ー第16話ー 『狂う賢者』
お待たせしましたカオスです
ダンジョン二階層を支配する、腐敗が始まったアンデット達。
そこへ降り立った二人は、その腐敗臭に顔を歪ませた。
「酷い臭いだな……」
「ええ……二階層はアンデットが大半のエリアの様です。」
「グェェェェ」
「おわっ!?『真剣・抜刀』!」
突然二人の間に現れた、一体人型アンデットは、登場と同時にナガトによって斬り伏せられた。
「びっくりしたな……」
「はい。私の魔力感知を抜けて現れたので、奇襲にはなりましたね。」
なんともないような口ぶりでリンがそう答える。
なんだか、俺の知っているリンは、なんだか少しだけ変わったみたいだ。
少し丸くなった?うーん。相手を認めるようになったのかな?
「さぁ、早く行きましょう。」
「ああ。」
奇襲はされたが、問題ない。それにしても、ダンジョンの魔物って何処でも現れるんだな。
人と人の間に現れるって初めてだな。
そんな事を考えながら、ダンジョンを進む。
途中現れるアンデット達を『真剣』で倒して行きながら、二人は三階層への階段まで到達した。
「思ったよりも早く着いたな。」
「はい。想定よりもかなり速いです。この調子で行きましょう。」
「おう!じゃあ行こう!リン!」
二人は肩を並べて三階層へと降りた。
「あれ?行き止まりか?」
「いえ、そんな事は無いはずです。」
二階層へ降りた二人は、行く手を塞ぐ黒い壁の前にいた。
「……この壁の向こうに大きな魔力を感じます。おそらくこの向こうに部屋があるでしょう。」
「しかし、どうやってその部屋に行く?」
押しても開かないぞとナガトが言う。
「……壊しますか。」
そういって膨大な魔力を噴出させ杖を構えるリン。
「やめてくれ。リン。そんな事したらダンジョンが崩れる……」
呆れたような顔でリンを止めるナガト。
ナガトの制止を受けて杖を下ろしたリン。しかし、どうするのか?とナガトに問う。
「そうだなぁ……こう言うのって大体、ひらけゴマ………とか言うと開いたりって……ええぇぇぇぇ!!??」
ナガトの『ひらけゴマ』に反応し、目の前に立ちはだかった黒壁がゴゴゴと横に開き、道を開けた。
「……素晴らしいですね。ナガト。」
簡単にも開いてしまった壁を見て、リンはぽかんと口を開けながら、ナガトを賞賛した。
「いや……まさか、こんな簡単に開くなんて……」
ナガトの小さな独り言は、リンの耳には届かなかった。
「では、入りましょう。」
ナガトはコクリと頷き、リンよりも先に部屋へと入った。
「なんだ……」
「決闘場ですか、随分とおかしな趣味を持ったダンジョンですね。」
明かりが照らされ二人の目の前にあるのは、石造りの決闘場。
その中心には、石で造られた一体の剣士。その佇まいはまるで、決闘者を待っている様に静かに石の剣を地面に突いて立ち尽くしている。
「誰かを待っているみたいだな。」
「はい。まるで決闘相手を待っているかのようです。」
「お気をつけ下さい」と言う言葉に押されナガトはその決闘場へと上った。
すると、剣士の石像が待っていたとばかりに剣を引き抜き構える。
それに連動して、リングの周りには半透明のバリアが展開され、誰にも邪魔をされない、一対一の状況が作り出された。
「真剣・炎帝」
遅れてナガトは炎の真剣を引き抜く。
「…………」
「…………」
お互いに剣を抜いてから、数秒のにらみ合い。
そして、先に動いたのは石像の剣士。
その見た目とは相反する速さでナガトとの間合いを一気に詰め、その剣を振り下ろした。
「くっ……思ったよりも速い!『真剣・閃光』!」
遅れて反応したにも関わらず、ナガトは光に匹敵する程の速さで新たな剣を引き抜き、その振り下ろされた石の剣をすんでのところで防ぐ。
石像の剣士の僅かな硬直。ナガトはそれを見逃さず、素早く攻撃に転じる。
「『真剣・爆炎斬』!!」
「!!!」
『真剣・閃光』を手放し、新たな『真剣』を引き抜き、その勢いを『真剣』に乗せ石像の剣士の肩から胴体を一気に切断した。
斬り裂いて数秒遅れで、まるで思い出したかのようにその断面が爆破し、石像の剣士は身体の中心から爆散し崩壊した。
