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log60.特異属性

 いつものように、ワープ方式でミッドガルドへと到着した闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの面々。

 ぞろぞろと連れ立ってミッドガルドの市街を歩きながら、セードーは小首を傾げた。


「……で、どこでその問題のイベントを起こすのだ?」

「あー、それなんやけどなぁ」


 その言葉に、ウォルフはやや気まずそうに頬を掻きながら答える。


「イノセント・ワールドのクエストっちゅーのは基本的に隠しイベントやから、一から地道に情報を集めていかな、解禁されへんねん……」

「え、隠し……? ご飯を食べるためのクエストとか、結構その辺で話聞きますよ?」


 ウォルフの言葉に、キキョウは驚く。

 ハチドリのふわふわオムレツを食べることができたクエストを始め、数多くの珍料理名料理イベントをこなしてきたが、大抵のクエストは人づてに聞いて発生させてきたのだ。今回の属性解放イベントも、それに類似するものだとキキョウは考えている。

 そんな彼女に、ウォルフは指を立てながら答えた。


「逆に言うとやな、その話を聞かれへんかったらクエストもこなされへんかったやろ?」

「……言われてみれば、そうです」

「うんうん、その通りや。隠しいうても、何もフラグを建てなこなせへんいうわけやないんや。ただ、ゲームとして表示されとるかどうか、っちゅー意味やな」

「このゲーム、イベントがこなせるかどうかの表示ってのがわかりづれぇからなー。フェンリルみたいなNPCギルドで発生させられるクエスト以外って、意外と気が付きづらいんだよ。どんなクエストやイベントがあるかって、基本的にNPCからの噂話が元になるからよ」

「そう言う情報を地道に集めるのも、このゲームの面白さの一つよねぇ」

「うむ……情報もまた力。己で学ぶことも、一つの修練である!!」

「……つまり、属性解放のランダムイベントも、隠されたイベントの一つだと」

「うむ! そういうことであるな!」


 セードーの言葉に恥ずかしげもなく頷くタイガー。

 早い話が、情報ゼロの状態から始める必要があるというわけだ。攻略サイトか何かを覗けばわかるだろうが、今から行くのも興ざめだろう。

 セードーは小さく唸りながらも、とりあえず目的地を定めることにする。指針もなく動くよりは、どこでも目標を決めておくべきだろう。


「ではとりあえず……大聖堂を目指そうか。ギアイベントもあそこで起きた。属性解放がギアと同種の物なら、あそこで発生するイベントかもしれん」

「せやなぁ。他にもシステム関連のイベントがおこるさかい、今回もまずは大聖堂ってパターンかもしれへんな」


 ウォルフは同意し、さらに他の面々からも否定の意見が上がらなかったため、彼らはとりあえず大聖堂へと向かった。

 道中、タイガーが熱狂的なプロレスファンに見つかり、その歓声に答えてポーズを撮りはじめたのを引きずる必要が出たりしたが、とりあえずフェンリルへと到達することに成功した。

 とりあえず大聖堂へ向かうために砦に入ると、いつものようにコータに引きずられるリュージの姿があった。


「おう、二人とも。元気そうで何よりだぜ!」

「……そちらも相変わらずそうで何よりだ」

「あはは……」


 どうせいつものようにソフィアの太ももへと飛び付いたのだろう。一時期彼らと行動していたセードーの呆れたような視線を受け、コータは恥ずかしそうに誤魔化し笑いをした。

 二人はセードーと共にいるメンバーへと視線を向け、その中にいるアレックス・タイガーの存在に驚いたりしながらも、セードー達が元気にやっているのを知って安堵の息をついた。


「そっか、二人とも、属性解放できるくらいのレベルになったんだね」

「別れたのはしばらく前だけど、馴染めてるようで何よりだぜ。これでまた二人ぼっちに戻ってたら、さすがに責任感じそうだし」

「はい。その節は大変お世話になりました」

「いや、いいってことよ」


 ぺこりと頭を下げるキキョウに鷹揚に手を振りながら、リュージはセードー達、そしてその後ろで興味深そうにこちらを見る闘者組合ギルド・オブ・ファイターズを見て、小さく頷いた。


「で、このレベルでここにいるってことは……誰かがランダム解放イベント起こすってことか?」

「誰かっちゅーか、そこの二人がやな。属性が決められへんのやと」

「……そうか。まあ、特に希望がないとなかなか決め辛いもんだしな」


 ウォルフの言葉に、リュージは納得したような呆れたような表情で頷いた。

 二人が武術一直線なのを知っているので、なんとなく予想がついたのかもしれない。


「えー? でもさ、ランダム解放なら〈光〉属性とかにも目覚められるじゃないか。誰も持ってない属性に目覚めるって、ロマンじゃないかな?」

「バカ野郎。誰もが皆、お前みたいに欲しいものを運だけで手に入れられるわけじゃねぇんだよ。なんで、トライ&エラー繰り返さないで〈光〉属性引き当てるかね、お前は……」

