ー閑話ー『悪魔界-《怠惰》』
悪魔の世界のお話。
空に浮かぶ紅い二つの三日月の下で彼らは邂逅を果たした。
俺はついうっかり踏んづけてしまった悪魔を一度見直してから、聞き直す。
「すまない、もう一度何を言ったのか聞かせてもらえないか?」
「あ」
「…………」
何を言っているのかさっぱり分からない。まさか悪魔には悪魔の言葉があるのか?
だとしたら何故俺は邪神と話せていたんだ?
………えぇい面倒な!
目元を隠した仮面を外し『記憶眼』を発動させる。
『記憶眼』は相手の記憶を盗み見る事の出来る眼であるが、応用を利かせれば、過去の記憶ではなく、頭で考えている事を盗み見る事が出来る。
簡単に言って相手の思考を聞き取る事が出来る。
この悪魔の思考が、記憶眼を通して俺の頭に伝わる。
《……眠い。》
は?
いやいや何故だ。なぜ考えている事が『眠い』だけなんだよ。もうちょっとなんかあるだろ?……ホラなんだ………「こいつ……出来るッ!」とかさ。
そこで俺は考えを改め、この悪魔がそもそもちゃんと思考しているのか、カマをかけてみた。
「お前は一体何の悪魔だ?」
「……はぁ………」
うわっ、こいつ露骨に面倒くさそうな顔しやがる………で、こいつは何を考えているんだ?
《めんどくせぇ……》
案の定かよ!!表情通りか!めんどくせぇなこいつ!!
だが、こういった反応から察するにこの悪魔の種類が分かった……
こいつ絶対、『怠惰』の悪魔だ……
『怠惰』……
悪魔の種類に疎い俺でも『怠惰』くらいなら知っている。
要するにアレだ……ダラける悪魔だろ?
悪魔大陸に来て初めて出会った悪魔が『怠惰』って……なんだかやる気失せるな…………
………ハッ!まさかこれが『怠惰』の力ッッ!!こいつ……出来るッ!!
……さて、話を戻そうか。この悪魔、非常に面倒くさそうに、地面に寝転がりながらではあるが、俺の話にはまともな答えではないが、反応はしてくれている。反応さえしてくれれば良い、反応していると言う事は、頭の中で何かを考えているという事、だったら俺はこの悪魔の思考を読み取れば、会話は成立する。
物事は『察し』が大事と、誰かが言っていた気がする。
俺がやるのは『察し』ではないが……
「『怠惰』の悪魔、お前の名前は?」
「……はぁ………」
《名前なんてあるか……好きに呼ぶが良い……》
ふむ、成る程。名無しか、ご本人は好きに呼ぶが良いと、心の中では思っているので好きに呼ぶとしよう。
「……そうだな……では、ボーとしているからお前の名は『フクロウ』だ。」
あ、これ我ながら良いネーミングだと思うんだが!『フクロウ』なんかカッコいいな!眠そうだし、この悪魔にピッタリの名前だな!
「そ」
《そうか、良い名前だ。》
「やはりか、気に入ってくれたようで何よりだ。」
「で」
《では俺も、お前の名前を決めてやる。……『フクロウ』だ。》
なんでやねん!なんでお前が『フクロウ』で俺も『フクロウ』になるんだよ!紛らわしいわ!
「おいおいフクロウ、俺もお前も『フクロウ』では紛らわしいぞ……それに俺はバンシィ=ディラデイルと言う名前がある。」
今気づいたが、このフクロウとなかなかの会話が出来ている事に俺は感動を覚えている。
「そ」
《そうか、それならば『フクロウ』はミドルネームにすると良い。『バンシィ・F・ディラデイル』と言うのはどうだ?》
なにそれカッコいい!フクロウ、センス良いなオイ!
