log192.謎の衝撃
「……どっからはいるんだよ、この外周……」
「もうこれぶち開けた方が早いかもしれへんなぁ……」
サース&ウェースを無事撃破し終えたはいいが、外周の外部分からアバロン内部へ戻る方法を発見できずに、ウォルフとサンはアバロンの外をさ迷い歩いていた。
どこか適当にハッチ的な何かがあるに違いない、そう考えて歩き始めて十分程度。残念なことに、壁の継ぎ目すら見つけることができないでいた。
「元・古代遺跡なんだし、壁に罅くらいあってもいいよな……」
「ここの機械人形は働き者みたいやからなぁ……。ほれ、あそこを一匹あるいとる」
カシャカシャと音を立ててどこか破損した部分へと向かう機械人形を見て、手を振るウォルフ。
同じように手を振って見送りながら、サンはポツリとぼやいた。
「もぉやだぁー。お外で風に吹かれながら歩くのやだぁー」
「わいもあきたー。右も左も青空ばっかりでいやんなるぅー」
幼児か何かか、と普段ならツッコミを入れたであろうウォルフまで情けないつぶやきを上げる。
重たい足取りを引きずり外周路の上を歩く二人であるが、結局「いや機械人形追ってったら、どっか穴の開いてる部分にぶつかるんじゃね?」という優しいツッコミを入れてあげる人間は、彼らの前には表れなかった。
……代わりに、彼らの前に現れたのは。
――きゅごぉん!!!!――
……あまりにも大きな異音。まるで、何かが極端に収縮したかのような音だ。
「んぬぁぁぁぁぁ!!??」
「なんやぁぁぁぁ!!??」
続くアバロンを揺るがす衝撃。何度かアバロン全体が振動することはあったが、ウォルフたちが体勢を崩すほどの振動など、起こらなかった。いや、起こるはずがなかった。
そして、まばゆい閃光。
「え!? ちょ、なんか反対側光ってねぇか!?」
「ええぇ!? 何がおこっとるんかわからんけど、めっちゃ光ってるやんか!?」
何が起きているのか、全く理解はできない。
だが、何が起こってるかはすぐにわかる。
何かが、光っているのだ。
外周部を歩いているだけの自分たちにさえ確認できるほどの眩さで、アバロンの反対側に何かが起こっているのだ。
突然の異変は、現れた時のように唐突に終わる。
アバロンの反対側で煌々と輝いていた何かは、ふっ……と消え去り、先ほどまでの静寂が辺りを包んでいった。
今ウォルフたちを包むのは、吹き荒ぶ風の音ばかりだ。
「……なんだ今の」
「……さぁ」
あまりにも唐突過ぎる出来事に呆然となる二人。
しかしウォルフはハッと気が付いたような顔になり、一声叫ぶ。
「ハッ!? まさか……今のはキキョウの新技!?」
「え? いや、それはないんじゃ」
ウォルフの意見にサンはまさかという表情になるが、ウォルフはその程度ではめげなかった。
「何言うてん、キキョウは〈光〉属性、そして特異属性。特異属性にはチートぞろいや、ワイらと同じレベルでも、何や強烈な戦術級スキルとかが目覚めてもおかしくないやろ!?」
「いや、おかしく……ない? いや、おかしいおかしい」
ふとそんなこともあるかな?と思いかけたサンであったが、すぐに思い直してパタパタと手を振る。
「そもそもキキョウって、ワープ系のラインを選んだんじゃねぇの? それ以外……例えばレーザー系とかソーラー系はさっぱりだって話だけど」
サンの言うラインとは、属性系のスキルツリーの中に存在する選択制のスキルのことである。
どちらか一方、あるいは一つを選択するとそれ以外が選択できなくなるというシステムで、これにより各プレイヤーは己の分身により明確な個性を植え付けるわけである。当然、一方を犠牲にするわけだからして、どのスキルのラインも強力なスキルが解禁されることとなる。
通常属性であればスキルツリーの奥深くまで進まなければ存在しないラインであるが、特異属性は一番最初のスキル選択の時点でそれがあるらしいのをサンはキキョウから聞いていた。
〈光〉属性のラインは、光陰流舞を基点とするワープ系、遠距離攻撃を可能とするレーザー系、自己回復や自己強化系のスキルが解禁されるソーラー系に分かれるらしい。以前、異界探検隊との話の中にあった“光合成”はソーラー系の初期スキルらしい。
そして副属性を持たない特異属性は、このラインを解禁するためのクエストが存在し、最終的には全てのラインのスキルを習得できるようになるのだとか。
キキョウから聞いたその話を思い出しながら、サンは小さく首を傾げる。
「今の、〈光〉属性で言えばレーザー系だろ? キキョウはまだライン解放のクエストやってねぇし、それはねぇんじゃ……」
「いや分からへん! ワープした瞬間に光り輝き、辺り一面を抹殺するようなそんなスキルを覚えたかもしれへん!」
「何その無差別級。あのキキョウがそんな……」
「裏側へいそげぇー! うぉぁー!」
「聞けっておい」
