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log85.第一Wave攻略

 エルダーとの戦いは、確実にギルド同盟の勝利へと傾いていった。


「アイスコフィン!!」


 城門の傍に立つエルダーの動きが止まった瞬間を見計らい、マコが魔法を解き放つ。

 氷属性の拘束魔法、アイスコフィン。本来は敵の全身を凍てつかせる魔法であるが、エルダーの巨体では足元、くるぶしくらいの高さまでを封じるので限界であった。

 だが、それでもエルダーの動きは確実に止まる。足を凍てつかせられたエルダーがその痛みに悲鳴を上げる。


「今よ!」

「「「おー!」」」


 マコの合図とともに、プレイヤーたちが一斉に攻撃を仕掛ける。


「マジカルカッター!」

「シュトゥルム・スラッシャァー!」

「ライトニング・ソォォドォォォ!!」


 エルダーの体に、種々様々な攻撃スキルが突き刺さり、炸裂する。

 その幾つかはエルダーの持つシャットアウトによりダメージが減衰したが、それでも確実にエルダーのHPは削れて行く。


「んー……」


 アラーキーはその光景を……より正確にはエルダーの頭上に浮かび上がるHPバーを見ながら小さく唸る。

 先ほどセードーとチャットした時より、さらに三割ほど減少したHPバー。減っている勢いは順調と言えるが……。

 アラーキーは困ったように眉をしかめ、小さく呟く。


「さて、どの程度まで削るべきかなぁ。なるべくなら一回で終わらせたいもんだし」

「そうですね……」


 その隣に立つミツキが、同意するように頷いた。

 そして振り返って向こう側のエルダーを見やる。

 その頭上に浮かぶHPバーは緩やかに減少しているのが窺えた。


「向こうも順調ですけれど……タイミング、合いますでしょうか?」

「二体のモンスターがリンクするタイプのボスは、タイミング合せが問題だよな。普通なら、十秒くらい猶予があるもんだが……」


 同時撃破が必須なギミック自体は、イノセント・ワールドにおいて少なくはない。ギルド同盟のほとんどのものが戦ったことがあるだろう。

 今回の場合の問題は、二体のエルダーの距離が相当離れているということだ。


「チャットでタイミング自体は合わせるとしても……どっちかが打ち漏らすとヤバいしなぁ」

「こういう時、ダメージが数値的に表現されないというのは不便ですね……」


 さほど離れていないなら、一体をまず総攻撃で仕留め、回復するまでの時間でもう一体を再びの総攻撃で倒せばよい。

 だが、走っても数分かかるほど離れている距離で、ギルド同士の同盟を行うこと前提のボスを二体、まったく同じタイミングで倒すことができるかどうかと言えば……。

 HPをギリギリまで削ればいけなくもないだろうが、それぞれのプレイヤーの攻撃がどの程度ボスにダメージを与えられるかいまいち不透明で危険だ。ドット単位でHPを残そうとしたら、うっかり倒してしまったという話は枚挙に暇がない。

 さらに、ボス同士のHPが同じだとも限らない。このゲームのモンスターには個体差と呼ばれるシステムが存在し、同じモンスターでも大体±10%ステータスに差が存在する。そして個体差はボスクラスモンスターにも存在し、マラソンしてレアアイテムを稼いでいるボスが強くなったり弱くなったりするのである。

 一体しか出現しないのであれば差して気にもならない個体差であるが、こうして同じボスを同時に倒すとなるとこの個体差が厄介になる。最大で20%の差が生まれてしまうのだ。こうなると同時に倒すのも一苦労となる。幸いというべきか、この個体差は全てのステータスに均一に左右するようになっている。これで各ステータスにバラバラに適用されてしまうと、もうわけがわからなくなってしまうところだ。


「ダメージが数字で見えれば、どれくらいHPが残っているのかがわかるんですけれど……」

「個体差がどの程度あるかもよくわからんしなぁ。こういう時にマニュアルというか攻略本が欲しくなる」


 アラーキーはため息を一つつく。

 このゲームを開発している企業はセイクリッド社という会社なのであるが、この会社はイノセント・ワールドの攻略本を発刊することを認めていない。そのため、市場においてイノセント・ワールドの攻略本は存在しないと言っていい。

