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ー第8話ー 『殺人的笑み』

お待たせしました。タリウス、アイナ回です。


悪魔


それはお伽話でしか聞いた事が無かった伝説の生物。

……だと思っていた。


持てる魔力を研ぎ澄まし、自分の力の原動力に変える。

俺の目の前に立つのは真っ黒なスーツに身を包み、見た事もない黒いロングソードをぶら下げた悪魔の男。


名を聞いても名乗らない。会話のならない一方的な指名により今俺は、この悪魔と対峙している。


王都ロトムスの各地では、この悪魔とは違う、形と定まらない『異形の悪魔』と騎士団やリーリャが戦っていた。


何故突然この王都ロトムスに悪魔なんて現れたのか、原因は全く分からない。本当に急に現れて王都を襲撃している。だけどそれだけで、俺は王都を守る為に戦わなくちゃいけない。


どうにも運悪く、ナガトやリンは此処には居ない。この最悪の盤面は俺とリーリャでなんとかするしか無い。


改めて悪魔の男を見る。


その男は剣を構えていない。一見すれば隙だらけな構えだ。この間合いならば一瞬で詰められる。相手が剣を構える前に斬る事が可能だ。


だけどそれを許さない様な気迫がこの悪魔からは感じ取れる。この絶望的な程に開いている俺と、あの悪魔の魔力の差。

魔力が多ければ多いほど、魔法はより多く使える。それはつまり手数の多さに繋がる。長期戦になれば間違いなく魔力の量で劣っている俺の負けだ。


短期で決着をつけなければ……恐怖はあるが、それを押し殺し初めから全開で鑪を踏み数メートルの距離を詰める為一歩目の脚を踏み出そうとしたその瞬間、僅かではあるが悪魔から殺意を感じ、思考よりも先に身体が距離を取っていた。


次の瞬間。先程まで居た俺の場所が何らかの魔法によって深く地面ごと抉り取られていた。


嘘だろ……詠唱もせずにこの威力……そして俺が動いたと同時に発動したと思われるその反応速度……人間じゃない……成る程、『厄災』と呼ばれる訳だ。これを厄災と呼ばなくて何と呼ぶのか。


「迸れ『雷光』!」


地面に足が着いたと同時に魔法を放つ。

目眩し程度の魔法。肝心なのは魔法では無くそれによってもたらされる隙。

魔法の発動と同時に既に脚を踏み出し、真なる剣を構え悪魔に向かい奮った。


真なる剣のひっ先が、悪魔の腹部を斬り裂いた。


「なにっ……」


悪魔は驚きの声を上げ直ぐに距離を取った。

その距離を俺は更に踏み込み詰め、真なる剣を突き立てる。


「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「なるほど、魔剣か……厄介な。」


狙うは悪魔の心臓。魂核と呼ばれる部位ただ一点。ほんの僅かな距離。その瞬間俺の視界が反転した。


気付いた時には空中を舞っていた。俺が詰める筈だったあと数歩の距離を、悪魔は肉眼で捉える事すら出来ない速度で、俺を蹴り飛ばしていた。

空中で悪魔の位置を確認しつつ着地。同時に高位魔法の『雷龍』を無詠唱で悪魔に向かって放つ。『雷龍』の陰に潜み悪魔が『雷龍』を打ち消した瞬間、悪魔の腹部を突き刺し蹴って引き抜く。

紅い鮮血が飛び悪魔が声を上げる。


開いた間合いを再び詰め次はその魂核を狙い剣を突き立てた。


「……っ!?」


突如視界から消える悪魔。即座に魔力感知を展開しその魔力を探る。

現れたのは直ぐ後ろ、咄嗟に突きの勢いのまま身を屈め前転し、その悪魔の手刀を躱した。


「フン……『杭よ、悔い改めよイー・ラ・アラゾニア』」


聞いたことのない悪魔の詠唱。警戒は出来ても、それを防ぐ事は出来なかった。


「ぐぁっ!」


防具を貫通し、左のすねに突き刺さった黒い杭。足のバランスを崩し前のめりに倒れてしまう。


「フン……所詮は人。その程度のダメージで戦闘不能になる。」


悪魔は倒れる俺を見下し嗤う。

一体この魔法はなんだ?相手に杭を打ち付ける魔法……全く聞いたことがない。……効力は?射程範囲はどのくらいだ?

