ー第12話ー 『忠義とは信頼』
ゆったりと吹く潮風に、照りつける太陽。夏の海って感じだ。今は冬だが……
どうして世界には、四季があるんだろうな?春夏秋冬。4つの季節があるが、場所によって暑ければ、雪が降っているところもある。今、マギアでは雪が降り寒い冬を越しているのに、このヨールパル大陸では、燦々と太陽が照りつける。
あ、はい。ヨールパル大陸にきました。つい先ほど。いや、長い船旅でしたよ。NNに剣の扱いと、魔眼の応用を教えるのに2日もかかった………
その間にサバイバルのやり方も、教えてやった。魚の捌き方と肉の切り分け方。え?なんで知ってるんだって?おいおい、俺はこれでも一様、調理師学校に行ってたんだぜ?習ってて当然よ!
さて、話を戻そう。何故、ヨールパルは夏の様なのに対し、リムサン大陸は冬なのか、今世紀最大の謎だ。なんか、理科の授業でやった様な気もしなくも無いが、多分やってない。うん。
「先生。これからどうするの?」
魔力眼を常時発動させたNN、何故かやる気に満ち溢れイリアルである、俺を護りながらついて来る。
良く分からんが、俺がNNに稽古をつけてやったら『イリアル最高聖神官を護る』とか言い出したから少し驚いた。なんでイリアルなのか、そこんところが、だいぶ気になる。
まあそれはさておき、これからどうするかと聞かれても、決まっている。
「シストラ大陸に向かう。この船着場から、シストラ大陸行きの船が出ておる。その船が来るまで、ここで時間を潰すぞ。」
「分かった。」
さて、時間を潰すとは言ったものの、やる事は殆どない。
…………ん?
船着場のベンチに、腰を掛けていると、背後から視線を感じた。NNは海を眺め棒立ちだ。多分、この視線には気づいていない。
魔力感知を発動。背後の視線を振り返らずに、どんな魔力か感じ取る。Z系の奴なら直ぐに魔力で分かるし、またFとかでも魔力を見れば直ぐに分かる。
っと……抵抗された……
なんだ此奴……普通に出来るじゃねぇか。ええい!どうでもいい!
自然に、ナチュラルに、ゆっくりと振り返る。
見えたのは、何十人もの町の人々。視線は何処かに消えた。と、思ったらまただ。俺が向き直った瞬間に見てやがる。クソッ、なんだこの敗北感は……
ええい!舐めるなよ!千里眼だ!!
はい、確認完了。
そいつは黒髪黒目のイケメン。間違いなく、ライト・メアだ。
あのイケメン顔は忘れない、此奴は間違いなくライト・メアだ。生きていたのか………
となると、Z2の次はライト・メアか?かなりレベルの差があると思うのだが?NNじゃ勝てんだろ。だが、仕掛けて来る様な様子は無い、大体、ライト・メアは『魔王の徒』には属していなかった筈だ。分からんが、多分NNではなくイリアルである、俺の観察にでも来たってとこだろうな。分からんけど……………
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僕の最も敬愛した、グリム様は崩御なされた。そのお遺体は、とてもグリム様とは思えない程、お変わりになられていた。
僕は、グリム様の命とは言え、戦線を離脱した事を、今では大変後悔している。
亡き主の最期すら、お側に居られなかったのだ………何故、僕は………なぜ僕は……グリム様と共にあの、憎き『勇者』と戦わなかったのか……そうすれば、グリム様は殺されずに済んだのではないか………
それ以来、僕に残ったのは後悔ばかりだった。
「メア。オースティード大陸に、上陸したとされる『最高聖神官』イリアル・ルイデ・ライデを張れ。」
亡きイーナ様に良く似た、グリム様とイーナ様の隠し子、スペラ様はグリム様の愛用していた、黒と赤のコートを着こなし、『魔王』の子であるとは思えない程、質素な木製の椅子に腰を掛け、僕に命を与えた。
我々魔族は、人族との長き戦いに敗れた。『魔王』様を失った魔王軍は、統制が取れず、あっさりと人族の軍に降伏した。
戦争の『英雄』達と『勇者』は人族領に還り、人族達に祭り上げられた。
そして、その『勇者』が、人族と魔族を統一する、などと、此方の意見を全く聞き入れず、我々は新たに『人間族』として名乗る事となったのだ。
僕は断じて受け入れないが。
その事から、我々は戦争から五年経った、今でも魔族を名乗り、『新生魔王軍』として、『魔姫王』スペラ様の名の下に、こうして兵を連ねている訳だが………どうにも、グリム様のお子とは言え、スペラ様には戦闘の意欲が無い。
我々『新生魔王軍』の対立組織『魔王の徒』ですら、兵を整え人族への侵攻を、僅かながら行っていると言うのに………
だが、スペラ様のご意志は、グリム様のご意志である。僕はグリム様の命である、スペラ様を御守りする事、そしてスペラ様の命を、同時に遂行しなければならない。しかし、だ。余りにも、今回の命には遺憾を覚える。
「お言葉ながらスペラ様。そのご命令は、私でないとならないのですか?」
その時僕は、尽くさねばいけない主に向かい反発した。
「不服か?」
しまった。僕とした事が、スペラ様を怒らせてしまった。部下として有るまじき行為だ。だが、怒らせてしまった事は仕方がない。せめてこの命令の意味は、分からなければならない。
「いえ、しかし、観察ならば私ではなく、専門的な者に従事させればと思うのですが。」
密偵や監視などは、専門的な部隊『九人集』がいる。わざわざ、僕が行わなくても『九人集』が出来る筈だ。
「ああ、確かに『最高聖神官』の観察だけならば、他の者に任せる。」
「でしたら………私を貴方様から、距離を置かせる様な命は……」
「私に何かあっては、亡き父上に顔向けが出来んと?」
「……む、左様にございます。」
しまったな……これではただの口煩い老臣ではないか………僕はまだそこまで、人生を送ってはいないぞ。
「安心しろ、私は五年前とは違う。そう易々と死なんよ。」
「ですが……」
「その油断によって、死んでしまうのだろう?知っている、何度も聞いた。」
「むむ……」
何故だ?僕が本当に、口煩い老臣みたくなっているじゃないか?
