log179.外周上での決闘
「ワイら何しに来たんやったっけ?」
「あれだよ、円卓の騎士攻略?」
びゅうびゅうと風の吹き荒ぶ中、ウォルフとサンは天上を登る突きを見上げながらポツリと呟く。
「せやったかぁー。ほしてワイら、セードー達と別れた後どこ目指してたんやっけ?」
「あれだろ、ノースの奴? スカした仮面被った嫌味な野郎を探してたんだよ」
満天の星空。もはや日本の都市の中でお目にかかることのできない美しい風景がウォルフたちの目に染みる。
「そうそう……。んで、ワイら今どこにおるんやったっけ?」
「あれかなぁ、いわゆる外周上? いつの間にか外に出ちまったなぁー」
ハッハッハッと大笑いするウォルフとサン。
彼らが立ちつくすのはアバロン外周の真上。侵入の際に苦しめられた対空レーザー砲台が今彼らの真下にあるのだ。
ひとしきり笑った後、二人はお互いの胸ぐらを勢い良く掴んだ。
「おどりゃサァァァン!! おんどれの先導のおかげで外に出とるやんかぁぁぁぁぁぁ!!」
「テメェだってノリノリだったじゃねぇかぁぁぁぁ!! 一直線に扉目指してぶち破りに行ったのどいつだコラァァァァ!!」
もはや何度目になるかもわからないケンカが始まり、お互いにお互いの責任を押し付け合い始める。
彼らとしてはまっすぐノースのいる場所を目指したつもりなのだ。つもりだったが、どういうルートを辿って過去の外周上に出てしまった。さすがにこんなところにノースがポツリと一人で立っていることはなかろう。
もはや戻る道もわからない。というか、戻れる場所を機械人形が塞いでしまった。さっきからウォルフたちの足元を忙しそうに動き回っている。さっき、外周に上がるついでと円卓の騎士全体への攻撃を有効にするための決闘の余波を、頑張って修理してくれているところだ。
「がるるるるるる!!」
「グルルルルルル!!」
犬歯をむき出しにし唸り声を上げる二人。
一触即発の雰囲気だったが、それは長くは続かなかった。
―ギャオォォォアァァァァァ!!!―
「「ッ!!」」
突然の咆哮。そして襲いかかる巨爪。
ウォルフとサンは一息にその場を飛び退き、巨爪の一撃を躱す。
二人の身の丈を優に超える大きさを誇るドラゴンが、いつの間にかそこに現れていたのだ。
群青色の肌を持つドラゴンを見上げ、ウォルフは片眉を眇めた。
「なんやぁ? アバロンて、モンスターがポップするんやったか?」
「どーだっていいだろ! イライラしてたしちょうどいいじゃんか!!」
ウォルフの疑問を置いて、サンは駆け出しドラゴンの懐へと飛び込んでゆく。
翼の代わりか背中にとさかのようなものが生えた、巨大なトカゲのようなドラゴンはサンの接近にその巨爪を振り下ろそうとするが、小さく素早いサンにその一撃は当たらない。
震脚の轟音を高らかに響かせ、サンは必殺の一撃をドラゴンのどてっぱらにぶち込まんとする。
「いくぜぇぇぇぇぇぇ!! 貼・山――!!」
「さぁせぇぬぅぅぅわぁぁぁぁぁ!!」
しかし必殺の一撃が決まる直前、ドラゴンの上から飛び降りてきた男がサンの目の前に立ちふさがった。
身を隠すほどの大きな盾を構えたその男は、サンの貼山靠を真正面から受け止めた。
「っ!?」
「おおおぉぉぉぉ!!」
サンの全力をとした貼山靠を受け止めた盾は歪むことも弾かれることもなく衝撃を余すことなく受け止め、その反動をすべてサンの小さな体へと返した。
空気の弾けるような音が響き渡り、衝撃と共にサンの体が弾き飛ばされた。
「うあっ!?」
「はっはっはぁ!! 体の割には大層な威力だが、この俺のヴァミリオンを通すにはいささか不足していたようだなぁ!?」
その名のように朱色に染まった盾を振り回す男は豪快に笑う。
そんな男の背後に、もう一人男が飛び降りてくる。
