log90.援護
「ジャッキーさん、大丈夫でしょうか……」
「マーカーがぴかー、って光った瞬間、一人でいっちまったもんな……」
周囲を動き回るモンスターたちに攻撃を加えながら、サンとキキョウは先ほどジャッキーが飛びついたマーカーを見やる。
小さなナイフの形をしたそれは先ほどまで転送可能の魔方陣を小さく展開していたが、すぐに魔方陣は消滅した。プレイヤーが常にMPを消費し続けなければ魔方陣を維持できないのだろう。
近寄ってくるモンスターを叩き伏せつつ、ウォルフが小さく鼻を鳴らした。
「ふん。心配いらへんやろ? ワイらよりレベルが20ほど違うんや。一人でつっこんで、それで死に戻ったら笑ったろうやんか?」
「もう、ウォルフ君? そう言うこと言っちゃいけないでしょう?」
二、三匹まとめてモンスターを投げ飛ばしながら、ミツキがウォルフを諌めるような口調で語りかける。
「イの一番でナイフに飛びつこうとしたのは、あなたでしょう? それを押しのけられたからって……」
「順番は守るべきやんかー?」
「あっはっはー。まあ、許してやってくれよ?」
むくれるように頬を膨らませるウォルフを見て、アラーキーは苦笑しながらワイヤードナイフを振るう。
ワイヤーの先に付いたナイフと細いワイヤー。その二つに首を跳ね飛ばされて、ゴブリンが何体か崩れ落ちた。
「あの二人、ゲームをプレイし始めてからずっとコンビ組んでる連中でね。オフ会でも仲がいい、っていうかもうすぐ結婚するんだとかでな?」
「へぇー! そうなんですか!」
「おめでとうございます!」
「本人らじゃなくて俺にいってどうすんの」
結婚、という言葉に瞳を輝かせるレミ。夢見る乙女には理想の言葉なのだろう。回復していた三人組の回復を思わず中断してしまっている。
コータもモンスターを斬る手を止めて祝福するが、そんな彼らにアラーキーはまた苦笑する。
「まー、なんだ? 俺もあいつらとは付き合い長いけど……MMO婚って実在するんだなー、って感じだよ」
「そうですよねまだ希望はありますよね大丈夫大丈夫まだ焦るような年齢じゃないもの」
「ちょ、落ち着いてほしいでありますよミツキさん……」
アラーキーの言葉にぶつぶつと呪文のように自らへの慰め?を口にし始めるミツキ。
思わず震えるサンシターを軽く足蹴にしつつ、リュージはモンスターの一団へと飛び掛かっていった。
「どぉりゃぁ!! ……まあ、それはおいとくにしても、一人で大丈夫なのかよ? 周りがこのありさまだと、上にはボスが出てんじゃねぇの?」
「あー……まあな。たぶん、その通りだと思う」
アラーキーは小さく頷きつつ、斬りかかってきた四本腕の骸骨剣士の一撃を躱す。
人間と同程度の体格で、四本腕には肉厚の曲刀が握られており、こちらを斬り裂かんと乱雑に振り回されている。
マコは冷静に銃を構え、三点バーストで剣の間合いから骸骨剣士の頭を撃ち砕いた。
「確か、エイミーが屋上に降り立って少ししてからよね? こいつらが湧きだしたの」
「だな。たぶん、エイミー辺りがボスとエンカウントしたんだろうな。それをトリガーに、この強い雑魚どもが湧きだした、と」
「よくある話ねぇ」
頭を撃ち砕かれた骸骨剣士はそのまま倒れるかと思いきや、元気な様子で四本の曲刀を振り回し始める。どうやら、頭部を失った程度では死なないらしい。
もっとも、目と耳は失ってしまっているのか、まだ残っているゴブリンたちや周りにいる骸骨剣士に斬撃が当たってしまっているが。
つつがなく爆発系の魔法で全身バラバラにしてやりながら、マコがため息をついた。
「つまりこの無限湧きの状況は、上が何とかならない限りは止まらない、と」
「そして上に増援を送るにも、骸骨剣士どもが邪魔でなかなかその隙もない、と」
