ー第1話ー 『アルマイト』
ー初歴444年ー
黒きドラゴンは岩山の頂上の洞穴に住んでいた。
その洞穴に一頭のうす茶色の小柄のドラゴンがやってきた。
「ドラグ?いるか?」
そのドラゴンは洞穴に顔を突っ込み洞穴の主を呼ぶ。
「五月蝿い……何だ……」
ドラグは暗い洞穴の奥から聞き返す。
「最近、我ら天龍族の数が減っている気がするのだが何か知ってるか?」
「俺が、知るかよ。ドラゴンの一匹や二匹……旅くらい出るだろう…」
ドラグは顔を出さず洞穴の奥から返事をする。
「それが……一匹、二匹じゃ無いんだ…俺が数えただけでも197匹は消えた……」
「揃って旅行にでも行ったんだろ……大体、アルマイト…お前は色々細かすぎる……」
ふわぁ…と洞穴の奥からあくびが聞こえる
「197匹が揃って旅行なんかに行くか!人族がこの世の終わりだー!とか言って騒ぎ立てるだけだろう…」
「そうだな……それだけか?」
「それだけって…お前な……もう良いわ……お前に聞いた俺が馬鹿だったよ……」
そう言ってアルマイトは飛び去ってしまった。
「……………眠い……」
そこからはいびきしか聞こえてこなかった。
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「おい!!ドラグ!この大陸に人間が転移魔法陣を設置していたぞ!!」
アルマイトはまたドラグの洞穴に向かって叫んでいた。
「んぁ?人間?あの知能をちょっと持った勝手に増えて勝手に減ってく奴らか?」
「そう、その人間が十匹居たんだよ…恐らくだが、今まで俺たちを攫っていたのは人間何じゃないのか?」
「ギャハハハハハ!!!!何言ってやがる!あんなゴブリンみたいな繁殖力してる奴らに?俺たち天龍族が殺られると本当に思ってんのか?………で、そのお前が見つけた人間はどうしたんだ?」
「………一人逃げられた……」
「アハハハ!!逃げられたか!…で、その魔法陣は壊したのか?」
「あ、ああ……壊した……」
「ちゃんと魔力回路って部分に魔力を逆流させなければいかんぞ?物理的に壊すだけではすぐ治るぞ。」
「そうなのか?分かった行ってくる。」
そう言ってアルマイトはまた飛び立った。
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アルマイトは血だらけでドラグの洞穴に降り立った。
「アルマイト!お前血の匂いがするぞ!!臭い!さっさと洗え!」
珍しく洞窟の奥から最初に声がする。
「ドラグ!人間の奴ら大陸の色んな場所に転移魔法陣を設置してやがった!!」
「それがどうかしたか?」
「どうしたもこうしたも!今まで天龍族を攫っていたのは人間だったって事だろ!?」
「だから何だ!人間など直ぐに倒せるであろう?」
そうドラグが言うとアルマイトはプルプルと震えだした。
「………良い加減にしろ……お前がそう言って先延ばしなどしなければ……まだ多くの者たちが救えたかもしれんのだぞ……」
「だから何だ?戦って負けてしまった、負けて死んでしまった。……負けるような弱い奴が悪いのだろう?」
その言葉にアルマイトは遂に怒りが爆発した。
「良い加減にしろお"ぉぉーー!!!」
アルマイトの咆哮でドラグの住む洞穴が吹き飛ばされる。
そこに丸まっていたドラグがいた。
「貴様それでも『族王』か!!民が居なくなっているのだぞ!?」
「あーあ……俺の寝床が……また探し直しかよ……」
「!!」
アルマイトは目を見開き勢い良くドラグの顔を殴り飛ばす。
ドラグの頬に小さな傷ができそこから血が垂れる
「……アルマイト…」
「もう良い!俺が一人で全て終わらせてやる!!」
アルマイトは力強く地を蹴り飛び立った。
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また大きな火柱が上がる。
昼夜を問わず現れるその火柱は間違いなくアルマイトのものだった……
わからんな……何故そこまでして人間に危機を持つのか……
人間は数だけが頼りの生き物ではないか……個々の強さではゴブリンにも満たない……
そんな貧弱な生き物に何故そこまでするのか…アルマイト……お前の考えは俺には理解できん
300年前の魔族を統一していた『魔王』アムリタならばかなりの手応えがあったのだがな……突然姿を消してから『魔王』を名乗る者は現れなくなり
人族と魔族との大きな大戦はなくなり
強い者も現れなくなった…
最近になって『炎神』と呼ばれる『魔王』が現れたが奴もそこまで強くない
そんな中、戦争も起こさず平和ボケしている人間に危機感を抱くなど無駄だと俺は思うのだがな……
そしてまた別の場所で火柱が上がった。
昼夜を問わず火柱が上がっていた毎日が終わった
恐らく殆どの転移魔法陣を破壊したのだろう…
あの日からずっとアルマイトは俺の所に来なかった。
何日経ったかは数えていない。
ずっと来ない……アルマイトはずっと来ない……
そんな時、空の向こうが真っ黒に染まっていた。
俺は目を凝らして見る……
それは数百の人間が乗っているであろう大きな飛行船だった……風船のようなもので船を吊るし恐らく魔法で動かしているのだろう……
それが数百……南にある死海を越え恐らく真っ直ぐやって来たのだろう……
暫く観察していると一番先頭の列の飛行船から巨大な魔法陣が描かれる様なものが見えた。
……マズいッ!!