 ……だが、それは現実世界での話。イノセント・ワールド内だと、普通に攻略本が売っていたりする。つまりゲームの話はゲームの中でしろということなのだろうか。

 インベントリ内の本を格納するページを開きながら、アラーキーは残念そうに呟く。


「正直、ゲームの攻略ってのは手探りでやってナンボって思いが強いんで、攻略本は持ってないんだよなぁ。一冊一冊が妙に高いし」


 攻略本があり、それに頼るのが悪いことだとはアラーキーも思ってはいない。ただ、個人の主義として攻略本に頼りきりになるようなプレイをしたくないのだ。

 そのため、今攻略に窮している。自分一人であればともかく、多くのプレイヤーたちと共に。

 責任のようなものを感じて落ち込むアラーキーの背中を、ミツキが優しく叩いた。


「命がけで入手してきたデータでしょうから、投げ売りはしませんでしょう。それに楽しみ方は人それぞれ。アラーキーさんに文句を言う人はいませんでしょう?」

「ああ、うん……すまないな」


 ミツキのフォローに、アラーキーは申し訳なさそうに呟く。

 ため息をつき、気持ちを切り替えるように努める。ないものは仕方ないし、あったとしても必ず攻略できるわけでもない。大切なのは、何かを間違えても諦めないことだ。


「セードーには向こうを任せると言ったんだ……。そう口にした奴が、不安を抱えてちゃ世話がないよな、うん」


 そうしてアラーキーが顔を上げると、エルダーとの戦いもついに佳境へと突入していた。


「アサルト・タァーックル!!」

「………!!」


 全身鎧(フルプレート)とキグルミのコンビがエルダーに体当たりを仕掛ける。衝撃波エフェクトを伴った一撃が、エルダーの体を突き抜けた。

 悲鳴と共に膝をつくエルダー。その頭上に浮かぶHPバーは、すでに霞んで見えるほどに減少している。


「おっシャーダウンだぁ! やっちまう? ねえやっちまう!?」

「やっちまってどうすんだよ! ジャッキー、エミリー! そこの馬鹿三人押さえておいてくれよ!?」

「任せてくれ」

「はーい、大人しくしようねー?」


 興奮した様子の三人組をジャッキーとエミリーが抑え込んでいる間に、アラーキーはセードーとチャットで連絡を取る。


「セードー! こっちはもうギリギリまで削り終えたぞ! そっちはどうだ!?」

『こちらも今……ああ、待ってくれリュージ。止めを刺されるのはまずい。周りの者たちを止めてくれ』


 向こうもどうやらHPの削り終えたようだ。周りの血気に逸るプレイヤーを宥めつつ、アラーキーとの通信を続ける。






「これであとは止めを刺すだけですが、そちらの準備は?」

『十分だ……と言いたいが、うまくいくかだけが心配でなぁ』


 不安げなアラーキーの声に同意するように、セードーが頷いた。


「そうですね……タイミングが肝要ですが、我々のチャットでうまくゆくのかどうか」

『せめて全周囲チャットの届く距離だったらな……まあ、なるようにしかならんか、うん』


 アラーキーは意を決したように頷いたようだ。チャットから聞こえてくる声にもう不安はなく、強い意志を感じる声が聞こえてきた。


『よし、セードー。タイミングを合わせるぞ。いいな?』

「ええ、では――」

「あ、あの!」


 アラーキーとタイミングを合わせようとしたとき、キキョウが横から声をかける。


「ん、キキョウ?」

「その大役……私に任せてもらえませんか!?」


 キキョウはまっすぐにセードーを見つめ、力強く声を上げる。


「つまり、タイミングを合わせるためのマーカーみたいなものがあるといいんですよね!?」

「あ、ああ……そうだな……ですよね、先生?」

『? なにがだ?』

「あ、すみません」


 セードーは一言謝罪し、キキョウの言っていたことを伝える。

 アラーキーはそれを聞き、同意するように頷いた。


『まあ、そう言うことだが……距離があるから、無理じゃないか? 魔法でもちょっと届かんぞ?』


 アラーキーの言うとおり、普通に走っても数分はかかる位置に二体のエルダーは存在する。これに同時にマーカーとなるようなものを撃ちこむのは、至難の技だろう。

 そんな懸念を、キキョウは自信満々に頷いて振り払って見せる。


「大丈夫です! 私の新しいスキル……アレを使えば!」

「新しいスキル? なんだそれは?」


 キキョウの言葉に、セードーが怪訝そうな顔つきになる。そんな話、聞いてもいなかったのだ。

 そんなセードーに、キキョウは慌てて頭を下げつつ説明した。


「この間、光陰流舞をLvMAXにした後、何度か練習してたら急にスキルブックに出てきて……すごいスキルなんで、皆を驚かせようと思って黙ってたんです。ごめんなさい」

「あ、いや、それはいいのだが……本当に行けるのか?」

「はい! それは大丈夫です!」


 自信満々なキキョウの表情。その中には、自分の案が絶対成功するという確信が見られる。

 ここまで力強く自信を持っているキキョウを、セードーは初めて見た。

 彼女との付き合いもそこそこ長いが、どちらかと言えば人の後ろに立ち、自分は目立たぬよう控えめに行動するような女性だと思っていたが……どうやら、その奥には熱い心が眠っていたようだ。


