プロローグ
新連載を始めました。
一月中の完結を目指していきます。
よろしくお願いいたします。
ここで事件の振り返りをしておきたいと思う。
今までのこともそうだけれど、きっとアイツが関わった事件について記憶、そして記録しておくことが、友人として、そして相棒として一から十まで傍にいた俺にできることだから。
そもそもの話、ただの高校生である俺やアイツが殺人事件に関わるのは間違いだと思う奴もいるだろう。事件に最後まで関わっておきながらアレだと思うが、正直、俺もそう考えている。
科学捜査が広がる現代日本で、技術もコネもない高校生が探偵をやるなんて、どこの似非推理小説だとも思う。
けれど同時にこうも考えている。
そんな常識的なことは、あの空野誉の前ではなんの意味もなさないと。
サブカルチャーの中では高校生探偵がはびこり、中には小学生まで探偵になるというアホみたいな現象まである。
まあそれらの中にはモノ申したいご都合主義があるのだけれど、彼らは警察関係者から集めた証拠と天才的な頭脳を以ってして事件を解決に導く、さながらヒーローだ。
もちろん、俺たちに警察関係者へのコネはない。
いや、ないと断言はできないんだけど、今回の事件に限って言えば完全に警察との関わりはなかったと宣言しておこう。
そのうえで、どうやって事件を解決したのか。
それはさっきも述べたように、空野誉はそういった『権力』であったり、あるいは『科学捜査』なんてものはなくても大して困らない。
まあ偉そうに言ってはみたが、これは俺も考えたことだ。
恥ずかしながら、頭のいい空野誉に探偵になればいいのに、なんて唆したのは俺なんだけど、そのうえでアイツに「高校生が殺人事件を解決できるわけないだろう」なんて言ってみたことがある。
本当に、あの時の俺はそう考えていた。なにせ、人生初めての事件だったんだから。
俺はその時の言葉を、たぶんずっと忘れない。
彼は言う。
「警察にとって一番重要な武器はなんだと思う」
「武力じゃないか。犯人を制圧する」
「違うな。警察学校で叩き込まれることだが、それが一番とは言わない。それならわざわざ腕力の劣る女性を採用する意味がない」
「ええー、じゃあ事件を解決する知識」
「重要だが全員でなくとも構わないな。それに頭脳が必要なら大学卒業者のみ採用するべきで、高卒を採用する必要性が弱い。警察官としての勘や技能を磨くために高卒を採用するんだ。それに知識は科捜研や研究者を使えばいい」
「うー、だめだ、わっかんね。答えは何?」
「お前……まあいい、答えは『足』あるいは『会話術』だ」
「……え、ごめん、解説して」
「……推理ドラマや小説およびアニメ、漫画といった娯楽としてのミステリが世の中に蔓延り勘違いするのも仕方がないが、事件解決のために重要なのは情報収集だと断言しておこう。科学捜査の結果は、『どこで』『誰から』情報を集めるのかという指標にはなるが、近隣住民などの情報によって検挙されることが多い。その犯人を自供に追い込んだりするために科学捜査が強い威力を持つことは、まあ否めないけどな」
「はあ……つまりなんだ、情報を集めるために駆けずり回る『足』と市民たちから情報を聞き出すための『会話術』が重要ってことか」
「そうだ。仮に僕が探偵になるとしてできることは、おそらく関係者への聞き込みによって情報を得て、その情報をもとに謎を推測し推察し推理する……くらいだろうな」
「十分だろう」
「言っただろう。科学捜査は、それはそれで重要な意味を持つと。つまり推理の根拠とも言い換えられるな」
「あー、えっと、つまり?」
「…………はぁ。つまり僕がやるのは『探偵ごっこ』であり『ミステリオタクもどき』であり『高校生の限界』である。所詮、僕にできるのは『推理』までで、『決着』ではないんだよ」
それはそれで十分だと思ったものだが、とにかくこれがアイツとの会話の終始である。
アイツは警察の重要なものは足と会話術といったし、実際、彼は確かに科学の技術なしに聞き込みだけでほとんどの謎を解いてしまったものだけれど、けれど俺は声を大にして言いたい。
特にあの自分の能力に無頓着な馬鹿(空野誉)に言いたい。
空野誉にとって一番重要なものは、その頭脳であると。
確かに情報収集能力もすごかった。
けれどその情報の大半は、俺たちが『情報屋』と呼ぶ少女の能力に依存していた。
確かに証拠集めもすごかった。
けれどその証拠は、俺が山を駆けずり回って集めたものだ。
……まあ、その場所を指定したのはアイツなんだけど。
とにかくとして、俺はここに記録していこうと思う。
俺たちが高校に進学して一年と少し。そろそろ大学受験のことでも考えるかーと思っていたころに起きた俺たちの町の事件について。
つまり、俺たちが高校に進学して初めて遭遇した、悲しくて空しかった、あの事件についてのあらましを。