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log54.属性解放

「――で、何の話であったか」

「あれやあれ。属性解放の話や」


 その後、修羅と化したウォルフを割と本気でセードーが鎮圧。女子チームがお茶会を準備する間の出来事ではあったが、決闘モードだったのでウォルフは一回リスポン回数が増えることとなった。

 一度復活して頭が冷えたウォルフが大人しく席に着くのを待ってから、セードーは言葉を続けた。


「そう、それだ。ウォルフ、属性解放にはどのような種類があるのだ?」

「属性解放……ですか?」


 外でサンたちの着せ替え人形代わりにされていたキキョウは、言葉の意味が解らず首を傾げる。

 そんなキキョウに、ミツキは柔らかく微笑みながら説明してやる。


「属性解放はLv30になったら解禁されるシステムで、キャラクターのスキルを増やしたり、元々持ってるスキルを強化したりできるシステムのことよ。新しく習得したスキルは〈火〉〈水〉〈地〉〈風〉の基本四属性の効果が付くから、属性解放って呼ばれているの」

「プレイヤーにとっては、ひとまずの目標だよなー。ここまでくればとりあえずクリアできるらしいし。まあ、こっから先が相当長いってのもあるんだろうけどさ」

「ほへー、そうなのですかー」


 ポリポリとせんべいを齧るキキョウ。

 セードーはお茶を啜りながら、ウォルフを見やる。


「確かウォルフが〈風〉だったな。DEXに補正がかかり、スキルが全体的に素早いのが特徴だったか」

「せやで。んで、ミツキさんが〈水〉や」

「ウフフ。ご紹介にあずかったので……アクアボールっ」


 ミツキがスキルの名を呟くと同時に、彼女の手のひらの間に一つの水球が現れる。

 渦巻く水のようなエフェクトから水球は、彼女の手から離れると軽やかに弾みながらテーブルの上を転がっていった。


「おお、水が形を成して……」

「わぁー」


 興味深そうに水球を見つめているセードーの前で、恐る恐るといった様子でキキョウがその水球に触れる。

 彼女の指が水球に触れるか触れないか……といったところで水球はぱしゃんと音を立てて破裂してしまう。


「あっ」


 驚いたキキョウは慌てておしぼりで水球の破裂した部分を拭おうとするが、テーブルの上に水濡れの後はなかった。


「……あ、あれ?」


 思わずまじまじと見つめてしまうキキョウを、ミツキは少しおかしそうに見やった。


「落ち着いて、キキョウちゃん。今のはスキルで出した水だから、街の中の物に影響を及ぼしたりしないわ」

「あ、そうなんですか……」

「街の中の物に影響を及ぼさないということは、今のは攻撃系のスキルなのですか?」

「ええ、その通り。本来の使い方としては、モンスターの頭に設置して窒息を狙うんだけれど、私は直接投げるわねぇ」


 ミツキはにこやかに言いながら、軽く腕をスイングさせる。

 唸りを上げる腕を見ながら、ミツキはにこやかにこう告げた。


「あれくらいの水玉なら、思いっきり投げて木を折る位はできるし」

「ミツキさん、今ので岩砕いたことあるやないですか……」

「あれはちょっと信じがたいよな……。どうやるんだよ……」

