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第12話

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

ついに推理パート突入です。




「そもそも、仁江が奏楽智を殺す動機はないだろう」


「それは、俺が、虐められてて……」


「確かに、仁江が奏楽智と言い争っている声を聴いた生徒はいる。それは事実だろう。そして、仁江はその言い争いを『自分が虐められていた』という」


 探偵役の誉は、そこでゆっくりと首を傾げた。


「でもそれ、嘘だろう?」


 言い切る誉に、満は目を見開いた。

 腕を組み、堂々と仁江の前に立ちはだかる誉は、少しも自分が間違っているなどと疑っていない。気を張っていなければ震え、不安に押しつぶされそうだった満とは根本的に違う。


 所詮は『誉の劣化版』と自覚している満は、思わず苦笑した。自分の考えが間違っていたことに対して、ここまでの『差』を見せられては悔しさもわかない。

 さすがは『探偵役』。

 『相棒役』でしかない満では、到底つとまらないはずだ。


「もちろん、すべてじゃない。言い争っていたことも、虐めがあったことも、間違ってはいない。間違っていないことが、すべて正しいとは限らないがね」


 夕暮れ時、人などなかなか来ない田舎の神社には喧騒も届かない。

 静かに、誉の声が紡がれる。


「事件の発端は、半年前……『奏楽智が』虐めにあったことだ」


「は、あ? 待て、奏楽智が虐めてたんじゃ?」


「逆だ。奏楽智はあくまで被害者……陰湿な虐めにあっていた。ちなみにこのころ、虐めに関して仁江は認知していない。中学時代仲が良かった二人は、高校に進学してからもしばらくの間は交友関係が続いていた。しかし虐めが始まった半年前から疎遠になったため、仁江は奏楽智が虐められていたことなど知らないんだ」


 満は呆然と口を開けた。

 先走りすぎたにもほどがある。山で誉が違う証拠を集めてくると述べたように、満が推理に用いた証拠だけでは、決してこの事件を解明することなど、不可能に近かったのだ。

 なぜなら満は、奏楽が虐められていたという話を聞いていない。

 おそらく、情報屋である花形が、何かしらの情報を渡したはずなのだ。


 誉の推理に不満はないが、勝手に突っ走ってしまった自分に、今さらながら腹が立ってきた。思わず眉を寄せた満は、口を一文字に引き結んだ。


「虐めは日に日に激しくなり、物を隠されたり暴力は当たり前、金銭を要求されたこともあったらしい。ただ……その虐めについて、誰も認知していなかった。いつも呼び出されて、人気のない場所で虐められていたらしい」


「ならっ、……虐められていたとはわからないだろう!」


「壁に耳あり障子に目あり。人の好奇心から逃れることは決してできないんだよ。例え現場を見ることはなくても、調べる方法はいくらでもある。まあ、加害者の話も聞いてきたから、事実であることは間違いない」


 急に声を荒げた仁江は、すぐに歯を食いしばった。

 その様子を見れば、いくら満でも、誉の推理が間違いないと断言できる。もし推理しているのが誉ではなかったとしても、反応を見れば一目瞭然だった。

 それでも言い逃れしようとする仁江に、満は少しずつ首を絞められるような錯覚を覚えた。

 つい、首に手を当てる。

 しかし、そんな仁江の様子を見ても、誉の様子は変わらなかった。淡々と、どんどんと話しを進める。


「奏楽智は虐めに悩んでいたが、それを誰かに話すことができなかった。まあ、そんな性格を理解したうえで虐めていたわけだが……彼が誰かに話すことができなかったのは、恥ずかしかったからだ。虐められているということを誰かに知られることが、心の底から恥ずかしかった。友人やクラスメイト、それこそ両親に至るまで、誰にも知られたくなかった。その我慢が限界を迎えたのがひと月前……いつも通り、人気のない場所で殴られていたところを、誰かに見られてしまったことが原因だ」


「それは逆に助けを呼べるんじゃ……あ、そうか、バレたくないのか」


「そうだ。奏楽智は誰かに見られたことに酷く焦った。自分が虐められていたことが周囲にバレることが怖かった……不安になり、焦り、憔悴し、頼った先は、信頼していた親友だった」


「……それが、仁江」


 小さく呟いた声は、風が止んだ境内に響いた。

 満は自分の中の何かが繋がりかけるのを感じた。しかしそれよりも、虐めがバレたくないという理由からなぜ今回の事件に繋がったのかがわからず、混乱を招く。

 わからない一つの問題が大きすぎて、ついに満は思考を放棄した。

 考えずとも、誉が全てを語ってくれる。


「言い争いの原因はこれだ。職員玄関の近くは応接室しかない。客がこない限りあそこに人は近づかないから、外で話していれば誰にも見られないと思ったんだろう」


「助けを求めてなんで言い合いなんか……もしかして、仁江が助けを拒んだのか?」


「いいや、違う。殺してくれと頼んできたから、仁江はそれを拒んだんだ」


「あ?」


 満は顎を落とした。口は開き、不格好な状態で固まる。

 そこでようやく、先ほど感じた違和感がよみがえってくる。虐めがバレたくないという理由から起こったというこの事件のあらましが、少しずつ形作られていく。


「虐めが露呈することを、奏楽智は何より恐れた。それこそ、死ぬことよりも。ならいっそ自殺という手段もあったが、自殺をしてしまえば、それが学生という身分ならなおさらのこと注目され、理由があら捜しされる。もしその時、虐めのことが露呈してしまえば……奏楽智は、自分が死んだあとですら虐めがバレることを恐れていた」


