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log80.門番

 緩やかに前線を維持する初心者への幸運(ビギナーズラック)の先陣、アラーキーの腕が勢いよく振るわれる。


「せぇい!!」


 瞬間、ワイヤーナイフが空気を裂く音が響き渡る。そして宙を舞うGオーガソルジャーの生首。

 さらにもう一本のワイヤーが別のGオーガソルジャーの首が吹き飛ぶが、後続のGオーガシールダーにはか細いワイヤーでは通じない。絶鋼黒金の盾は、並みの武器で傷つかないどころかレア武器でも対抗が難しい。

 虚しい金属音が響き渡り、ワイヤーナイフが弾き返された。


「っと!」


 アラーキーは素早くワイヤーを巻き戻すが、Gオーガシールダーは一気にアラーキーに突進する。

 中距離攻撃も可能なワイヤーナイフの弱点は、巻き戻しに若干の隙ができることだ。

 そんな隙をカバーすべく、古めかしいショットガンを構えた少女が前に出る。


「下がって!!」


 少女はアラーキーに向かって叫び、シールダーに向けて引き金を引く。

 マズルフラッシュと共に散弾が飛び出し、シールダーの構えている盾に叩き込まれる。

 凄まじい轟音と共にシールダーの体が揺れるが、盾は壊れない。硬さが自慢の絶鋼黒金、この程度では破壊されないようだ。

 だが、少女の射撃は止まらない。

 ショットガンからひとりでに空薬莢が飛び出し、次弾が装填される。

 少女は全力で反動を抑え込み、二撃目を撃ちこむ。

 再びの轟音。だが、シールダーは動かない。

 薬莢の排出と同時に、少女は三度引き金を引く。

 微かにシールダーの盾が揺れ動く。


「……っ!」


 少女は歯を食いしばり、さらにもう一度引き金を引く。

 シールダーの盾が大きく揺れ動く。さすがのシールダーも、至近距離からのショットガン連射には耐えきれないようだ。

 さらなる一撃を撃ちこむ少女。反動を抑えきれずに少し体が後ろに下がってしまう。

 しかし少女の努力が実り、シールダーの盾が大きく弾かれ、その無防備な体を晒す。


「やった……!」


 少女の顔が綻び、彼女は止めの一撃を打つべくもう一度引き金を引く……。

 が、ショットガンは虚しい金属音を響かせ、ショットガンの弾切れを告げた。

 少女の顔が凍りつくと同時に、凄まじい銃声が鳴り響き、シールダーの体をハチの巣にしてしまった。


「はっはっはっ! 迂闊だぞぉ、サラァ!」

「そうねー。オートショットガンは強力だけど、残弾の把握はガンナーには必須じゃない?」

「うるさぃ軍曹……! うるさいマコォ……!!」


 少女……サラは悔し涙をこらえつつ、必死に己のショットガンをリロードする。

 サラの背後には、右腕がガトリングガンになっている大柄な男と、その隣に立つマコの姿があった。マコの右手には、少し大きめのハンドガンが握られている。

 ショットガンの補充を終えたサラは、キッとマコの方を睨みつけながら大きく吠える。


「大体あんた!! こんな戦場に、そんな小さな銃で来るなんて、舐めてるの!? そんなので戦い抜けると思ってるの!?」

「いいのよ、私は。ハンドガンはサブウェポンだもの」


 マコは涼しい顔でそう嘯きながら、適当なGオーガソルジャーの頭を狙い、引き金を引く。

 三点バーストの軽快な発砲音と共に、Gオーガソルジャーの頭が吹き飛んだ。

 近づくもの皆、ガトリングガンで粉砕している軍曹はマコの射撃を見て、小さく感嘆した。


「おお、お見事! 火力に名高いM93Rモデルなのを差し引いても、天晴だな!」

「ありがと、軍曹。やっぱり銃は火力よねー。いっそ九連装改造したら? そのオート5」

「ほっときなさいよ! あたしはこれでいいの! ブローニングの傑作オートショットが好きなのよぉ!!」


 マコの追い討ちにサラは泣きながら手当たり次第に発砲。次々とGオーガソルジャーの死体を量産し始めた。

 手近なソルジャーの首を跳ね飛ばしながら、アラーキーはサラの暴動に苦笑する。