サンの一撃を弾いた男に比べれば、いっそ小枝か何かのようにやせ細って見える男は小さく笑った。
「ク、クックク……いい様だ」
「んなろてめぇ何様だコラァー!?」
何とか体勢を整えたサンは居丈高に吼え、突然現れた二人の男をビシリと指差した。
サンのその質問に答え、男たちはそれぞれに名乗りを上げる。
「我はサース! 総隊長護衛方、南方の将!」
「我はウェース……総隊長護衛方、西方の将……」
「総隊長護衛方ぁ? なんやそれ」
「……聞いたことあると思ったら、お前らノースの同類か」
総隊長護衛方に遭遇したことのあるサンの言葉に、ウォルフは小さく頷いた。
「ほーん。他にもおったんかいな、ノースみたいな連中が」
「みたいというのは正しくないなぁ。我々もまた総隊長護衛方……本来はノースと同じ立場なのだよ」
サースは言いながら、一歩前に踏み出す。
「総隊長をお守りし、アバロンを守護するのが我々の務め……。部下の報告で、外周の外に子ネズミが出たと聞いて出てきたわけだが、ずいぶん大きなネズミだったな?」
「誰がネズミだ! そういうテメェらはハイエナじゃねぇか!!」
吼えるサンに向かって、ウェースは嘲るような声を上げる。
「無知とは怖いものだ……。我らがおらねば、死んでいた者もいただろう……。そうしたものを救い、その対価を頂くのが悪いというか?」
「開き直り方の下手なやっちゃなぁ。ロールプレイにしても臭すぎやろ」
ウォルフは呆れたようにため息をつき、ウェースをねめつける。
「まあ、お前らの主張なんぞどうでもええねん。どうにもワイらのダチがシャドーマン呼ばわりされとるようやし、その真意を聞きいてみたいもんやわ」
「―――何のことかわからんなぁ」
ウォルフの質問に、サースはそう答えながら盾を構える。
「お前たちの友人がどういう人物かは知らんが……シャドーマンの味方をするというのであれば、倒すしかあるまいなぁ?」
「わからんゆう奴のセリフかいな……」
明らかな敵対の意志を前に、ウォルフは小さな呟きと共に闘志を燃やし始める。
「――せやったら遠慮はなしや。泣こうが喚こうが、どっちかが倒れるまで終わらへんぞ?」
「勝てる気か……我々に……? 笑止千万……!!」
「っせーんだよ三下が!! あたしらの目的はテメェらじゃなくてノースなんだっつーの!!」
「三下……大口をたたくな、小娘ぇ!!」
サンの言葉に吼え、サースが一歩前に出て盾を振るう。
バッシュとも呼ばれる、盾による攻撃だ。
サンはその一撃を躱し、サースの動きを鼻で笑った。
「ハッ! 遅すぎんだよ、バーカ。そんなんで護衛方とか笑わせんな」
「笑うのはこちらだ小娘……!」
「あん? うを!?」
ウェースの声に怪訝そうな顔つきになるサンの耳元を素早く何かが掠めてゆく。
慌ててサンが躱し、跳んできたものの正体を見極める。
小さく鋭い嘴を持った、小型の鳥型モンスターだ。
いつの間にとサンが訝しむ間にも、彼女の周囲を飛び回るモンスターの数が増えてゆく。
「なん……! なんでモンスターが増えてんだよ!?」
「我が魔矢は際限なくモンスターを生み出す……。この折から逃れる術が、貴様にあるか……!?」
次々と矢を打ちだし、その矢をモンスターへと変えてゆくウェース。
サンの周りを飛び回る矢のような鳥……アローバードはサンだけに狙いを定め、彼女の周りを飛び回る。
そして動きを釘づけにされたサンに向かって、サースが盾を構えながら突進してきた。
「はっはぁ! 遅いと罵った俺の攻撃、今躱すことができるかなぁ!?」
「んなぁ!? テメェ、今こっちくんなぁ!!」
必死にアローバードを躱すサンの体に、サースは容赦なく盾を使った体当たりをぶちかます。
サンの体が、木の葉か何かのように弾き飛ばされてしまう。
「おごっ!?」
「はっはぁ!! 軽い! 柔い! 弱い!!」
