ー第3話ー 『旅の始まり』
今年は最後の投稿となります。
「じじい!離せ!!鬱陶しいぞ!!」
僅か一歩の距離で、耳にキーキー言う程の、奇声みたいな声を荒げるバイザー男。
ったく……目上の人に敬語を使わんかい!
それよりも、そのバイザー、カッコいいな。要らないけど。
「ほっほっほっ……儂は老いぼれじゃが、一端の神官。窮地の者を助ける事も、神官の役目なのでな。」
「うるせー!!じじぃ!!僕は、此奴を殺すんだぁ!!」
「ほっほっ……では尚更、離す事はできぬの……」
バイザー男は、ナイフを持っていない方の手で、俺の指を外そうと頑張る。
うん、力弱い。
「怒ったぞ!もー知らないからな!魔眼を使ってやる!!」
最初から怒ってたと思うのだが、気のせいか?
バイザー男は、バイザーを持ち上げ、その両目を露わにした。
その眼は紫色で、ずっと見つめると、呑み込まれる様な眼。
幻術眼だな……しかも不完全な。
「いやぁぁぁぁ!!!!」
バイザー男が、幻術眼を発動したその瞬間、女が幻術眼に掛かった。多分、眼を見たから掛かったんだと思う。
俺は掛からんけど。
「ヒュー!!アハハ!!どうだ!僕を怒らせたからそうなるんだ!!」
奇声に近い笑い声で、バイザー男は笑う。
さて、じゃあどうしようかな。
このバイザーをさっさと帰らせるには……
確か此奴は、この女を殺さないと駄目だったな。
そうか……じゃあ……
「おい、じじい。その手を離せ。」
Qのナイフを抑えていた、イリアルの手が離れる。
「ヒュー!じじい!ざまみろ!僕に立て付くからこうなるんだ!」
そう言ってQはイリアルを蹴り飛ばす。無表情のまま地面に倒れるイリアルを、笑いながら見届けるとQは再びナイフを構えた。
そして、地面に張り付けになった、NNにしっかりと狙いを定め、そのナイフを心臓へと突き刺した。
「くぁっ!」
NNは血反吐を吐き、ピクピクと魚の様に痙攣した後、直ぐにパタリと動かなくなった。
「ヒュー!!アハハハ!!いー気分だ!パパに褒めてもらおっ!」
QはNNの死体を蹴飛ばし、イリアルを踏みつけ森の奥へと消えて行った。
フッ……彼奴は本当に馬鹿だな。
バイザー男が、丸太にぶっ刺したナイフを抜く。
残念だよな、幻術眼を掛けたつもりが、逆に幻術眼に掛けられてたってさ。
俺は、NNと呼ばれていた女に刺さったナイフを抜き、回復魔法を掛ける。
このナイフ……なかなか良いもん使ってんな。回収しておこう。
ナイフを、神官ローブの腰裏に隠した、アイテムボックスに仕舞い。
身代わりにされた丸太の上に座る。
まぁ、なんだ。バイザー男が見ていたのは幻術で、実は彼奴は、本当に一人で盛り上がってた事になるな。ヒュー!
バイザー男の「ヒュー!」って、なんか凄い、聞いてて不快だったんだが。バイザーの名前、『ヒューの人』にしようかな?
まぁ、いい。バイザー男は一人で満足して、一人で丸太相手に、ナイフを突き立てる演技をして帰ってった。なかなか面白い一人芝居だったな。
見てたのは俺だけだが。
さて、それよりも、これからどうしようか。
当初の計画……魔族んとこ、連れてって貰って布教する計画が台無しだ。
あのバイザー男……次会ったらバイザー叩き割ってやる。
「………っう……」
おっと、どうやらNNさんが目覚めた様だ。さて、本当にどうしようか。
眼を開いたNNの顔を覗き込む。うーん、やっぱどっかで見たことある骨格だな。
「目が覚めたかの?」
「……………」
無視かい!バイザー男といい、魔族は目上の人に対する、敬意がないのかい!
NNは身体を起こすと、辺りを見回す。
「どこか、痛いとこはないかの?」
「…………」
いや、無視かよ……
NNは、気が済んだのか、やっと此方を向いた。水色の左眼に、紅い炎の灯った右眼の魔力眼。
俺よりは生成される魔力は少ないが、それでも十分な魔力を持った魔力眼だ。
「イリアル……ルイデ……ライデ………」
「ふむ、それは儂じゃな。」
眼をパチパチとさせ俺の眼を見つめるNN。
「似てる……」
「ふむ、儂に何が似てるのかの?」
無表情だったNNが、僅かに微笑んだ気がした。
「……私の大切な人。」
どう言う意味だ……
「ふむ、大切な人とは一体、どう言う意味かの?」
「……分からない。」
分からないって……記憶喪失かよ!
「でも……とっても、信頼できる人。」
「そうか……」
「貴方はとても似てる。」
「そうかの……」
うん、凄い、さっきから似てるしか言わないわ……この子……
「所で、お前さんは何処から来たのかの?」
「言えない……でも……そこには帰れない。」
成る程、多分裏切られたんだな。うん。だってバイザー男が、『殺さないと!』みたいな事言ってたし。
「ふむ、ならばどうするのじゃ?帰る場所が無ければ、何処にも帰れんじゃろ?」
そうだ!俺が布教できないじゃないか!
「違う……私の帰る場所はあそこじゃない。」
「ふむ、では何処じゃ?」
「分からない。」
…………はぁ……もう、良いや……計画変更。地道に布教することにしよう。
取り敢えず適当に、宗教が無さそうな、元魔族領の大陸を巡ろっかな。俺の記憶が確かなら、確か9個、大陸が有った筈だ。
9個の内1個くらい、広まるだろ……
広まらなかったら終わりだが……
じゃあ、取り敢えず、比較的発展してる、ブゥルムンド大陸と、オースティード大陸、ヨールパル大陸は後回しだ。既に発展してるとこは、広まるのが難しそうだからな。
じゃあ、適当に転移するか……いや、待てよ、行ったこと無いとこは転移出来ないから……取り敢えず、ブゥルムンドのフレクトリア行って……近くに設置した転移陣、使って適当な大陸に行くか……
確か、この大陸には俺とドラグが作った筈だが……何処の国の近くか、忘れた……剣を突き刺したのは覚えてるんだが……
NNを置いて、取り敢えず転移しようとすると、ローブの袖を掴まれた。
「どうしたのじゃ?」
「私も連れてって。」
「儂が行くところは、危険な場所じゃよ?」
「構わない。私も連れてって。」
うっわ……面倒くせ。……まいっか、もしかしたら魔族でも有名な子かも知れないし……
そしたら、布教がしやすいな……そして献金が集まり、俺ウハウハ。イェァ!
「仕方ないの……」
こうして、俺たちは世界に布教の旅をすることになったのだ!!
あ、転移使おうと思ったけど、強制転移使えないわ……
うっわ……面倒くせ……仕方ない……歩いて行くか………それもまた一興と言う事で。
先ずは、目指すは『マギア』を離れ西!王都シューラ!
よりももっと西!オースティード大陸行きの船がある!船着場!町の名前は……知らん!!
確か、そこにも教会が有った筈だ!!
そこによって色々指示出してから目指すは、オースティード大陸越えた、シストラ大陸か、ノーバァ大陸!
さぁ!行くぞ!!
はい、来年からはゆっくりとイリアルとNNの旅が始まります。今年一年、この様な駄作に付き合ってくれた皆様、来年もお付き合いをよろしくお願いします。それでは、良いお年を。
では、またε=ε=ε=ε=ε=ε=┌(; ̄◇ ̄)┘