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log170.動き始める歯車

「おう、おう。そーかそーか。なんか唐突に円卓の騎士(アーサーナイツ)に宣戦布告されてたからちょっと心配してたんよ。まあ、その調子なら大丈夫そうだな」

『ああ、ありがとう。一人であれば窮する事態だが……問題はないさ』


 異界探検隊のGM、リュージはクルソルを通じてチャットをしながら何度か相槌を打つ。

 場所はミッドガルドの片隅にある小さな喫茶店。NPCが経営する店舗としては最小の規模で、老いたマスターがのんびり経営する穴場的な店だ。

 通信の相手……セードーは今後の予定を彼に伝える。


『とりあえず、一時間後にジャッジメント・ブルースのブルースという男の協力を借りて、アバロンに突入するつもりだ。まあ、我々の無事でも祈っていてくれ』

「おう、そうするわー。じゃあ、頑張れよ」


 リュージはつつがなくセードーとのチャットを終え、傍らの席に腰掛けていた仮面の男、アルトへと振り向いた。


「――だ、そうだ。お前さんの古巣、これから武術家五人に強襲されるんだと」

「……聞きしに勝る無謀振りです。しかも全員乗り気だなんて……」


 アルトはがっくり肩を落とし、手で顔を覆う。

 そんなアルトの様子に苦笑しながら、リュージはジュースの入ったコップを傾ける。


「まあ、武人なんてそんなもんじゃねぇの? 大なり小なり負けん気の強い連中さ。勝ち負けがあって、上下のある世界に身を置くんだ。この程度で怯んじゃいられねぇだろ?」

「そういうものですか……。いまいち納得はいきませんが……」


 アルトは小さく頭を振り、それから瞳に強い意志を宿らせる。


「都合は、良いですね。我々だけで突っ込むよりはましでしょう」

「スニーキングミッションが、制圧戦に変わっちまったなぁ。まあ、こっちの方が俺好みだし、やりやすいやな」


 リュージはインベントリからゴロゴロと今回の作戦のために揃えた武器を取り出す。

 特殊弾頭装備のトリガーハッピーに、単発式のロケットランチャー、さらに殲滅用のグレネードなどなど……。

 装備だけを見れば一個小隊級の重火器の山だ。


「さて、コハクに無理言って揃えてもらったわけだが、いくらかいらなくなったなぁ。アルト、お前使う?」

「ではグレネードを」

「おう。で? 向こうに連絡は取るけ? 共闘出来りゃ、多少リスクが減ると思うけど?」


 グレネードをアルトに手渡すリュージ。

 彼の言葉に、アルトは小さく頭を振った。


「いえ。私と彼らの目的は異なるでしょう。彼らは円卓の騎士(アーサーナイツ)と戦うことが目的でしょうが、私は違う……。おそらく、足並みを乱してしまいます」

「横合いから突っ込まれても同じだと思うけどなー。まあ、あの調子じゃ協力申し出ても突っぱねられそうだし、こっちはこっちで勝手にやりますかね」


 リュージは小さく頷き、取り出した武器のチェックを行う。

 商人によっては、武器の耐久力が目減りした状態で、通常価格の販売を行う者もいる。CNカンパニー所属のコハクであればそのようなことはあるまいが、こうしたチェックは習慣づけておかなければならないものだ。

 新しく購入した武器のチェックを行いながら、リュージはアルトへと問いかけた。


「まあ、タイミングはあっちに合わせるとして、問題の御曹司はちゃんとログインしてんのかね? ぶっこみかけて肩透かしじゃ、笑い話にもならんぜよ?」

「大丈夫。他の子であればともかく、円卓の騎士(アーサーナイツ)のGMを引き継いだあの子には定時のログインが義務付けられています」


 アルトはリュージに説明しながら、自身のクルソルを取り出す。

 そしてフレンド欄を呼び出しながら、探し人の名前を検索した。


円卓の騎士(アーサーナイツ)……。おじい様が立ち上げ、作り上げたギルド……。あれの保全と維持は、暗黙の義務となっていますからね……」


 アルトが探し出した名前は、円卓の騎士(アーサーナイツ)の“ランスロット”となっていた。






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 アバロンの一室、自身に割り当てられた寝室のベッドの上に腰掛けながら、自身の前に跪いているランスロットはノースの話を聞いていた。


「――以上が、今後の円卓の騎士(アーサーナイツ)の行動方針となります」

「シャドーマンの捜索と討伐……だよね」

「はい」


 ノースの告げた行動方針を反芻するランスロット。

 小さく頷いたノースは、真摯な眼差しでランスロットを見上げた。


「シャドーマンの存在はすでに無視できないほどに大きくなってしまっております。かのPKによって殺されてしまったプレイヤーも数知れず……。早急にかの者を討伐せねばなりません」

「それは分かったよ。けれど……」


 ノースが提示した一枚の書類を検めながら、ランスロットは素直な疑問を口にした。


「そのために、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズというギルドを強襲するのは……」

「躊躇われるお気持ちもわかります。ですが、シャドーマンがあのギルドに匿われているのはすでに周知の事実」


 ノースは立ち上がり、力強く拳を握りしめる。


「あるいは、シャドーマンの何らかの姦計に闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの者たちが嵌っているやもしれません。それを確かめるためにも、此度の会戦は必要不可欠なのです!」

