ーエピローグー 『王家の生贄』
お待たせしました。
なんだかんだで面倒な事に巻き込まれる俺。
あまり物事には首を突っ込みたくはない、あまり首を突っ込みすぎて『勇者』の様に『英雄』扱いとか最悪だ。面倒でしかない。そんな事になるくらいなら家で寝てた方が幸せだ。
ただ今は、日頃お世話になっているバズズ様の為に、やる気を出すとする。
王都ロトムスの秘密、三大王家の秘密。
バズズ様は俺にそんな事を教えてくれるらしい。
しっかりと聞く姿勢をとり、一応魔力感知をしっかりと張り直し聞き耳をたてる勇者が居ないか警戒はしておく。
「ふむ……さて、何から話すべきか………」
「…………」
「先ほど、443階層にて祠を見つけたと言ったの。」
「はい。」
さっきのバズズ様の反応からすると祠がある事を知っている様な反応だった。しかし、祠があるからと言って別に何かあった訳ではなかった。
魔力流したら龍が出てきたくらいだ。
「ディラの見つけた祠、その祠は我が先祖、三大王家の先祖チール様が『邪神』を封じる為に建てた物の一つじゃ。」
あの祠が?全くそんな風には見えなかったのだが……
「失礼ですが、私の見立てではあの祠にはなんの力もなかった様に見えましたが……」
あの祠には龍が出てくる以外の仕掛けはなかった。筈だ、あの祠に『邪神』が封印されて居たのなら、何らかの違和感を感じてもいい筈だ。俺が気づかなかったとなると、かなりの隠蔽がされている事になるな。
「うむ、確かに祠だけではなんの力もない。あれは『邪神』を封印している一部に過ぎぬ。だが、祠に何らかの形で魔力を込めると話が変わってくる。」
え?すごい、嫌な予感。
「祠に魔力を込めると、『邪神』の封印は解ける。『邪神』を封じる祠、全てに魔力を込める事が出来てしまえば『邪神』は完全に力を取り戻す。」
うん。俺、あの祠に思いっきり魔力流したわ………ヤバい。これは絶対に言わないでおこう。うん。
「そして、奴らに奪われた『神石』。これは『邪神』本体を封じる封印を解く鍵となる。もし仮に全ての祠に魔力が込められていたとして、『邪神』が解放されたとなると………全てが終わる。」
ヤバい。ヤバい。自分でやっといてヤバいな。バズズ様。マジで申し訳ありません。そんな仕掛けがあるなんて分かりませんでした!
俺、あの祠に結構な魔力を注ぎ込んだからな……下手したらあの魔力だけで完全復活するかもしれない………
え?どれだけいれたって?
俺の魔力の半分くらい。
………さぁて!『邪神』をボコボコに倒してやりますかー!もしも復活しやがったら俺が瞬殺してやる!
「しかし、『邪神』が復活しても、勝機はある。」
バズズ様は勝機があると言いつつも、あまりいい顔はしていない。あまり勝率は高くないのだろう。その溜め息から察しがつく。
「これは、我ら王家の秘密になってくる。」
およ?邪神の秘密はさっきので終わりらしい、もうちょっとなにかあると思ったのだが、意外とそこまで秘密はないらしい。
「我ら王家は『大英雄』チールの末裔、もちろんそれは知っておるじゃろう?」
その問いかけに俺は無言で頷く。
「かつて、『大英雄』と『熾天使』は共に『邪神』を封印する為その命を燃やした。………王家の血は『邪神』を封じる為の『儀式』に必要不可欠な素材じゃ。」
ん?よく分からん。
「『邪神』を封印する『儀式』には、王家の血で描いた術式と、それを起動する為の莫大な魔力、そして『邪神』を封印する為の祠じゃ。」
あーなるほど!つまりは血が必要なのね!そのままの意味か!一体俺は何が分からなかったのか、分からなかった!
待てよ、王家の血って言うけどさ、その封印の術式描くのに血じゃないと駄目なの?墨で良くね?………ダメでしょうねー。
「………その、王家の血とは一体どなたが?」
封印の為の術式に王家の血が必要ならば、王家の方のどなたかが血を流さなければいけない筈。それに、バズズ様の話を聞く限りその術式を描く事に必要な血の量は致死量に値する。
ある意味、王家の中で生贄が出る訳か……
民からの生贄とかは出さない所とかが、三大王家のいい所だと俺は思う。
「我じゃ。」
「は……」
え、うん?