近寄る骸骨剣士の背骨をレイピアで突き砕き、ソフィアは返す刀で刃風を撃ち放つ。
肉を持たない骸骨剣士には足止め程度の効果しかなかったが、その後ろに立っていたゴブリンはあえなく斬り伏せられてしまう。
骸骨剣士はなおもソフィアに迫るが、リュージの横薙ぎの一撃によって今度こそバラバラに打ち砕かれてしまった。
「うるぁ! 人の嫁になんばしよっとか!?」
「何もしとらんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぺぺぶ」
謎の悲鳴を上げながら花瓶に討ち滅ぼされるリュージを横目で見つつ、アラーキーは遠くで若干苦戦中の銃火団の面々へと援護魔法を撃ちこんだ。
「まあ、ジャッキーもあれで戦闘専門職だし、大丈夫っしょ。アースグレネード!!」
呪文詠唱と共に放たれた魔法が、ホークアイに迫る骸骨剣士を打ち上げる。
リロードの瞬間を狙われたホークアイが、片手を上げてアラーキーに礼を送った。
「っとぉ、すまないな! やっぱりリロードタイムがガンだねぇ、こいつは」
「はっはっはっ! そんな君には機関銃をおすすめしよう! そうそう弾切れは起こさないぞ!!」
「いやだよそんなスマートじゃない武器。今度、弾倉拡張するかねぇ……」
小さく呟きながら、ホークアイはライフルの引き金を引く。
貫通力に優れたライフル弾が、骸骨剣士とゴブリンを複数体まとめて貫いてゆく。
アラーキーは満足げに頷きながら、他に苦戦している様なギルドがいないか辺りを見回す。
「それに、一応居合道……だったかね? それの全国大会で入賞の経験とかもあるし、MPなくてもそこそこ戦えるんだぜ?」
「ほほぅ。それは良いことを窺いました。今度、決闘申請してみましょう」
「いや、お前ら逸般人と戦わせられたら、さすがに泣くからな?」
骸骨剣士二体をまとめて相手にしているセードーに、アラーキーは素早く裏手ツッコミを入れる。
狙い澄ますというほど鋭くはないが、それでも普通の四倍近い物量の剣閃を、セードーは拳を突き入れるようにして捌いてゆく。
「チェイリャァァァ!!」
研ぎ澄まされた刃の側面へと拳を入れ、わずかにその軌道を逸らす。そして隙を見て脆い体に拳を入れる。
固く握りこまれたセードーの正拳を叩き込まれ、骸骨剣士は奮闘もむなしく粉々に打ち砕かれる。
「シッ! ……そうでしょうか? ジャッキー殿、なかなか良い動きをされると思いますが」
「剣道三倍段だっけか? 武器持ちに素手が挑むには三倍の技量がいるとかいうらしいが、お前さんの場合は空手十段とかその位だろう」
「いえそれほどでも」
若干照れたように頬を掻きつつ、セードーは胴回し蹴りでGオーガソルジャーの腰を撃ち砕く。
そんなセードーに対抗するように、ウォルフがアッパーで自己主張を始めた。
「はい! はーい! ワイは全国大会で三連覇達成したことありますー!」
「なんで急に自己主張はじめてんのよ」
「あたし! あたしこれでも本場の八極拳大会で優勝したことあるぜ!?」
マコは呆れたようにウォルフにツッコみいれるが、自己主張は彼だけでは止まらなかった。
自慢の貼山靠で骸骨剣士を粉みじんに砕きつつ、サンはそう叫ぶ。
さらにミツキがGオーガシールダーを巴投げつつ、照れるように首を傾げる。
「こう見えて、男女不問、無差別階級の柔道大会で優勝したことが……」
「それセールスポイントじゃないから。そしていつからここは暴露大会になったの」
「僕、市内の剣道大会で優勝したことが!」
「私はピアノコンクールで入賞したよ!」
「乗るなあんたらはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
