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log204.烈火攻勢

「チェイリャァァァァ!!!」


 固い甲殻への攻撃を試みるセードー。

 しかし、圧倒的な質量差の前には彼の必殺の蹴りも効果を為さず、甲殻へひびを入れることすら敵わなかった。


「硬すぎる……! 何で出来ているんだ!?」

「セードー離れてっ!」


 カネレの声にセードーは甲殻を蹴って離れる。

 セードーが離れたタイミングを見計らい、カネレとエイスはそれぞれに魔法を解き放つ。


「サンダーフォールゥ!!」

魔氷斬雪剣(ダイヤモンドクロス)ゥ!!」


 突然現れた雷雲から一条の稲光が降り注ぎ、巨大な氷雪の刃が巨大甲殻類に突き刺さる。

 しかしカネレの放った稲妻は甲殻の表面で弾き飛ばされてしまい、エイスの氷雪の刃は一ミリも突き刺さらずに砕け散ってしまった。


「圧倒的に破壊力不足! どうしよう!!」

「どうしようじゃないわよ!!」

「〈闇〉のラインの一つが重力なんだが……まだ使えんからなぁ……」


 セードーは次撃のために取り出していたクナイを、そっと仕舞い込む。


「あの氷の剣が刺さらん以上、クナイ程度が通じるはずもないか……」

「あ、シャドーボムもう使えるの!?」

「使えることは使えるが、二人の使った魔法より威力が上とは思えん」

「……まあ、貴方のLvじゃね」


 Lv100のエイスは、Lv34のセードーを見て歯ぎしりをする。


「データコアが傷ついているから、ここで押し切れれば確実に仕留められるのに……!」

「データコア云々はともかくとして、このままは確かにまずい……。あの殻の中で、回復でもされたらことだ」


 カニのような巨大甲殻類、その頭部と思しきこぶを睨みつけつつ、セードーは唸る。

 先ほどまではほぼ意表をついて連続攻撃に成功したが、シャドーマンが痛みを学び、それに対する耐性を整えてしまうと畳み掛けるのも難しくなってしまう。

 押し切るのであれば、このまま一気に行きたいところなのだが……。


「あの甲殻を打ち破る手立てがないのがな……」

「カネレ! あんた、ランチャー一発撃てるでしょう!? あれを使いなさい!!」

「いや無理っしょ!? あくまでロケットランチャーだからね!? 対装甲用じゃないよあれ!?」


 エイスの言葉に、カネレはぶんぶん首を振る。一発だけ仕込んであるロケットランチャー、確かに曲線を描く装甲には効果を上げないだろう。


「ダメもとで一発撃ちなさい! どうせ腐るほど持ってるでしょう!?」

「持ってるけどさ!? でも無駄撃ちはしたくない主義!! わかるでしょ!?」

「わからなくもないが、状況が状況だからなぁ……」


 そうして迷うセードー達に、巨大甲殻類が迫る。

 ギチギチと鋏を鳴らしながら、シャドーマンがくぐもった声を上げた。


『ココデ、オマエタチヲ、コロセバ……オレハ、シナナイ!!』

「道理だな……。大人しく、やられてはやれんが」


 セードーは鋭く目を細めながら、拳を握りしめる。

 シャドーマンの装甲に対し、打つ手なしとはいえ、このまま大人しくやられるつもりもない。

 セードーは構え、シャドーマンに向かって吼える。


「死にたくなければ……足掻き抜いてみせろ!!」

『シィィヤァァァァァァ!!』


 それに応える様にシャドーマンは咆哮を上げ、鋏を振り上げ――。


「水双球!」


 その頭上に、二つの水球が迫った。

 透き通った青色の水球は、回転しながら大きな弧を描き、シャドーマンの頭上で合流。

 互いにぶつかりあった衝撃を受け、そのまま木っ端みじんに砕け散ってしまう。

 砕けた水球はさながら雨のように広がり、シャドーマンが変じた巨大甲殻類の全身にくまなく降り注いでいった。


『ウワ、ツメタ!?』


 突然のことで驚くシャドーマン。

 振り下ろしかけた鋏で、頭の上から降る雨を払おうとするが、すでに雨は降り注いでいる。

 シャドーマンの頭上に局地的な雨を降らせた張本人であるミツキが、エイスに向けて鋭く声を上げる。


「エイスさん!」

「!?」


 突然名を呼ばれたことに驚くエイスであったが、彼女が何を求めているのかを反射的に察し、一つの魔法を解き放つ。


