ー第1話ー 『通りすがりの神官』
______黒い世界の中でそれは見えた。
顔が黒く塗りつぶれた私。ただ立っているのではなく見守っていた。
誰を?
ワカラナイ。
「◯◯◯◯!」
「どうしたの◯◯◯?」
振り返った男の顔も黒く塗りつぶれている。青髪の…とても大事な人だった気がする……
彼はダレ?
ワカラナイ。
何人も色んな人が出て来た。みんなみんな顔が黒い。
「◯◯◯!」
「◯◯◯!」
「◯◯◯!」
ダレ?誰?だれ?
…ワカラナイ。
「NN。」
「あ!お父さん!」
お父さん?
白い白衣の人だった。
そう、これが私のお父さん。
お父さん?
「◯◯◯。」
私と同じ髪をした男の人…お父さん?
チガウ。
私は誰?
私はNN……違う?
「NN。」
「◯◯◯!」
「NN!」
「◯◯◯!!」
私は…私は……私は……
『私はNN、お父さんはグロウ。』
目の前に出た黒い顔の私はケタケタ笑っていた。
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「はっ」
覚醒した意識。何だか手足が重い。それにここは……?
カチャン
手足に掛かった黒いものを確認した。枷だ。だが幸いにも完全に動けない訳ではない、必要最低限の手足の自由は効く。
チャリン
上半身を起こすと枷に繋がれた長い鎖が壁へつながっている。
牢の中は質素な部屋だった。ベットと手洗い、壁一面、コンクリートと言う新たな岩石が使われ看守のいる廊下を遮る様に二重の檻が設けられている。
カチャリン…
「………」
どうやら魔法は使えない。魔封じの枷だろうか。
チラリと服装を見た。
白と黒の特徴ある服。間違いなく囚人服だ。それを意味することはつまり……
任務の失敗。
………いや…違う…此処は何処か、
おそらく『マギア』の宝物庫下の地下牢。予めここの設計図と見取り図は入手し暗記していた。
この牢が『マギア』地下の牢獄『テゴリア』だとしたらそこから上に上がる道も知っているそこから宝物庫へ進入できる。
しかし問題はそれを守る人間だ…
『英雄』リン。五年前『魔王』ファランド・グリム・ドワフールを討伐した『勇者』ナガトの仲間。彼らはその後パーティーを解散し自由に過ごしていると聞いたがまさか、こんな所で出会ってしまうとは…
ここを抜けるのは簡単だ、ただそこで『神石』を盗もうなどすれば数が居ない。
じっと自らの手に掛かる枷を見つめた。
「あ…」
数秒ほど見つめていると突然枷が灰のように粉々になって消えた。
まさかこれは…
不意に自分の右眼に着けられている筈の物を確認する。
…無い。
そこには紛れもない自らの手が映っている。
アレが無いと魔眼の制御が…しかもよりにもよってまだ不完全の『闇眼』だなんて…!
自分の足枷も灰の様に消えてから右眼を閉じた。
『闇眼』が思いの外正常に発動してくれた事には感謝しなければならないが事態は急変した。
枷が外れてはいずれ看守にバレてしまう。それは、不味い。
一刻も早くここを出なければ…
檻に眼を向け再び右眼を開く。
うまくいってくれるかな?