「〈光〉属性……ですか?」


 リュージとコータの会話に出てきた属性に、キキョウは不思議そうに首を傾げた。


「属性って、四つじゃなかったですっけ? 〈光〉属性って、なんですか?」

「ああ、そう言えばウォルフ君の説明にはなかったわよね。属性には基本属性と呼ばれる四属性と、特異属性と呼ばれる三属性があるの」


 キキョウの疑問に答えたのはミツキだ。ミツキは指を一本立てながら、キキョウに説明し始めた。


「〈光〉、〈闇〉、〈無〉……この三つの属性を、特異属性と呼んでいて、この三つは属性解放で入手できる属性としてはかなり強力なの」

「他四つと違って、運がなけりゃ入手できないだけあってな。基本属性と比べて、かなり特殊なスキルが入手できるしな」


 ミツキの説明を補足するようにリュージは頷き、それから半目で隣に立っているコータを指差した。


「そしてこの男とこいつの彼女は、揃って狙っていた〈光〉属性を一発で引き当てやがったのさ。何の裏工作もなしにな」

「いや、たまたまでしょ? ランダム属性は七つの属性から選ばれるから、七分の一の確率だし……」

「いやそれはないやろ……。どんだけ確率に偏りがあると思うてるねん……」

「さらにいや、確率七分の一でも、二人が同時に覚醒する確率って四十九分の一じゃね?」


 大したことをしていないとでも言いたげなコータに、ウォルフとサンはビシリとツッコミを入れる。

 実際の確率はともかく、ランダムで選ばれるはずの物を二人が同時に引き当てることは普通はあるまい。

 周囲の反応を受けて、コータは不満そうに頬を膨らませた。


「そりゃあ、狙いはしたけどさ……なんでみんなして僕がおかしいみたいに言うのさ」

「おかしいのはお前じゃなくてお前の運だけどな……まあ、それはいいや。ランダム属性解放イベントには、一応メリットがあるってことだ。もちろん、必ず選ばれるわけじゃない以上、メリットと言えるかどうかは怪しいけどな」

「興味深いが……狙って出せん以上、無視して構わんだろうなぁ」

「でも、どんなのかは興味あります。〈光〉属性って、どんな属性なんですか?」


 キキョウの質問に、コータは嬉しそうに頷きながら自身の属性を語り始めた。


「えーっとね、〈光〉属性は、遠距離攻撃に特化してる感じだね。光で攻撃する感じだから、遠いところにも一瞬で攻撃が届くんだよ! あと自分が光になってワープしたりっていうのもあるね!」

「〈風〉属性より速度に特化してる印象かねぇ。ステータスが強化されない分、スキルそのものが強力って感じだ」

「なんや、ステータスは強化されへんのかいな」

「されてねぇな、今は。まあ、されてなくても問題ないくらい強力なんだよ。光を浴びてるとHPとMPがすごい勢いで自動回復する“光合成”なんてスキルがあるんだぜ?」

「植物か何かかよ、おい……」


 エヘンと胸を張るコータを、化け物か何かを見るような眼差しで見やるサン。

 少し聞いただけでも、基本属性とは一線を画す属性のようだ。

 とはいえ、運次第での解放となればあまり関係はないだろう。そう考えてセードーはリュージにイベントのことを聞いてみることにした。


「……で、だ。そのランダム解放イベント……それはここで起こすので間違いないのだろうか?」

「ん、ああ。フェンリルの大聖堂で間違いねぇよ。そこに行って、エール司祭長ちゃんに話を聞いてみな。そうすりゃイベントが進むからよ」

「そうか。すまないな、リュージ」

「気にすんなって。イベント終ったら、どんな属性が出たか教えてくれよな」

「じゃあね、二人とも」

「ええ、また会いましょう」


 コータとリュージの二人は、別れの挨拶を告げると、そのままフェンリルを出て行った。

 その背中を見つめて、タイガーは嬉しそうに頷き呟いた。


「フゥム。セードー達も中々顔が広いでなないか。友は多ければ多いほど良いものだ」

「友……か」


 セードーは去っていったリュージの背中を見つめながら、小さく呟く。


「あちらがそう思ってくれているかどうかは、わからんがな……」


 小さな、しかしはっきりとした不安の込められたセードーのつぶやき。

 自身が普通とは違う。その自覚があるからこそ呟かれたその言葉を聞いて、タイガーはそれを吹き飛ばすように豪快に笑った。


「ハッハッハッ! 君がそう思わずとも、彼はそう思っているだろう! 彼はそう言う男だからな!」

「ん? なんやおっさん、今のあんちゃんと知り合いかいな」

「うむ、知っているというかなんというべきか」


 まるでリュージを知っているかのようなタイガーの言葉に首を傾げるウォルフ。

 タイガーは顎髭を撫でてしばし唸るが、すぐに首を横に振った。


「――機会があれば聞いてみるがよい。彼なら、すぐに語ってくれるだろうからな」

「ふーん。まあ、ええけど。とりあえず、大聖堂やんな?」

「うむ、そうだな……」


 セードーは小さく頷き、それから皆に背を向け先を進む。

 その背中には、先ほど口にした不安が浮かんでいるように、キキョウには見えた。


「セードーさん……」

「……まあ、色々あったんじゃね? セードーにもさ」


 キキョウの隣に立ち、サンは慰めるように彼女の肩を叩いた。


「そのうち聞かせてもらえるといいな」

「……はい、そうですね」


 彼女の言葉にキキョウは頷き、セードーを追いかける。

 なにはなくとも、まずはランダム解放イベントをこなさねば。




なお、リュージの罪は「婦女子(ソフィア)のお尻に後ろから抱き付いた」罪の模様。

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