弾き飛ばされたサンに追撃を掛けるべく、サースは方向転換を試みる。
「そんな体で円卓の騎士に殴り込みをかけようなどとは笑わせるわ!!」
「我らの連携をその身で受けろ、小娘ぇ……!」
サンの逃げ場をなくすべく放たれるアローバード。
そして止めを刺すべく駆けるサース。
サンは何とか体勢を整え、サースの方を向いて崩拳の構えを取る。
だが、体に受けた衝撃はまだ抜けきらない
「くっそ……!!」
「はっはぁ!! しねぇい!!」
サースがアローバードの群れを抜け、盾と共に突っ込んでくる。
それに合わせてサンは崩拳を放とうとするが、体勢が十分ではない――。
「……人のこと無視して女をボコすとはええ度胸やな、三下ども」
その瞬間、サンを守るように巨大な竜巻が天へと昇った。
鋭い刃のような風を纏う竜巻は、サンの周囲を飛び回っていたアローバードを斬り刻み、盾を振り回していたサースの体を弾き飛ばした。
「うおぉぉぉ!?」
「っ! ……もっと早く手ぇ貸せよ!」
「ハハ、悪いなぁ。お前だけでも余裕やと思うとったんや」
サンの背後でサイクロンアッパーを放ったウォルフは、自分を睨みつけるウェースの方を見やった。
「まあ、案外やることはわかったんや。多少は楽しめそうや……。サン、あのデカブツはお前がやれや。スキル相性的には、丁度ええやろ」
「ああ、わかったよ! ウォルフ、テメェはあっちのもやしをブッ飛ばせ!」
「おう。あんじょう、気ぃつけろや?」
「うっせーよ!!」
ウォルフにそう叫び、サンは一気に駆けだす。
拳を固く握り、最近覚えたスキルを発動。
彼女の拳は真っ赤に輝きだし、熱を帯び始めた。
「さっきはやってくれたたなぁ! お返しだぁぁぁぁぁ!!」
「んぬ!?」
ウォルフの一撃から立ち上がったサースへ、サンは震脚と共に拳を叩き込んだ。
「灼火崩拳んんんん!!!」
「その程度――!」
軌跡を残しながら叩き込まれた崩拳をサースは盾で受け止める。
だが、サンの一撃はそれで終わらなかった。
〈火〉の属性により熱を持った拳が、盾の防御力を貫き、灼熱の威力をサースの体へと打ち込んできたのだ。
「ぬぉ!? こ、これは……!?」
「おおおぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
地面を砕くほどの震脚。その威力を余すことなく乗せられた崩拳……。
そして、敵の装甲を無視するスキルが、今度はサースの体を弾き飛ばしたのだ。
「ぐぉぉぉぉぉ!!??」
「っしゃぁ!! 装甲無視のヒートナックル……そいつを乗っけた灼火崩拳!! がちがちの固めた装甲だけで、受け切れると思うんじゃねぇぞ!!」
「ハハ。装甲無視がLv30台で出てしまうんは、マッシブギアの特権かいなぁ? キキョウの光陰なんとかも、装甲無視多めやし」
嬉しそうに吼え猛るサンを横目で眺めるウォルフ。
そんな彼の顔面を狙って殺到するアローバードであったが、霞むほどの速度で振るわれたジャブによってすべて霧散してしまった。
「――で? まさかこの程度が全力とちゃうよなぁ?」
「ぐ、く………!?」
視界を向けることさえなく、全ての攻撃を迎撃されてしまったウェース。
ウォルフの実力を目の当たりにし、呻き声を上げるがすぐに新たなモンスターを呼び出した。
「出でよ、シャークドラゴン……!!」
―ギャオォォォアァァァァァ!!!―
再び現れる群青色のドラゴン。
巨爪を振り上げ、咆哮を上げるドラゴンを前に、ウォルフは不敵な笑みを見せた。
「ええぞええぞ……。ドラゴンハンターの称号、ついでにもらったろうやないけ」
「ほざけぇぇぇぇ!!」
ウェースの叫びと共に、ドラゴンの巨爪が振り下ろされた。
なお、対ギルド決闘は、GMが敗北を認めないと解除されない模様。




