ー第26話ー 『さぁ行きますよ。ザ◯ボンさん、ドド◯アさん。』
お待たせしました。タイトルは全く関係ないです。
特に意味は無いが、俺は今気絶するアイナちゃんを肩に担いで森の中を移動している。
一人なんだからオンブしてやれとか、そう思う奴もいるかもしれない。だがそれは、大きな間違いだ。ヒトを背中に背負ってしまえば、自分の両手はそのヒトを支えるために使わなければならない。
すると、両手が塞がった人間はどっからどう見ても隙だらけだ。もしかすると奇襲に合うかもしれない。突然頭上から、隕石が落ちてくるかもしれない。
そんな時、両手が塞がっていては動こうにも動けない。
それを回避する為俺は、アイナちゃんを肩に担いでいる。
決して、頭にゲロがかかるのが嫌だからとか、そんな理由ではない。
さて、何故俺がわざわざ森の中をアイナちゃんを担いで歩いているのかと言えば、さっさと転移すれば良かったのだが、少し小腹が空いたので森に入って果物でも取ろうかと………
創造魔法使えば良いだろ、とか、それ言ったら終わりなのだが、自然という環境で育った天然の食べ物を少し食べてみたい、と言う俺のちょっとした好奇心で今森を彷徨っている。
森と言っても、何だか分からんがこの辺は川が多く、蒸し暑い、いや、偶に吹いてくる心地の良い風が暑さを突き飛ばしてくれる。
暑いか暑くないかで言えば暑い。
これ程暑いと果物なんて無いんじゃ無いかと思えてくる程に、暑い。風があるだけありがたい方かな?
それよりも、何か柑橘系の果物無いのか?
「む。あれは……」
南国に良くある変わった形の樹に実る、刺々しい見た目の茶色い果実。
それは、『フルーツの王様』はたまた、『フルーツの悪魔』、『フルーツの魔王』と呼ばれるこの世界の市場には出回らない、俺が地球にいた頃にあった果物。
そう、
「ドドリアさんじゃないか!!」
地上から10メートル程の位置に実るドドリアさん。
違う、正確には『ドリアン』だな。
ドドリアは全くの別物だ。
『ドリアン』………それは、玉ねぎが腐ったかのような強烈な臭いを発する。しかし、その臭いに反して、いや、その臭いで不埒な輩を追い払っているのか、その辺の生態は知らんが、臭いに反して食べたら病みつきになる美味しさがある。皆も、一度は食べてみると良い。表現できない美味しさがあるぞ。
…………俺は嫌いだが。
結局は臭いがだめだ。キツい、食べられるものじゃ無いくらい、臭い。
と、言うわけであのドリアンはスルー。
もっと、あるだろ、香りも良くて美味しい果物が、ほら……なんだ、ミカンとか?
………………
さて、森を彷徨って数時間、良い加減ドリアン以外の果物が見当たらないので転移で帰ろうかと、思っていたその時、俺は少し気になるものが視界に入った。
それは他の樹に絡まりながら自生し、樹の枝に絡まったその植物から、黒く細長いものが吊り下がっている。
見た事あるな。
とりあえず、風魔法を使いその黒い物体を落とす。
「あぁ……これは、」
手にした事で分かった。
アイスやブラマンジェなど、デザートの香りづけに使われる香料。
タバコの香り付けにも使われていた事があるとも、聞いた事がある。
「バニラだな。」
この世界ではまだ出回っていない香料だ。たしか、天然のバニラは受粉が難しいから数が少ないとか、聞いた事があったな。
さてどうしたものか、俺の知っている範囲ではバニラは、たしか発酵と乾燥を繰り返す事で、香りが出てくるとか、そんな気がする。
試しに臭いを嗅いでも何も臭わない、齧ってみたが、美味しくない。そもそも香料だから美味しいわけがない。
どうしたものか、しかし何かに使える気はするので、念の為この場所も転移出来るように『記憶眼』で保存しておく。
目につく範囲でバニラを収穫して、全部で20本ほど、一応子孫繁栄の為にバニラは2本ほど取らないでおいた。
流石にこれ以上探して、果物がドリアンしか見つからないとなると、もう帰ってオレンジとかリンゴとか食べた方が良い気がしてきた。
気絶するアイナちゃんもあまり外に持ち運びし過ぎると、体調を崩すかもしれないからな。もう帰るか。
バニラを片手で握りしめ、俺は『転移』を発動した。
先ほどいた森とはうって変わり、お菓子の甘い香りが充満した執務室に転移した。
「うむ、来たかディラよ。………その手に持ったものはなんじゃ?」
転移した先でお菓子を食べながらも、細かいところにはしっかりと目がいくバズズ様。
「はい。森で実っていたので少しばかり取ってきました。」
「みたことのない植物じゃの。何か知っておるのか?」
「いえ、ただ、珍しい見た目をしていたので、持ち帰った次第です。」
「見せてみよ」と仰るバズズ様に手に持ったバニラを一本手渡す。
「ふむ、黒く細長い。奇天烈な形をした植物じゃの。む?これは種かな?」
「はい、種で間違いないかと。」
気が向いた、このバニラをバニラビーンズに加工して、アイスのバニラ味を作ろう。
創造魔法を使えばいくらでも生成は可能だが、偶には自分で頑張って作ってみようかな。
だが、バニラビーンズって一体どうやって作るんだ?
