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log21.イベント序盤

 今回のマンスリーイベントである、妖精竜(フェアリードラゴン)の捕獲の舞台となっている妖精島(フェアリーアイランド)は、複数の空を飛ぶ島の群れからなる、浮遊島群である。

 飛んでいる原理の詳細は不明であるが、一説によるとかなり強力な精霊の力が作用しているためである、と言われている。

 そのためか、この島に出現するモンスターは一般的な動物型、あるいは亜人型ではなく。


「気ぃ付けろセードー! サラマンドは火属性! 下手に触ると、燃えちまうぞ!」

「了解しました」


 非人型である、精霊タイプが主であるようだ。

 出現した炎の塊を前に、セードーは軽く構えを取る。

 炎の塊の中心には、核となるであろう水晶の結晶の姿が見える。

 現れた炎の塊…モンスター・サラマンドはゆらりと揺らめき、その身を小さな火の玉として飛ばしてきた。


「コォォォ……!」


剛体法(アーマー)練気法(ブースト)を発動するセードー。

 その身に迫る火の玉を、彼は素手で叩き落とした。


「シッ!!」


 素早く振るわれる彼の腕が、火の球と一瞬交差しその姿をあっという間に吹き散らす。


「おいおい、素手で火の球叩き落とすなよ……」

「矢に比べれば、この程度は軽いものです。それに……」


 セードーは腰を落とし、拳を引く。

 サラマンドとの距離は3メートル程度。敵はセードーの様子を窺うように、ゆらりと揺らめいている。


「………」


 慎重に間合いを測るセードー

 やがて、こちらへと微かに近づいてきたサラマンドに向けて、発気と共に拳を振り抜く。


衝撃砲(インパクトカノン)ッ!!」


 その名の通り、衝撃が砲か何かのように打ち出され、サラマンドが纏っている炎が一瞬消える。

 その隙を逃さず、セードーは一気に踏み込み真っ向からサラマンドの水晶核を叩き割った。


「チェイリャァ!!」

「おぉう、新スキルか」


 両手にナイフを構えながら、アラーキーはセードーの新たなスキルに目を剥く。

 セードーは頷きながら、アラーキーに答えた。


「レベル15で解禁されました衝撃砲(インパクトカノン)です。遠距離攻撃……と呼ぶにはいささか飛距離が足りませんが、至近で打ち込めばかなり強力です」

「ハハハ、お前にも主戦力級のスキルが出たか」


 アラーキーは笑いながら、新たなサラマンドと相対する。


「お前さんの場合、ゲームスキルよりもリアルスキル使った方が強そうだがな」

「恐縮です」


 セードーは答えながら、新たに現れたサラマンドに蹴りをくれてやる。

 “延焼”の状態異常が移るより速く蹴り足を引くセードーの技術に苦笑しながら、アラーキーは両手のナイフを、ぱっと離した。


「まあ、羨ましいがないものねだりだ」


 武器を捨てたようにしか見えないアラーキーを前に、サラマンドはその姿を嘲る様に強く燃え上がる。

 そんなサラマンドの姿を見て、アラーキーはニヤリと笑う。


「先生は先生にできることをしますかねぇ!」


 そして勢いよく腕を振り上げ、サラマンドの水晶核を一閃し、一撃で割り切った。

 アラーキーの手には何か握られているわけでも、何かを投げつけたわけでもない……いや。

 よく見れば、陽光を受けて何かが輝いていた。

 アラーキーの手から伸びたそれは極細のワイヤーだった。そのワイヤーの先には先ほど彼が落としたナイフが括りつけられており、それがサラマンドの水晶核を断ち割ったのだ。


「面白い使い方ですね、先生」

「ワハハハ、ワイヤードナイフ! 盗賊にとって必修のワイヤーアクションと、火力の低いナイフ系武器を組み合わせた、自己流武器よ!」


 アラーキーは笑い声を上げながら、ワイヤードナイフを振り回す。

 風切り音を上げ回るナイフは鎖鎌か何かのようにも見えた。


「ナイフの弱点はリーチだが、こいつはそれを補うためのものよ! こうしてナイフとワイヤーを繋いでおけば、投げても回収できるし、ワイヤーで敵を巻き取ることも可能!」


 そう口にしながら、アラーキーは新たに現れたサラマンドへとワイヤーナイフを振るう。