スペラ様の影に隠れる『九人集』の一人が、笑っている様に見えた。
「メア。お前が私の父に、忠義を尽くしていた事は母より、よく聞かされていた。」
スペラ様の母である、イーナ様も、全てはあの『勇者』と『英雄』によって遺体すら残らなかった。兎も角、あの『勇者』と『英雄』達には必ず報いは受けてもらう。
だがしかし、グリム様やイーナ様を失い、最も悲しいのはスペラ様だろう。そのスペラ様が、『勇者』に怨みを抱かない訳がない。にも関わらず、スペラ様は人族へ攻撃を仕掛ける事を行わない。つまり、スペラ様には何かお考えが有るのだろう。だが、僕はグリム様の命により、スペラ様を生涯お護りすると誓った。それが、僕のグリム様に出来る最後の忠義なのだから。
「その忠義と言う名の『信頼』を、私にもしてはくれんか?」
それは、『命令』ではなく『頼み』。
頼みならば、断る事が出来る。だが、僕には断る理由なんて無かった。
「分かりました。」
こうして私はヨールパル大陸を出る為に、船着場へと向かった訳だが、どう言う偶然か僕は、いきなり目的の人物を発見してしまった。
人混みに紛れ、ベンチに座る老体を監視する。
人族の二大組織、『王国連合』と『教会』。
その『教会』の最高権力者である、『最高聖神官』イリアル・ルイデ・ライデ。彼は『前最高聖神官』バズズ・キンダム・サンの指名によりその座に就いた神官だ。その能力は未だ未知数で、噂によると、かなりの腕利きだと言う。
だが、所詮は噂、ここから見る限りでは最早、老体だ。その様な雰囲気は一切見せない。
だが、不可解な点がいくつもある。
まず1つ目に、教会専用のローブを身に付けて尚、護衛が一人も居ない事だ。普通、最低でも一人は側に付いている筈だが、その様な人物は見当たらない。
まさかとは思うが、本当に腕利きなのか?
いや、それは………
咄嗟に物陰に隠れる。一瞬だが、見られた気がしたのだが、どうやら杞憂だった様だ。何かに注意する様子もない。
とすると、護衛が居ない事が気になるな。あ、いや……待てよ………噂ではあるが、『教会』には『高位聖神官』と言う、影の者が居るらしい。
それの名は『ディラ』
だが、『ディラ』が個人を表すものなのか、部隊を意味するのかは分からないが、『教会』の中には『高位聖神官ディラ』と言うものが、存在し、常に教会の秩序と平和を保っているそうだ。
だが、噂だ。
『最高聖神官』の観察を続けていると、海辺でずっと、海を眺めていた水色の髪の女が『最高聖神官』に接触した。
………いや、どうやら護衛の様だ。
常に殺気を放ち、周りを自然に警戒している。
そんな護衛に対し、『最高聖神官』は朗らかだ。
やはり、老体が腕利きなのはあり得ないな。
しかし………あの護衛……見た事ある様な………
《ー解ー 『魔王の徒』所属、『魔眼部隊』のNN。我々『新生魔王軍』との戦闘回数は数百を超える。》
成る程、奴はNNか………だが、何故NNが?僕は、NNと戦った事は、一度も無いが、仲間が何人もやられたのを知っている。確か、一度資料を確認したんだったな。
だがなぜだ?何故、『最高聖神官』と共に居る?あの、黒いローブは色こそ違うが、間違い無く『教会式』のローブだ。裏切りか?それとも、『最高聖神官』へ近づき暗殺か?
NNの様子を伺うが、とても暗殺する様には思えない、むしろ仲が良くも見える。何がどうなっている?
訳が分からん
《ー解ー 情報不足の為、解析不能》
僕は余計に混乱した。