まぁいいか、また今度考えよう。バニラをアイテムボックスにしまい、俺はソファにアイナちゃんを寝かし、バズズ様に報告を開始する。
「バズズ様。早速ですが、報告させて頂きます。」
「う……うむ。」
目を離した隙にバニラを口に入れていたバズズ様は、あまり美味しくなかったらしく、一気に飲み込んでいた。
………よく食べるな。
「ダンジョンエリア1『禁足地』ですが、第1階層から第9階層まで、魔物が一体も存在しませんでした。」
「ふむ……」
バズズ様はその異常さに顎を撫で考える素振りを見せているが、特に意見もないようなので続ける。
「第10階層には、階層主と思しき魔物が待ち構えていたようですが、何者かによって頭部が無い状態で倒されており、腐敗もかなり進んでおり私の見立てでは、死後数日程かと思われます。」
既に気づいているとは思うが、今報告していることは全くのデタラメだ。そもそも、まともな攻略を行なっていないのに、報告なんて出来るわけない。
と言うわけで443階層までの道程は、適当に省略する。
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「と、順調に攻略しました。」
「うむ、流石じゃ。」
お褒めの言葉をいただいたが、褒められるのはいつもの事なので会釈で返す。
「そして443階層にて、なにやら人工物らしき物を発見いたしました。」
「ほう。」
「おそらく何かを祀っている祠だとは思いますが、様々な手段を用い調べてみましたが、なんの成果も得られませんでした。申し訳ありません。」
「うむ、祠がある事さえ分かれば充分じゃ。」
「と、言いますと?」
「我も、ディラの居ない三週間もの間、色々と邪神について調べてみた。」
「………」
え、三週間?そんなに居なかったか?体感的には1日も経っていない気がしたのだが………
その事をバズズ様に聞いてみると
「ダンジョンでは、よく時間感覚が狂うと聞いたことがある、研究者によれば、ダンジョンはこちらの世界とはまた別の世界になる故に時間が違うと、聞いたの。」
「そうでしたか。」
時間がズレるのは少し驚いたが、何より三週間、何も食べずに過ごしたことになるアイナちゃんの生命力に驚きだ。
目が覚めたら美味しいものたらふく食べさせてやろう。
「さて、『邪神』の話に戻すが、どうやら『魔王の徒』が背後に見え隠れしておる。」
「『魔王の徒』……ですか。息を潜めていれば良いものを………」
『魔王の徒』のボスの名前は知らんが、取り敢えずDr.グロウは俺が殺す。ただそれだけだ。
「目的は定かではない、しかし最近になって王都ロトムスに頻繁にその姿を見せるようになった。」
「王都ロトムスに?」
一体なぜ?確かにあそこはこの大陸の中心となる存在ではあるが、それはもう昔の話、今は政治、経済、全てはこの『マギア』を中心に発展している。このマギアでは無くロトムスに?意味がわからん。
そんな事をバズズ様に尋ねてみるとバズズ様は俺に、盗聴は無いかと尋ねられたので勿論、「無い」と答える。
そしてバズズ様はデスクに両肘を置き、やはりお菓子を食べることをやめる。
「………ディラには本当の事を話そう。王都ロトムスの秘密、三大王家の秘密を……」
その一言で察した。
これ、もっと面倒なパターンだ。