ー閑話ー 『悪魔界-《憤怒》』
紅い二つの半月が夜空を支配する悪魔界は、俺が知る限りは今日も平和です。
『怠惰』を司る悪魔こと、フクロウと出会い487日が経った、つまり元の世界だと既に一年以上、過ごした事になる。未だに『邪神』は現れない。……それどころかフクロウ以外の悪魔を俺はまだ見ていない。
一度10キロほど歩いて移動してみたが、マジで何もなくて途中で迷子になりそうだったので諦め、今の今まで何もせずに自堕落に過ごしてきた。
どうでも良いがこの悪魔界の太陽は青色だった。
魔力濃度が人の住む世界と比べ遥かに濃い、この世界に慣れてしまった俺の身体に貯まる魔力はもう既に、『エリア1』を破壊した『エタニティ・バスター』を、数万発は軽く撃てるほどに貯まっている様な気がする。………もうここまで来ると自分でもドン引きするほど、魔力が貯まり過ぎてやばい。
「………」
「……」《……》
俺が創造魔法で創ったベットで、気持ち良さそうに眠るフクロウを確認して俺はそっと、身体に貯まりまくった魔力を放出する為、フクロウを背にして魔法を発動する。
「いざ、破滅の時。」
どうせやる事も無いので詠唱を長くしよう。
「破滅は永久。全ては灰に帰り、全てを無に帰す。死を拒む愚者に終わりを与えん。……『帝級破滅魔法』」
展開された魔法陣を一点に収束させ、何もない遥か彼方の地平線の先に両手を合わせて構える。
「『永久の終わり』!!」
地平線の彼方に放った紫の光線は、俺の魔力の半分を持っていき消えていった。
爆風も爆発も見えない、どこに着弾したかも分からないが、流石に一周回って俺の背後を襲うなんて事は無かった。
ただ、その代わりに………
「なんだ……あれは?」
それはまるで炎。いや、殺意剥き出しの業火の炎だ。
エタニティ・バスターを発射した方から、真っ直ぐにこちらに飛んで来ている。
やったぜ、なんだかよく分からんが魔力を見る限りあの『邪神』を遥かに超える魔力を持った何かが炎の中にいる。
その炎は速い。今まで色んな奴を見て来たが、あの速さはドラグ並みに速い。残り五体の『邪神』の一体である事を願いつつ、放たれた紅い炎を弾き飛ばしてこちらも接近する。
「ウオォォォォォ!!貴様かぁぁぁぁぁぁ!!俺の城を吹き飛ばしやがったクソ野郎はぁぁぁ!!」
うっわ、めっちゃ怒ってるわ……炎の中で燃え続ける筋肉隆々の巨漢の男。その豪腕が振るわれた途端、大地が凹んだ。………マジかよ。きめぇな。
直ぐに身体強化をかけ、その巨漢の懐に入り込み、力を込めてその腹を殴りつけた。
「なっ……」
「……フン、その程度の力では、俺の怒りを止める事など出来んぞォォォォォォォォォ!!!!」
直後、男が炎を舞い上げ魔力が弾けた。
これは、なかなか良い戦いになりそうだな。
袖から魔力樹を抜き取り、リーチと攻撃力のある大剣を創り出し、片手で構える。
「おい、貴様。貴様は一体なんの悪魔だ?」
「ほぅ……この俺に随分と舐めた口を利くじゃないか……まぁ良かろう。俺様は『憤怒』を司る怒りの権化。『邪神』イース・ブレスハンドとは、俺様の事だ!」
長い自己紹介ご苦労様だ。では、こちらは名乗らずに不意打ちでも仕掛けてやろう。
鑪を踏み『憤怒』の邪神の背後から、大剣を振り下ろす。
「ヌンッ!この俺様相手に不意打ちとは、つくづく貴様俺を苛つかせるではないか!……ハッ!!」
「チッ……」
丸太の様な豪腕が振り上げられ、その衝撃波が身体に刺さる。
ふと視線を変え、フクロウの方を見るが、半目で此方を観戦しているが、助ける気は一切なさそうだ。
だがまぁ………
『フラッシュ』の魔法を目眩し程度に使い、素早く邪神の懐に入り込み左手で『エタニティ・バスター』を照射。
邪神が吹き飛び空中で体勢を整え、バカみたいな魔力を含んだ炎が俺を襲う。
「魔防壁」
今まで使用してきた魔防壁とは、数十倍以上の強度差がある魔防壁を展開し、邪神の炎を防ぎきった。
悪魔を倒すには、魂核と呼ばれる心臓みたいなものを破壊すれば、簡単に消滅させる事が出来るのだが……
コイツ……魂核が見つからないぞ……
「『憤怒の炎に焼かれて消えろ』」
「……うっわ、マジかよ!」
思わず声を上げてしまう程の強力な炎によって、魔防壁は突破されてしまう。距離を取り魔法を発動……
「フハハハハハハ!!させんよ!!」
「ぐっ……」
接近され振るわれた拳を大剣で防ぎ、後ろに下がるように飛び魔法を発動させる。
「破滅魔法。『ワールド・バーン』」
破壊の名を冠する漆黒の球体を連続で適当に投げつけ、地に足を付いた瞬間一気に踏み込む。
大剣を突き出す様に邪神目掛けて突進した。
邪神は『ワールド・バーン』よって作り出されたボコボコの足場によって、まともに力を込める事は出来ない筈……そう踏んで俺は大剣を突き出した。
「……フッ」
掛かったな、とでも言いたげな表情。邪神は既に俺の行動を予想し、その豪腕を奮っていた。
……まぁそれは、俺も予想していたよ。
邪神の拳が俺の顔面に当たる寸前、転移を行使し、その背後に転移する。
大剣を槍に変身させながら、俺は邪神の背中を突き刺した。
「………グッ……だがしかし、魂核は潰せていないぞ。」
「そうだな。」
ニィと笑う邪神が、再び炎を生み出した瞬間。
「……ゴブハァ!!」
突き刺さった槍は邪神の内部から変形し、身体中から槍が突き出した。
魂核が見つからないのなら、身体中に槍でも刺してやりゃ良いだろう?
俺がやったのは身体の中からボカンッ!って感じだがな。
「残念だったな。憤怒の邪神。俺はお前の遥か上を行く。」
どこに魂核があったかは分からなかったが、上手く魂核は破壊出来ていた様で、邪神は有無を言わずに消滅し、最後にはまるでウニの様な形をした槍?だけが残った。
強い。確かに強かった。だが、それだけだ。
「うーむ!流石はバンシィ!咄嗟の機転に判断力!やはり我が相棒じゃ!」
は?
この声……聞いたことある声だが、ここに居るのはフクロウだけの筈だが……これは一体?
「なっ……おいおい、何故お前がここに居る!?」
振り返ればそこには、フクロウの眠るベットに座る、おっさんの姿があった。
「うむ!バンシィが『エタニティ・エンド』で此方と彼方の次元をほんの少しだけ、開かせた事によりここに居る!」
ドヤ顔で胸を張るおっさんだが、俺には言っている事がイマイチ理解できない。
「な」《なんだ、知り合いか。》
「左様!我とバンシィは相棒じゃ!よろしくの、『将軍』クラスの『怠惰』の悪魔よ。」
「あ」《ああ、よろしく。》
………おい、なんでそんなに仲が良いんだ。お前ら……
何故おっさんが現れたのかは知らないが、兎に角この日俺とフクロウは、おっさんと言う超強力な助っ人と合流した。
まさかのおっさん合流。
悪魔界はおっさんとディラとフクロウのシリアスギャグバトルアクションのお話です(意味不明)