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ー第13話ー 『聖神官マリオン・リリフ』

お待たせしました。

『賢者』リンが勇者を励ます為、部屋を後にし残されたバズズ様と俺は、しばらく無言で菓子を食べる時間が過ぎた。


「バズズ様。少しご相談があるのですが……」


クッキーを補充した俺は、ミルクを飲んで喉を潤してから話を切り出す。

俺が話を切り出すと、バズズ様もお菓子を食べる手を止め、真剣な眼差しで俺を見た。


「どうした?お主が相談とは珍しいのう。」


そうだっけな?

まぁ良い。バズズ様も真剣に話を聞いてくれそうなので、此方もしっかりとした態度で話す。


「実は、NNの事なのですが……」


そう、NNだ。いや、正確にはアイナちゃんだが、緊急会議に参加して思ったのだが、メルやランバを見てあの子達は自由に今を生きているのに、アイナちゃんだけ縛られた今を生きる何て可哀想だと思ったのだ。

NNが行なった罪は深いが、アイナちゃんが行なった訳ではない。そんなNNのケジメをアイナちゃんが背負うなんておかしい。

アイナちゃんにはアイナちゃんなりの生き方ってものがある筈だ。


「NN?あやつがどうかしたか?」


「NNは……今のNNはNNではないのです。」


何言ってるのか自分でもわからん。

だがしかし、バズズ様から返ってきた返答は俺が思ってもいなかった答えだった。


「知っておる。アイナ・フェルトゥーレ。王都サン南側出身、『仮面神官』ディラの弟子……じゃろ?我が国民を我が知らぬ訳あるまい。」


「…………」


あっさりとした回答に俺は一瞬固まってしまった。


「ご存知だったのですか?」


「勿論じゃよ。アイナ・フェルトゥーレは王都サンで有名な『仮面の神官』ディラの弟子じゃからの。」


あ、俺の所為なのか。


「そうでしたか……」


「これはおそらくじゃが、アイナ・フェルトゥーレはNNと同一の人物ではない、洗脳の類いを受けたアイナ・フェルトゥーレの今がNNと言う別の人格。違うか?」


なんだこの人怖すぎ……なんでそんな事まで分かるんだよ………


「はい。ほとんどその考え方でお間違えないかと。」


「ディラよ。お主が考えておる事は何となく分かる。NNに対しての処遇は既に決定しておる。」


NNが行なった罪はアイナちゃんが背負わなければいけない。そんな理不尽があって良いのか、そうバズズ様に伝えようとしていたのだが、あっさりと当てられてしまった。

だが、どうやら上は何の罪もないアイナちゃんに対して処罰を下すらしい。


「NNは六神教会最高聖神官ならびに教会代表議会委員監視下の元、教会にて更生が行われる事に決定しておる。」


ん?待ってよくわからん。つまりどういう事だ?


「NNは我らの元で、教会の人間として更生してもらう事になっておる。」


教会の人間として更生……と言う事はNN、アイナちゃんは実質的に無罪みたいなものなのか……?

だとしたらバズズ様……すごいな……


「バズズ様、ありがとうございます。」


「良い、我もディラには世話になっておるからの……これくらいはやっておかなければ。」


そう言って再びお菓子を食ベ始めるバズズ様。

ありがたい。バズズ様には本当に感謝しなければならないな……イグザもアイナちゃんも面倒見てもらってしまった。

うん。本当にこの人は見かけによらずとても良いお方だ。お菓子を異常なまでに貪る事が無ければ。


そんな時、デスクに設置された『電信機』が鳴り響いた。


「うむ、我じゃ。………ふむ、分かった通せ。」


カチャリと『電信機』が切られ、バズズ様が転移魔法でデスクに乗ったお菓子を片付け始めた。

何だ何だ?一体どうしたんだ?


「バズズ様。一体何が……」


「『聖神官』マリオン・リリフとその弟子、『高位神官』アクテムラ・ペルティルが間もなく此処にやって来る様じゃ。」


『聖神官』マリオン・リリフ………未だに生きる『聖神官』達の1人、俺が見た事あるのは聖神会以来だな。たしか、その辺に居そうなおばちゃんだった気がする。

しかし、聖神会以外で絶対に顔を見せる事のない『聖神官』の1人が何故、今になって現れたのか……


「私はどうしましょう?」


「ディラは、我の横に立っておれ。お主も聞いておかねばならん話の筈じゃ。」


「かしこまりました。」


此処へ来た理由なんてどうせ本人達が語るだろうしな、別に考えなくても良いか。しかし……アクテムラ・ペルティルか………

確か、見た目に反してかなり幼稚な感じの奴だった気がする。


そんな事を考えていると、扉をノックする音が鳴った。


『聖神官マリオン・リリフ、高位神官アクテムラ・ペルティル参上しました。』


「うむ、入れ。」


「失礼します。」


「お邪魔しまーす。」


作法通りに入室したのは白髪姿の老女マリオン・リリフ様、お邪魔しまーす。とかふざけて入って来たのは『賢者』リンと殆ど変わらない暗い青色の髪で、でかい胸を持った幼児の様な話し方をする変わった女、アクテムラ・ペルティル。


