ーエピローグー 『sideタリウス』
連続投稿
邪神との戦いから一年が経った。
俺はあの後、瓦礫の中に埋もれたリーリャを助け出し、怪我人の救護に当たりと、まぁ色々大変だった。
王都ロトムスの被害は甚大で、殆どの建物が破壊され、復興の目処は立っていなかったけど、マギアを筆頭に王都サンにシューラが力を合わせて王都ロトムスは復活した。
そして俺は、冒険者業を一旦中断して今日……
アイナと結婚する。
俺とアイナの事をお祝いしてくれる人は沢山いた。
中には知らない高貴な貴族の方も居たけれど、ナガトやリンにリーリャ。それにニーナやザンバ、メルにデュメス、ギノにランバ………そして記憶を失ってしまったけど、ノアもお祝いしてくれた。
みんなが俺とアイナを祝福してくれた。でもここには……ディラ兄は居なかった。
大爆発の後、俺とアイナは必死に探した。魔力感知も使いディラ兄の痕跡がないか、必死に探した………けど、髪の毛一本、何も見つからなかった。あれだけの爆発だ。何もかもが無くなっても仕方がないのかもしれない……でも、お祝いしてくれる人達の中にディラ兄が居ないのは、どうしても悲しかった。
「ンゴッ!……ふー、食った食った!おっ!タリウスー!元気そうだなー!……あっ、違った、ご結婚おめでとう……だったか?」
「あっ、ジャンさん。お久しぶりです。ありがとうございます。」
パクパクと料理を口にする黒髪で細身の冒険者。
この人はジャンさん。『ダンジョンブレイカー』って言う二つ名を持つSランクの腕利き冒険者なんだけど、ちょっと常識が足りない人でもある。
でもこの人はそんなんでも、数々のダンジョンを制覇してきた凄い人なんだ。
何よりこの人は武器を持たない拳闘士って言う職の冒険者なんだ。全てを己の肉体のみでこなす。
……凄いよね。俺より絶対強いと思うんだ。
この人からは性格は全然違うけど、どことなくディラ兄に似ているような気がする。なんだろう?……匂い?
「タッ君。そろそろだよ!」
「あ、ああ、ごめん!ジャンさんまた後で。」
「ん?おー、じゃあ僕も席に戻らないとな!」
アイナに呼ばれてジャンさんと別れ、俺は急いで結婚式場の裏に回った。
「もう……話し過ぎだよタッ君……」
「あはは、ごめんごめん。」
「お二人共、間も無くですよ。」
係の人に言われて俺はアイナの手を引いた。
《新郎新婦ご入場!》
司会の人の言葉と共に俺とアイナは新たな門出を踏み出した。
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式の後はもうお祭りだった。
みんなが笑って、みんなが歌う。賑やかな結婚式だった。
お祭りみたいになった時、ジャンさんが突然司会の人からマイクを奪った。
《あーあー、聞こえてますねー?》
何事かとみんながジャンさんに注目を集めて、一部の人は何だジャンか……みたいな顔をして、その行動を頑なに見守っていた。
俺も、何をしでかすのかわからないジャンさんに警戒をしていたけど、ジャンさんは一枚の紙を取り出すと、こう語った。
《えーと……『タッ君、アイナちゃん、結婚おめでとう!君達がくっつく事は、子供の時から分かっていた事だが、流石は私、この目は狂いが無かったようだ!さて、君達二人、いや、他の七人の子供達も色々あっただろうが、みんな幸せだろうか?……まぁ、そんな事は良い。今回は君達二人に私からアドバイスをやろう。』》
この手紙は………ディラ兄?
なんで、ジャンさんが………?
《『人は必ず、壁にぶつかる。だがその壁は、二人でならば乗り越えられる。君達は幸せだ、だがしかし、幸せには不幸せも付き物だ、二人ならば乗り越えられる………きっとな。この手紙をジャンが読んでいると言う事は私はもうこの世に居ないだろうが、私の死なぞ乗り越えてみせろ。そしてより一層の幸せを掴む事だ!結婚おめでとう!二人の幸せが未来永劫続く事を願っている!…………高位聖神官ディラデイルより。』……以上!終わりー!》
マイクを投げ捨て、何事も無かった様に料理に手をつけ始めたジャンを見て、全員が我に返り、盛大な拍手が送られた。
………本当に……なんで、ジャンさんがディラ兄の手紙を持ってんだよ………
気づいたら涙が止まらなくなっていた。
ありがとうディラ兄。
「俺絶対、アイナと共に幸せになってみせるから!!」
「………フッ、幸せにな。」
銀の仮面を外したコック姿の男は、厨房で巨大なウエディングケーキを仕上げながら、小さく呟いた。
小さなチョコプレートに『おめでとう』と書き上げて____