突き刺さった杭の痛みを堪えながらも、思考は続ける。


俺はこの悪魔に勝ち目はあるのか?


否、勝ち目など初めから無いに等しかった。『厄災』と呼ばれる悪魔に、人間がたった一人で勝つ事など無理に等しい。


………だからなんだ。


そんなもん、昔っからそうだ。勝てない相手、勝てる筈ない魔物と戦い俺は数少ない勝利を手に入れてきた。

だからこのくらい……


「どうって事ないぜ!」


「……ほぅ、しかし貴様その脚で一体何が出来る?」


悪魔の射抜くような視線は、俺の脚に注がれる。それでも俺は真なる剣を握りしめ姿勢を低くし構える。


俺の持つ最高の魔法は、この悪魔にはダメージすら与えられなかった。だがしかし、この真なる剣は確実に悪魔にダメージを与えている。

ディラ兄から渡されたこの剣。もう何年も使っているが、未だその力は計り知れない。俺がもっと強くなれば、この剣だってもっと強くなる。そんな気がする。


魔力をじりじりと高める。魔力は全身の身体能力を底上げし、脚を貫かれた痛みさえも忘れさせる。


この悪魔を世界に放ってはいけない。絶対的強者だ。この悪魔を放っておけば確実に世界が滅びる。それ程の力を持っている……この悪魔は………


「人間。……もう諦めた方が良い。貴様がどれほど足掻こうとも、この私に勝つ事など出来ぬ。……貴様のその魔剣は恐ろしいが、使い手がその程度ではな……」


「はっ_____!!」


魔力は十分。全神経を集中させ、この一刀に魔力を注ぎ力強く大地を蹴った。

悪魔との間合いは直ぐに詰まる。

踏み込んで力強く振るった真なる剣は、悪魔の左肩に突き刺さった。


「なっ………に……」


「……分からんか?人と悪魔では絶望的なまでの能力の差に……否、分かっていた筈だ。貴様、よもや力の差も理解出来ぬ馬鹿ではあるまい。」


肩に刺さった刃など気にも留めず、侮蔑した視線で俺を見下ろす。

掲げられた手刀を見た時、死を覚悟した。


「……さらばだ『英雄』。次は悪魔にでも生まれ変わると良い。さすれば俺が鍛えてやろう。」


その時、悪魔が大きく飛んだ。降り注いだ雹を躱した為だ。

突然の事に理解が追い付かず、脚に突き刺さる杭の痛みによってより理解を苦しめた。


……今のは一体?