何故かコータとレミまでこの流れに乗って、自らの過去の入賞経験を口にする。
マコは額に血管を浮き上がらせる勢いでツッコミを入れるが、大トリと言わんばかりにリュージが自らを指し、埠頭にあるキノコ状の物体に足を載せるあのポーズを取りつつ大きな声で叫ぶ。
「嫁自慢選手権第一位の俺を――」
「呼ぶかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
マコはリュージに皆まで言わせず、サンシターから奪った中華鍋をリュージの頭にかぶせて銃の台尻で思いっきり叩いた。
脳髄を容赦なく揺らす大音量が辺りに響き渡り、リュージはそのままひっくり返る。
流れに乗り遅れたキキョウが、何とも言えない絶妙な笑みを浮かべつつアラーキーの方へと向き直った。
「え、と……と、とりあえず大丈夫、ですよね?」
「あー、うん。大丈夫だと思う……っていうかすまんね。変な流れ作って」
アラーキーは軽く謝罪する。というか、何故こんな流れになったのだろうか。
と、流れを作ってしまった張本人の一人であるセードーが、不意に真面目な表情になりアラーキーへと問いかけた。
「……しかし、本当に大丈夫ですか?」
「なにがだよ?」
「仮にもボスクラス……しかも、こうした大規模なギルド同盟を組まねば攻略に臨めないようなイベントのボスが、単騎、あるいはコンビ撃破可能とは思えないのですが……」
「んー……大丈夫……だとは思うが」
セードーの言葉に、アラーキーは空を見上げる。
逆三角形上の城砦、その天井で戦っているであろうエイミーとジャッキーの姿が見えるわけではないが……それでも何の変化もないのが逆に不安を煽ってくる。
視線を下し、マーカーを見る。今、マーカーとなっているナイフの周辺は骸骨剣士が密集しマーカーへと近づけまいと曲刀を振るっている。
そしてマーカーに転送魔方陣が起動する気配はない。マーカーに対してMPを消費し続けなければならない関係上、転送ゲートを起動するプレイヤーは動けなくなる。
転送ゲートが起動しない理由が、ボスにてこずっているのであれば早急に支援に行くべきだろう。
「……まあ、さっさと助けにはいくべきか。とりあえず、マーカー付近の骸骨どもを何とかしよう」
「そうですね。マーカーの起動は……マコ、頼めるか?」
「あたしMPそんなにないわよ? まあ、いいけど」
拳銃と魔法で攻撃を繰り返しながらMPポーションを呷るマコ。
マーカーに近づこうとする二人を援護すべく、仲間たちも動き始める。
「お? いくんか、いくんか? せやったらワイも行くで!?」
「落ち着けよ、ウォルフ。二番目はあたしだからな!」
「サンちゃんも落ち着いて……」
「まずは、アラーキーさんを送りましょうか?」
「我々は周辺のゴブリン掃討に動こう。リュージ、いいな?」
「我が姫の仰せのままに! ゴブリンは消毒じゃヒャッハー!」
「テンション高いね、リュージ君……」
「ソフィアさんに命令されたおかげかな……」
「うぐぐ……! 皆さま、お気を付けて……!」
中華鍋を取り戻すまでの間に死にかけているサンシターに回復ポーションを放ってやりながら、アラーキーはマーカーを睨みつける。
それに反応し、骸骨剣士たちも曲刀を構えた。
「さて……それじゃあ、援護よろしく!」
「了解です。いくぞっ!」
「「「「「おおぉー!!」」」」」
アラーキーは駆け出し、それを追うようにセードー達も駆け出し、骸骨剣士たちは先にいかせまいと、曲刀を振り上げる。
「そぉりゃぁぁぁぁぁ!!!」
アラーキーのワイヤードナイフが、空を裂いて唸りを上げた。
なお、嫁自慢選手権はリュージの脳内で開催されている模様。