「……じゃあ、殺してくれっていうのは」


「他殺ならば理由は考えるまでもない。虐めが発見されることもないだろう。もちろん、仁江はそれを拒否した」


「そりゃそうだろう」


「奏楽智が激怒していたのは、仁江ならば受け入れてくれると思っていたからだ」


「…………」


 あまりに勝手な物言いに、満はついに口を閉ざした。

 虐めについては理解できるが、その言い分はあまりに勝手すぎる。それで奏楽は救われるのかもしれないが、殺人者として逮捕される仁江は救われない。

 苦い満の表情を横目で見て、誉は小さく頷いた。


「この最大の問題は、仁江が殺人者として逮捕されてしまうことだ。未成年の場合、成人よりも刑は軽いが殺人罪はさすがに重罪……少年院に行くことになるだろう。だから放火をしたんだろう、仁江?」


「…………」


「奏楽智の死に方は、自殺にしては不審な部分も多い。頭から落ちていること、荷物が全て山に捨てられていたこと……殺人とバレる可能性はあった。その時の保険に放火を決行したんだ。もし仁江が疑われても、放火のアリバイがあるように。犯行は、三件目の放火が起きた時だ……だから、四件目の放火はそれまでとは違って雑な犯行だったんだ。隠す必要がないどころか、むしろ放火をしていたのは自分だと知ってもらう必要があったんだからな」


「か、仮に俺が両方の犯人だとしても、放火したごみ捨て場から智が自殺した黎明ビルまでは時間がかかりすぎる! アリバイには使えない!」


 唾を飛ばしながら激高する仁江に、誉は眉をしかめた。そっと彼から距離をとって、まあまあと肩をすくめる。

 誉にとって、すでに事件は完結しているのだ。焦る必要はどこにもない。


「一件目と二件目は、すでに火がついたものを置くことで火が大きくなるのを待っていた。もちろんその方法なら、犯人……つまりこの場合は仁江が放火場所に設置をしてから火が上がるまで時間は短い。アリバイには使えないだろう。だが三件目では、蝋燭を用いたトリックを使ったんだ」


「蝋燭って……それだって、別に段ボールとか使うのと時間って変わらなくないか? しかも三件目に至っては、灯油だっけ? 使ってるはずだろう? 一気に燃え広がっちゃうのに、時間を置くなんて」


「市販の蝋燭ならその通りだろう。蝋燭の燃焼時間は、燃料となる蝋の量で決まる。つまり大きければ大きいほど完全に燃え尽きるまでの時間は伸びるんだ……だが、そもそも燃えにくい蝋燭は存在する。そのうちの一つが『和蝋燭』と言われるものだ。これなら、市販の蝋燭よりも燃え尽きるまでの時間が長い」


 誉は人差し指と立てた。


「方法はこうだ」


 花形曰く、ごみ捨て場には何かが燃え残った後などはなかったという。すなわち、一件目や二件目のように、段ボールの中に紙などを詰めて燃やす方法ではないということである。いくら灯油を使って一気に燃やしても、何かしら残るはず。

 完全に火種を消した放火を、誉は紐解いていく。


「曜日を守らずに出された新聞紙を含めた古紙の上に、和蝋燭を置く。そして、新聞紙の下の部分が染みるように灯油を撒いていく。蝋燭や灯油の様子がばれないように新聞紙を利用して壁を作る。後は火をつけて立ち去ればトリックは完了だ。時間がたてば蝋燭が燃え尽き、新聞紙に燃え移る。ここ数日は晴れが続いているから、新聞紙だって綺麗に乾いているはずだしな。少しすれば灯油に引火して、一気に燃え広がる。そして、その周りに放火魔である仁江はいなくとも問題はない」


「でも、それは新聞紙がなくちゃできないだろう」


「どこにだって曜日を守らないアホはいる。そもそも、決行日があの日じゃなくてもよかったんだ。場所だって、実はどこでもよかった。ただ一つの条件、曜日を守らずに新聞紙などの古紙が出されているごみ捨て場ならな。たまたまあのごみ捨て場に、たまたまあの日、新聞紙が捨てられていた。だから決行した」


「その時間があれば十分、あのビルまで行けるか……」


「さて、次に、あの日の出来事を推理してみよう」


 静かに、誉は口を開いた。


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