「……まあ、速度さえあれば水は鉄さえ斬り裂くからな。なくはない話だろう」

「ミツキさんすごいです……!」


 ……事実はどうあれ、ミツキは自らの属性を有効活用しているようであった。


「〈水〉は、攻撃や防御はあまり得意な属性ではないけれど、代わりに味方の補助や回復といった戦闘支援が得意なの。直接的にではなく、間接的に戦闘に貢献できる属性ね」

「ステータスはどれに補正がかかるのですか?」

「んー。ステータス的には……INTね。これが上がれば、補助スキルや回復スキルにボーナスが付くから、〈水〉は魔法使い系にお勧めの属性ね」


 にこやかに笑うミツキは、確かに見た目は巫女系の衣装。何も知れなければ補助系魔法使いに見えないこともないだろう。

 実際のところは、バリバリ前に出てゆく肉体派巫女であるが。

 うっかりするとそう口に出してしまいそうなセードーであるが、数日前のウォルフたちの惨状を思いだし、ごまかすように咳払いをする。


「……それで、残りの属性は〈火〉と〈地〉……だったか?」

「ああ、せやな。〈地〉ぃはタイガーのおっさんで、〈火〉ぃはサンが狙っとる属性やな」

「おう! 〈火〉属性は、STR強化型! イメージ通り、攻めて攻めて攻めまくる属性だぜ!!」


 グッとサンは拳を握り、テーブルの上に身を乗り出した。


「魔法使い系じゃないと、初めはスキル強化ばっかりになっちまうけど、それでもつえぇーんだぜ!? 殴った先が爆発したり、蹴った先が爆発したり! 後、モンスターに延焼ダメージ与え続けられるから、火力が低くても安心、って仕様だ! まあ、その分燃費が悪いんだけどさ……まあ、その辺は気合でカバーだ!」

「おう、できるもんならしてみぃ。MPが底尽きてモンスターのど真ん中に放り出されとっても知らんぞワイは」


 まさに炎のように叫ぶサンを、涼やかな眼差しで見やるウォルフ。

 ふむと一つ頷いて、セードーはミツキにもう一つの属性について問いかけた。


「〈火〉に関しては理解した。では、〈地〉は?」

「〈地〉属性は、うちのギルドだとGMが持っているわね。ステータス補正はCONにかかる、自己強化系の属性よ。攻撃力や防御力はもちろん、速度も強化できるから、攻撃系スキルを使用しないのなら、この属性が一押しね」

「我々のような者たちはともかく、他に攻撃スキルが嫌だという人間がいるのですか?」

「いるねん、それが。スキル後の硬直時間がいややいうて、武器での攻撃一筋なんやて」

「いるんですねー、やっぱり……」


 このゲームの攻撃スキルにはクールタイムとは別に、特に威力の大きなものに関してはスキル発動後に一定の硬直時間が設けられている。と言っても、時間にして一秒程度なのであるが。

 だが、その一秒が嫌で武器攻撃に特化しているもの、というのもいるということだ。


「他にも属性は色々あるんやけど……まあ、基本は四つやな。属性解放イベントは、この四つの内の一つから属性を選ぶところから始まるんや」

「なるほど……それぞれの属性を選ぶのは、どうするのだ?」

「ミッドガルドを中心とした、四方に町があるでしょう? それぞれの街がそれぞれの属性を象徴していて、その町でイベントを発生させることで、各属性を開放することができるの。

