ー第4話ー 『夢』
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
私は……柄にもなく、夢を見ていた______________________________
「傷付き者を癒し給え」
顔を黒く塗られた、小さな私はそう言って、ナイフで傷を付けた木に回復魔法を詠唱していた。
「凄いぞ!初めてでこれは凄い!上手だよ!」
黒いローブをした真っ黒な顔の人。私の大切な人。
「すごいねぇ!◯◯◯ちゃん!」
薄緑で長い髪の、小さな私と同じ背丈の子。この子も私の大切な人。
場面が切り替わった。
「◯◯くん、君は良いのか?」
黒いローブの大切な人は、青髪の男の子……私の一番大事な人を呼んだ。
「俺は冒険者になるから回復魔法なんて必要ない!」
「そうかい?でも、冒険者でも、怪我をした時には、回復魔法がいるんじゃない?」
「それは……いるかもしれないけど……」
「よし、じゃあ、やるぞ!」
そう言って、黒いローブの大切な人は私の大事な人を持ち上げ、私の大切な人達の中に混ぜた。
また、場面が変わり……今度は夕暮れだった。
小さな私は、小さな私の大事な人の背中を見つめていた。
「なぁ!」
大事な人が声を掛けたのは、黒いローブの大切な人。
「どうした?早く帰りな。」
「そうだよ……◯◯くん……早くお家に帰らないと、怒られるよ?」
小さな私は、小さな大事な人を引っ張る。それでも、大事な人は動かない。
「俺にも属性魔法教えてくれ!!あと、剣も使えるんだろ!?剣の使い方も教えてくれ!!」
「回復魔法が完璧になってからな?」
「言ったな!絶対だぞ!!」
「ああ、良いぞ良いぞー。」
黒いローブの大切な人は笑っていた。
とても、大切な人……
もう少し……もう少しで何か……
『私はNN、お父さんはグロウ。』
目の前の黒い私がまた、ケタケタと笑っていた。
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「ッ………」
眼を開けると白く、眩しい光が視界を遮った。
ゆっくりと腰を起こし、周りを確認する。
木の長椅子が並べられ、石灰で白く塗られた壁、まるで教会の様なパイプオルガンの音色……いや、此処はその、教会だった。
「ふむ、目が覚めたかの……早速だが、行こうかの?」
夢に出た、私の大切な人に良く似た、雰囲気の人……イリアル・ルイデ・ライデ。通りすがりの神官……
黒いローブの大切な人も、神官……だった気がする…………一緒。
「では、世話になったの、エルピエル中級神官殿。『マギア』の方には伝えておいてくれ。」
「はい!イリアル最高聖神官様!!このエルピエル。必ずや、本部に伝えておきます!!」
「うむ、頼もしい限りじゃ。ではの」
イリアル最高聖神官……この人が……
事前調査で知ってる、教会の中で一番偉い人。
「どうした?行かぬのか?」
その人はもう、教会を出ていた。
「……行く。」
「お気をつけて!」
神官の人は凄い笑顔で見送ってくれた。
教会の外は、活気溢れる船着場。海の香りと、屋台の食べ物の香りがとても良い。
「二つ貰えるかの?」
「おっ!神官様じゃないか!良いよ!お代は要らねぇ!いつも世話になってるからな!」
「本当かの……それは有り難く頂こう。神々の祝福があらん事を。」
イリアル最高聖神官は、屋台のおじさんに祈りを捧げた。
すると、おじさんを緑の魔力が包んだ。
「おお!これはすげぇ!何だか元気になったよ!ありがとう!神官様よ!」
「うむ、またくるの。」
「おう!まいどあり!」
イリアル最高聖神官は、手に持った二本の鳥の串焼きを一本、私に差し出した。
「一本食べよ。」
「………」
貰った。すると、イリアル最高聖神官はスタスタと海辺の船着場へ向かった。せっかちだ。
後を追っていくと、イリアル最高聖神官にチケットを渡された。
いつの間に…………せっかちだ。
船着場に停まる一隻の大きな帆船。その船に私とイリアル最高聖神官は乗り込んだ。
「チケットを貰うぞ」
「うむ。」
「………」
海の男、そんな感じの人にチケットを渡した。
「………?」
気が付けば、イリアル最高聖神官が何処かに行った。見失った……そんな……私が目標を見失うなんて……
「おーい。こっちじゃ。」
「…………」
イリアル最高聖神官は手を振って、船の中に入ってしまった。せっかちだ。
私も船の中に入る。
船の中は、幾つもの小部屋で分けられていて、イリアル最高聖神官はずっと奥の方の小部屋に入ってしまった。せっかちだ。
私も、イリアル最高聖神官の入った、小部屋に入ろうと、ドアノブに手を掛けようとした時。
ガチャリとドアが開き、間からイリアル最高聖神官の顔が出てきた。
「言い忘れておったが、おぬし部屋はそこじゃ。あと1時間程で船は出航し、二週間かけオースティード大陸へ行くからの。食事は甲板で食べる事になっておる。何か、用事がある時はこの部屋に来い。質問はあるか?」
「…………ない。」
「そうか、では、必要がある時はこの部屋にノックしてくれよ。」
「…………理解した。」
そう言ってイリアル最高聖神官は、ドアを閉じた。直ぐに気配が無くなったので、寝たのだろう。お年寄りは早く寝るから。
………私も、部屋に入るとする。
ドアを開け中へ入ると、意外と広い、手前にベッドと椅子が置かれ、奥のカーテンの向こうはドア、そしてシャワーだった。
広い。多分、此処はロイヤル。
普通は、シャワーがない部屋が多い、でも此処はシャワーがある、多分高い部屋だ。やっぱり教会のトップは違う。
でも何故、私はイリアル最高聖神官に、ついて来たのだろう?
帰る場所がないから?
そう……帰る場所がないから。
でも、違う。私にはまだ、帰る場所がある………
そんな気がする……
根拠は無い。でも………
イリアル最高聖神官と一緒に居れば、何か分かる気がする………
私は、そんな気がしてならなかった。
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はぁ……
転移で執務室に戻り、新たに積まれた書類の山を見る。
「ひぇぇぇぇ……イリアル様ぁ……先ほど、タワー最高責任者の方がお見えになられ、此方を見せるようにと……」
俺が転移で戻ってきた事には、一切の反応もせず極秘と書かれた書類の束を渡された。
この手の書類は差出人が指名した、その人にしか開けないという謎の魔法が掛けられている。
俺は別に、魔力を変えることが出来るから誰のでも開けられるのだが……それは置いといて、どうやらこれは俺宛の書類の様で、そんなめんどくさい事をしなくても、直ぐにめくれた。
えーと、なになに?
此度、地下牢獄テゴリアにて…………
さっさとページを飛ばし、重要そうな部分を見た。
えーと……現在投獄中の受刑者が脱走しましたみたいな?
あと、警備員が3人殺されました。
ってとこか、今更……脱獄して5時間は経ってるぞ……
マジでザル警備だな。
まぁ、全部俺が仕組んだ事だが。
あ、そだ。NNの着替えを用意しておかなければ……
船着場の教会で、眠ったNNをシスターに神官ローブを着替えさせたが、アレは一様、神官のみって言うルールがあって、着てると神官と間違えられるからな、それは色々困る。
『回復魔法使って下さい!』とか、『教えを説いて下さい!』とか、絶対無理だわあの子。
という訳で、俺特製の黒ローブをプレゼントしてやろう。絶対に切れない、燃えない、破れない。常に清潔が保たれる最強のローブをな!
さて、適当に書類の山を判子押して片付け、俺は全部、青髪の青年に任せ再び転移した。