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log96.ダンジョン突入

 ついに魔王軍の城砦へと突入したセードー達。その内部は薄暗い迷路……つまり、ごく一般的なダンジョンとなっていた。

 ろうそくの明かり程度しかない薄闇の中では、小さな唸り声を上げながらオーガやゴブリン、あるいは目深にフードをかぶった魔導師などがうろうろしている。

 その闇の中に紛れるようにして、ギルド同盟のダンジョン探索専門役となる盗賊たちが、おっかなびっくり進む。手にしたクルソルはダンジョンのマップを示しているようで、彼らの現在位置とダンジョンの内部構造を平面図として描き出している。

 こうしたダンジョンにおいて、敵に見つからないようにその内部構造をマッピングしたり敵を排除する、いわゆるスニーキングミッションとでもいう行為はある種の醍醐味と言える。

 敵に見つかるかどうかギリギリの箇所を移動し、相手に気取られぬように後を進む味方のためにマップを用意し、あるいは一筋縄ではいかないようなモンスターを一撃のもとに処す……これらは隠密行動に優れた盗賊の専売特許と言える。

 こうした道のダンジョンにおいては、彼ら盗賊の努力が後進の者たちの安全を確保することになるのであるが、今回ばかりはそうも言ってはいられない。

 今回のマンスリーミッション、城砦攻略は七時間しか攻略に臨むことができない特殊イベント。残りの攻略時間はすでに五時間を切っている。見上げるほどに巨大な塔の、どこまで続くかわからない下層まで突進み、さらに隅々まで探索し、なおかつその中に眠っているであろうレアアイテム群を入手するには、圧倒的に時間も人も足りないと言える。

 マッピングだけならまだしも、中に存在するモンスターたちを排除し、さらに罠やお宝を守る鍵まで相手にしなければならないのだ。悠長にマッピング完了を待っていては、最深部に控えるボスの御尊顔も拝めるかどうか怪しい。

 では、どうするべきか?

 いくつか解答はあるだろうが、セードー達のギルド同盟が取ったのはもっとも単純な作戦の一つであった。


「――よし」


 先行していた盗賊の一人が、小さく頷きクルソルに声を吹き込む。


「やってくれ」


 盗賊が、そう誰かに呟くのと同時に。


「――チィエェェェェストォォォォォォォォォォ!!!!」


 空を裂き、ダンジョンの中全てを震わすほどの大音響で、セードーの気合いの入った声が響き渡った。同時に聞こえてくるのはダンジョンの壁が破砕される音だろうか。

 その音を聞いた途端、うろうろしていたモンスターたちが一目散に音の聞こえてきた方に向けて駆け出してゆく。


「よし今だ! GOGOGO!」


 その瞬間を見逃さず、影に隠れていた盗賊たちはその中から駆け出し、モンスターたちのいなくなったダンジョンの廊下を駆け抜けてゆく。

 彼らの背後では、敵を発見したモンスターたちと腕に自信のある戦士たちとがぶつかり合う戦闘音が響き始めた。






 セードーが突いた手を引く。

 正拳突きと共に放たれた衝撃波はクルソルから聞こえてきた合図と共にダンジョンの壁を破壊し、現れたモンスターも引き裂いた。

 だが、砕いたはずの壁は次の瞬間には元通りとなり、死んだモンスターたちの体も消えてゆく。


「ふむ。先生の言っていた通り、ダンジョン構造もモンスターもリスポンするようだな」


 小さく頷くセードーの前に新たなモンスターたちが現れる。

 外に現れたゴブリンオーガ種より一回り小さいが、奴らよりも引き締まった肉体が歴戦を窺わせる鋼のように鍛え上がられている。頭上にポップした名前は、オーガソルジャーとなっていた。

 セードーを威圧するように咆哮を上げながら駆け抜けてきたオーガソルジャーは手にした金棒を振り上げ、セードーへと叩きつけようとする。

 振り下ろされるその一撃を、セードーは壁を駆け上がりながら回避し、腕を構える。

 指は折り曲げられ、第一関節と掌を叩きつけるように構えられた腕の名前は熊手。

 武器を振り下ろし無防備となったオーガソルジャーの側頭部……特に耳へとセードーの一撃が鋭く迫った。


「阿修羅掌、一之型!!」


 セードーの一撃はオーガソルジャーの耳朶を震わせ、中の鼓膜を打ち破る。

 一撃で意識どころか命まで刈り取られたオーガソルジャーは倒れ伏し、そのまま消える。

 セードーがその傍に着地するのと同時に、今度は斧を持ったオーガソルジャーが駆け抜けてきた。


「ぬおぉぉぉ!!」


 その一撃を、全身鎧(フルプレート)の戦士が受け止める。

 甲高い金属音とともに斧が弾かれ、オーガソルジャーの体勢が崩れる。

 間髪入れずに、全身鎧(フルプレート)戦士の鉄拳がオーガソルジャーの頭を叩き潰した。

 オーガソルジャーはそれでもHPが残り、ふらふらになりながらも目の前の全身鎧(フルプレート)戦士に一太刀入れようとする。


「シッ!!」


 だが素早く踏み込んできたサンの裡門頂肘で止めを刺されてしまった。

 あっという間にオーガソルジャーを殲滅した三人であったが、奥からは続々とモンスターが現れている。そのうちの一匹、フードをかぶった魔導師が杖を振り上げむにゃむにゃと何らかの呪文を唱え始める。魔導師の呪文は一瞬で完成し、その頭上では巨大な火球が生み出される。


