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ー閑話ー 『悪魔界-《嫉妬》』

お待たせしました。眠すぎて死にそうです。


青い太陽が大地を照らす、ほのぼのとした陽気の下に彼らはいた。


「……フッ、今日こそ雌雄を決しようじゃないか………アムリタ。」


「……うむ。578戦289勝289敗………そろそろどちらが上か、ハッキリさせんとな……」


共に肩を並べる筈の『相棒』

彼らはとの間には既に、お互いの魔力がぶつかり合い、その衝撃によって火花が散っている。

お互い構えるは拳。武器は持たず、お互いの肉体のみで雌雄を決する。


「い」《いくぞ……かきくえば》


「ハイッ!!」


「なぬっ!?」


バンシィが叩いた一枚のカードが宙を舞う。それは所謂『カルタ』と呼ばれるゲームで、洞察力、反射神経が試されるゲームである!!


「……流石はバンシィじゃ………」


「フッ……他愛ない。所詮おっさんはおっさんなのさ……」


手にした一枚のカードをおっさんの目の前でチラつかせ、悔しがるおっさんをあざ笑う……

決戦を見届けたフクロウが眠りに落ち、今日の二人の戦いは決着した。



「して、今日はどうするバンシィよ。」


「さてな。」


俺とおっさんは地面に腰を落とし、創造魔法によっての創り出した、某ペットボトル飲料の『おい!お茶。』で一息ついた。


「………しかし、『色欲』の邪神は釣れたものの、他の三体は未だ釣れず……か、どうしたものかの……」


手短な説明ご苦労だ。おっさん。

『色欲』の邪神を倒し、俺がおっさんをしばき倒した後、『色欲』の邪神と同様に、他の邪神を呼び出してみたものの、他の三体の邪神は呼び掛けには応じず、俺たちは完全に行き詰まってしまっていた。


おっさんの計算によると、この悪魔界と元の世界では時間の流れが違う為、こちらで10年過ごしても、向こうでは一年も経たないらしい。ならばとおっさんは、この素晴らしい時間を研究にかけたい……などとほざき始め、結局俺はそれに流されて589日という時間をほぼ無駄に過ごしてきた。


二年だ。俺は既にこの世界に来て二年経ってしまっている、が……しかし、向こうの世界ではまだ二ヶ月も経っていないらしい……なんなんだよこの世界……狂っていやがる………


「……ふむ、どうじゃバンシィ。この調子ではまだまだ先が長そうじゃ、ここは一つ、拠点を作ってみるのはどうじゃ?」


「拠点だと?」


茶を啜りながら思考を巡らせる。

今まで俺とおっさん、それとフクロウは野宿の様な形で過ごしてきた、拠点など無くても雨風は魔防壁を張れば凌げるし、食事の必要はない俺とおっさん、食べる事すらどうでも良いフクロウ……このメンバーで必要なものなど何も無い、だから今さら拠点を作ろうなんて言い出したおっさんの考えを読み解く。


……先ほど必要なものなど無い。と言ったが一つあった。食事、睡眠の必要が無く、寿命は無限。永遠と言う時間。その時間に何をするのか………暇つぶしだ。俺とおっさんが必要なのは時間を潰す事の出来る何かだ。……おっさんの場合は様々な分野の研究が暇つぶしの様なもので、俺の場合は神官やバーを経営する事が暇つぶしの様な所だな…………


ここまで考えれば大体おっさんが言い出した理由が分かってきた……


「研究か?」


「左様。」


間の無い返答。やっぱりか……と、息を吐き肩の力を抜いた。

お茶を飲み干したおっさんに、新しいお茶を創造してやり、ついでに茶菓子も創造する。


茶菓子と言うと干菓子と生菓子があるが、俺が創造したのは干菓子に分類される八つ橋だ。

干菓子が八つ橋?……なんて思う人もいるだろう、そう八つ橋は生菓子では無い、そもそも生菓子の定義は水分の多い菓子の事を指すが、干菓子は水分が20パーセント以下のものを指す、八つ橋を食べた事のある人なら分かると思うが、八つ橋はどちらかと言えば乾いた感じのお菓子だろう、何故ならば八つ橋は『干菓子』だからだ!!


さて、話を戻そう。


どうせ俺も暇なので拠点を作るのは構わない、しかし拠点を作るにしても資材は無いし、拠点を作るような知識は無い。

作るのは良いがどうする気だ?俺は疑問をおっさんに投げる。


「うむ、建物を建てるのは面倒だからの、穴を掘って地下施設にしようと思っておる。」


なるほどつまり、スコップで穴を掘るってか?……たしかに時間を潰す事は可能だろうが全く楽しそうじゃない……


やるけど。


「よし、やるぞ。受け取れ。」


「うむ!流石はバンシィ、話が早い!」


創造魔法で作り上げたスコップをおっさんに手渡し、俺もスコップを振り回し地面に突き立てる。

お茶やお菓子は物理的に消滅させ、早速どんな感じにするか計画を立てる。


「せっかくじゃからの、広い方が良かろう。………このくらいかの?」


おっさんがスコップで線を引き、大まかな間取りが完成する。広さはだいたい東京ドーム………いや、バスケットコートの半分くらいと、結構広い。普通に広い。この広さを二人で掘るのはかなりの時間がかかる気がしてきた………やる前から挫折しそうだ。