「おいおい。あんまり無茶してくれるなよ? まだ全員揃い切ってないんだからな?」

「全員揃ってから、一気に城門に突入するんですよね!」


 コータの一撃がゴブリンオーガを打ち倒し、レミの唱えた回復魔法が周囲にいたプレイヤーたちの体力を回復する。


「ヒールウィンド!! ……そう言えば、なんでみんな揃ってから突撃するんですか? 今でも十分戦えていると思うんですけれど……」


 レミは小首を傾げる。

 彼女の言うとおり、現時点でもモンスターたちに押されているわけではない。

 後方で遅れている部隊はもとより、最前線で戦っているアラーキー達も力負けはしていない。アラーキー達のレベルが突出しているのもあるだろうが、ギルド同盟の皆の練度や士気が高いのもその要因だろう。

 突撃してきたGオーガソルジャーに流し斬りを決めたジャッキーが、レミの質問に答えた。


「その質問に答えようか。理由は、焦ってもいいことがないからだね。城砦攻略のマンスリーイベントは七時間しか挑めないが、逆に言えば七時間でも攻略が完了できる難易度でもある。であれば、最初に飛ばし過ぎて後半息切れするよりは、牛歩戦術でも十分体力を温存するのが一番だからだよ」

「いちばん怖いのはー、回復アイテムとか弾薬とかの物資切れだからねー。マジカルカッター!!」


 エミリーが放った虹色のカッターがゴブリンたちの群れをざくざくと切り刻んでゆく。なかなかグロテスクな光景である。


「一応、イベントに臨んでいない間に補充とか補給はできるけど、そういうインターバルはあんまり長くない方がいいでしょっ? イベント期間中は、イベントに集中しなきゃ!」

「この手のイベントやってる時は、街が戦時体制に突入しちまうってのもあるからなぁ。イベント以外やることがあまりないっていうべきだな、うん」


 〈地〉スキルの一つである、岩の杭召喚でゴブリンたちを吹き飛ばすアラーキー。

 返す刀でシールダーの足を斬り裂き、地面に膝をつかせた。

 そこにサラが突撃していった。


「そこだーっ!!」

「あらやだ。膝をついた相手に無慈悲な追い討ち」

「あまり関心せんな、サラ! はっはっはっ!」

「あんたらはどっちの味方なのよ!?」


 シールダーの頭は吹き飛んだが、サラの瞳からは涙が落ちた。

 そんな彼らのやり取りを笑って眺めながら、アラーキーは肩をすくめてみせた。


「まあ、一番の理由はみんなで頑張った方が楽しいからだな、うん!」

「イベントの醍醐味って奴だな」

「この連帯感は、普通にプレイしてるだけじゃ味わえないよねー!」

「そうですね……こういうの、すごく楽しいですよね!」


 アラーキー達の言葉に頷きながら、レミが杖を大きく振るう。

 よく見ると先端が鈍器になっている杖から光が放たれ、辺りにいるプレイヤーたちに防御力アップの補助がかかっていった。


「バリアー! みなさん、頑張ってください!!」

「よっしゃ頑張る!」

「美少女の援護じゃー! 今のおれならエルダードラゴンにだって勝てちゃう!」

「フゥハハーハー! おらおらぁー! 俺様たちのお通りだぁー!!」


 似たり寄ったりな格好をした三人組が、手にした剣を振り回しながら突撃し始める。どうやらレミの援護をいたくお気に召したようだが、彼らの突撃を見てアラーキーが慌てたように呼びかけた。


「お、オイお前ら! あんまり突撃しすぎるなよ、うん! あんまり前に行くと、ゲートキーパーが出るぞ!!」

「ゲートキーパー? というと、ボスですか?」

「そうだな。城砦攻略型に限らないが、イベントに付き物の中ボスだと思ってくれ」


 ジャッキーと背中合わせでゴブリンたちを斬り裂きつつ、コータは三人組の行く先を見守る。


「「「ひゃっはー!!」」」


 レミの防御力アップの補助魔法のおかげで、Gオーガソルジャーの攻撃もものともしない三人組。

 割とHPは危機的に減ってはいるものの、一直線に城門に向けて突撃してゆき。


 ゴゴォーン!!