予想していなかった返答に思わず声が出ない。
「バ……バズズ様が……?」
「ふむ、珍しく動揺しておるな、なぁに、驚くことではない。三大王家の中で最も血を保ち、魔力も濃密な王家の人間。………勿論、我しかおらぬ。」
「ですが、『邪神』が復活しなければ、バズズ様が命を賭けなくても……」
言葉が見つからない。俺は何が言いたいのだろう。止めたいのか?それとも、見送りたいのか?
勿論『邪神』が復活すれば、ある意味俺の所為である、『邪神』がどれ程のものなのか、そんな事は知らんが全力で潰す。だが、俺の力が遠く及ばなければ…………バズズ様が死ぬのか?
避けたい。それは、避けたい。俺を立派な神官に育ててくれた、ガードラ様とマリサ様はもう居ない。それはもう10年以上も昔の話だ。
当時の俺を知る者は少ない。
バズズ様もその少ないヒトの一人だ。
バズズ様は俺を良くしてくれたし、ガードラ様とマリサ様、村の住人全員の葬いも行ってくれた。バズズ様には助けられてばかりだ、恩ばかりを作っている。
ガードラ様はヒトの為に全力を尽くしていた、『ヒトの為になることを行いなさい』。耳が痛くなる程教えられた、ヒトの為に何かをする。それはヒトが人である為に必要な事だ。
だったら、バズズ様を死なせるわけにはいかない。
でも、その考えはバズズ様を侮辱していると知る。
「良い。我は『邪神』を封じる為、この残り短い命を燃やすだけじゃ。」
「ですが……」
「我はな、ディラ。忌み子じゃったのだよ。」
バズズ様の唐突な告白に頭が付いてこない。
「我が父と愛人の息子じゃった。王家は代々その血を濃く保つ為、一夫一妻制を良しとし、愛人など以ての外であった。………産まれてはならぬ子。居てはならない筈の子。それが、我じゃ。」
「………」
「我は勿論、有力貴族からの支援は無く我が父と母からも距離を置かれ、一人じゃった。じゃが、血の繋がらぬ我でも、快く受け入れてくれた存在がおった。…………それが、兄上じゃった。」
サン王国国王とその弟は血が繋がっていない。良くある話ではある。実は血が繋がってはいない、それ故に差別を受ける事も多々あると聞く。
「兄上は我を本当の弟のように接してくれた。兄上は正義感が強く、本当に優しかった。それ以来、我は兄上に恩を返す為、討伐や雑用まで全てを請け負った。兄上の為ならば我は死も受け入れよう。」
「それは……」
違うのでは。
そんな事を口に出そうとした。だがそれは、俺が決めつける事なのか?これはバズズ様が望む事。ならば俺はバズズ様の望まれる通りに動く。
それがバズズ様の為になるのであれば。
「しかし、サン国王陛下はバズズ様が犠牲になるのを良しとしないのでは?」
「どうあれ、『邪神』が復活してしまえば、皆死ぬ運命なのじゃ、我一人の命で世界が救われ兄上も助かるのであれば、我は命を賭けようぞ。」
「………わかりました。」
止めれない。
この人はもう………止められない。
暫くの沈黙の後、バズズ様が口を開いた。
「王国連合は既に、『邪神』封印の準備を進めている。『魔王の徒』については、本格的に勇者と英雄を動かす予定じゃ。そして、各大陸には『五王』を含む連合軍を配置し、万全の体制を取りつつある。」
今の話を聞く限り、バズズ様の生贄は確定らしい。
バズズ様が居なくなるのは辛い。だが、バズズ様がそれを望まれるのならば、俺はそれに従おう。
「案ずるな、どの道我の先は長くはなかった。後は、任せたぞ。」
「はい。お任せ下さい。」
俺の返事と同時にバズズ様は席を立った。
すると、狙ったかのように執務室の扉が開き、そこには悲しそうな眼をしたイグザが待っていた。
「バズズ様、全て手配は完了しました。」
「うむ。ご苦労じゃった。イグザよ。世話になった。我の逝った後は、イリアル、そしてディラに尽くし、教会を発展させていってくれ。」
「仰せの通りに。」
イグザが深くお辞儀をする横を通り過ぎ、この場を後にしたバズズ様の背中は、何も語らず。ただ沈黙だけを守っていた。
ども、ほねつきです。
次回から、『邪神復活編』を投稿していきます。
ではまた。