魔雪雹弾射(ダイヤモンドダスト)ッ!!」


 豪雪を伴う吹雪を局地的に召喚する、ブリザードと呼ばれる魔法の特殊アレンジ。

 エイスを中心に発生したそれは、シャドーマンに向けて解き放たれる。

 全身に降り注いだ雨を払おうと鋏や節くれだった足を動かしていた巨大甲殻類の動きが、一気に鈍くなっていった。


『イヤァー!? ツメタイツメタイツメタイィィィィ!!??』

「おぉう……敵ながら、憐れな……」


 全身に付着した水滴が、極寒の吹雪によって凍てつき、さらに吹き荒ぶ豪雪が全身を覆い、容赦なく巨大甲殻類の体温を奪い去ってゆく。

 全身に斑な雪化粧を施されたシャドーマンを見て、カネレが憐みの視線を送った。

 シャドーマンの動きがぎくしゃくし始めたのを確認して吹雪を止めたエイスは、遠くで自分に向けて親指を立てるミツキの方を見やった。


「ありがとうございますねっ!」

「凍らせたけれど……ここからどうするの? 動きは鈍ったけれど……」


 ギチギチと関節を鳴らす巨大甲殻類。

 これでだいぶ攻撃は当てやすくなったが、大前提となる火力が解決していない。

 セードーもSTR自体は高いので、せめて甲殻にどうにかして亀裂なりなんなりを入れられれば良いのだが……。


「それに関しては先生に任せろぉー!!」

「先生?」


 そう叫びながら飛び回るのは、片足をなくしたアラーキーであった。

 アラーキーは片足をなくしながらも、自らの装備であるインストラクターをフル活用し、縦横無尽にシャドーマンの周囲をグルグルと跳びまわっていた。


「インストラクターの自動糸巻と空間滑車を活用することにより、糸を張りながら移動することが可能! 片足もげるくらいがナンボのもんじゃぁい!!」

「先生……! ……思ってた以上に元気そうだな」

「まあ、足が削られたことを除けば健康体だからねぇ。たぶん、HPダメージもないし、痛くなければあれくらいはできるでしょ」


 豪快に笑いながらシャドーマンの周りに糸を張り巡らせるアラーキー

 関節が凍ったことに加え、体そのものを糸で封じられたシャドーマンはいよいよ動けなくなり始めている。


『イタァーイ! ダレダヒトノカラダニイトマキツケテルノ!?』

「フハハハー! ……痛覚あるのか、この形態。どういう理屈?」


 無事に片足で着地し、ギリギリとシャドーマンの体を締め上げながらアラーキーは小首を傾げる。

 それに応えるわけではないだろうが、シャドーマンは全身を強張らせながらも糸の拘束から抜け出そうとする。


『カラダ、ガ……ウゴケ、バ……コンナ、イト……!!』

「だろうなぁ。インストラクターの糸、攻撃力は高めだけど、糸自体の防御力は低めだし」


 アラーキーはそう言って頷きながら、にやりと笑う。


「――なんで、先に仕掛けさせてもらうぜ? クローバー・アルト!!」

「偽典・遺物読本!!」


 アラーキーの呼ばわる声に応え、アルトが姿を現す。

 その手に掲げるのは、コピーした焔王・カグツチと、手榴弾であった。


「……ハンドグレネード?」

「スキル発動、行きます!」


 アルトは叫びながら手にした手榴弾を糸につなぎ――。


「輝晶生産・劣化……炎弾増産!!」


 次の瞬間、糸に繋がれた手榴弾が鈴なりに増加していった。


「げぇ!? なにあれ!?」

「そしてインストラクターのスキル発動! 糸に繋がったものを、糸の上で移動させる能力!!」


 カネレが叫んでいる間に、アラーキーはインストラクターの能力を発動。

 アルトの手元で増え続ける手榴弾が、糸を伝って移動し始め、シャドーマンの全身に手榴弾がぶら下がってゆく。


『ナニ!? ナニシテルノ!?』


 自身の体の表面を小さな爆弾が移動しているのがむず痒いのか、シャドーマンが不安そうに叫び声を上げる。

 だがアルトもアラーキーもシャドーマンの訴えを無視してひたすら手榴弾を増やしてゆく。


「MPが尽きても、ポーションで回復!」

「まだまだぁ! 隙間なくぶら下げてやるぜぇ!!」


 やがて、アルトが増産した手榴弾がシャドーマンの全身にくまなくぶら下げられる。

 斑の雪化粧に加え、手榴弾の黒も加わり、巨大甲殻類・シャドーマンの全身は異様な形でデコレーションされてしまった。