マリオン・リリフ様は俺の存在に気付くと、一瞬だけ睨まれたが直ぐにその辺のおばちゃんの様なスマイルに変わる。


「お久しぶりでございます。バズズ様。それとディラデイル様。」


「うむ。」


「お久しぶりです。聖神会以来ですね、マリオン・リリフ様。お元気そうで何よりです。」


「ディラデイル様もお変わりない様で……」


社交辞令的な言葉を交わして俺は直ぐに口を閉じる。


「……して、今日は何故此処へ来たのじゃ?」


バズズ様が早速話を始める。マリオン・リリフ様は待っていたとばかりに前へ出る。


「今日はバズズ様にご相談がありまして参上した次第ございます。」


「ふむ、何じゃ?申してみよ。」


「はい。私は、いえ、他の聖神官達もそうでしょうが、私も含めもう先は長くは無いでしょう。」


そう淡々と語るマリオン・リリフ様。まぁ、ジジイとババアしか居ないもんな、聖神官。逆に未だに生きている事の方が驚きだ。

マリオン・リリフ様は続ける。


「そこで私は今此処にいる、アクテムラ・ペルティルに私の後を継がせたい……と考えているのですが、いかがでしょうか?」


「いかが……と言われても困るの……今の我は聖神官を決定する権限など持ってはおらぬ。そういう事ならば、現最高聖神官であるイリアルに打ち明けるべきではないのか?」


ごもっとも、流石バズズ様。正論で見事論破した。


「仰る事はご尤もです。ですが、聞けばイリアル様は長期外出中との事、いつも戻られるかも分からない状態で、それを唱えられるのは、私としては非常に困ります。」


ごめんなさいね!長期外出中で!だってバズズ様、邪神の件が落ち着くまで暫く此処に居るって言うから、俺もイリアルやらなくて良いかなー?ってなったんです!

心の中で謝っていると、バズズ様が思わぬ無茶振りを俺に仕掛けて来た。


「うむ、確かにマリオンが申す事も一理ある、ならば最高聖神官不在時の代行者として、高位聖神官のディラに意見を求めようか。ディラよ、どう考える?」


いや、急な無茶振りぃ〜!バズズ様、そこで妥協しないでくださいよ!反論して下さい!何で俺に聞くんですか!困りますよ!


「……マリオン様がアクテムラを推すと言う事は、アクテムラは聖神官に見合う実力がある。そう解釈してよろしいですか?」


「勿論ですとも、聖神会の時とは違いアクテムラは回復魔法は聖神官の条件である橙色よりも上、赤色を示せる様になりましたし。」


え?聖神官の条件って回復魔法とかそんな基準有ったんだ……知らなかった。


「それに、得意な雷属性の魔法の他に、無属性以外の魔法全てを扱える様になりましたから、資格は充分にあります。」


へー、この人がねぇ……


チラリと、先ほどから部屋をキョロキョロ見渡して落ち着きがないアクテムラを横目に考えを巡らす。


「マリオン様がそこまで推薦なさるのであれば、間違いは無いでしょうが、今直ぐに聖神官を引き継ぐ、なんて事は出来ませんし、此方としてはアクテムラが相応の実力を示してくれ無ければ、認証する事も出来ません。」


当たり障りの無い様に、この件を後回しにしようと頑張るが、どうにも上手く行っている気はしない。


「なるほど、では一体どの様な事をすれば実力をお認めになられますか?」


うっわ、面倒くせぇ。

流石にこれについては下手な事は言えないので、バズズ様に目を合わせ何とか助け舟を出してもらう様に視線を送る。バズズ様ならきっと分かってくださる筈だ!


「聖神官と言うのは魔法などの才能だけでなく、聖神官に相応しい行い、もしくは業績を残した者だけが座るに相応しい席じゃ。現にマリオン聖神官よ、お主もそうで有ったろう?『慈母』マリオンよ。」


「確かに、バズズ様の仰る通りでございます。……つまり、アクテムラも何か業績を残せば、聖神官の条件は満たされると?」


「間違いでは無い。」


流石はバズズ様。俺の視線を感じて直ぐに助け舟を出して下さった。

それにしても、聖神官ってなんか業績残さないとダメなんだな、知らなかった。


「成る程、理解致しました。多忙な中、お時間を頂きありがとうございます。では、私達はこれで……」


「まぁ待て。」


今直ぐに帰ってくれそうだったマリオン様をバズズ様が引き止める。まだ何かあるのですか?バズズ様?