俺は咄嗟に魔結界を展開し飛行船からの魔法に備えた。
次の瞬間その魔法陣から紫色の光線が幾つも放たれる
光線は森に降り注ぎ爆発する。髑髏型の大きな煙が上がり森が焼ける……
そこから数々の天龍族達が慌てて飛び立ち逃げて行く。
飛行船に攻撃を仕掛けた者も何頭かいた。空中での激しい戦闘が巻き起こる。一頭は飛行船の舵を壊し墜落させ次の船へと飛び掛る
あるいは飛行船に体当たりし他の船を巻き込み海に叩き込む者もいた。
一頭が海へ落ちた…恐らく殺られたのだろう……
飛行船は数に任せ空中にいる天龍族達を突破する船が何隻もいた
その船は大陸の空中で停止しロープを下ろし人間がわんさか降りてきた。
何十人かは俺の洞穴の真上に降りてきやがった。洞穴の前にいた俺は直ぐに囲まれた。
「¥$*∥€°//」
相変わらず人間は何言ってるか分からんわ…聞こうとは思わんけどな。
人間達は前衛と後衛に別れ後衛は魔法を準備していた。
…………魔力の流れから見て睡眠系の魔法だな……
それにしても……人間は一人で魔法を発動出来ないのか?
3人一組で魔法を構成するとか……逆に難しいだろう……
ん?…………違うな…睡眠系じゃないぞ……
……そうか、そういう事か……
3人一組で魔法を構成していたのは出来ないからでは無くより複雑にし魔法の強化と変化を加えていたという事か………
クックックッ……やるではないか…人間風情が……
……ならば俺も殺られるわけにはいかんな……
「はぁっ!!」
俺はブレスを吐き後衛の魔法使いらしきもの達にぶつける
だが、前衛の戦士達によって防がれてしまった……
ええい!良いだろう!!
俺は尻尾を振り回し俺の背後を取っていた奴らをなぎ払い、目の前の奴らは爪で斬り裂いた。紅い血が俺の爪に付いてしまった……
血の匂いは嫌いだ……臭いからな……
取り敢えず俺も参戦しよう……先ずは直上の船を落とす。
飛び上がり船と船の間に入り込む。
「爆破魔法、エンド・バーン!!」
俺を中心に魔力の大爆発を起こす。
船は隣の船とぶつかり更にその船はまた他の船にぶつかり大爆発を起こす。
呆気ないな……
その爆破の連鎖で大陸まで進出した船は全滅した。
ちらりと南の船の群れを見る。アルマイトと他のもの達が食い止めてくれている。
俺は再び大陸を見下ろす。青々と生い茂った木々は燃え尽き。あたり一面焦げた岩山と焼け野原が広がっていた。
酷いな……だが、人間の発見はしやすくなった。
小隊が三つ別れて別々の天龍族を襲っていた。一番初めに殺られそうな者から助けるとしようか……
……彼奴だな……
ドラグが見たのは少し小さめのドラゴンだった。
それは血塗れで各部位に剣や槍が刺さっていた。
その後衛に魔法使いが今にも魔法を構成しようとしていた。
俺は急ぎに急降下する。雄叫びを上げて。
魔法使いに向けブレスを放つ。それと同時に魔法使いも魔法を放った。
俺のブレスは魔法使いとその他騎士兵達を焼き尽くした。
しかし魔法使いの放った雷の魔法は小さなドラゴンに当たってしまった。
俺は生き残っていた人間を踏み潰し地に降り立つ。
小さなドラゴンの魔力を見る……
……………遅かった……
「グアァァァ!!」
「キャアアァァァ!!」
振り向くとオスのドラゴンとメスのドラゴンも殺られてしまった。
俺は無心で殺った人間共全員に標準をあわせる。
「天龍魔法究極奥義、裁きの鉄槌!!」
俺の魔力がごっそり抜かれ少し力が抜ける。俺の狙った人間共の頭上に魔法陣が現れ一気に押し潰した。
人間ジュースか……マズそうだな……
俺はまだ空を覆い尽くす人間の飛行船を見つめた。
そこにはアルマイトが船から船へ飛び移り壊していく姿が見えた。
そしてアルマイトが次の船へ飛び移ろうとした時それを取り囲む船からロープが付いた槍の様なものが放たれアルマイトを串刺しにした。
