ー第3話ー 『異形の悪魔』
まさかの、おっさん回です。
ダルク達が帰った後も、しつこく質問しようとするおっさんに少し文句を言いつつ、話は聞いてやる俺って優しい。
「で、なんだ?その質問ってのは。」
「うむ、これが一番聞きたかったのじゃが……」
何だよ……聞きたいことから先に聞けよ、何だよそのジワジワ質問する戦法……ナメクジかよ……ん?ナメクジはジワジワ質問しないな。
心の中で漫才をしていると、おっさんは結構深刻そうな顔で明後日の方向を見ながら聞いてきた。
「数日前に突然、バンシィ……お主の魔力が二つに増えた。そしてその二つの内一つは我の目の前に、もう一つは表世界の地中深くに……バンシィよ、何か心当たりは?」
俺の魔力が二つ?何言ってんだこのおっさん……
と思いつつも、魔力感知を使い俺の魔力を探した。
するとそれは直ぐに見つけた。膨大な俺の魔力、それは間違いなく地中深くから感じ取る事が出来た。
確認の為、『千里眼』を発動。
しかし、俺の魔力が壁になってその正体が掴めない。少し離れた位置から見るとそこは、見た事がある巨大な城。
王都ロトムスの巨城。
おかしいな、どう言う事だ?
これだけの魔力量は心当たりがひとつだけある、だが俺が魔力を流したのは王都ロトムスではなく、ダンジョン『エリア1』だった筈だ。
魔力が移動した?まさか、既に俺の魔力は『邪神』に捧げられちまったとかか?
「……バンシィ?」
待てよ、だとすると今はかなり危険な状態じゃないのか?
あれだけの魔力が有れば、軽く大陸は消し飛ばせる魔力だぞ?
いやしかし、何故王都ロトムスの真下に俺の魔力が?
………まさか『邪神』は王都ロトムスに?
……いや……そうだとすれば辻褄が合う。
バズズ様は邪神の居場所は仰らなかった、その時はまだ知らないのだと思っていたが、今考えれば明らかに不自然だ。
邪神の場所が分からないのに下手に行動するか?バズズ様は王都ロトムスの方に向かっていた、バズズは……いや、王家の面々は初めから『邪神』の居場所は分かっていたのではないか?
だからなんの迷いもなく王都ロトムスへ足を向けたんだ……何故俺は気づかなかった……そうだと分かっていれば俺が真っ先に飛んで、『邪神』をぶち殺してやったのに!!
今から行けば間に合うか?………いや、ダメだ、もうバズズ様は王都ロトムスに到着している!!
おい待てよ、タッ君にアイナちゃん、それにギルディークまで居るじゃないか!!
最悪だ、今から俺が向かえばバズズ様の決断に泥を塗るようなものじゃないか!!
クソが!何故気づかなかったんだ俺は!!
「バンシィ!!避けるんじゃ!!」
深く思考を巡らせていたら、突然おっさんが声を荒げた。
「なんだ?おっさん……なっ!」
突然上空から降り注ぐ紅い岩石。思わず俺の頭上に魔防壁を展開。
「破滅魔法!『虚無への回帰』」
おっさんから放たれた光が、降り注ぐ岩石と、俺の魔防壁を打ち消した。
「おい、何故俺まで打ち消した?」
「今のは『魔破』の上位互換、『虚無への回帰』、一定範囲内の物理、魔法、魔術の発動全てを無に帰す魔法じゃ、判定は無差別、バンシィだけを除外する事は出来ぬのじゃ!」
と、偉そうに踏ん反り返っているが、要するに制御出来ないだけだよな?なんだよ、判定は無差別って、まだ『魔破』の方が使い勝手がいいわ。
そう文句を言うのは俺の心の中だけで、口にはしない。
今はそんな事をごちゃごちゃ言ってる場合じゃない。
「今のは?」
「……分からぬ。突然上空に現れた、と言った所かの。………バンシィ、また何か来るぞ!」
「……その様だな。」
上空から落下してくる無数の黒い何か。
「結構な魔力を持っておるな。」
「……みたいだな。」
落下してくる黒い物体を見つめながらおっさんが言った。
「バンシィ、心当たりがあるじゃろ。」
「ああ、一つな。」
おっさんは魔力で形成した黒い剣に、黒い十手を両手に構え、魔力を解放し臨戦態勢になった。
「どうやら、世界中にアレほどの魔力を持った者が現れた様じゃ、これは楽しめそうじゃが世界には、ちと酷じゃな。こう言うのはとっとと根源を取り除くのが一番良い。行け、バンシィ。」
「ああ、ではお言葉に甘えるとしよう。」
おっさんを置いて俺は転移した。
「ふむ、この禍々しい魔力……悪魔か。」
バンシィの去った後、我は小さく呟いた。
我の頭上に落下する一体の黒い悪魔を、右の黒剣で斬り捨てる。
「ケケケケケケケケ!!」
我の周囲を囲う様に落下してきた、数体の形も定まらぬ異形の黒い悪魔達。
「言葉も持たぬ最下位の悪魔か。」
悪魔……
悪魔大陸____
古来より伝わる伝説の大陸。
未だ誰も見たことのない未知の大陸から、突如世に現れる異界の生物。その生物には実体が無く、世に存在する生物の心に語りかけその生物を自在に操る精神支配に優れた伝説の生物………