結果は成功。檻は灰の様に消えた。
即座に走り出し抜けた気づいた看守を水刄で首を刎ね鍵を奪う。
ここから上に上がる為の扉をその鍵で開け階段を駆け上がる。
この牢獄の見取り図を思い出し宝物庫へ繋がる道を逆算して走る。
裸足の為か床が冷たい。ペタペタペタペタと足音を立てながら一人分の広さしかない迷路のような通路を駆ける。
偶然にも監視には見つからなかった。
上へと登る階段を見つけそこの登った五段目。そこで立ち止まり横の壁を押した。
ガコンと隠し扉が回転し暗い道が現れる。どうしてこんなものを作ったのかは知らないがここから宝物庫の『最終階層』まで繋がっている。
これは見取り図にも当たり前の様に載っていた、まるで私がここから入る事を見越した様に。
いや、考え過ぎか…
ふと嫌な仲間の顔を思い出した。あいつならやりかねん。
そう思いつつその道を走り抜け行き止まりの壁も先程と同じ様に回転させ開けた。
そこにはたった一つある物が置かれていた。
黄金色に輝く卵の様な石。
『神石』だ。
それは簡単に手に入ってしまった。見た目通り軽い。卵の様なその石は落としてしまえば割れそうなそんな石だった。それを右手にしっかりと握り元来た道を戻った。
後は階段を登り長い廊下の右から三番目の扉の廊下をひたすら走れば外に出られる…
途中で出会った監視を背後から襲い鍵を奪った。
そして私は長い廊下をひたすら走り最後の階段を上がり回して開ける扉を開け外へ出た。
大岩の中から出て来た私は背後に聳える巨大なタワーを見つめた。
「あはは…」
任務完了。部隊は失ったけど目的の物は手に入れた。後は帰るだけ…
追っ手がいない事を確認しその大岩の扉を閉じ『マギア』とは逆方向の森の中を走った。
草木を掻き分け本来の集合場所へと向かう。まだ誰かいる筈と。
その時、
「ああっ!!」
思わず倒れこむ。
ヒュンと飛んで来たナイフに反応しきれず左足を突き刺した。
このナイフはまさか…
あいつならやりかねんと思い返した奴の顔を思い出した。
「アハハハ!!ヒュー!」
この声は間違いない。彼奴だ…
木々の中から現れた緑の髪に銀のバイザーを着け白いコートを来た男……
見たくもない奴だ…
「Q…何のつもりだ?」
「ヒュー!何のつもりだ?NNゥ…今きみどんな状況か分かってるぅ?」
右手に持った銀のナイフを振り回しケタケタと笑う。その笑みははっきりいってウザい。
「何故私を刺した?」
「アハ?ヒュー!ねぇ、ねぇ?今どんな気持ち?仲間に襲われたってどんな気持ち?ねぇ!ねぇ?」
私が此奴を嫌いな理由。まず話が通じない。何より此奴は頭がイかれている。
「グッ…」
「アハハハ!!ヒュー!NN!大丈夫?もう一本突き刺してあげるね!」
両足をナイフで突き刺され更に左手も貫かれたドバドバと血が溢れ意識が朦朧として来た。
「あ!ヒュー!そうそう!なんで刺したかってね!それはー、これ!」
私の右手から『神石』を奪い取り掲げた。
「これこれ!ヒュー!これがあればーパパが僕を褒めてくれるから!」
此奴は本当にイかれてやがる。
「ふざけるな。それは私の任務だ。」
「ええ?ヒュー!安心してね!NNわぁ、任務に失敗してー死んじゃったって事にしてあげるから!」
何を言っているんだ此奴は……
「どっち道ね!ヒュー!NNはNN隊を全滅させちゃったから!死ななきゃいけないんだよ?パパが言ってた!だから殺すの!でねー、僕が『神石』を持ってってパパに褒めてもらうんだ〜!ヒュー!」
此奴…ふざけるな……パパが言ってた?そんな事を言う訳が無い……それに『神石』を持ってく?お前が?ふざけるな…
Qを睨みつけるが『闇眼』は発動しない。やはり生物に対しては発動しないか…クソ…
Qがナイフを逆手に持ち出し魔力を帯びたのが分かった。
「じゃあね!NN!パパの言いつけもあるから!お前殺すね!ヒュー!バイバイ!」
振り下ろされたナイフに思わず眼を閉じた。死ぬのか…こんな奴に殺されるなんて…まだ何も思い出してないのに……
いつまで経っても死んだ感覚が無い。
「お前誰だよ!!離せ!!」
Qの叫びにも聞こえる声に眼を開き見上げると振り下ろしたナイフを指二本で掴み抑えている神官の白ローブを着た白髪の老人がいた。
「うむ?儂か?儂はイリアル・ルイデ・ライデ。通りすがりの神官じゃよ。」
イリアル「通りすがりの神官じゃよ」
ディラ「ふっ…ただの神官だ。」
おっさん「………」