り出した。


「今度は五年ものだ。飲みたまえ。」


新しくグラスにワインを注ぎ、差し出す。

二人は同時にワインを飲むと、先ほどとは打って変わり、目を見開いて驚いた。


「凄い……一年ものとは全然違う……」


「味と香りに、落ち着きを感じます。」


「そうだな。それが更に年月を重ねるとより一層、美味しさを感じる様になる。」


洗い終わったグラスを、タオルで拭きながら、横目で二人の様子を観察する。


「……なぜ、僕たちにこれを?」


ワインを飲み干した勇者が、口を開く。


「今は分からない事ばかりだが、年月を掛け、経験を積んでいけば、やがてわかる様にもなるだろう。……勇者の意味。それが何なのかは、お前にしか分からない。だが必ず、このワインの様に、自らの味を、手に入れることが出来るだろう………答えは必ずある。ただそれが、いつ見つかるかは、お前次第だ。」


ワインボトルに栓をして、二本のワインボトルのラベルに勇者ナガトと、賢者リンの名前を書き記し、保存用の棚に仕舞う。


「こいつは君達がまた、来た時まで取っておこう。今度は答えを見つけてな。より一層、美味しくなっている筈だ。」


「ま……マスター……」


急にマスターなんて呼ぶな。

呼ばれる側としては、ちょっと恥ずかしいんだぞ……その呼ばれ方………


なんだか気が抜けたが、今夜はなかなか充実した夜だった気がする。






その後、二人が現れたのは40年くらい後だったか……

世界の旅を終えた二人が、再びここへ顔を出し、俺がディラである事がバレた。

勇者の意味は、結局答えが出なかったらしい。

そりゃ、そうだな。問題を出した本人が答えを知らないのだからな。



二回目には、老いた賢者リンが一人で顔を出し、衰えない俺に色々と遺言的な物を渡された。その殆どが、賢者リンが書き連ねた魔導書の数々であったが、正直、常人では扱えない物ばかりだったので、とりあえずバーの片隅に、丁寧に汚れないよう仕舞っておいた。



その数日後には、老いた勇者が一人で現れ、涙ながらに賢者リンが死んだと告げられた。

どうしようもなく泣き崩れる勇者を見て、俺はどうすることも出来なかった。



そして、勇者ナガトがここに顔を出した直ぐ次の日だったか……教会最高聖神官。ビービ様より勅命で、勇者ナガトと、賢者リンの二人の葬儀を取り計らう様にとの命がこの俺に下った。



世界を救った勇者と賢者には小さな過ぎるほどの葬儀の後、俺は、タッくんとアイナちゃん達が、一体どうしているのか、大体50年ぶりくらいに見に行くことにしたのだった。


ども、ほねつきです。

やはり、年末は忙しすぎて、なかなか書く暇がありませんでした。申し訳ないです。

さて、これにて閑話は終了。次回より、『ビギニング』を書いていきたいと思います。

はい、書いていきます。…………ハイ、書き溜め……出来ませんでした。

やっぱり僕にはそう言う、計画的なことは向いていない様です。

一応、一話だけは書き終わっていますが……書き溜めではないですね。ハイ。


では皆様、良いお年を。それではまた。


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