「よしっ!じゃあ始めるぞ!」


「応とも、相棒!」


おっさんの気持ちの悪い返事で、俺たちの穴掘りは始まった__________




_____作業開始八日目。穴掘りは終盤に差し掛かっていた。


アムリタが使うスコップが地面に突き立てられた瞬間、パキッと音を立て持ち手が折れた。


「バンシィ!」


「はいよっ!」


二人の連携は完璧だった、アムリタが呼ぶとバンシィが振り向きもせずに新たに創造したスコップを投げ渡し再び掘る。

お互いがまるでお互いの位置を分かっているかのように、綺麗に掘り進められその一連の動作は『怠惰』の悪魔であるフクロウすら気になって見つめる程である。


「………」《………馬鹿だなぁ、コイツら》


それ程の連携を何故もっと有効活用しないのか……怠惰の悪魔はその答えを停止し掛けそうな脳を動かし導き出した。


「……馬鹿なんだな。」


「「え?」」


怠惰の悪魔はそれだけ言うと『怠惰』に任せて思考を停止し、深い眠りについた。


「《全ては、グロースユア・為すがままにスロウス・デビル》」


フクロウが無意識のうちにスキルを発動する。スキルの光がフクロウの内から弾け、大気に触れる。その光は小さな光で、地面を掘り続ける彼らが気づかないほどに……




「ふぅ……やり切ったな。」


「うむ………我らに掛かればこの程度朝飯前じゃ!」


スコップを突き立て、俺とおっさんの八日間の頑張りの成果を見下ろす。

良い広さに、人が縦に二人入る程の深い穴。スコップで掘ったとは思えないくらい綺麗に整えられたな。………これで、第一目標は達成だ。良し!


「一息つくか!」


「うむ!ひと仕事終えた後の茶はまた、格別じゃからの!」


「………良いよな……男の絆ってヤツだな………良いなぁ……俺にも欲しいぞ………」


茶を飲もうと湯呑みを持ち上げたまま固まる二人。聞き覚えのない声、それに魔力感知にも引っかからないこの隠密性……二人は怖る怖る、その声の主である第三者の方へ目を向けた。


その男は、叩いたら折れそうな程に痩せ細った身体を持ち、黒く淀んだ緑の髪、眼の下には大きなくまができている。


「良いなぁ……良いなぁ………友情ってのは………俺にも………くれよ!」


痩せ細った男は、その見た目に似合わぬ程の速度と強さで二人の間を分断する。


「バンシィ!」


「ああ!魔防壁!」


アムリタが異空間から抜き出した漆黒の剣を振るう。

剣は空気の中の魔力を引き裂き、空気を震わせる。その振動に魔力は共鳴し、全てを引き裂く黒い刃が精製され、男に放たれる。

男が危機を察知し、その刃から逃れようと地面を蹴る……が、既に男の周囲にはバンシィが展開した魔防壁によって封じられていた。

刃は魔防壁ごと切り裂き、男の腹を真っ二つに引き裂いた。


「ゴフッ………良いね!良いね!その友情!……ますます『嫉妬』のしがいがあるよ!!」


「ふむ、『嫉妬』の邪神か。」


「言ってる場合か、魂核が破壊できてないぞおっさん!」


腹を引き裂かれた筈の男は、まるで効いてはいないかの様に、離れた胴体を繋ぎ合わせニマリと嗤う。


「もうその友情は嫉妬したよ……今度は、俺たち・・・の番だ。」


男が腕を振るった。するとアムリタが先ほど起こした現象と全く同じ事が発生した。

空間が切り裂かれ、振動し、魔力が共鳴する。

男の前に作り出された数発の黒い刃。

それがアムリタ目掛けて発射された。


「むっ……」


アムリタは動けなかった、気付いた時には既に周囲に結界が張られ、抜け出せなくなっていた。

それでもアムリタは笑った。まるで楽しんでいるかの様に………


「『魔力解放エーデ・パーズ』」


言葉と共にアムリタの魔力が跳ね上がる。どす黒い霧を帯びたアムリタの背中からは翼が生え、頭部からは天に突き刺す様な円錐型の黒い角が生え出した。


「魔力障壁!」


放たれた刃は、アムリタを覆う魔防壁に似た半透明の壁に阻まれ弾けて消える。


「なんだよそれ!……良いな!俺も欲しい!」


『嫉妬』の邪神は嫉妬する。その防御力を、強さを……魔力を………


「無理じゃよ、『嫉妬』を司る邪神。もう終わりじゃよ。」


「なに……?」


『嫉妬』の邪神がその異変に気が付いた時には遅かった。

振り返ればそこに、既に数千以上の魔法陣を束ねて構えるバンシィの姿がそこにはあった。


「悪いが、魂核を探すのも面倒なのでな、その身体ごと消し飛ばしてやる。……破滅魔法。」


「にぃぃぃ………」


すぐさま離脱する為に大地を蹴るが……動かない。否、動けないのだ………


「破滅魔法。領域呪縛テリトリースペル貴様はもう逃げる事は出来ぬ。」


「………フッ……恨むなら、己の不幸を恨むと良い。『永久の終わりエタニティ・バスター』!!」


超火力と言うに相応しい破壊の魔法。

放たれた光線は、『嫉妬』の邪神の断末魔すら一瞬にして搔き消し、焼き払った。


「お前は頑張った方だよ……邪神。誇っていい。お前はおっさんを本気にさせたんだからな。」


沈みかけた青い太陽を背後に、バンシィは小さく呟いたのだった。

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