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 カネレがギターを奏でるたび、ウォルフたちの視界に移るノイズは激しくなってゆく。

 そして、シャドーマンの動揺もまた激しくなっていった。


「ア、ア……ゥウ……!」


 カネレを睨みつけるシャドーマン。

 今までにない強い感情を宿すシャドーマンであったが、カネレがギターを鳴らすたび、弱々しく体を揺らす。

 さながら、体から力が抜けているかのようだ。


「     ………」


 さらにカネレが何事かを呟く。

 ギターの奏でる曲調に合わせた呟きではない。むしろギターの騒音に掻き消され、ウォルフたちの耳には届かないような、そんな小さな音だ。


「―――ッ!?」


 しかしその呟きが放たれるのと同時に、シャドーマンの体が強く揺れ、膝をついた。


「……!? シャドーマンが、自分から膝をついた!?」

「……いきなり現われて、勝手にシャドーマン叩き伏せて、何やねんあいつ……」


 シャドーマンに対して優勢に立つカネレを見て、ウォルフはつまらなさそうな声を上げた。


「人が苦戦してるところを横入り……。なんや、いらん連中のこと思い出すなぁ……」

「……確かに口にすると似てはいるが、我々はシャドーマンに対して決定打を打てずにいた。彼の参戦自体は喜ぶべきだ」


 ウォルフの口にする団体に所属しているアスカは、苦い顔になりながらもカネレの行動を援護する。

 実際、どれだけ叩いても答えた様子がなかったのは事実だ。明確にシャドーマンにダメージを与えているカネレの存在は、歓待すべきだろう。

 もちろん、彼女とていい顔をしているわけではない。いきなり現われたカネレの存在に、彼女も不審を抱いていた。

 アスカはその不審を何とか飲み込み、ウォルフを宥める様に口を開いた。


「……ともあれ、今は彼を援護すべきだろう」

「……ゆうて、今、ワイらになにができんねん……」


 ウォルフはギターを奏で、その音色でシャドーマンを追い詰めるカネレを見つめる。

 カネレはさらに強くギターを奏で、シャドーマンを更なる苦悶へと追い込んでいるところであった。


「ウ、ウアァァァ!?」

「君がもう少し……ほんのもう少しだけまっすぐに育ってくれてたら……こんなことしなくてよかったんだけどねぇ……」


 カネレの声色に混じるのは、悲しみと後悔。彼の声には、強い悲しみと微かな後悔が入り混じっていた。

 しかしカネレは自らの心の内を振り払うように、首を振った。


「……ん~、何を言ってもいいわけだねぇ……。手を出さないと、決めたのは僕なんだから……」

「―――!」


 そうしてみせた僅かな隙。

 その間隙を突くように、シャドーマンは行動した。


「ァァァ……!!」


 口内に溜まる白い輝き。それは、大地を抉った閃光、そしてセードーの胸を貫いた輝きと同じものだった。


「悪あがきをっ!」


 それを見たエイスは素早く魔法を唱えようとする。

 だが、それより早くシャドーマンは口内の光線を開放する。

 ――己の真上へ向けて。


「っ!?」


 エイスはその光線の行き先を追う。

 まっすぐ空を目指して伸びていった光線は、その途中で突然ぱっとホウセンカのように花開く。

 無数の雨へと枝分かれした白い光線は、アバロン全体を覆い尽くすように広がってゆく。

 その先には、まだ動けないアラーキーやリュージの姿もあった。


「――チッ!!」

「ああ、しまった!?」


 エイスは舌打ちをし、カネレは頭を抱えながら空に向けて指を鳴らす。

 それと同時に、空に広がっていた無数の光線は何か壁のような物に阻まれ、霧散した。


「すごい……!」


 ただ指を鳴らすだけで、シャドーマンの必殺を封じたカネレの手腕にランスロットは驚嘆の声を上げる。