 一本はまっすぐ飛んでいき水晶核を穿つ。そしてもう一本はナイフではなくワイヤーでサラマンドの水晶核を斬り裂いた。


「この極細ワイヤー自体の火力も侮れんぞ!? 盗賊だからって、侮るなー!」

「楽しそうで何よりです」


 ご機嫌のままサラマンドに襲い掛かるアラーキーにそう言いながら、セードーはキキョウの姿を探す。


「さて、キキョウは……」


 果たしてキキョウは、一人でサラマンドと相対していた。

 数は三体。対して彼女が手にしているのは、何の変哲もない木の棒。

 最悪燃やされて終わってしまうが……。


「ヤッ!!」


 キキョウは手の中で棒を回転させながらサラマンドの水晶核へと棍を打ち込む。

 渦巻く旋風衝棍(ショックウェイブ)はサラマンドの炎を吹き散らし、そしてその水晶核を打ち砕いた。

 同胞がやられたのを見てか、他のサラマンドの姿が強く輝く。

 まるで活性化したかのように激しく動き始め、キキョウの周囲をグルグルと回り出した。


「クッ……!」


 キキョウは自らの周りを回るサラマンドを見回し、そして小さく呻き声を上げる。

 やがてサラマンドが描く軌跡は飴か何かのように溶けあい混ざり、一本の輪のようにつながる。

 それに合わせて彼女の周囲の温度が上がり、足元の草に火が付き燃え上がり始める。

 何らかの大技が発動される気配に、キキョウは慌てず騒がず棍を振り上げ。


「ヤァァァァ!!」


 そして勢いよく地面へと叩き付ける。

 瞬間、棍を叩き付けた箇所を中心に、爆発が巻き起こる。

 荒れ狂う衝撃波はキキョウの周囲を回っていたサラマンドを吹き飛ばし、その一撃で二体のサラマンドを撃破してしまった。


「………フゥ」


 キキョウは小さくため息を突き、顔を上げる。

 と、そんな彼女の手の中で棍がボロボロと音を立てて崩れてしまった。


「あ、やっちゃった……」

「メガクラッシュ、だったか? 一定確率で武器が壊れる代わり、無属性の広範囲超威力の爆発を起こすスキル」

「はい……。まだ1しか振ってませんから、武器の破損率が50%なんですよね……」


 あっという間に灰へと還ってしまった棍を見下ろし、キキョウは悲しげにため息を突いた。


「でも、レベルを1上げるのに5もSP使っちゃうんですよね……」

「その分威力は高いが……まあ、キキョウの場合は武器自体が手軽に手に入るわけだし、そこまで気にする必要もないだろう?」

「そうですね……はぁ」


 小さく呟きながら新たな棍を取り出すキキョウの肩を叩きながら、セードーはアラーキーへと向き直る。


「こちらは終わりましたが、そちらは?」

「おぅ、今終ったとこだ」


 アラーキーはワイヤーを機械で巻き取り回収し、ナイフをしまう。

 彼の背後では、ちょうどサラマンドが声もなく消滅するところであった。


「しっかし、ちょっと歩いたらサラマンドが現れるか……。この島、結構難易度ハードかもしれんなぁ」

「そうなのですか?」


 セードーは軽く首を傾げる。

 少なくとも今のサラマンドとの戦いでは不足なく戦えたと自負できるが。

 ……そんなセードーの内心を表情から読み取ったらしいアラーキーは苦笑した。


「……サラマンドみたいな、水晶核を持つ精霊タイプの敵ってのは、基本的に状態異常を得意とするのさ。さっきのサラマンドは火の属性で、触れると“延焼”が起きるし、アクアンって水属性の精霊は触れると“衰弱”の状態異常が起こる。接近戦しか挑めないと、状態異常回復のためのポーションがいくらあっても足りないのさ」

「そうなのですか」


 セードーはアラーキーの言葉に曖昧に頷く。が、いまいち実感はわかなかった。


「ですが俺は連中を拳で倒せますが」

「そりゃお前さんがおかしいんだ。状態異常が移る前に体を離すなんて超反応、普通の人間はできん」


 少なくとも一体のサラマンドを蹴り砕いたセードーを、アラーキーは化け物を見るような目で見つめる。

 サラマンドをはじめとする水晶核精霊に触れると状態異常が発生する理由は、一定時間その体に触れることが条件となる。条件はモンスターのレベルにもよるが、大体0.5秒くらいの接触で状態異常となる。