「―――そう。わかったよ」


 ランスロットはノースの方を見ず、曖昧に頷いた。


「ノースに、任せるよ。あとで、結果を教えて欲しい」

「ハッ。お任せください。必ずや、良き戦果をご報告いたしましょう」


 ノースはランスロットに一礼し、そのまま部屋を辞す。

 ランスロットはぼんやりと手にした資料を眺め、最後までランスロットを一瞥もしなかった。

 パタン、と音を立てて部屋を出てきたノースを待っていたのは、最近になって円卓の騎士(アーサーナイツ)の客員となったベルザであった。


「大した道化っぷりだなぁ、おい? 俳優志願かい?」

「冗談も休み休み言え。今回が最後と思えば、この程度は大した手間でもない」


 部屋の中のランスロットには聞こえないよう、しかしはっきりとノースは言い切る。

 まっすぐにアバロン内の廊下を進みながら、ノースはベルザへと問いかける。


「それより、あの三人は失敗したらしいが、本当か?」

「ああ。エアバイクだけ戻ってきたんだ、間違いなくしくったろうな。どうすんだ?」

「チッ、役立たずが……。まあいい。捨て石に期待などしていない」


 ノースは苛立たしげに舌打ちをしながら、今後のプランを口にし始める。


「とりあえず、先の宣誓は十二分に各ギルドの注目を集めたろう。初心者への幸運(ビギナーズラック)辺りが抗議文を投げてよこしてきそうだが、そちらはどうだ?」

「お察しの通り……警察系ギルドから正義感気取りのソロプレイヤーまで、さまざまな連中が抗議文を投げてよこしてやがる」


 顔をしかめながら、ベルザは丸めた紙を大量に取り出す。ギルドあてにやってくるメールは、このように書状の形式で取り出すことができるのだ。


「読んでるだけで頭痛がしやがる。ゲームだから火もつかねぇ。まったく、暖炉の焚き付けにもなりゃしねぇぜ」

「いちいち読んでやる必要もあるまい。こちらを見ている。それが分かれば十分だ」


 ノースはそう言って、話を先に進める。


「明日辺りにでも、アバロンの進路をヴァナヘイムへ向ける。奴らの拠点は判明しているからな。そこへ向けて艦砲射撃を見舞ってくれるわ」

「派手だねぇ。運営が黙ってねぇんじゃねぇの?」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるベルザ。言外にそんなことはあるまいとでも言いたげだ。

 ノースも自信たっぷりに頷く。


「それはあるまい。NPCのいる地点への無差別射撃ならともかく、ギルドハウスしかない区画への砲撃だ。このゲームの運営は妙なところが甘いからな、NPCさえ無事ならいい」

「まさに運営様様……。まあ、誰かが通報窓口に駆け込むだろうけどな。それはいいのかい?」

「かまわんさ。駆け込んだところで即BANされることはなかろう……。その間に、我々は消えればよい」


 円卓の騎士(アーサーナイツ)の行く末などもはやどうでもよいのか、ノースは小さくため息をつく。


「しかしランスロットの小僧を立ててレアアイテムを掠め取る案はうまくいっていたと思ったのだがな……。思った以上に悪評が広まるのが早かった。こうなるならば、とっとと円卓の騎士(アーサーナイツ)に見切りをつけるべきだったよ」

「ケッ。ボロボロにしたご本人様が言うと重みが違うねぇ」


 ベルザは厭味ったらしくそう言い、適当な場所に唾を吐き捨てる。

 そんなベルザを冷たい眼差しで見やりながら、ノースは言葉を続けた。


「フン……。狙った獲物も取れんような三下が良く吠えるものだ」

「……言うじゃねぇか……えぇ……?」


 ノースとベルザの間に、一瞬即発の空気が流れる。


「………」

「………」


 ピリピリと、大気が熱を持つかのような威圧感が辺りに漂い出す。

 どちらが先に武器を取り出してもおかしくない空気であったが、双方同時に険を収めた。


「……ふん。まあ別にいいさ。テメェとやり合っても損しかしねぇ」

「賢明な判断だ。お互い、リスクは避けるべきだろうな」


 呉越同舟とでもいうのだろうか。二人は目を合わせないまま、アバロンの廊下を進む。


「砲撃した後はどうするんだ? あぶり出しでもするか?」

「絶対的な優位はこちらに在る。それを維持し、連中を徹底的にいたぶる。そして精神的に疲弊した段階を狙って、分断を試みればいいだろう」

「どれだけかかるかねぇ」


 気の長い作戦を前に、ベルザは遠慮ない欠伸を掻いた。






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 空中要塞、アバロン。

 高高度を保ち、イノセント・ワールドを優雅に周回するその船を見上げる、一つの影があった。

 奇妙なことに、その影は大海のど真ん中に立っていた。足元に小島があるわけでも、いかだ船があるわけでもない。

 何の支えもなく、その影は海の上に立っているのだ。


「………」


 その影の傍では一つの動画が繰り返し再生されている。


『―――我々、円卓の騎士(アーサーナイツ)は、弱者を虐げるような行為を決して許すことができない。それが特に―――』


 繰り返されるノースの演説を聞きながら、影はアバロンを見上げる。


「――シィ――」


 影はニヤリと笑うと、ゆっくりと歩みを進め始める。

 風にたなびくマフラーを翻し、影は……シャドーマンはアバロンへの侵攻を開始し始めた。




 なお、NPCを砲撃した場合勧告なしでBANされる模様。

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