 だが当のトッププレイヤーはいい顔をしなかった。


「シィ!!」

「きゃぁ!?」


 自身の護衛をしてくれていたエイスを上段蹴りで吹き飛ばしたシャドーマンが、目の前まで迫っていたからだ。

 カネレの奏でるギターの音色が途絶えたことで体の自由を取り戻したシャドーマンは、一瞬の隙を突いてカネレに攻め込んだのだ。


「セードー君の技……! 忘れてたわけじゃないけどねぇ!!」


 カネレは叫んでギターを鳴らす。

 先ほどの音色ではない。また、違う音色だ。

 ギターの奏でた音は一瞬で風の刃を形成し、シャドーマンの進路に突き進む。


「シィ!!」


 シャドーマンは向かってきた風の刃を固めた拳で打ち砕いた。

 その間にカネレは何とか距離を離そうとひたすら後退する。

 しかし、シャドーマンは一瞬でカネレとの間合いを詰める。

 シャドーマンは駆け抜けながら、両掌を頭上に掲げる。

 空手における鉄壁の構え……前羽の構え。

 そして、シャドーマンの手は緩やかに降りてゆく。

 虎爪、虎口、開甲拳、熊手、鶴嘴拳――。

 一本拳、拇指拳、喉輪、鶴頭、正拳――。

 下まで降り切った両の拳を腰に当て、シャドーマンは技を解き放った。


「シィィィ!!」


 阿修羅閃空撃。

 無数の、型の違う拳撃を放ち、止めに真芯をぶち抜く外法式無銘空手の奥義の一つ。


「うぉぎゃぁぁぁぁ!?」


 カネレは放たれた技をその身に受け、爆音とともに派手に真上に吹き飛んでゆく。


「っだぁー!? あの兄ちゃん、接近戦はてんで駄目か!?」

「……いや! ギリギリ、直前で回避している!」


 ブスブスと焦げながら宙を舞うカネレ。そのまま頭から落下し、凄絶な音を立てるが、そのまま叫び声を上げながらのたうちまわっている辺り、割と無事らしいのが窺える。

 シャドーマンの拳撃だけでやられたのであれば、あんな焦げ目はつかないはずだ。

 アスカはあの一瞬で何らかの爆破魔法の類でカネレは何を逃れたと読み、ショートソードを抜き払う。


「シャドーマンの動きを止めるぞ……! それができれば、奴を倒せるかもしれない!」

「おっけぃ!」

「しゃあないなぁ……どんくさいやっちゃで」


 ウォルフとサンも拳を構え、シャドーマンを抑えにかかる。

 カネレの何らかのスキルがあれば、シャドーマンとの戦いにも勝ち目がある。

 ならば、エイスと共にシャドーマンを抑えるのが、今の自分たちの役目だ――。

 そう考えた三人であったが、シャドーマンはそれを許さない。


「――! ハァッ!!」

「!?」


 シャドーマンは接近を試みる三人に掌を向け、白い波動を解き放つ。

 三人がその波動を浴びた瞬間、彼らの視界にノイズが走る。


「うぉあぁぁぁ!! きもちわるっ!!」

「なんだ、これは……!」

「さっきまでのと、また違うんか……!?」


 ノイズが走った瞬間、脳髄を駆け抜ける不快感。

 サンは叫び、アスカは膝を突き、ウォルフは頭を抑えた。

 先ほどのような、体を突き抜ける衝撃はない。しかし、抑えようのない不快感のせいで三人は行動不能となってしまった。

 動きの止まった三人に、シャドーマンの拳が迫る。


「シャァァァァ!!!」

「くっ……!」


 拳こそ輝いてはいないが、シャドーマンはウォルフたちを叩き伏せてゆく。

 シャドーマンが先に見せた一撃を見て、エイスはカネレに駆け寄り、強い口調で詰問した。


「シャドーマンが、あんたの技を覚えたわよ……! あんた、まさか、手心を加えてるんじゃないでしょうね!?」

「……否定はできないなぁ」


 カネレはそう呟きながらゆっくり立ち上がる。


「……本当に久しぶりだったんだよ? シャドーマンほどに成長した子は……。あと、本当に、あとちょっとだったんだ……。もう少しくらい、期待してみてもいいでしょ……?」


