ー閑話ー 『悪魔界-《傲慢》』
お待たせしました。
悪魔界_____
何よりも強さが尊ばれる。悪魔同士が己の渇望を求めて、奪い合う群雄割拠の世界。
酷く滑稽な世界だ。
求めていたのは『強さ』……ただそれだけ。
奪い、鍛え、優越した。
知識が増え、魔力が増え、筋力が増し、己の内包する傲慢の力が成長する。
何もかも、まるで目の前の石ころを拾うかのように、それは容易いことだった。
悪魔はもちろん、天使すらも、僕の力に屈服した。
力を持つ者を優越する。この僕が、負ける『はず』がないと。
これが僕の『傲慢』の根源にして、力を高める要因だった。
他の悪魔がこの僕を越えるなどあり得ない。
時が矢の如く流れ、過ぎ去る。
もはやこの僕を越える者は居なくなった。憤怒や嫉妬、色欲に強欲、暴食____そして、傲慢。
他の四体の『邪神』は、僕よりも後に産まれた脆弱な者ばかり………下らない。取るに足りない弱者ばかりだ、手を下すまでもない。
弱い、弱すぎる。
『優越』の必要すら無く、文字通り相手にもならない。
無敗にして最強。
この僕に敗北などあり得なく、それ故に最強である。
『孤高の存在』
全てを足で踏みつけ見下し、幾万の悪魔達の頂点たる存在……それがこの僕。ジェスカ・イビルゴットだ。
ここ最近になり、弱者である邪神達が、三柱討滅された。
興味が湧いた。弱者である邪神を三柱滅した存在。何万年ぶりとなる、この僕の相手が出来る。かも知れない存在。相手をしてやり、痛めつけ、屈伏させる。
全ては僕自身の為に、優越する________
地下施設は案外簡単に完成した。掘った穴の上に創造魔法で作り出した木の板を並べて天井を作成した。
地下はおっさんがアイテムボックスから取り出した、研究セットを広げ、明かりを灯した。
地上には俺が小さな木の小屋を建て、寝床とキッチンを作り、地下に繋がる様に穴を開けハシゴをかけた。
我ながら良い出来だと思う。
地下は既に、おっさんが何やら研究を始めてしまったので、俺は地上で暇つぶしに家でも建てるとする。
先ずは大黒柱となる、太い柱を木の板の中心に突き立てる。グラグラ揺れて全く安定しないが、ここは固定化の魔法を使い無理やり固定する。
凄い下らない魔法だと思っていたが、案外使えるな……固定化の魔法……これ考えた俺って、天才じゃね?
………っと、なんだ?
辺り一帯の荒野に広がる、俺の魔力感知に今までの邪神とは、桁が違う魔力を持った何かを感じ取った。
…………この魔力の量……俺の持つ魔力量と殆ど変わらないかもしれない………だが、これだけの魔力を持っていて、何故隠す気もないんだ?魔力の隠蔽くらいしろよ………それともなんだ……威嚇でもしてんのか?
魔力の反応がある方角へ顔を向けると、地平線の向こうから黒い粒が真っ直ぐ此方に跳んで来ていた。
ほんの数秒足らずで、その男は俺の目の前に立っていた。
まるでゴミでも見るかの様な見下した眼、黒いスーツを着た白髪の悪魔だ。
悪魔は俺を下から上まで値踏みするように見てから、まるで相手にならないとでも言いたげな表情で口を開いた。
「人か……つまらんな。」
「そうか。」
また面倒なのが現れたな……悪魔ってまともな性格した奴が居ないな。
そんな事がふと、頭をよぎるが俺自身も、まともな性格はしていないとは思っているので、どっこいどっこいだな。
………いや、俺の方が性格はまともだ。
「……大した魔力も無いか、下らんな。取るに足りん。」
あ?こいつ舐めやがって……
魔力隠蔽してんだよこっちは、隠蔽してんのも気づかねぇのか?オイ。
魔力を全力解放。
戦闘態勢に移行し、目の前の悪魔を敵と認識する。
「その言葉、そっくりそのままお返ししよう。」
威圧も兼ね間合いを一歩、悪魔に近づく。
「………フン。僕に追い縋るか、面白い。」
「違うな、追い縋っているのではない。追い抜いているのだよ。」
安い挑発に、この悪魔は乗った。
明確な殺意の視線を俺に向けられた。
刹那。
悪魔が裂帛の気合いと共に放った突きを、紙一重で躱す。
衝撃が荒野の大地を削り取り、俺の頰にうっすらと血が流れる。