「アルマイトッ!!」
俺は叫びながら集団の船に向かって飛び立つ。
俺の前を遮る様に他の船が邪魔をする。
「どけぇ!虫ケラ共ッ!!」
強くブレスを吐くが何故か船は燃えなかった。
ならばと俺は爪を立て邪魔な船を真っ二つにして突き進む。
あと少し……
あと少しでアルマイトの所まで行けるところで別の船から大剣を持った大男が、ジャンプし悶え苦しむアルマイトの首を一気に切り落とした……
「うお"お"ぉ"!!貴様ァ!!」
目の前の船を真っ二つのし片方を尻尾で叩き落ちる前に飛ばしアルマイトを乗せた船を直撃する。
船は大きく穴が開き飛行船は力を失った様にアルマイトだったものを乗せ落下した。
海に落ち水飛沫が上がる
……………
俺は呆然と立ち尽くした……
生きている船からバリスタや矢が飛んで俺に刺さるが何故か痛くはなかった………
「……人間如きが…………」
俺は体全体の力を抜き魔力を練る。
練って、練って練り続ける……
練ったものを溜め続ける……
「調子に乗るんじゃ無いぞッ!!」
魔力を解放する。
俺の中で魔力が物凄い勢いで体全体を駆け巡る。
「ハアァッ!!」
俺はブレスを吐く様にその溜まった力を吐き出す。
ブレスの様なものが俺の視界いっぱいに広がり船を破壊し続ける。
気づいた時には俺の視界を覆っていた船が無くなっていた。
俺は背後に回っていた船もブレスで吹き飛ばし破壊する。
一緒にいた天龍族はいつの間にか地上に降り生き残りを狩っていた
俺は辺りをもう一度見回し南の方角を向く……
何十隻かは逃げられた様だ……
人間……侮れんな……これからは厳重な警戒が必要だな……
アルマイトが居なくなったのは残念だが、これは戦いだ…いずれは死んでしまうものだ…誰でもな……
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俺はその日以来、毎日早起きし大陸の見回りを欠かさなくなった……
それと人間を見る目を少し変えようと思った。人は進化している、そして我々を倒すまでにその力を高めて居るのだろう…バラギル帝国は許さんがな……
何の前触れもなく攻撃仕掛けやがって……いつか痛い目に合わせてやる……
ドラグは新たな洞穴で丸まりながらそう思ったのだった。
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「……と、まあこんな感じだったな。」
あかんわ……俺、ドラグが薄情な奴だとしか思わなかったわ…
「そうか…アルマイトって奴のことは残念だったな…」
俺がちょっと心配してやるとドラグは俺の焼いた肉を嚙りながら
「そうか?そうでも無いぞ。奴の子供なら生きておるからな。」
子供居たのかよ!!その描写は初めてだわ!
「……バンシィ…そろそろ帰った方がいいんじゃ無いか?」
「ん?」
気づくと日が沈みかけていた。
「そうだな、じゃあ、帰るわ。」
来い!ガンマ!
俺は頭の中でガンマを呼ぶ様に念じる。
すると空中に魔法陣が現れそこからガンマが出てきた。
「もう良いのか?」
「ああ、頼む。」
そう言って俺はガンマの背中に飛び乗る。
「ああ、バンシィ、来週またここに来い。良いな?」
ドラグが突然そう言ってくる。
「ああ、良いぞ。来週な。」
「うむ、」
「じゃあな!」
俺はドラグにそう伝えガンマの背中をしっかり掴みガンマにOKを出す。
ガンマは翼を広げ空へ飛び立った。
これな、バランスとるの難しいんだよ……
それとな、ガンマって、ドラグと同じ位早く飛べるんだよ。びっくりしたよ。いや、本当に、頭飛ぶかと思ったよ。
………………
「もう直ぐ着くぞ。」
ボーとしているといつの間にか愛しのマイホームが見えていた……