気配も殺意も無かった。何処から放たれたもので、誰のものかも分からない。だがしかし、悪魔だけは術者が誰か分かったらしい。


俺と悪魔と少し離れた二階建ての建物、その屋上にその人はいた。


「………仲間か……」


「……………」


黒のローブに身を包み、フードの下からは銀の仮面が此方を覗いている。

あの姿はディラ兄そっくりだった。

だけど一目で違うと感じた。雰囲気が違う。もっとディラ兄は視線が怖い。


それにディラ兄は男だ。あのディラ兄の格好をした人は、少しだけ膨らみがあることからして、あの人物はディラ兄では無く別の誰かで女の人と言う結論に至った。


あんな人、俺は知らない。


「………」


不意に向けられた視線。その人は俺を一瞥してから、片手を悪魔に向けた。


「『水龍』」


悪魔に向かって放たれたのは『雷龍』と同クラスの魔法。威力は十分。その放出された魔力の大きさに驚きすら覚える。だがそれは俺が防がれた魔法と同じ威力だ。


「……むっ……これは……」


迎え撃とうと構えていた悪魔が突然大きく避けた。

水龍が地面にぶつかり大きく水飛沫を上げその原型を失った。筈だった。


「……なっ!あれは……」


それを見た途端、思わず声を上げてしまった。

水飛沫が上がったその中から、悪魔に向かって飛散する様に飛び出す無数の光のつぶて

光属性の中では中位に値する魔法。並みの魔法使いでも修得するのは難しい光属性中位の魔法、しかし驚くべきはそこでは無い。


彼女は今、二つの魔法を同時に発動していた事だ。


『二重詠唱』


それは、未だ嘗て誰も成し得ない不可能の領域。あの賢者リンですら会得出来ない神業。

それを今、彼女はやって見せたのだ。


どんなに詠唱を速くしても、二つの魔法を同時に発動する事など出来ない。

魔法は頭の中で想像イメージし詠唱を行いそれが現実になって実体化する。

つまり人はどんなに頑張った所で魔法は一つずつしか発動出来ないのだ。

だから魔法使いは魔法の詠唱高速化に努力をする。


今彼女は神業を見せたのだ。


ただの人間で。


確かに俺は『二重詠唱』を見たのは初めてではない。『魔将』ライト・メアも原理は分からないが『二重詠唱』を行なっていた。魔法に特化した魔族だ。そんな事が出来てもおかしくないと、リンは言っていたけど、それを人が出来る事は喜ぶべきことだ。


_______っと、今は感心してる場合じゃなかった。

彼女が悪魔を引きつけ相手をしてくれている間に、脛に刺さった杭を抜こうとするが、ちょっと激痛に耐えられそうにない。


戦いが終わってからにしよう。


真なる剣に魔力を込め、雷を纏わせる。自然と剣を握る力が強くなり、十分な力を持って悪魔に対し斬り込んだ。




共に悪魔と戦い、彼女のその戦闘能力の高さに驚きを感じていた。

いくら二重詠唱が出来る魔法使いだからと言って、近接戦が強い訳ではない。が、彼女は悪魔と互角と言っていい程に剣で渡り合っている。

剣を振りながらも、要所要所で魔法を発動し、必要以上に近づかせない戦闘スタイルを維持している。


「タリウスっ!」


「あっ______ああ!」


突然名前を呼ばれたが、一瞬自分を呼んだ事に理解が出来なかった。

遅れて悪魔に側面から真なる剣を振り抜いた。


「チッ……」


悪魔の右腕が宙に舞った。血飛沫が掛かるのを嫌い、直ぐに距離を置いた。


「『水龍』」


彼女から至近距離で放たれた水龍は、悪魔の腹にぶつかり破裂すると先程同様に光の礫が悪魔に襲いかかり、その身体に無数の穴を開けた。

悪魔の絶叫が響く中、大地を蹴り真なる剣をその首に向かい振るった。


「………こっ………こんな筈ではっ…………」


身体から離れ宙を舞う頭部が声を上げながらも、空中で消滅を始め地面に落ちる寸前に完全に消え去った。


頭部を失った胴体はその機能を完全に停止し、消滅を始めていた。


「タッ君……」


ディラ兄の格好をした彼女から、静謐さが溢れる声で懐かしいあだ名で呼ばれた。

真なる剣を鞘に納め、その人に向き直る。


「______助けていただきありがとうございます。………すみませんが、貴女は一体……」


「…………」


数秒の沈黙。

彼女は何かを決心した様で、その銀の仮面に手を付けた。


ゆっくりと外される仮面。その下には、透き通った青い瞳にその瞳と同じ色の長くおろした髪。その姿は幼少の頃、共に過ごしたアイナにそっくりで………


いや、そんなはずは無い。


アイナは何年か前にクエストを受けて消息を絶ったって………


だが、今目の前にいるのは間違う事なくあのアイナにそっくりだ。


「______嘘だろ?………アイナ?」


彼女はその言葉を待っていたかの様に、はにかんだ様な笑顔を向けた。


「えへへ……来ちゃった。」


その殺人的な笑みは、悪魔よりも手強かった。


そんな休息もつかの間。


あの悪魔よりも遥か上を行く程の強力な魔力が、再び上空に現れた。

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