表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/252

ー第31話ー 『だろうな。』


「うぉぉぉぉぉぉぉん!!!よがッダァァァァァ………本当に………本当に………!!」


「わかったから、もう泣くのをやめろ。」


かれこれ五分くらい、ジャックは床に顔をつけ泣き続けている。

いい大人が、ずっとだ。全員が呆れて、最早興味を失っている。


ジャックの相方のクラントですら、既に席に着き、ビールに冷奴を摘んで食べている。


「だが……どうして生きていたんだ?」


「どうしてもなにも、そもそも俺は死ぬ様な事態に陥ってすらいない。ただ、存在を消されただけだ。」


そう。あのバズズ様が、何をトチ狂ったのかわからんが、俺の『ディラデイル』の名を、書類上から全て抹消してしまっていたのだ。

つまり、今の俺は、戸籍上では死んでいる。つまり戸籍がない存在だ。だから、例えば今、商業ギルドを通して商売をしようと思うと、出来ない。

だって居ないんだからな。


その代わりと言うのか、イリアル・ルイデ・ライデの戸籍は存在する。まぁ、無いと最高聖神官は何者なのだってなるからな。あって当然か。


「神官って……色々あるんだな………」


「そんな所だ。」


やっと泣き止んだジャックは、立ち上がり、やっと席に着いた。


「ああ、終わったのか。長い茶番だったな。」


「すまねぇ……バイトの兄ちゃん。見苦しいところを見せちまったな。」


ドラグがビールとおつまみを、ジャックに差し出し、『別に構わん』と一言残して、俺に向き直る。


「どうした?バイト。」


「クッ……バンシィまでバイトと呼ぶか……」


実際バイトじゃん。ほぼ無給の。


「で、なんか用か?」


「用もなにも、クリームパスタなど、俺は作れんぞ。」


「あ、忘れていた。」


そうだったな、イグザがクリームパスタを頼んでいたのだった。ったく……しジャックの一件で完全に忘れていた………


「仕方ない。特別に俺が入ってやろう。」


気が変わった。俺も今日は、手伝ってやろう。


「まて、バンシィ。それは色々まずいじゃろう?」


席を立とうとすると、おっさんに止められる。


「何がだ?」


「何がって……お主が此処に入っては、先ほどのシロンとの約束を、勘付かれてしまうじゃろ?……それに、お主の弟子の二人にどう言い訳するのじゃ?」


ああ、そんな事か。


「別に、ただ俺が、ディラのままで店員をやれば問題あるまい。」


要するに仮面を外さず、このままやればいいだけだ。


「なんと、理由づけするのじゃ?」


「この店のバイヤーって事で良いだろう?」


「む?しかし、弟子の二人には誤魔化せんじゃろ?」


おっさんは一体何を心配しているのだろうか、俺にはそれが理解出来ない。


「大丈夫だ。あの二人はアホだからな。」


「む……確かにそれは否定できんの……」


よし、おっさんは論破ー。さてさて、着替えますか。


俺は、店の奥に入り、いつも来ているカッターシャツと、黒いベストに赤のネクタイを締め、カウンターに入り、他の奴らに気づかれない様に厨房に入った。




厨房は、まるで新品の調理用具ばかりで、汚れの一つもない、ピカピカで清潔な状態だ。

冷蔵庫はデカイのが4つ、コンロが六つ、縦長の調理台が二つ、まぁ、あとは色々、取り敢えず広い。一応ここは魔王城の厨房だからな、兵とかにも食べさせる為の料理を、大量に作る為の厨房だから、広い。全く使われていないが……


さて、クリームパスタだったな……


取り敢えず、冷蔵庫に食材が何があるか見てから決めよう。


そう思い、冷蔵庫を開ける。


中には、肉の塊が大量に積まれていた。


あれ?肉の冷蔵庫だったか?これ……


間違えたのか、別の冷蔵庫を開けた。


「また肉?」


おかしい、こんなに肉入れた記憶ないぞ?

いや、もう、こんな事する奴は一人しかいないが………


念の為、また別の冷蔵庫を開けてみると、そこにはしっかり、お野菜がたくさん入っていたので、ドラグを殴ることはやめておこう。



さて、創造魔法で手っ取り早く、作っても良いのだが、食べるのはイグザだ。少しはちゃんとして出してやろう。よし、となれば、創造魔法は使わない方針で行こう!


……まずは麺だな。


これは、創造魔法で創造っと。


はい。あとは茹でるだけだな。あ!?文句あんのか!?


さて、ほうれん草と後は…………


面倒くさいから、ほうれん草だけでいっか!