「……キキョウ、やれるんだな?」

「はい!」

「先生。ここはキキョウにお願いしましょう」

『む? うぅーむん……』


 アラーキーはセードーの言葉に一瞬だけ迷ったように唸り声を上げるが、すぐに頷いた。


『……まあ、いいか! やりたいなら、やらせてやるのが道の先達の務め! なに、しくじっても敵が復活する程度だ! やってみろ!』

「ありがとうございます」


 セードーはアラーキーに礼を言い、キキョウを見る。


「キキョウ、頼むぞ」

「はい! では、私が攻撃したらすぐに仕掛けてください!」

「わかった。皆にはそう伝える」

「お願いします! それでは!」


 セードーの言葉に頷き、キキョウは光陰流舞でその場から消える。


「よし……リュージ! 皆に伝えてくれ! それから、先生も!」


 セードーはすぐさま全軍に、キキョウの言葉を伝えてくれるように伝達した。






 両軍から離れ、エルダー二体を直線で結ぶ出来る位置に、キキョウはワープしてくる。


「よし、ここなら……!」


 キキョウはギリッ……と棍を握りしめ、大きく深呼吸をする。


「スゥー……ハァー……!」


 そして棍を構え、エルダーを睨みつける。エルダーたちは周りに立つプレイヤーたちを倒さんと、その巨斧を振り回している。


「……このゲームがあったから、私は杖術をあきらめなくて済んだ……」


 瞳を閉じ、ここ一ヶ月程度であったことを思い返す。

 初めてのゲームプレイ。多くのフレンドとの出会い。武術家としての鍛錬。

 そして、何よりも替え難い、仲間たちとの出会い。


「……何もできない私じゃ無い……今の、私は……!」


 カッと目を見開き、キキョウは勢いよく飛び上がった。


「みんなのために……!!」


 棍を大きく引き、狙いをつける。

 エルダーの頭が、一直線にむすばれた瞬間、キキョウはそのスキルを解き放った。


「光陰流槍ぉー!!!!」


 瞬間、キキョウの姿が光となり、瞬きの間にエルダーたちの頭を貫いた。

 その姿はさながら光の槍。まっすぐに伸びた光の槍が、エルダー二体の頭を貫通する瞬間を、戦いに参加していたすべてのプレイヤーたちが目撃した。

 その一撃に歓声が上がり、光の槍の美しさに息を止め、誰もが戦いの手を止める。

 だが、その一瞬を見逃すわけにはいかないのだ。同時に倒すべく、キキョウが刻んだマーカーなのだから。


「「今だ!! いけぇぇぇぇぇぇ!!!!」」


 両軍を指揮する二人の男たちの号令に、全プレイヤーたちが一斉に動き出す。

 己の持ちうる最大の攻撃スキルを放ちエルダーを打つ。今見た光の槍にも負けぬよう、己のスキルを解き放つ。


「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」


 全てのプレイヤーたちの全てのスキルがエルダー達へと叩き込まれる。

 エルダーの悲鳴が上がり、そのHPバーの消滅する。

 エルダーたちは同時に膝をつく。彼らが復活する気配は……ない。


―ォ、ォォ……ォォォォ………!―


 か細い遠吠えのような悲鳴を上げ、エルダーの姿が塵と化し、風に吹かれて消えてゆく。

 瞬間、その場にいたすべてのプレイヤーたちの視界に文字が現れた。


〈Mission Complete!! 第一Waveを突破しました、おめでとうございます!〉


 それは、マンスリーイベント内のイベントを攻略した証であった。


「――ィィイヤッタァァァァァァァ!!!」


 誰かが歓声を上げる。次の瞬間には、爆発したかと思うほどに大きな歓声がプレイヤーたちの間から上がる。

 マンスリーイベント最初の関門を、彼らは突破することができたのだ。




なお、キキョウは城門付近に落下した模様。

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