ー第15話ー 『裏カジノと都市伝説』
そうだ!こうしよう。フーニャは獣人だ。教会は獣人でも、神官に成れるし仕事ぶりによって昇格もできる。我々教会は全ての種族を平等に扱い、実力があれば何処までも上がれる。そう言う差別が有りませんってのをアピールしよう!
そうすればきっと、六神教も信仰される筈だ!よし!これなら行ける気がするぞ!となればまずは、獣人の神官の確保だ。
フーニャはまぁ……確定として、他にも5、6人位は欲しいな。
「フーニャよ。お主と同じ境遇の、知り合いはおるかね?」
こうなると、フーニャの人脈を頼るしかないかな?また、探すのも面倒いし。
「えっと……一人、酒場で働いている、サシャって子が一人います……」
「成る程、フーニャよ仕事じゃサシャを連れて参れ。」
「……は、はい。」
「それと、NNよフーニャに付き添え。」
「……なんで?」
NNはかなり、嫌そうな顔で俺に聞いてきた。
「フーニャが襲われたりしてはかなわん。付いていってやるのじゃ。」
「でも、私は先生を守らないといけない。」
ジッと此方を見つめ訴えるNN。正直俺一人でも大丈夫だから、って言いたいけど今は気の優しいお爺ちゃん。そんな事は言わない。
「心配するでない。気づいてはおらんと思うが、儂にはディラが付いておる。」
だから安心して行ってこい。と伝える。
「………そう。分かった。」
なんか随分と不機嫌そうだな。
「では、儂は少し見て回る。そうじゃの……これを持て。」
そう言ってフーニャと、NNに渡したのは小さな石ころだ。
「……これって。」
「通信石じゃ。儂の持っている物に繋がる。何か用がある時は使うのじゃ。」
「そう。分かった。」
「うむ。では頼むぞ。」
フーニャとNNを見送り、俺は創造魔法を解除する。
俺の見た目はお爺ちゃんフォルムから、普段通りイケメンの俺に戻り、黒のローブを身につけた。
お腰に秘めたアイテムボックスから、仮面を取り出し身に付ける。
神官ディラ様の登場だ。
さて、ディラに戻ったのは他でも無い、NN達と鉢合わせた時に言い訳が効くからだ。
なんの言い訳をするかって?
知っているか?この街にはどうやら、『カジノ』って言うな遊び場が有るんだよ!
まぁ、裏とか、闇って文字が付く方のカジノだけど。
もし、聖騎士どもに摘発される時は全然余裕で逃げられるが、もし仮にNN達と鉢合わせた場合、イリアル姿だとかなり問題がある。
という訳で、早速カジノに行ってみよう。
高校の時は行けなかったからなー、法律的な問題で……
だが、この世界には年齢なんて関係ない!そして俺は見た目は成人だが、中身は多分40は生きている。全く問題はない!
裏路地を歩き、二階建てのきったねぇビルに設置された、きったねぇ鉄の扉を開ける。
中には地下に繋がる階段と、椅子に腰掛けるきったねぇおじさんが居た。
「何かようかい?」
「この先に入りたいのだが?」
「誰の紹介だ?」
「誰でもない。自力でここまで来た。」
「そうかい、じゃあ帰んな兄ちゃん。お前の来ていい場所じゃあねえ。」
そう言って立ち上がり、懐からナイフを取り出すおじさん。正直このおじさんは強くない。どうやら俺は脅迫か何かをされているようだが、怖くもなんともない。そして俺はこの様な場面での切り抜け方を熟知している。この場合、平和的解決を望むのならたった一つ………
「そうか……これでも、通してはくれないか?」
袖からチャラチャラ、音のする皮袋を取り出し、おじさんの胸の前に差し出す。
「あん?………………こ、これはっ!!」
「で、通してくれるか?」
「……ふん。好きにしろ。」
皮袋を奪い取る様に手に取ったおじさんは、潔く道を開け再び椅子に腰掛けた。
どや!これが巷の交渉術や!
早速階段を降り段々と、俺が長年求めていた耳を圧迫するような巨大な『音』。
ゲームセンター程では無いが、ゲームセンターの様なスロットの音。ジャラジャラと動く『金』の音。長年求めていた物の音はコレではないが、それに近い何かはある。
この世界に来てゲームが出来るなんてな。
高鳴る胸の鼓動は最早止められない。
階段を降りきったその先は、真っ赤な両扉が構えられ中から素晴らしい『音』が聴こえる。
嗚呼。遂にこの時が来た………
世界中にゲームセンターが無いかと、魔力感知と千里眼を駆使して探し続け早数十年………
この街に入った時から異常な程の魔力を感じ取り、千里眼で様子を見ればあら大変。俺が求めていたものではないか!
元々俺は学校の後、バイトも行かずゲーセン通いだったんだ。ここまで良く我慢出来たと思う……
「よし……」
決意は固い。俺は例え世界が崩壊してもこのカジノへの足を止めない。
どんな敵が現れようとも、例えタリウスやおっさんが立ちはだかったとしても………
殴り倒して入ってやる。
思いっきり扉を開けた。
その瞬間、抑えられていた音が解放された様に俺の五感へと伝わった。
「これだよっ!これっ!!俺の求めていたのはコレだったんだぁぁ!!!」
例え叫ぼうとも周りには聴こえない。だってここは爆音が支配する空間だから。
全体が金色に塗られた神々しい壁に、回る回る巨大なルーレット。傍に並ぶ大量のスロット。
他にはトランプや、ボードゲームで賭けをする貴族や商人の姿。
金貨と思われる金色の貨幣が何枚も積まれ、ある者が喜びある者が頭を抱える。
俺が求めていた物とは違うが、今はコレで充分。そもそもの文明レベルが『格ゲー』なんて作れるなんてとても思っていないかな!