終いにはサンの話など聞かず、先ほどの異変が起きた反対側へと向かい始めるウォルフ。
よほど刺激が欲しかったのだろう。時間にして、三十分も経っていないはずなのに。
サンは呆れたように外周を登り反対側へと回り込もうとするウォルフの背中を見つめていたが、すぐにそれに続くように自分も外周を登り始めた。
「……まあ、何があるかは気になるよなー」
彼女も、反対側で何が起こっているのか気にはなるのだ。
「今の音は何でしょうか……?」
「さあ……? さっきから警報もやかましいし、一体何が起こってるんだ……?」
ミツキとアラーキーの二人は、ノースの執務室と思しき場所までたどり着いていた。
いくつものダンジョンを攻略してきたアラーキーの勘が珍しく冴えわたり、ベルザとイースを撃破した後、時間こそかかったが、割とすんなりノースの執務室まで到達することができたのだ。
問題は、誰もそこにいなかったことであるが。味方も、ノースも。
「執務室は空振りなうえ、誰もまだ到達してない……。ノースがいりゃぁ、一番乗りを喜べたんですがねぇ」
「そうですね。このままじゃ、一番を誰かに取られちゃいます!」
「あ、ミツキさん、順位とか割と気にするタイプで?」
「ええ、それはもちろん! かけっこは一等を目指します!」
フンスフンスと鼻息の荒いミツキ。意外な一面だ。
ミツキはもうちょっと冷静沈着というか、大人しい印象があったアラーキーであった。
まあきっと心を開いてきてくれてるんだろう、と自己完結しアラーキーは無駄に豪奢な執務机を軽く撫でる。
「うーん……誰かが使ってるのは間違いないんだよなぁ。コーヒーとかは残ってるから、まだ誰かがいたのは間違いないんだけど」
「今更ですけど、そういうのは判断材料になるんでしょうか? これって、ゲームでしょう?」
「まあ、そうですけど。飲みかけのコーヒーは割と判断材料になるんですよこれが。こういうのは一時間以上立たないと消滅しませんからねぇ」
まだほんのりと温かい、湯気を立てるコーヒーを持ち上げてみせながら、アラーキーは小さく笑う。
「こんな感じで中途半端に残してると、それだけで足跡になるわけです。飲み切ればカップをインベントリにしまえますけど、そうでなきゃ出しっぱなしにするしかないですしね」
「なるほど……知りませんでした」
イノセント・ワールドの、誰も知らなさそうな仕様に感心するミツキ。
中座し、そのまま放置して忘れてしまっても、飲みかけだったり食べかけの飲食系アイテムは自動で消滅するわけだ。飲んだり食べたりした分はまんぷくゲージが溜まるので、無駄にはならないわけだが。
明日すぐに役に立つわけではなさそうな豆知識を記憶の棚の中に仕舞い込みつつ、ミツキはノースの新たな足跡を探す。
「それにしても……ノースはどこへ行ったのでしょうか?」
「どこですかねぇ。話だけ聞いてると、表に出るのを嫌がるでしょうから、こう言うところにこもりそうなもんですが……」
アラーキーはメールボックスを引きあけ、中に仕舞い込まれている羊皮紙タイプのメールの中を探ってゆく。
中に書かれていたのは、ノースが名前を変えて新しいギルドを立ち上げることと、円卓の騎士をトカゲのしっぽ代わりに利用すること、そのための作戦案についての通達であった。
「鍵かけとかないとは不用心な……いや、そうする暇がないほどの異常事態が起きたのか?」
「……これ、メールですか? ノースの書いた? こういうのって、見れるんですか……?」
「ああ、クルソルを使わないと見れちゃいますねぇ。こんな感じで文面に起こすと、机に鍵かけとかないと誰もが見放題なんですよ。雰囲気作り以外に手形代わりに使えたりするんで、なんかの契約を交わす際には便利なシステムですけど、こういう時には不便ですねぇ」
「本当ですね……」
紙タイプのアイテムとして残るメールの欠点を前に、ミツキは顔をしかめつつ、アラーキーを窺う。
「……それで、どうするんです? これ」
「どうもこうも……」
アラーキーはメールを元のように戻し――それから一枚だけ拝借した。
「元に戻しますよ。まあ、一枚くらいはうっかり手元に残ったりすることもないわけではないですけどね?」
「……そうですねぇ。一枚くらいは、なくなったりしますよねぇ」
アラーキーの行動にそう呟きつつ、ミツキはおかしそうに笑う。
アラーキーの行動はギリギリアウトのラインだろうが、ノースの言い逃れを封じるのには使えるだろう。何しろ、アラーキーが手にした羊皮紙メールには、ノースのIDという形での証拠が残っているのだから。
アラーキーはノース作のメールを懐に収めつつ、部屋の出口を目指し始める。
「さて、ノースがここにいない……となれば、あとはさっきの衝撃の後を追うくらいですかねぇ」
その後を追いかけながら、若干窮屈な胸元を少し弄って調整しつつ、ミツキは問いかける。