「素晴らしい名だ。これから俺は『バンシィ・F・ディラデイル』と名乗るとしよう。」
「あ」
《ああ、それが良い。》
素晴らしい、流石は俺だ。フクロウと言うネーミングセンスのお陰で、かなり打ち解けた筈だ。
この状態からならば、十分に会話が可能な筈だ。
「フクロウ。お前、この辺りの地理には詳しいか?」
邪神を倒すと言っても、まずは情報を入手しなければお話にならない。五体の邪神の居場所、そして出来るならその邪神の特徴や特性を入手したい。その手の情報はやはり、現地の奴に聞くのが一番手っ取り早い。がしかし……
「し」《しらん。俺に聞くな。》
お話にならなかった。
そうだよな、よくよく考えてみればフクロウは『怠惰』だ。知ってる方がおかしいな。うん。俺が悪かった。
「すまん。聞く相手を間違えた。では、話題を変えよう。フクロウ。お前のクラスはなんだ?」
「し」《しらん。俺に聞くな。》
いや、なんでやねん。自分の事ぐらい知っとけよ、『怠惰』にも限度はあるだろ……
「……フクロウ。『怠惰』であるお前にこんな事を言っても、聞き入れてくれるかは分からんが、自分の事ぐらいは知っておいた方が良いぞ……」
「そ」《そうか、善処しよう。》
と言いつつ、半目で寝返りを打ってる辺り多分、善処するは気ない。流石は『怠惰』……ブレないな………
俺は一度フクロウから目を離し、周囲を見回す。
赤褐色の大地が何の障害物も無く広がっている。この広い世界から五体の邪神を探さなければならないのか……
瞬間移動は使えない。
一度行った場所でなければ瞬間移動は殆ど成功しない。
向こうからやって来ないかなぁ……
「バ」《バンシィ………聞きたい……事がある。》
「ん、なんだ?」
『怠惰』が自ら動くとは思っていなかったぞ。『怠惰』は『怠惰』でも、まだ動く方の『怠惰』か……他の『怠惰』は見た事ないが………
「お」《お前は何者だ?……悪魔ではなさそうだな。》
「人間………いや、人間を辞めた人間……と言った所かな?」
実際自分でも立ち位置がよくわからない。ヒトの形はしているが、身体の作りは完全にヒトとは違う気がする。……海底を一ヶ月間歩けるしな………
まぁ良い。こういうのは気持ちの問題だ。どこかの戦争好き少佐も「私は人間だ。」とか言っていたからな、気持ちだ、気持ち。………俺は『神』だ。
「ニ」《ニンゲンか……一体何の目的で………ここに?》
「この世界にいる五体の邪神を潰しに来た。だが、場所が分からん。」
「そ」《そうか………無計画なんだな。》
「ああ……残念な事にな。」
チクショウ………こんな事になるなら邪神消し飛ばさずに、連れてくれば良かった……変な風にカッコつけるもんじゃないな……ロクなことがない……
「そ」《そんな時は向こうからやって来るのを待つと良い。》
予測していなかった『怠惰』の悪魔からの提案に、反応が少し遅れた。
「……ほぅ、それは何故だ?」
「こ」《この広い悪魔界から五体の邪神を探しに行くのは面倒だ。》
うん、確かになそれに俺はこの地の地理も分からん。俺がコクコク頷いていると、今にも眠りたそうなフクロウが続けた。
「だ」《だから、向こうから来るのを待とう。幸いにも、俺以外の悪魔は『怠惰』ではない。悪魔界統一とか言う馬鹿ばかりだ………その内やって来るさ。》
凄いな……怠惰なのにめっちゃ喋るじゃん………と言うかこの世界『悪魔界』って言うんだな……そのまんまじゃねーかよ。
「成る程、確かにな。それならば待つとしよう。」
「あ」《ああ、それが良い。》
俺が地面に腰を落とすのを見ると、フクロウはその眠そうな半目をゆっくりと閉じ静かに眠りに就いたのだった。
ども、最近動物の森にハマってしまったほねつきです。
さて、悪魔界の話は、時間がぶっ飛んで話を進めていきます、悪しからず。
予定では、年内に閑話を終わらせ、来年から『ビギニング』を始めていく予定です。僕の執筆速度によって、早まる事もあります。遅くさせるつもりはありません。
ではまた。