「何でしょうか?」


「折角此処に来たのじゃ、実力を示すついでにダンジョンに行ってはどうかの?」


バズズ様から放たれたその言葉に、マリオン様は一瞬固まる。

まぁ、そうだよな。ダンジョンって、お宝とかも何も無いし、ただ魔物がウジャウジャ居るだけだから、素材集めの冒険者くらいしか需要無いもんな。


「成る程、腕試しというわけですね。」


「その通りじゃ。」


「分かりました。行ってみましょう。………此処から近いダンジョンはどこにありますかね?」


「うむ、攻略済みダンジョンではあるが、ダンジョン『エリア4』が此処から東に40キロ行った場所にある。」


遠くね?

まぁ、俺が行く訳では無いから別にいいけど。


「成る程、しかし、攻略済みダンジョンとなると、エリアボスが居らず、私達が行ったと言う証拠も手に入れる事は出来ないのでは?」


確かに、攻略済みダンジョンって事はエリアボスは既に討伐されて居るはず………バズズ様の意図が読めないな。


「その心配は無い。エリアボス、とまではいかんと思うが、ダンジョン最下層のエリアボスフロアには必ず、それまでとは違った魔物が住み着いて居る筈じゃ。」


「ほぅ……それは知りませんでした。」


「じゃろう、冒険者でも上の人間くらいしか知らぬ豆知識じゃ。」


そうちょっとドヤ顔で語るバズズ様。

俺は平然としてるが、そんな事知らなかった。そもそもダンジョンなんてバズズ様にオススメされて一回しか行った事無いから凄いどうでもいい豆知識だな。


「………分かりました。では行って参ります。」


「うむ、気をつけよ。」


「言われずとも。……では、失礼します。」


マリオン様に手を引かれて出て行ったアクテムラ。結局終始落ち着きがないだけで、何も話さなかったな。何だ?本当に聖神官になりたいのか?

なりたいならアピールするべきだど、そう思うのだがな………


マリオン様達が退出してから少しして、俺は少し気になったので口を開いた。


「アクテムラは、本当に聖神官になる気が有ったのでしょうか?」


バズズ様に眼を向けると、バズズ様は険しい表情でデスクに肘をついた。


「アクテムラ・ペルティルは、恐らく何も考えてはおらんだろうの。しかし……」


バズズ様が続けるまで、俺は黙って待った。


「マリオン・リリフは、アクテムラの幸せを望んでおる。『慈母』があそこまで肩を入れる程、アクテムラ・ペルティルには酷い過去が有ったのじゃろう。」


「そうですか。」


聞いたのは良いが、ちょっと暗すぎる話だったので俺は聞いた事を後悔した。


「……ディラよ。頼まれて欲しい事がある。」


暫くの沈黙の後、話を切り出したのはバズズ様。


「はい。」


「ダンジョン『エリア1』を攻略して来てもらいたい。」


バズズ様の仰る意味が分からない。ダンジョンを攻略?


「何故、攻略なのでしょうか?」


「エリア1の別名は『禁足地』。足を踏み入れてはならぬ、他とは別格に危険なダンジョンじゃ。未だ誰もそのエリアボスを見たものは居らぬ、いや、見て帰って来たものがおらぬのかな?」


「………攻略する必要はあるのですか?」


まじで、そんな『禁足地』とか名前がつくダンジョンなら行きたくないのだが。


「邪神について文献を漁って見たところ、『エリア1』の443階層にて、まるで何かを祀る様な遺跡が有ったとされておる。それを調べて来てもらいたい。」


待って、なんかすごい数字を聞いた気がするんだけど……443階層?どんだけだよ!?はぁ!?攻略するのに一年掛かるんじゃねぇーの!?


「1人でですか?」


せめて何人か連れて行きたい。嫌だ、行くとしても1人はやだ。


「いや、流石にそこまで鬼畜ではない、『禁足地』に足を踏み入れて良いのは2人まで、つまりもう1人なら連れて行っても良いぞ。」


いや、2人でも鬼畜だと思います。

443階層にある遺跡ですよね?えげつないと思うのですが、というかそこまで行った人が居るんだな、尊敬するわー。


「分かりました。人選と支度をしてから、また伺いに参ります。」


「うむ、信じておるぞディラよ。」


「はい。」


乗り気じゃないな。面倒だが、バズズ様の命令は断れない。

さっさと執務室を出て俺は、誰を連れて行こうか考えながら、廊下の真ん中を歩いて行くのだった。

ども、ほねつきです。

最近週一ペースの更新で割と申し訳ないと思ってます。ハイ。


さて、これから暫くの間マリオン・リリフと勇者の視点で話が進むと思います。ディラが登場するのはまた5話くらい後になるかと思います。(もしかしたら早くなるかもしれないし、もっと後になるかもしれないですが……)

更新については週一ペースになるかと、思います。気長にお待ちください。ではまた。

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