それを無視して此方も、身体強化を用いた拳を悪魔に向かって突き出した。
轟音________
反応した悪魔の拳と、俺の拳がぶつかり、互いの足場が大きく沈んだ。
「____ふっ!」
「______チッ」
踊る様に放たれたキックを片腕で受け止め、思わず舌打ちが出た。
重く、鋭く、速い。一撃一撃がまるで必殺技の様に研ぎ澄まされている。
厄介過ぎる。こんな奴、二度と相手にしたくない。
一秒にも満たない時間で魔法を発動。悪魔の頭上に打ち付ける様に、雷属性の魔法『サンダーボルト』を数十発落とす……が、大きく後ろに躱された為に、掠りもしなかった。
だが、後ろに下がったのは大きな隙だ。
鑪で地面を蹴り、数十歩の距離を一瞬にしてゼロにした俺を、悪魔は驚愕の表情でみる。
「はぁああっ!」
「なにっ……」
全力の一撃。
魔力を拳に集中させ、打ち出した一撃。
悪魔の自信に満ちていた顔が歪んだ。同時にこの拳を防ぐ為に、構えられた片腕を勢いに任せ叩き折った。
悪魔は苦痛に顔を歪ませながらも、この俺から距離を取った。
「久しいな……僕の腕が折られるなんて………貴様はとても『優越』しがいがあるな。」
「………何を言っているのかさっぱりだ。」
やはり悪魔は変な性格した奴らばかりだ。
話を聞くのも嫌になる。
地面を踏み抜き拳を叩き込む。がそれは、折った筈の腕で防がれた。
ふざけた回復力だよ……ほんの数秒前の骨折がもう治ってるとか………意味が分かんないんですけど。
やはり、急所である魂核を破壊するしかないのか………
悪魔が動いた。
ピストルの弾丸の様に爆発的な突きが繰り出され、それを半身で躱し膝を蹴り上げその腕を、へし折る。
ゴキリと嫌な音を立て、あらぬ方向に曲がった腕に苦痛の声すら上げずに、悪魔は突きを何度も放ってくる。
此方もその突きを躱しながら、拳を連続で振るう。
衝撃が地面を削るが、知った事ではない。
何千と打ち合い、遂に俺の拳が悪魔の腹に突き刺さった。
悪魔がまるで紙切れの様に吹き飛んだ。
転移。
悪魔が吹き飛んだ先に転移し、再び俺の拳を悪魔のスカした面に叩き込む。手応えは在った。
確実に気絶はさせた筈だ。
そのまま脚で心臓辺りを踏みつける。
骨が砕け、嫌な音が響く。
「どうした?『優越』しがいがあるんじゃなかったのか?」
軽い挑発を口にするが、悪魔に反応は無かった。
強い。本当に強かった。でも、俺の方が強かったな。
踏みつけた脚を退かし、悪魔の左胸____心臓に当たる部位に俺は、渾身の一撃を叩き込んだ。
確かに潰した悪魔の心臓。
悪魔の存在が消える。
手を引くと一瞬で悪魔という存在が消滅した。
この魔力に、この力……
やはり、こいつは邪神だな………本当に、格が違う。
「これで、あと一体だな。」
____そう。
今の邪神で四体目、残すは一体のみ……だが、たった一体の邪神であの強さ……残るは一体だが………油断は出来ないな。
事が片付いた時、冷静になって考えた。
________おっさんが居たら、もっと楽だったじゃん………
何故地上で、こんなにも大地が荒れてしまうレベルの戦いが繰り広げられていたのに、出て来なかったのか、俺はとりあえず、おっさんをシメに行く事を決心したのだった____________
「えっ?バンシィ?………ちょっ!まっ……ぎゃぁぁああああ!!」
二つの紅い月が地上を照らす、今日の日のこの頃、おじさんの断末魔が、夜空に溶けていった。
ども、最近長距離の移動の際に『走る』を選択するお猿さんこと、ほねつきです。
今回、自分の中では結構頑張って表現したつもりなんですが……まぁ、どうでも良いですね!
あと一話で悪魔の世界は終わりです。その後に、皆様のアイドル、『勇者』ことカミカド・ナガトが登場する閑話を書くつもりです。タッくんは知りません。
話が変わりますが、おそらく皆様忘れ去っているであろう、数々のフラグや、登場したのに結末すら無い残念なキャラ達は、ちゃんと本編にて回収するので………残念なキャラ達は、皆様が忘れた頃に現れます。
生暖かい目で見守って頂けると幸いです。
ではまた。