「チェリャァ!」

「ぬぁ!!」

「ふんぬらー!!」


 魔導師の行動を阻止せんとセードー達は拳を振るうが、迫りくるオーガソルジャーたちのせいでうまく前に進むことができない。

 そうこうするうちに狭いダンジョンの廊下に密集したオーガソルジャーたちごとセードー達を爆砕せんと魔導師が杖を振りかぶる。

 瞬間響く発砲音。魔導師の目深にかぶったフードが吹き飛び、皺に塗れた醜い顔が露出する。その額には小さな穴が開き、黒い液体がそこからは零れていた。


「――ビンゴ」


 ボルトを開き排莢するホークアイは、セードー達の背後からさらにもう一発弾丸を別の魔導師へと叩き込む。

 ホークアイの援護を受けつつオーガソルジャーとの戦闘を続けていたセードーは、密集するオーガソルジャーたちに衝撃砲(インパクトカノン)を放ちつつ、サンに声をかける。


「この程度でよかろう……! サン!」

「まかせろい!」


 サンは鼻息荒く前に出て、一つのスキルを開放する。


「ブレスナックル、改めぇ……!」


 右の拳に集めた炎を、冲捶の要領で解き放った。


「爆・崩・拳ッ!!」


 力強い発頸と共に放たれた爆炎はオーガソルジャーを飲み込み、前列に纏まったオーガソルジャーたちを焼き尽くす。

 ……だが、その威力は後ろに群れていた者たちには届かない。前に立っていたオーガソルジャーであった炭の塊を踏み砕きながら、オーガソルジャーたちは雄たけびを上げながらセードー達に迫る。


「よし、引くぞ! ヘイトは十分溜まったはずだ!」

「逃げろー! すたこらサッサだぜー!」

「しんがりは請け負う! さっき見つけた十字路まで走れぇ!」

「じゃあ、先導は俺か。行くぜ、旦那!」


 セードー達は追いすがるオーガソルジャーたちから逃げるように、逆方向へと駆け抜けてゆく。

 オーガソルジャーたちの中にはボウガンやスリングなど遠距離攻撃手段を持っており、走りながらセードー達に向かって攻撃を放つ。

 だが、列の一番後ろに立つ全身鎧(フルプレート)戦士には矢も石も通じず、その鎧によって弾き返されてゆく。

 悔しそうな咆哮を上げるオーガソルジャーたちを振り返りながら、セードーは小さく呟いた。


「……面白いほどうまく引っかかったな。これで全部か?」

「全部かどうかはともかく、かなり道が詰まってるねぇ。もらったマップはモンスターで真っ赤だよ」


 ホークアイは他のマッパーから受け取っていたマップを見ている。彼の言うとおり、クルソルに表示されているマップ上の通路はモンスターを表す赤い光点でいっぱいになっていた。

 それを見て、嬉しげな歓声を上げたのはサンだ。


「うひょー! あたしらこれ全部倒していいんだよな!?」

「まあ、他の探索を行っているプレイヤーのために注意は引けと言われているが……この数は全滅しきれんだろ」


 全身鎧(フルプレート)戦士は呆れたようにそう口にする。

 今回の城砦攻略に際し、アラーキーが立てた作戦は単純な陽動作戦であった。

 同盟を小さな部隊単位、それぞれ隠密行動が得意なものと戦闘が得意なものに振り分ける。そして戦闘が得意な者たちがなるたけ大きな音を立ててダンジョン内のモンスターたちのヘイトを集め、その隙を突いて隠密行動が得意な者たちがマップを完成させるというものだ。

 こう言ったダンジョン攻略においては、マップを完成させながらモンスターと戦うのが醍醐味ともいえるが、さすがに時間が惜しい。幸い、ダンジョンにポップするモンスターは音に反応してプレイヤーを感知するタイプが多い。こうしてわざと大きな音を立てて戦闘を行えば向こうの方が勝手に戦闘班の方へとやってきてくれる。

 戦闘班がモンスターを引きつけているうちに隠密班はマップの完成、および階下へとつながる階段を捜索することになる。隠密班の中には隠密行動も戦闘も得意ではないものも多いが、幸いダンジョン内は薄暗く視界も悪い。モンスターたちもまずは音で敵を判別するので、暗がりでしゃがんでいれば大抵やり過ごすことができる。

 隠密班が階段を発見できれば、残りのマップの完成を中断し、他のプレイヤーが即座に下の階へと行けるよう、準備をする手筈となっている。


「今回のダンジョンはスピード勝負……とはいえ、いささか乱暴な気がしないでもないが」

「敵地に潜入するときは極力静かに……それが無理なら、なるべく派手に動くこと、さ」


 銃をリロードしながら、ホークアイはニヒルに笑う。


「じっとしてんのが性に合わないなら、派手に動いて中身を引っ掻き回せばいいのさ。どっちだろうと、最終的な目的を達成したもの勝ちってね」

「そういうものか……まあ、嫌いではないが」

「あたしは大好物だぜ、こう言う展開!」

「鎧の音でばれてしまうからなぁ……。全身鎧(フルプレート)唯一の弱点だよ、スニーキングは」


 少し開けた十字路の真ん中に立つ四人。

 四方からは、音を聞きつけたオーガソルジャーたちが、セードー達を押しつぶさんと殺到してきていた。


「さて、後は耐久勝負……。他のものが階段を見つけるまで耐えきらねばならんな」

「死に戻りなんざ情けねぇ、全部吹っ飛ばしてやるぜ!」

「ホークアイとやらは俺がカバーする! 存分にやれ!」

「いいね、盾になってくれるのかい? 期待してるぜ、騎士さんよ」


 セードー達は拳を握り、オーガソルジャーを迎え撃つ。

 十字路の中は、咆哮と銃声、敵を叩き潰す音で満たされていった。




なお、マッピングはクルソルの機能で自動でやってくれる模様。

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