「あたしの場合は、北の方にあるニダベリルだな。鉱山の街だけど、あそこ火山もあるらしいぜ!」

「ふむふむ、なるほど」

「属性解放かぁー」


 キキョウがおせんべいを齧りつつ、ぼんやりと上を見上げる。

 小さく眉根を寄せて唸る彼女には、強い迷いが見て取れた。


「んー……四つもあると、どれを選んでいいか迷ってしまいます」

「すべてに長所短所はあろう。それを吟味し、自らが使用する属性を選ぶというわけだが……属性の変更は後から可能なのか?」

「課金でやけど、一応可能やで? 結構かかるんで、お勧めはせぇへんけど」

「そうか……」


 ちなみに金額としては3000円程度となる。学生からしてみれば、若干躊躇してしまう額といったところだろうか。


「課金は……あまりしたくはないな。金がないというのもあるが……言葉にしづらいが、金を使ってしまうと何かが壊れる気がする」

「ああ、なんやわかる気ぃすんなぁ。タガが外れるいうか、現実に引き戻される気がするんよなぁ」


 セードーの言葉に、ウォルフが同意するように頷く。

 一度課金を始め、湯水のように金を使い、そしてふと我に返ったときに去来する虚しさは、何とも言い知れないものを感じる。彼らはそれを、なんとなく察しているのだろう。

 そんな彼らの言葉に、サンが軽く首を傾げた。


「そうか? あたしは逆に、ちょっとくらい金払ってやらないとって気がするけどなー」

「そうねー。このゲーム楽しいから、少しでも長く続いてほしいし……お布施、っていうと少しおかしいけれど、運営さんにお金を落とすくらいはしていい気がするわね」


 ゲームへの課金はそのゲームの寿命を延ばすためのもの、という考え方だろう。プレイヤーたちが遊ぶためのゲームも、運営側から見れば売り上げを伸ばすための道具なのだ。

 であれば、長くゲームを遊ぶためにも、少しの課金はしておくべきという考え方もあるわけだ。

 とはいえ、この手の話題は議論が平行線になりがちである。そもそも、金銭に対する価値観の違いなのだ。リアルの生活が変わらない限り、この手の主張が変わることはない。


「……まあ、課金については置いておこう。別に必須ではないのだし」

「そ、そうですね。そうしましょう」


 なんとなく凍ってしまった場の空気をほぐすように、キキョウはパンと手を打って周りに問いかけた。


「それで、私にお勧めの属性ってなんでしょうか? ぜひ、参考意見を聞かせてほしいんですけれど」

「んー。キキョウやったら、〈風〉なんちゃうか? 威力より手数やろ。一撃が軽いもんが多いし」


 手数で攻めるウォルフの意見に、サンは異を唱えた。


「いや、威力が足りねぇってわかってんだから、ここは〈火〉じゃねぇの? キキョウの手数でそのまま火力が上がったら最強だろ!」


 グッと拳を握るサンの意見を聞いて、ミツキが考えるように俯く。


「それだと武器の強度が気になるわねー。棒系武器自体があまり強度が高くないし……芯棍が安いとはいえ、大事にすべきだわ。〈地〉という選択肢もありじゃないかしら? 〈地〉のスキルに、武器強化もあることだし」


 三者三様の意見を受け、キキョウは困り果てたように眉根を寄せてしまう。


「……やっぱり、それぞれに長所があるんですねー……」

「〈水〉であれば、補助に回る形になるか。それはそれでありかもしれんが……」


 セードーが唸り声を上げる。

 〈火〉〈水〉〈地〉〈風〉……。どの属性も、プラスにこそなれ決してマイナスにはならないということなのだろう。だからこそ、まったく違う意見が出てくるのだ。

 自身もまた迷っているらしいセードーが、乱暴に頭を掻きながらポツリと呟いた。


「……いっそ、どれか一つランダムに選び、出てきた属性を極めてみるというのもありかもしれんな。合う合わんくらいはあろうが、苦手をなくすのもまた修行だろう」

「そんな乱暴な……」


 投げやりにも聞こえてくるセードーの言葉に、キキョウが苦笑する。

 だが、ウォルフは笑うことなくセードーを見つめてこう言った。


「なんや、ランダムでええんか? せやったら、そう言うイベントもあるで?」

「……あるのか、ランダム解放。冗談だったのだが」


 瓢箪から駒ではないが、まさかあるとも思っていなかった。

 セードーに対しウォルフは頷いてみせる。


「あるねん、それが。これはミッドガルドからいける、ちぃと特殊な地域で起こすイベントやねんけど、ランダムだけにまあ運任せでなぁ。たまぁにええことも起こる」

「いいこと、ですか?」

「せや。レア属性っちゅーか、そう言うのんを引けることがあるねん。まあ、確率1%未満とか言われとるから、それ狙いでやるんはお勧めできへんけどな」


 ウォルフはそう言って肩を竦める。

 ランダムということは自身で属性を選べなくなるわけであるが……選択肢の一つにはなるだろう。決まらなければ、いっそ運任せもありかもしれない。


「ちなみにランダム解放のデメリットは?」

「自分の欲しい属性に必ずなるとは限らへん、ってことくらいやな」

「普通の人は、自分のなりたい属性のイベントが起こせる地域に赴くから、デメリットらしいデメリットはないと考えていいわよ」


 二人の説明を受け、セードーとキキョウは顔を見合わせる。


「……まあ、覚えてはおこう。まずはレベルを上げねばならんし」

「そうですね……。レベルを上げている間に、考えておきましょうか」

「うっし! だったらレベル上げだな! 狩りに行こうぜ、狩りに!」


 サンはそう言って立ち上がり、キキョウの手を取る。


「さあ行こうぜ! キキョウとセードーの、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズとしての初陣だぜー!」

「わわっ、引っ張らないでください!?」

「おうおう、後輩ができたからて嬉しそうやなぁ」

「フフ、いいじゃない別に」

「二人とも、少し落ち着いてくれ」


 パタパタと外に向かって駆け出す少女たちを追い、セードー達も立ち上がる。

 そうして後には、ガランとした寂れたバーだけが残されるのであった。




なお、タイガーさんは仕事で来れない模様。

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