ほうれん草をざく切りにして、皿に寄せておく。


パスタを茹でる鍋を沸かし、沸騰するまで放置。

その間に、暇だからちょっと本腰入れて、ルーでも作るかな。


冷蔵庫から、俺が厳選した、そこそこ美味しかった牛乳を取り出し、鍋にコップ一杯くらい入れて、温める。


その間、別の鍋でバターを溶かして、同量の小麦粉を加えてひたすら沸騰させながら混ぜる。


良い感じにドロドロになったら火を止め、温めた牛乳を打ち込み、混ぜ合わせる。

んで、混ざったら火にかけて弱火で沸騰させひたすら混ぜる。


すると、あら不思議、粘土の様な何かに変化したではありませんかー!はい。これでルーは完成。

んで、ルーに生クリームを合わせて溶かす。


では、仕上げにかかる。


パスタを茹で、茹で上がったらフライパンにオリーブオイルを、引いてパスタをぶち込む、火にかけ、ほうれん草を加えてたらさっきの生クリームにルーを溶かしたものを加えてあえる。


適当にホワイトペッパーと塩で味付けして、俺好みの味になったら皿に盛る。はい完成。クリームパスタ(笑)


料理を持って、厨房から店内に入り、しれっとイグザの前にクリームパスタを置いた。


「え?ディラデイル様?」


「クリームパスタだ。」


「え?なんで……」


「実は俺はこの店のバイヤーだ。」


「えっ?」


俺の発言にイグザは、ドラグに本当かどうか無言の視線を送る。まぁ、ドラグは普通に頷くがな。


「ディラ先生、りんごジュースお代わり。」


「ん?………ほらよ。」


「…………」


ドラグの肉丼を、まだ半分程しか食べきれていないNNは、無言でりんごジュースを飲み、肉を食べ、りんごジュースを飲み……と。肉丼をりんごジュースで飲み込みながら食べている。

さっきから静かだと思ったら……………無理して食べなくても良いのにな。


「うわぁ!美味しい!美味しいです!ディラデイル様!!こんなに美味しいの、食べた事ありません!」


「そうか、それは良かった。」


少し照れるぞ。


「へー、美味しそうね、私もクリームパスタ食べようかしら?」


と、BBAが呟く。


「貴様には作らんぞ。」


「なんでよ!良いじゃない別に!呪うわよ!?」


「フッ……」


適当に鼻で笑って無視。俺は、ジャックとクラントの前に移動する。


「ディラデイル様って、この店のバイヤーだったんだな。」


「なんだ、聞いていたのか。」


「聞こえてるっての……」


「そうか、それよりも、お前達に良いものをプレゼントしよう。」


俺はアイテムボックスから、液体の入った小瓶を取り出す。


「ん?なんだそりゃ?」


「オーバーフィトクスの唾液だ。」


「なにっ!?あの、オーバーフィトクス!?」


「そうだ。探していたのだろう?」


そう、もうあっさりと小瓶を手渡す。


「あ、ああ……だが、一体何処に……」


「俺も出所は知らん。たまたま知り合いの商人が手に入れたのでな、俺が買い取っておいた。」


「ありがてぇ………」


「すまないな、こんな事、頼んじまって……」


「良い。どの道オーバーフィトクスなんざ、一生に見れるか、わからん生き物だ。」


俺は毎日見れるけどな。


「この恩は忘れねぇ、しかし、一体幾らで買い取ったんだ?……俺たちが払えると良いんだが……」


「フッ……金はいい。また、この店に来てくれるのだろう?」


「ああ、勿論だ!この店の酒とつまみは美味いからな!」


「当たり前だ。誰が仕入れていると思っている。」


そう言ったら、おっさんにジト目で見られた。はい、無視。


「だがしかし、此処も賑やかになったものだ。」


改めて思うと、本当に賑やかだ。


「本当じゃ。開店当時は一週間も誰も来なかったからの。」


「そうだったな。」


そう言えばそうだ。『呪王』シロンがこの店にやって来るまで、一切誰も入っては来なかった。まぁ、営業時間が深夜だから、この街の人間は全く入って来なかった訳だが。今となっては良い思い出だ。


暇すぎてどんだけおっさんに水を注いでやったことか………


「ところでバンシィ。我にもクリームパスタを作ってくれ。」


「………良いだろう。」


そう言って俺は蛇口から水を出し、コップに注ぐ。生クリームを垂らしてかき混ぜ、パスタを一本、放り込む。


「ほらよ、クリームパスタだ。」


「うむ………って違うっ!なんじゃこれはっ!?」


「クリームパスタだ。」


「いやいや、なぜじゃ!?そもそもコップに入っている時点でおかしいじゃろ!?」


「何故だ?クリームとパスタはしっかり入っている、それの何処がクリームパスタではないのだ?」


そう、今回は理にかなっている。パスタとクリームは入ってんだからな!正真正銘クリームパスタだ!


「なにっ!?…………本当じゃ……確かに、クリームとパスタじゃ……」


うわ……食べた。まじかよ、水と生クリームだぞ?なんも美味しくねぇだろ……


「…………美味しくないの……」


「だろうな。」


俺はそれしか言えなかった。



そんなこんなで、俺たちの夜は過ぎていった………

これで、取り敢えずカオスは終わりです。まぁ、最後はバンシィとおっさんのネタで締めました。うん、彼らの夜はまだ続きますが、あとはもう、ネタしかないので、それはまた別の時に……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