「………よし。」
「流石ナガトです。こうもあっさり倒してしまうとは……」
石像の剣士を倒したことにより展開されていたバリアが消え、リンがナガトの元へと寄ってきた。
「そんな事ないよ。下手したら俺がやられていた。」
「ご謙遜を……次の階がエリアボスの出現する最後の階層です。この調子で行きましょう。」
「ああ。そうだな。」
二人はリングの中心に現れた下へと繋がる階層へ、足を踏み入れた。
コツンコツンと、石か硬い土なのかもわからない階段を下りていくと、何もないただ広い空間へとたどり着いた。
「ここが、エリアボスの階層?それにしては何もないな。」
真剣をいつでも抜けるように準備していたナガトが、何も起こらない事に対し、高まっていた警戒心が一気に抜けてしまった。
「……いや、そんな……何故お前が………」
突然背後にいたリンが動揺を含んだ声を漏らす。
ナガトもそれに反応して、リンの視線の先を見つめるが、そこには何もない。
「リン?一体何があるんだ?」
「ふざけるなよ……何故、お前が……お前達が此処にいる!!」
普段のリンとは想像もつかないほどの激昂。それと同時にリンは杖を振り下ろし、雷を発生させ、何もない空間に雷を落とした。
「リン!?一体何が見えているんだ!?」
「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!お前が!お前が!お前が全部壊したんだろうがっ!!」
「うわっ!」
リンの放った魔法、それは加減を知らぬ程の水属性の大魔法。リンを中心に発生した魔法陣から水龍が何体も飛び出し、空間を支配する。
水龍達は、暴れ狂い、壁や地面、ナガトも含めて、無差別に破壊を繰り返す。
「一体どうしたんだ!リン!?」
襲いかかる水龍を薙ぎ払い、リンの肩を掴むナガト。
「……さわるな。」
「えっ?」
勇者としての能力か、あるいは本能的に危険を察知したのか、ナガトは咄嗟にリンから距離を置いた。
「『拒絶する障壁』」
リンの莫大な魔力によって展開された障壁。それは、ナガトですら近づく事が難しい、完全に他者を拒絶する障壁が展開された。
「どうしたんだよ!?リン!?」
「うるさいうるさいうるさい!!何も分からない癖に!アクテムラ!お前は死んじまえ!!」
『裁きの雷』
リンが放ったのは最上級の雷魔法『裁きの雷』。それは、ナガトでもなく、何もない空間へ向かって放たれた。
雷を何もない場所で放ったところで何も起こるはずもなく、『裁きの雷』は地面に落とされ地面は巨大なクレーターが出来上がる。
「どうしたんだよ!リン!!」
ナガトが叫ぶが、リンの耳には届かない。
その時、ナガトの視界が突然切り替わった。
「………っ、此処は一体……」
ナガトが辺りを見回すと、先程いた筈の場所と非常に酷似した部屋だった。
ただ違うのは、リンが居らず、リンが暴れ破壊した様な痕跡がない事だ。
『何も知らない癖に……何も分からない癖に……』
「なっ!リンっ??」
突然背後に現れた虚ろな目をしたリン。
『可哀想に……お母さんが居ないのかい?仕方ないねぇ、私が代わりになってあげるよ、アクテムラ……』
リンの視線の先に現れたのは、四十代前後の少しシワが出たシスター。
そのシスターが撫でているのは、昔のリンの様な小さな子供。リンとの違いがあるとすれば、その子は当時のリンとは違い胸が大きい事だ。
『えへへー、マリオンさまー。』
「な、なんなんだ一体……」
訳が分からない。突然知らない場所に転移したかと思えば、突然現れた三人が何かの記憶に動かされる様に動く。
一体何が?
『何も知らない癖に……何も分からない癖に……』
『可哀想に……お母さんが居ないのかい?仕方ないねぇ、私が代わりになってあげるよ、アクテムラ……』
『えへへー、マリオンさまー。』
繰り返される三人の会話。
一体これは何なのか?
繰り返される会話の中で、ナガトが思いついたのは……
「リンの……記憶?」
そう呟かれた一言で、繰り返される会話が新たな場面に変化した。