 手榴弾を増産し終えたアルトは、そのうちの一つのピンに手をかける。


「焔王覚醒・劣化……」


 アルトはアラーキーの方を見る。

 アラーキーは力強く頷き、それを見てアルトは勢いよくピンを引き抜いた。


「一斉起爆!! 弾けろぉ!!」

「アースウォール!!」


 ピンを引き抜くと同時にアルトはシャドーマンから逃げ出す。

 何をするのか察しがついたセードー達も距離を取り、アラーキーは自らの身を守る土の壁を召喚する。

 そして、数瞬の間。


『エ、ナニ――』


 シャドーマンがその静寂に怯えたような声を上げるのと同時に、手榴弾が一つ爆発し――。


『ナ、ナニ――?』


 さながら導火線のように、始まりの爆発を基点とし、シャドーマンの全身の手榴弾が一斉に起爆した。


『ナニナニナニギャァー!!??』


 ポップコーンが弾けるよりも激しい連鎖爆発音と共に、シャドーマンの全身は瞬く間に爆火に包まれた。


「……派手だな」

「……派手だねぇ」


 紅蓮の炎に包まれたシャドーマンを眺めて、セードーとカネレは呟く。

 やがて轟音は静まり、黒煙は少しずつ晴れ、爆火の中へ消えていったシャドーマンの姿が露わとなってゆく。


『ア……ツゥ……』


 巨大甲殻類の全身はゆで上がったかのように真っ赤となり、凍てついていた部位もすっかり溶け切ってしまったようだ。

 だがそのかわり、巨大甲殻類の全身に細やかな罅が入っているのが見えた。

 亀裂というほどに大きくはないが、それでも確かにシャドーマンの甲殻に傷が入ったのだ。

 それを見て、アラーキーはガッツポーズとをった。


「ッシャァ! 急激な温度差による物体の破壊! 物理実験成功だ、うん!!」

「先生、確か担当は国語じゃ……」


 セードーはそう呟きながらも、気を取り直すように首を振る。


「……だが、傷が入ったのであれば、もうひと押しか。甲殻を剥がす絶好のチャンスだ」

「よっし、一気に行こうか!?」


 カネレが同意するようにギターを鳴らし、エイスも頷きながら剣を構える。


「あれだけ傷だらけなら、一発で粉々に――」

「お先に参ります! ハァッ!!」


 エイスのつぶやきが終わるより先に、ミツキの掛け声が聞こえる。

 彼女の方を見ると、何かをシャドーマンの真上に投げ飛ばしたようなモーションを取っていた。


「なんだ? 何を――」


 セードーは、ミツキがなにを投げ飛ばしたのかを視線で追う。

 クルクルと回転しながらシャドーマンの頭上へと降りてゆくのは、背に焔王を背負ったリュージであった。


「リュージ!?」

「っしゃぁ! 出し惜しみなしじゃぁ!!」


 リュージは一声叫び、懐から紅い宝石のような物を取り出す。


「輝晶、点火ぁ!!」


 スキルを発動するように叫びながら、リュージは宝石を握りつぶす。

 次の瞬間、砕けた宝石は赤い焔と化し、リュージの全身を覆い尽くす。


「喰らえ焔王!!」


 焔の中で叫んだリュージに応える様に焔王は炎を喰らいつくし、真っ赤に輝き始める。


「このままいくぜ、イグニッション!!」


 焔王が覚醒し、リュージの全身が強化される。

 リュージは残った拳を握りしめ、シャドーマンの頭上へと躍り掛かる。


「焔王なしバージョン大烈火! 改めぇ――!!」


 握った拳からおびただしい量の炎が溢れだす。

 リュージは全身に炎を纏ったまま、シャドーマンの頭上に殴りかかった。


「だぁぁぁぁいぃぃぃぃ!! ふんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 細やかな罅の入った、巨大甲殻類の頭頂部に、リュージの拳が突き刺さる。

 落下の衝撃と、リュージの腕力が加わったその一撃は、傷の入った甲殻に勢いよくめり込み。

 彼の纏った炎が、めり込んだ部位から潜りこみ、傷の入った甲殻の、至る所へと沁みこんでゆき。

 次の瞬間。


『―――ア、アアアァァァァァァァァァァア!!??』


 ダイナマイトが弾けるような轟音と共に、巨大甲殻類が、全身から炎を吐き出した。




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