「兄ちゃんここは初めてかい?」
「む?」
目の下にクマが出来ている悪そうなおじさんが俺に話しかけてきた。その後ろにはスーツを着た、屈強な男が二人付いていた。
丁度いい。説明でもしてくれるのか?
「ああ。初めてだ。」
「ふっ、そうだろうよ。初めてここに来るヤツァ皆んな圧倒される。」
いや、俺は久々のこの音に幸福を感じていただけだ。
「兄ちゃん見たところ、魔法使いかい?それにしちゃぁ杖が無えな。」
「ああ、私は魔法使いでは無い。神官だ。」
そう答えるとおじさんは困惑した顔に変わった。
「その見た目で神官かい?邪神教かなにかかい?」
うん、邪神教ってなんだよ。
「違うな。六神教だ。」
「六神教!?六神教の神官がこんなところに来ていいのか!?」
「我々、六神教の方針としてはいずれ、首都マギアに合法カジノを建設したいと考えている。」
「合法カジノ?」
「ああ。今回ここに来たのはそれの視察……といったところかな。」
てな感じでどうよ?言い訳は完璧。カジノを建設するっていい、俺に害意はない事を示した……筈だ。
「成る程ねぇ、じゃあ兄ちゃんを接待すれば、首都マギアにもカジノが出来るって訳か。」
「確証は無いがな。」
「そりゃあいい。じゃあ俺が少し案内してやろう。」
「頼めるのか?」
「そりゃあ、新入りにはしっかりとここのルールってのを教えねぇとな。」
このおじさんは多分、いいおじさんだ。他の客と思われるやつらは、忌避する様な眼で此方を見ている。
まぁ、普通は俺の様な明らかに怪しい奴なんて誰も話しかけて来ないだろう。普通はな。だが、このおじさんは普通では無いのだ。きっと…………
「そう言えば名乗ってなかったな。俺はガルタ。ガルタ商会の会長をやっている。」
ガルタ商会?会長?知らんな。会長ってんだからきっとかなり上の役職なのだろう。ここは一つ、教会としても繋がりは作っておいた方が良いな。
「『六神教』高位聖神官のディラだ。」
「高位聖神官だって!?おいおい、本当に高位聖神官なのかい?」
む?なんだ。なんで、そんなに驚いているんだ?
「ああ。なにかおかしかったか?」
「おかしいもなにも、高位聖神官っつたら、教会の二番手、教会の暗殺者とか噂される連中だろ?」
何言ってんだ此奴……
教会の暗殺者ってなんだよ………
「教会の二番手はあっているのだが、なんだその、教会の暗殺者というのは……」
「ディラさんよ、あんた知らないのか?教会の高位聖神官は巷でも都市伝説として扱われるくらい、有名な話だぜ?」
何だよそれ?初耳なんですけど!?都市伝説?高位聖神官が?何をどうしたらそうなるんだよ!?
「言っておくが、暗殺者では無いぞ?」
「そうなのかい?そりゃあ安心した。」
うーん………此処まで来ると、都市伝説ってのも聞いてみたいな。
「ガルタさん。都市伝説と言うのはどんなものがあるのだ?」
「都市伝説かい?……そうだなぁ……高位聖神官は実は魔族を支配している。とかか?」
どんな都市伝説だよ!?凄いなおい!魔族を支配してる?どんだけ闇が深いんだよ教会!!ドン引きだわ!
「有り得んな。そこまで極悪では無い。」
「そこまでって事は少しは極悪なのかい?」
…………
「そう言う訳ではない。」
なんだこのおじさん。言葉遊びをしてんじゃねーんだよ。
俺は話を逸らす様に「他には無いのか?」と聞いた。
「そうだなぁ……五年前に王都シューラを襲撃した魔物の群れは、実は高位聖神官の仕業……とか?」
マジでどんな噂だよ!?えぇ!?なんで確実に魔族がやったスケルトン襲撃をなんで俺の所為にされてんだよっ!?
あっ……そう言えば確か、勇者の野郎がスケルトン召喚したのお前らだな?的な事言ってたな…………………
勇者ァァァァァァ!!!!
決めた。俺はもう、勇者を養う金は払わん。絶対に。いや、違うな。金じゃなくて、青汁でも献上してやろう。聖なる飲み物です。とか言って。そうと決まったら後で、めちゃめちゃ苦い青汁を創造してやる。ダース単位で……
「それはまた、有り得ん話だな。」
「そりゃあ、まあな。信じられない噂が都市伝説ってもんだ。」
うんうん、全くだ。
ガルタさんは良い事言うねぇ。
「信じられない噂と言えば、高位聖神官ってのはあの、『勇者』よりも強いって都市伝説が有るんだが、そこんところはどうなんだ?」
「……お、おう………」
それは本当です。
なんて言える訳無いだろっ!?
速攻で布教という行動目的を忘れるバンシィ・ディラデイル(40代独身)………