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log98.リスポン

「ぬん! ……む?」


 腕刀でオーガソルジャーの首をへし折ったセードーは、クルソルから聞こえてくるチャットに耳を傾ける。


『階段発見! 階段発見! 総員、即座に階段に集まれたし! マーカー設置!』


 マッピング班の一人が階段を発見したようだ。転送用のマーカーを設置したとクルソルの全周チャットが告げている。

 それを聞いた全身鎧(フルプレート)戦士が懐から転送用のマーカーを取り出す。彼が取り出したのは一方通行のマーカーで、MPを消費せずに転移できるが使用できる回数は一回のみとなっている。


「さあ、先に進んで暴れるとしようか」

「そうだな。みんな、大丈夫か?」

「一応、な」


 ガチャガチャとスパナ型リペアアイテムでスナイパーライフルを弄っていたホークアイは、小さくため息をつく。


「フゥ。やっぱり俺のスキルレベルじゃ、100%までは回復しないねぇ……」

「どんな程度だ?」

「ざっと60%くらいだな。一階だけでこれとなると、先が思いやられるね……」


 ホークアイは前衛三人の援護に徹していたが、それでも相当数のオーガソルジャーや魔導師の頭を撃ち抜いている。スナイパーライフル系統の銃は元々消耗しやすい。短い間隔で連続戦闘を行えば、消耗も激しくなってしまう。

 もう一つため息をついたホークアイは、一度M1000をインベントリに仕舞い込むと、今度はアサルトライフルを取り出した。


「それは?」

「コルトアサルト。この世界だと、割と一般的なアサルトライフルさ。癖がなくて使いやすいんでね。サブウェポンに使ってるのさ」


 ホークアイが手にしたコルトアサルトにはスコープが取り付けられており、狙撃に対応できるように弄られているのが窺えた。もっとも、フルオート射撃にも対応しているアサルトライフルの集弾性では精密射撃は難しいかもしれないが。

 今後の戦闘に支障はなさそうだと判断し、セードーは全身鎧(フルプレート)戦士の方へと振り返る。


「スティール。そちらはどうだ?」

「何、問題ない。絶鋼黒金ほどではないが、今着ている鎧の青銅鋼も悪くない」


 言いながら全身鎧(フルプレート)戦士、スティールは自身の胸板を軽く叩いてみせる。


「青銅鋼……名からすると、安物のように聞こえるが」

「そこがミソよ」


 言うなりスティールの姿が一瞬ぶれる。

 一見すると何も変わってないように見えるが、よく見ると鎧のディティールが若干異なっていた。どうやら一瞬で着替えたらしい。


「これこの通り、複数の鎧を持つことでリペアスキルがなくとも装備の消耗を抑えることができる!」

「ほう。ちなみにリペアスキルを取る選択肢は?」

「初期選択で戦士を選ぶと自然消滅するのでな……」


 若干影を背負い始めるスティール。ギルドに所属し、そこに鍛冶師やガンスミスがいれば解決することができる装備の回復も、ソロや専門職のいないギルドでは基本的に金銭で解消する必要がある。初期に入手できるような装備であればそう高くはないが、装備のランクやレベルが上がるほどに維持費が高騰してゆく。

 ちなみに初期選択で戦士を選んだ場合、リペア系スキルによる回復量は最大でも30%となる。


「青銅鋼は廉価でありながらそこそこの装甲値の装備が作れるうえ、軽く持ち運びも便利だ。手練れの戦士でも武器を使い潰すような戦いをするものは愛用しているぞ?」

「そうなのか……装備の消耗で悩むことは少なくてな」


 基本的に壊れやすいが修理もしやすい布系装備を愛用するセードーは曖昧に頷き、己と同じ布系装備愛用者であるサンの方へと振り返る。


「サン。特に問題はないな?」

「あったぼうよ! あたしを舐めんなよぉ!?」


 サンは勇ましくそう言いながらふんぞり返る。

 彼女は先の二人と異なり、セードーと同じようにマッシヴギアを愛用している。戦闘による消耗は、精神的なもののみとなる……わけでもなく。

 彼女の頭上に浮かび上がるステータスバーの、MPの項目はもうすぐ0になることを示していた。


「……ではなさそうだな。MPポーションだ、飲め」

「んえ?」

「調子に乗ってスキル連発しすぎだろ……」

「気づいてなかったのか……?」


 自身の状態に気がいっていなかったらしいサンに、セードーはMPポーションを放ってやる。

 サンは慌ててそれを受け取り、大人しくMPの回復し始めた。

 小さく嘆息しながら、セードーもMPを回復し始める。


「スキル火力が上がって嬉しいのは分かるがな……。だからと言って自己管理を怠るものではあるまい」

「うっせーなー。あたしはあんたみたいに持続型スキルじゃないから、MP管理も難しーんだよ」


 サンは悪態をつきながらも、気まずそうにセードーから視線を逸らす。自覚はあるらしい。

 サンが選択した属性解放である〈火〉は、火力重視で初心者でもわかりやすい効果を持つスキルが解放されるようになることで有名だが、同時に燃費の悪さでも有名であった。

 威力と燃費のバランス自体はつり合いとして取れているのだが、連発していればすぐにガス欠程度には使いづらい。調子に乗って連発しているとMP切れでそのまま気絶しタコ殴り、なんてこともあり得るのだ。

 そのため〈火〉属性を選択したものは潤沢にMPポーションを用意するか、普段はスキルを使用せずここぞという時に使用するか、どちらかの戦闘スタイルを取ることを推奨されている。