 水晶核を砕いて完全に消滅するまではその判定が残るので、普通のプレイヤーが武器で攻撃して水晶核を砕くと、大抵の場合は状態異常が発生する。そのため、水晶核タイプの精霊を倒すときは遠距離攻撃を仕掛けるか、水晶核の周りを構成している属性体を吹き散らせるスキルを使用するべきだと言われている。


「……だってのに、お前さんは普通にサラマンド蹴り砕くし。どうやったんだアレ」

「どう、と言われても……普通に蹴り抜いたとしか」


 アラーキーの言葉に、セードーは困惑しながらも説明を試みる。

 ……が、自分でもどう説明してよいのかわからないのか、両手を軽く広げ、何かお椀を持つような体勢で口を開いた。


「こう……蹴るというよりは鞭を振るうとでも言いますか……」

「あー、うん。すまんかった。無理に説明してくれんでもいいよ。たぶん理解できそうにないし」


 説明に窮する教え子を見て、アラーキーは申し訳なさそうに言ってその説明を遮る。


(ある意味で、システムの裏を突いたわけだ……。0.5秒で状態異常になるなら、それ未満で倒しきればいいわけだし)


 もちろん、誰でもできるわけではない。ある程度極まった技量をもったプレイヤーでなければ、狙ってできるようなことでもないだろう。


(まあ、チートしてるわけじゃないし、かまわんよな、うん。そもそもチート使ってるなら、速攻でBANされるだろうし)


 そう心でつぶやきながら自分を納得させ、アラーキーは地図を広げる。


「さて、ゲートを離れて即行でエンカウントしたわけだが……まずどこ行くよ?」

「そうですね……我々の目的は妖精竜(フェアリードラゴン)の子供なわけですし、そのありそうな場所を探すべきでしょうか」

「でもそれってどこでしょうか……」


 キキョウは呟きながら、アラーキーの手元の地図を覗き込んだ。


妖精竜(フェアリードラゴン)が飛んでるのは時折見えますけど……こっちに近づいてくる気配はないですし……」


 そう言って空を見上げると、ゆっくりとした速度でかなり上の方を飛行する妖精竜(フェアリードラゴン)の姿が見える。

 この妖精島(フェアリーアイランド)自体がかなりの高度で飛んでいるはずだが、それを感じさせない優雅さだ。

 キキョウと同じように妖精竜(フェアリードラゴン)を見上げながら、セードーはポツリとつぶやく。


「あれを捕獲するのがイベントの本筋なわけですが……いったいどうするのでしょうか。まさかぼーっと待っているだけで降りてくるわけもないでしょうし」

「うーん。まあ、ぶっちゃけレアエネミーとのエンカウント自体相当の運が必要だからなぁ。今回のイベントも案外そんな感じかもしれんな。もちろん、妖精竜(フェアリードラゴン)を呼び寄せる何か、アイテムや行動みたいなものはあるんだろうけどな」


 アラーキーは過去のイベントを経験してきた経験からそう口にする。

 三人はしばし妖精竜(フェアリードラゴン)の姿を見上げていたが、それでは埒が明かないとアラーキーは地図を丸めて懐に収めた。


「まあ、イベントなんて案外行き当たりばったりでもどうにかなるもんだ。親切なNPCが出てきてヒントをくれたり、露骨なアイテムがその辺に落ちてたり」

「そんなもんなのですか」

「何だか不安です……」


 自分を疑わしい眼差しで見つめてくる初心者二人の視線を交わしながら、アラーキーは先導するように歩き始めた。


「……というわけでまずは情報を集めるぞ! 具体的には島を見て回るのだ! そうすりゃ巣穴の一つくらいは見つかるだろう!」

「まあ、そうですね。どこかに巣の一つ二つはあるでしょう」


 アラーキーの言葉に同意し、セードーはキキョウの背中を軽く叩く。


「じゃあ、行こうキキョウ」

「そうですね……必ず、赤ちゃん見つけましょう!」


 キキョウは決意を新たにし、グッと拳を握りしめる。

 そうして三人は、妖精島(フェアリーアイランド)を巡るべく、ゆっくりと歩みを進めるのであった。




なお、精霊モンスターというのはそれなりにレアモンスターの模様。

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