「わかりますか? アラーキーさん」
「まあ、おおざっぱに。たぶん、向き的には裏側ですかねぇ」
「じゃあ、先導はお任せしますね?」
「はいな、お任せあれ」
アラーキーとミツキはノースの執務室を後にし、振動のした方へと駆け出していった。
「突然鳴り響くサイレン! そして響く振動! 揺れる衝撃! よもやアバロン墜落一歩手前か!?」
「縁起でもないこと抜かすな貴様ぁ!?」
「そ、そうですよ! アバロンは、難攻不落の空中城砦なんですから!!」
地下ダンジョン部を駆け抜けるリュージ達。
一応誰かに発見され、途中で邪魔される可能性を考慮したうえで、秘密のルートを通ってきたのだが、そんな心配はいらなかったかもしれない。何しろ、アバロン中をサイレンが鳴り響き、正体不明の衝撃まで襲うのだから。
リュージが場を和ますためのボケとして放った一言に、容赦ないアスカとランスロットのツッコミパンチが入るが、アルトは全く茶化すことなくポツリとつぶやいた。
「あながち、間違いじゃありませんよリュージ」
「「へ?」」
「え、マジで?」
「ええ。このサイレン、おそらくメインの動力炉が停止したために起きたのではないでしょうか? 前に一度だけ動力炉が機能不全を起こす……というイベントに立ち会ったのですが、丁度こんな感じでした」
アルトは出口を目指しながら、そのイベントについて説明を続ける。
「今は四基のサブ動力でアバロンを支えているのですが、サブ動力の出力ではアバロンを浮かべ続けることができず、一定時間内に動力炉を復活させなければアバロンが墜落する……というのがそのイベントの概要です。アバロンを入手して、しばらくしてから発生したイベントですね」
「え、僕それ知りませんでした……」
「わ、私も……」
「私も、幸運……いえ、悪運にもでしょうか? ともあれ、偶然立ち会ったイベントです。あの時は、キングもクイーンもいませんでしたから、えらい難儀した記憶がありますよ……」
遠い眼差しでどこかを見つめるアルト。そのイベントの時、相当めんどくさい状況に陥ったのだろう。
リュージはそんなアルトの背中を優しく叩いてやりながら、気になった点を問いかける。
「まあ、お前の懐かしい思い出は分かった。けど、このサイレンがそれと同じものって言い切れるか? なんかの異常事態には、こう言うサイレンが鳴るもんだろ?」
「アバロンにとって、少々の損傷は機械人形で直せますし、コンピュータの類は動力炉部分に集中してるんです。なので、こうした全体に異常を知らせる必要があるのは動力炉の異常以外には考えづらいんですよね」
「……じゃあ、動力炉いかねぇとまずくねぇの? アバロン墜ちるんじゃねぇの、マジで」
「まあ、墜ちるんじゃないでしょうか」
「え、ええ!? ど、どうしましょうアルトさん!?」
縋るように追いついてくるランスロットに、アルトは何でもないように告げる。
「正直どうしようもないです。諦めましょう」
「……それでよいので、アルト様?」
どこか捨て鉢な様子のアルトの言葉に、半目になるアスカ。
従者の言葉に肩を竦めながら、アルトは言葉を返す。
「いつかはアバロンにもこういう日が来るのは予想していました。動力炉の異常の程度にもよりますが……精霊の力が籠った結晶が壊れたとかになりますと、もうどうしようもないですからね」
「もう大型結晶の入手イベもないしなぁ。せめて、陸地に墜ちることを祈りますかね」
南無南無と怪しげなお経をあげるリュージ。
アスカは胡乱げな表情で両者を見比べたが、諦めるようにため息をついてそれっきり黙り込む。
「う、うう……」
ランスロットはアバロンの墜落の危機と聞き、色々と迷いが出てしまったようだ。
アスカを、アルトを、リュージを。前を進む者たちの背中を見つめ、何と声をかけるべきか悩み。
「……あ、あの! 帰る時、ちょっとだけ、見ていきませんか!?」
「見るぅ?」
「具体的にはどうするんですか?」
「……え、えーっと……上から、ちょっと見てみましょうよ! アバロンがこうなる原因が、なんとなくわかるかも……しれません、し」
最後は尻すぼみになりながらのランスロットの意見に、アルトは少し考えた後、小さく頷いた。
「……そうですね。先ほどの衝撃も……おそらくアバロンの内部からのものでした。動力炉に異常をきたすほどの戦いが起きているなら、外からでも見えるでしょう」
「まっすぐ帰宅してぇなぁ、俺」
「なら、一人で帰るんだな」
「ちぇ」
ランスロットの提案を受け入れ、一度アバロンの様子を見ることにした一同は、まっすぐに出口へと向かう。
エアバイクはアルトとアスカが持つ二台ある。上空から見るのであれば、特に危険もないだろう。
なお、最終的に〈光〉属性は空を自由に飛び回ってレーザーを撃ち回る、HPMP自動回復の空中要塞のようなキャラになる模様。