 一方セードーの〈闇〉属性……というより彼が選択したスキルは持続型と呼ばれる、一度発動すれば一定時間は効果を発揮するタイプのものだ。

 一回の発動にかかるMPは若干重めであるが、時間当たりのMP効率は普通のスキルよりも良いことが多く、セードーの五体武装・闇衣はまさにその典型と呼べた。


「一度発動すればしばらく持つうえ、装甲にも武器にもなるってどんだけだよ……チートだろ、チート」

「そう言われてもな」


 恨みがましく睨みつけられるセードーは頬を掻く。


「まあ、珍しい〈闇〉属性だ。これくらいは……当たり前、だよな?」

「こっちに振られてもねぇ」


 ホークアイは苦笑し、それから小さく頷いて見せる。


「ま、旦那の言うとおり……〈闇〉属性に限らず、特異属性ってのはみんな強力だな。覚えてる限り、〈無〉属性ってのもえげつなかったな。距離無視装甲無視の大ダメージスキルを持ってたぜ?」

「そりゃすげぇ……」


 サンは一瞬だけ羨ましそうな表情になるが、すぐにハッとなり不埒な考えを振り払うように首を振る。


「い、いや、あたしは〈火〉属性って決めてたんだ! 一度決めたことを曲げるなんて、女が廃る! 一度決めたことは、曲げないってあたしは決めてんだ!」

「よい心がけだと思うが、女が廃るってなんだ?」

「さー?」


 スティールとホークアイは小さく肩を竦め、それからマーカーを踏む。


「そんじゃ、次の階に行きますかねぇ」

「ああ、そうだな」

「ここに来るまで……10分か」


 セードーも続きながら、クルソルの時計を確認する。ダンジョン攻略を開始してから10分前後。多少時間がかかっているだろうか。

 セードーの隣に立ちながら、サンが顔をしかめる。


「このダンジョン、どんだけ続いてるかわかんねぇからどんだけ時間が必要なのかも湧かんねぇんだよな?」

「通例であれば、30階程度だと思ったが」

「……通例で考えると、ギリギリではないか?」


 単純計算すれば、30階で300分。つまりダンジョン攻略に5時間はかかる計算だ。今の調子で進行すると、最下層まで行くので精いっぱいだろう。


「マッピング班が急いでくれれば間に合うと思うけど……」

「む。しかしモンスターが障害になるのであれば、我々がもっと派手に動かねばならんということか……」


 セードーは呟きながら、顔をしかめる。


「だが、踏み込み過ぎては死に戻りかねんからなぁ……」

「そこは悩みどころだよな……」


 マーカーによる転送が開始される中、ホークアイが小さく呟く。

 オーガソルジャーや魔導師、その他のモンスターたちのレベルは外にいたゴブリンシリーズと比べてかなり高い。具体的には第一ウェーブと比べると10前後レベルに差がある。

 こう言ったイベントの場合、参加したギルドの平均レベルよりイベントに登場するモンスター全体の基礎レベルが決まるわけだが、それでも10というのは結構な落差である。

 ダンジョン全体のレベルがこれで固定であればまだよいが、階下に進めば進むほどレベルが上がるというのであれば、最終的に20レベルとか30レベルくらいの差が生まれてしまうかもしれない。

 当たらなければどうということはない精神で突き進むセードー達であるが、逆に言えば当たってしまうとかなりまずいことになる。


「戦闘班を小分けにしているのも痛いよなー。誰かひとり死んでも結構ヤバいよな?」

「多数の地点で戦闘を起こすことでモンスターのヘイトを分散させる狙いがあったが、確かにまずいな……割合としては7:3くらいで、マッピング班の方が多いんだったか?」

「素早くダンジョン攻略するための措置だったが、この先どうなるかか……」


 マーカーの転送が終わり、目の前に階下へと降りるための階段が現れる。

 それに向かって走り出すセードー達の耳に、嫌な報告が聞こえてきた。


『こちらダンジョン出入り口のリスポン班! 戦闘班Cがリスポンしたよ! 周辺で探索中のマッピング班は注意してね! ヘイトがそっちにいっちゃうかもしれないよ!』

「……来たか、初リスポン」

「ツッコミすぎ……だといいんだけどな」


 聞こえてきたリスポン報告に、セードー達は顔を引き締める。

 オーガソルジャーのレベルを考えれば普通にやられた可能性も高いが、ダンジョンの中で予期せぬモンスターに遭遇した可能性もある。

 少数配置される上位レベルモンスターや固めのレアモンスターならまだしも、どこまでも追いかけてくるレアエネミーとかだと始末に負えない。


「とりあえず、一気に最前線まで駆け抜けるぞ」

「異議なし!」

「まずは穴埋めだな」

「さぁて、間に合いますかねぇ……!」


 下の階に降り立ったセードー達は、付近にいたマッピング班から近くのマップを教えてもらい、最も近い位置にある戦場へと向かう。

 一度プレイヤーと撃破したモンスターたちは興奮状態に突入しており、一定時間攻撃力や速度が上がり極めて危険になる。これに素早く対処しなければマッピング班の作業に多大な支障が発生してしまう。それを埋めるのも、戦闘班の仕事になるのだ。

 駆け抜けたセードー達は、興奮状態に突入したモンスターたちの一団が現れる。


「おおぉぉぉ!!」


 拳を固めたセードーが、戦闘に立っているオーガソルジャーに殴りかかる。

 激しい戦闘音が、辺りに響き渡り始めた。




なお、倒されたのは例の三人組の模様。

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