ー第19話ー 『神官としては0点。だが俺の評価は100点だ。』
一時間くらいか、だいぶ話し込んでいたが、なんとかガルタさん達と別れることが出来た。
さて、資金源を確保したとはいえ、それは教会が獣人を助けるからもたらされる資金であって、決して教会への寄付でも何でもない。そもそも一般ピーポーは教会が資金カツカツなんて知らない。知られては困るから完全機密扱い。せいぜいマギアで働く上級神官と聖神官のメンツくらいだ。
さてと、おそらく待たせているだろうから、さっさとイリアルになって転移しますか……
船着場に転移した俺は、ベンチに腰掛けお爺ちゃんスタイルで座っておく。そう言えば、ここでライト・メアが居たんだな………あれ?ライト・メアが居ないなそう言えば、レストランで食事して居た時はいた筈だが、一体どこへ?
まぁ、良いか。
「先生。」
「ふむ?」
顔を上げると黒のローブをしっかり身に纏ったNNが、フーニャと、知らない犬耳獣人を連れていた。誰だ此奴?
「あ、あの!初めまして!サシャと言います!」
「ふむ……おぉ。お主がサシャか、宜しく頼むぞ。」
「は、はい!頑張らせてもらいます!」
まだ何も、やれなんて言ってないんだがな。
それにしてもだ、女多いな……今更だが、女が多い。狙ってやった訳じゃ無いのに女が多い。
男女平等主義の俺は、新しい獣人神官の男性神官も急募している。
どんな獣人でも雇用する。それが教会の旨味として出したい。
男だ、男の神官があと2人は必要だ。
「ふむ、フーニャにサシャよ。お主達は彼氏は居らんのか?」
「「はい?」」
ダメ元だ。聞いてみる価値はある。居るなら連れて来て、居ないならそれで良い。
「い、居ないですよ。」
「私も居ないです。」
「ふむ、居らんのか。」
となると、やはり男の獣人を探すことから始めないといけないのか。
面倒だな。俺がもう1人いれば楽なのに………
ふと、黒いローブを着たNNと目が合った。
そうか………居ないなら作れば良いのか!!
創造魔法!
って……生きてる生き物は作れないわ!神じゃねーんだから!
何やってんだ!?血迷ったか!?俺!!
昔の王様はこんな事を言っていたんだ、『パンが無ければお菓子を食べなさい。』と。これはつまり、『人手が足りないなら増やしなさい。』っていう事にもなる訳だ。
という事で、ディラ育成計画を案として作っておこう。
流石に直ぐには無理だ。ディラ、つまり俺に、他人が俺になる事は、不可能だ。
という事で、神官能力を満たしていて尚且つ、特級神官……つまり魔法と武術において優れた才能を持った神官を育成しよう。その内……
「ふむ……何処かに男の獣人が落ちていないかの……」
「え?」
静かに呟いたつもりが、どうやらフーニャとサシャには聞こえていたらしい。
「男の獣人も必要なのじゃ。何処か居そうな場所は無いかの?」
「そうですね。男の人はみんな肉体労働させられてると思います。獣人は他より身体能力だけは高いですから……」
「ふむ、そうか………」
そうだよな、獣人って身体能力高いもんな、となると、後は魔法を使えるようになったら俺の代わりとして、『ディラ』として使えるな。そうだ。そうしよう。凄いぞ……獣人様々だな。
「ならば、建設現場にでも向かおうかの。」
「おいコラ待てェ!獣人ッ!!」
そう言った矢先、突然町の中から怒鳴り声が聞こえてきた。
禿げ散らかしたおじさんが追いかける、生肉を咥えた男2人、1人は背が俺と同じくらいあり、もう1人は小さい。2人とも白銀の尖った耳を生やした獣人だった。その獣人は人の間をヒョイヒョイすり抜け、此方に向かって逃げているようだ。
ラッキー!獣人探す手間が省けたぜ!
「退けぇ!」
そんなこと言われて誰が退くものか、俺たちが動かず突っ立っていると男達は二手に分かれ俺たちを避けるように走る。
すれ違いざまに大きな獣人の方の腕を掴む。それと同時に少しの間動けなくなる『ショック』を行使。それを見たNNが察して小さい方の獣人を捕まえ大人しくさせた。
「おぉ!あんたら!良くやってくれた!」
禿げ散らかしたおじさんが、肩で息をしながら追いついた。はっ、馬鹿め、誰がお前の為に捕まえるものか!
「申し訳ない。この2人、儂の連れでしてこの肉と謝罪も兼ね、どうかこれで許してはくれないですかの?」
そう言って金貨の入った金袋を取り出し、禿げ散らかしたおじさんに差し出す。
「あぁ?なんでぇ、お前らの連れだったか!しっかり調教しんかいボケェ!」
「申し訳ない。」
このクソ禿げ、店潰したろうか?経済的にではなく、物理的に。しないけど。
「ったく………うへぇ!?」
金袋の中身を奪うように確認した禿げたおじさんは変な声出して驚くと辺りを見回し始め、挙動不審みたいに変わってしまった。
「どうかなされたか?」
「あぁ……何でもねぇ!ったく、今回は大目に見てやんよ!」
そう、捨てゼリフを残し禿げ散らかしたおじさんは、町の中へ消えて言った。
さて……
獣人2人を座らせ、見やる。よく見ると似てるな。親子か?
「お主達は、神を信じるかの?」
黙り込んで居た大きな獣人が、肉を飲み込んで口を開いた。
「神なんて居ない!居たら俺たちに救いとやらを与えてくれる筈だ!」
はい、神官としては0点だが、俺の評価としては100点だ。
「よく言った。では、お主は居ない神を敬い、神に変わって人々を救いたいと思うか?」
「おもわねぇ!他人を助ける暇があるならまず、自分達からだ!」
うん。神官としては0点。だが、俺の評価としては100点だ。
他人より、まずは自分。これは弱肉強食の世界において絶対必須。他人に何かを施すのは圧倒的強者のみ。っておっさんが言ってた。
「よろしい。最後の質問じゃ。お主は、少々危険が伴うかもしれんが、報酬は高額で支払われる仕事があるが、やるか?やらぬか?」
「やるに決まってるだろ!」
「よしお前合格。名前は何と申す?」
「ギルディークだ!」
「そこの小さいのは?」
「俺の息子だ!」
「名前は?」
「ブリュークだ!」
「ギルディークにブリュークか。よろしい。お前達、儂と共に来い。高額収入の神官にしてやろう。」
「先生。それって大丈夫なの?」
「NNよ。儂を誰だと思っておる?」
誉れ高き教会のトップ。最高聖神官イリアルだぞ?俺が決めたことは絶対なのだぁ!!
「あ、フーニャにサシャ。お前達もな。」
「「ふぇ!?」」
さて、さっさと此奴ら連れて『マギア』に帰ろうか。