『悪魔』
だがしかし、例外は存在し一定以上の魔力を持った悪魔は世に実体を持って現れると言う、そしてその実体を持つ悪魔はどれも『厄災』と呼ばれる程に強い。
「ケケケケ!!」
『異形の悪魔』の一体が、アムリタに向かってその爪の様な腕を振り下ろすが、それを十手で受け止め黒剣で『異形の悪魔』を斬り捨てる。
「ケケケ!ケケ!」
「むッ……破滅魔法、『反射する障壁』」
アムリタの四方を囲う様に透明の障壁が展開される。
『異形の悪魔』の一体は、空間が歪む程強力な黒い炎を放つが、アムリタの展開した障壁に触れた瞬間、それは跳ね返され、『異形の悪魔』は自らの放った炎に焼かれ焼失した。
「今の黒き炎………なるほど、言葉を話せぬ最下位の悪魔でも、『厄災』と呼ばれる程の力は持っておるのか。」
アムリタは一歩踏み出し、その勢いで『異形の悪魔』を斬り捨てる。近く悪魔を十手で制し、黒剣で斬り払う。その単純な作業を繰り返すこと数回。
「むっ……」
咄嗟に黒剣を『異形の悪魔』に突き刺し、そのまま押し倒す様に倒れるアムリタ。
「ほぅ、これを躱しますか。」
「成る程、強いのが来たの。さしずめ『騎士』クラスと言ったところかの。」
突き刺さった黒剣を支えに使い、ゆっくりと立ち上がるアムリタ。
その視線の先には漆黒のコートを身に纏い、道化の様ないやらしい笑み、肩に担ぐのは身の丈以上の紫紺の大鎌。
その男の魔力は『異形の悪魔』の数十倍。もしくはそれ以上。
「これはこれは、この私を『騎士』と呼びますか……貴方の観察眼は相当質が悪い様ですねぇ。」
「ふむ、その言い草だと『将軍』クラスか。」
十手と黒剣の構えを解いて淡々と大鎌の男を分析する。
「直ぐに死ぬ貴方に名乗るほどではありませんが、礼儀という物もありましょう。私は偉大なる『強欲の邪神』アンコス様に仕える将軍!『傲慢』の悪魔!イブリクです……以後お見知り置きを……と言っても、貴方に今後は有りませんけどねぇ。」
「ティー・ターン・アムリタ、魔族じゃ。」
「そうですか、直ぐに忘れてしまいそうなお名前ですね。」
「貴様に覚えてもらわんでも良い。」
「ですよね。……では、死んで下さい。」
「ふ……」
背後から振るわれた大鎌を、十手で受け止め流れる様な動きで振り向きざまに黒剣を振るう。
黒剣を躱したイブリクがアムリタの数歩後ろに現れる。
「ほぅ、感覚だけは一級品の様ですね。でも。」
イブリクが消える。
「フフフフフフ……」
「………」
突然現れる四方から振り下ろされた大鎌を、アムリタは一切の防御も見せず、無抵抗にその大鎌に切り裂かれた。
「フフフ………良い色をした血ですねぇ。」
グチャグチャに切り裂かれたアムリタの臓腑を、靴底で踏み潰し、大鎌を地面に突き立て天を仰ぎ嗤う。
「あゝ!偉大なるアンコス様!また一つ、供物を増やしてしまいました!フフフフフ!!」
「人体解剖は楽しいかの?」
「……なに?」
イブリクの振り返った先には、たった今、八つ裂きにした筈のアムリタがいた。
イブリクは視線を落とし自らが踏みつける謎の肉とアムリタを見比べた。
「ふむ、知らぬか。お前が踏んでいるのはただの人形じゃよ。ちっとばかしリアルじゃがの。」
「馬鹿な、いつの間に……」
「お前が鎌を振り下ろす直前じゃよ。物質と物質を入れ替える。いわゆる『転移』というやつじゃな。」
肩を竦め馬鹿にする様に説明するアムリタ。
「あり得ん、『転移』が使えるのは『上位天使』のみの特性だ。ただの魔族が使える代物では無い!」
「そうなのか、ではその考えは改めた方が良いぞ。悪魔よ。」
「ふざけるなよ!魔族!!」
点から点へと移動した様に、イブリクは瞬きも出来ない程の速さで、アムリタの背後に回りその首を刈り取る様に大鎌を振るう。が……
「遅いぞ、悪魔。」
大鎌によって首が飛ぶ寸前、イブリクの背後に現れたアムリタは黒剣を突き刺した。
「ぎぁぁぁぁ!!貴様、魂核を一発で!!」
イブリクから引き抜いた黒剣の先には、紅く染まる核が突き刺さっていた。
「のう、『将軍』クラスの『傲慢』の悪魔よ。」
「ぎぃぃぃぃ!!」
黒剣に刺さった『魂核』と呼ばれる核を引き抜き、十手を離した左手に握り目の前で観察しながらゆっくりと語る。
『魂核』を失ったイブリクは徐々に実体が崩壊を始め、やがて『異形の悪魔』と変わらぬ姿に戻ると「ケケケ」と悶え苦しんでいる。
「些か、『傲慢』が過ぎたのではないか?」
そう言ってアムリタは『魂核』を握り潰した。
その瞬間、イブリクを含む周囲の悪魔が消失した。
ども、ほねつきです。
週一投稿だと思いました?残念!不定期でした!
さて、なんだか悪魔が、悪魔で悪魔してますが(意味不明)終局に向けて動き出した。と言った所でしょうかね。
頑張りたい所です。
では、また!