 という轟音と同時に空高く舞い上がっていった。


「「「ヒギャァー!?」」」

「あ、あぁ!?」

「おっと、危ない! マジカルネットー!」


 エミリーの放った虹色の網が、空中に飛び上がった三人組を危なげなくキャッチする。

 エミリーとレミが三人組を救出している間に、城門前に変化が訪れる。

 轟音と共に盛り上がった地面からは巨大な腕が現れ、さらにその下からしわがれた巨大ゴブリンの顔が現れる。

 地鳴りを起こしながら巨大なゴブリンはゆっくりと立ちあがり、そして咆哮を上げる。


「あ、あれは……!」

「っちゃー。やっぱり、城門への接近がフラグだったかー」


 アラーキーは残念そうな顔になりながら、ワイヤーナイフを構える。

 地面の中から現れた巨大ゴブリン……エルダーゴブリンオーガは手に大きな斧を構え、アラーキー達の前に立ちはだかった。

 その大きさたるや20m級。ギアクエストに出現した、サイクロプスの幼体にも劣らぬほどの大きさである。

 マコはその巨体を見上げて、ポツリとつぶやいた。


「……あの大きさに見合う鎧なんて、誰が繕ったのかしら」

「ツッコミはそこじゃないわよ!?」

「はっはっはっ! いい着眼点だな、マコ君! 悪くない! 悪くないぞぉ!」


 軍曹は呵々大笑しながら、右手のガトリングを大きく構える。


「鎧を着ているということは、地肌を晒している部位にはダメージがしっかり通るということだ! 今の状況、我々に圧倒的に有利!」

「まあ、その通りね。あっさりしすぎてて、面白みがないくらい」

「なによ。何が言いたいのよ」


 手にしたハンドガンをリロードしながら呟くマコ。その声色に含まれた疑心に、サラが過敏に反応した。

 ハンドガンのセレクターを軽くいじりながら、マコはエルダーゴブリンオーガを見上げる。


「いや。仮にもマンスリーイベントの中ボスが、ただ突っ立ってるだけのでくの坊なわけがないかなー、って」

「それっていったいどういう――」


 いうが早いか、エルダーゴブリンオーガが動く。その大きさからは想像できない機敏さでアラーキー達へと詰め寄り、その手にした斧を振り下ろす。


「うぉおおおお!!?? かわせぇぇぇぇぇ!!!」


 慌てて回避行動をとるアラーキーの叫びを聞いて、皆もその場から飛び退く。

 かろうじて直撃は間に合ったが、叩きつけられた瞬間に発生した衝撃波は避けきれない。

 斧の直撃地点から中心に周囲に広がっていった衝撃波が、アラーキー達の体を吹き飛ばしてゆく。


「ぬぉぉぉぉ!!??」

「きゃぁぁぁぁ!!」


 悲鳴が上がり、プレイヤーたちのHPがごっそり持っていかれる。

 ワイヤーナイフを地面に突き刺し、何とか持ち直したアラーキーは頭を振りながら周囲チャットで皆に呼び掛けた。


「お、おぉう……。皆無事か!?」

「な、なんとか!」

「ぐへぇ……」


 返ってきた返答の数を数え、アラーキーはほっと一息つく。今の一撃で死に戻った者たちはないようだ。


「やれやれ……っとぉ!!」


 再び迫るエルダーゴブリンオーガの一撃に、アラーキーは地面へと潜りこむことで対抗。

 〈地〉属性スキルの一つ“スケープトンネル”。地面へと潜ることで、あらゆる攻撃を回避することができるスキルだ。消費の重さと、習得時期の遅さが玉に傷と言われている。

 エルダーゴブリンオーガから少し離れた場所から顔をだし、アラーキーは皆に叫ぶ。


「出ちまったもんはしょーがない!! みんなぁ! 気合入れていくぞぉ!」

「「「「「おおぉー!!」」」」」


 アラーキーの声に、鬨の声が返ってくる。

 プレイヤーたちは己の武器を手に、エルダーゴブリンオーガへと立ち向かっていった。




なお、三人組の名前は安藤、尾堂、椎本の模様。

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