 深い悲しみを湛えた、カネレのつぶやき。

 それを聞いて激昂しながら、エイスはカネレの襟首を掴み上げた。


「あんた……! 状況を見て言いなさい! シャドーマンはなにをした! シャドーマンは誰を攻撃した!?」

「………」

「殺すことに喜びを覚えた連中が、今更、人として生きる方法に満足できるわけがない!! 今、ここで! 確実に殺さなきゃ……誰かが死ぬのよ!!」

「……そうなんだよねぇ」


 激高したエイスの叫びに、カネレは情けない表情で小さく返す。


「そうなんだけど……やっぱりいやだなぁ……」

「だから……! あんたはいやなのよ!!」


 エイスは叫んでカネレを放り投げる。

 そしてシャドーマンの方へ振り向く。


「何でもかんでも中途半端で!! 何もしない癖に期待だけして!! そんなんだから、後が続かないんでしょうが!!」

「……痛いとこつかれたよぅ」


 がっくり項垂れるカネレ。

 微かに頭を振りながら、彼はゆっくり立ち上がる。


「……いやだよぅ」

「腹をくくりなさい……! 貴方も人間だというのであれば、同胞くらい殺してみせろ!! 同族を殺すのは……どんな世界でも人間だけだっ!!」


 エイスは声高に叫び、シャドーマンを睨みつける。

 シャドーマンはウォルフたちを叩き伏せ終え、エイスたちの方へと振り向いた。


「―――カハァ……!」

「来るわよ! 構えなさい、カネレっ!!」

「………」


 エイスは剣を握りしめ、カネレは力なくギターを握りしめる。

 シャドーマンは歯を食いしばりながら、二人を睨みつけ――。






――     …………――






 瞬間、響いたのは涼やかに鳴る金属音。

 さながら、刀のこいくちを切るような音が、アバロンの屋上に響いた。


「……え? な、なに!?」


 次に聞こえてきたのは、エールの戸惑う声。

 彼女が手を重ねているセードーの胸……そこから闇の波動が立ち上り始めているのだ。

 闇の波動は少しずつエールの手の隙間からこぼれていたが、その勢いは急激に増し、次の瞬間には間欠泉のように一気にセードーの体から噴き上がった。


「っきゃぁぁぁぁぁ!?」

「エール様!」

「な、なんですか、うあぁぁぁぁ!?」


 闇の波動に弾き飛ばされたエールの体を、キキョウが素早く抱きかかえる。

 退避し損ねたエタナはしばし戸惑っていたが、闇の波動から放たれた衝撃に思いっきり弾き飛ばされる。

 轟々と音を立てながら立ち上る闇は、さながら炎のようにも見える。


「なに……!?」

「……あれ、は……?」

「―――」


 その場にいる全員が固唾をのんで見守っている中、立ち上り続けていた闇の波動が晴れる。

 風の吹くような音共に晴れた闇の中から現れたのは、五体満足のセードーだった。


「………」

「セ、セードー……!?」


 シャドーマンに叩き伏せられたウォルフが、地に伏せたままセードーの姿を見て驚く。

 吹き飛んだはずの両腕は元通りになり、穴も完全に塞がっている。

 だが、最も驚くべきところはそこではない。

 今彼は復帰したばかり。まだ何のスキルも発動しているはずがないのに……漆黒のオーラを纏っているのだ。

 彼が最も得意とする五体武装・闇衣ではない。闇衣は闇の波動を布か何かのように纏わせるスキル……。今のセードーのように、全身からオーラのように発するスキルではないはずだ。


「………!」


 今のセードーの姿に、シャドーマンが警戒するように腰を落とす。

 それに反応したわけではないだろうが、ずっと目を閉じていたセードーがゆっくりと目を開いた。




 ………。


 マダ、マダダ……!


 マダ、シニタクナイ……!


 マダ……アソンデイタイヨ……!!

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