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log149.再会

 エタナと合流する道すがら、キキョウは闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの他のメンバーへとメールを送っておく。

 今日はシャドーマンの捜索は休憩の予定であったが、自身の動向を伝えるくらいはよいだろう……と考えてのことであったが。


「……結局全員集まってんな」

「まあ、気になるじゃん。シャドーマンから生き残ったなんて」

「ええ……。いったいどれほどの実力者か、興味もあるしね……」


 ウォルフの言うとおり、セードーとタイガーを除く全員がエタナとの集合地点へと集まっていた。

 サンはフレンドとの狩りを切り上げ、ウォルフはちょうどログインしたタイミング。ミツキは……背負った荷物を見るに、どこかのギルドでバーゲンセールでもやっていたのだろうか?


「ミツキさん、そのお荷物は……」

「ごめんなさい……メールに驚いて、仕舞う間もなくね……」


 キキョウの指摘にミツキは気まずそうな顔でインベントリに荷物を仕舞い込む。

 と、丁度ミツキが荷物をすべてインベントリに収めたあたりでエタナがその場に現れた。


「どもみなさん! すいません、今日はシャドーマンに関する捜索をお休みすると聞いていましたのに、突然お呼びたてしてしまいまして!」

「気にしないでください! シャドーマンに襲われても生き残った人に、興味があるんです!」


 キキョウは勢い込んで叫び、それから慌てて小声で訂正した。


「……あ。もちろん、シャドーマンの情報に興味があるんであって、生き延びた人のことは二の次、決闘を申し込むとかじゃないですからね?」

「……ああ、よかった。会って速攻、決闘を申し込まれる気かと……」


 キキョウの叫びに一瞬息を止めていたエタナも、安心したように息を吐いた。

 せっかくの情報源に襲い掛かって、聞ける話も聞けなくなっては元も子もない。


「まあ、ご本人も決闘に否定的というわけではなさそうですし、取材が終わりましたら決闘を申し込まれるとよろしいかと。それじゃあ、行きましょうか」


 そう言ってエタナはクルソルを取出し、ワープしようとする。

 ウォルフはワープする前にエタナを呼び止め、目的地について問いかけた。


「ちょいまち。ワイら、いきなり呼び出されてん、どこに行くかわからへんねんけど?」

「あ、そうでした! 今日取材に参りますのは、ニダベリルです! アポの取れましたその人、今日一日はニダベリルを動かないそうで……」

「ふーん。ところで、どうやってそいつの事調べたんだ? シャドーマンに襲われた連中の事調べてんのもそうだけど、ピンポイントにそいつのことだけ拾い上げるなんて無理だろ?」


 喋る間にもワープ設定を済ませるエタナに、サンも不思議そうに問いかける。

 彼女の言うとおり、エタナがいかに情報収集系ギルドに所属しているとはいえそれなりに限界はあるだろう。百万のプレイヤーが出入りするイノセント・ワールド、その中の情報をピンポイントで掬い上げるのは至難の業のはずだ。あるいはエタナには、そんなピンポイントな情報を掬い上げる何かがあるのかもしれないが……。

 多少の期待の込められたサンのそんな疑問に対するエタナの答えは、特に不思議でもないものであった。


「いえ実は、いつものように掲示板を流し読んでいたんですが、その中でシャドーマンに生き残ったなんてスレがあるのを偶然見つけまして……。周りからは“嘘乙”って叩かれてたんですけど、試しにスレのIDからメールを送りまして、色々お話を聞いてみたいと申し出たんです。なので、この情報が確定かどうか、まだ半信半疑だったりでして……」

「なんだよそれ。じゃあ、無駄足の可能性もあるんじゃんか」

「なんやそれ……」


 エタナの言葉に、サンは興が削がれたように顔をしかめる。

 まさかの情報の裏取りなしであった。最悪、取材そのものが無駄になるかもしれないのだ。

 ウォルフもその言葉を聞いてだいぶやる気をなくし、ミツキも顔には出してはいないが少し窘めるようにエタナへと声をかけた。


「エタナちゃん? 勇み足になるのは分かるけれど、少し落ち着いて情報を見直すのも大事よ?」

「いえまあ、仰ることもわかるのですが! やはり一記者としては、真偽はさておき自身で確かめたいんです!」


 エタナはワープ設定を終えると、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの方へと振り返り、鼻息を吐きながら問いかける。


「それで、行きますか行きませんか!? 皆さんは、今日はお休みですし、行かなくてもよろしいと思いますが!」

「いや、行くて。そう拗ねんなや……」


 ウォルフはややめんどくさそうに後ろ頭を掻く。相変わらず彼女の言葉を信じていない様子ではあったが。

 さすがにいろいろ言われたせいでへそを曲げかけるエタナを擁護するように、キキョウは一歩前に出た。


「どんな話でもいいんです。少しでも、前に進みましょう、エタナさん。間違っていたなら、道を戻ればいいんです。失敗は悔やむものではないんですから」

「キキョウさん……!」


 エタナはキキョウの言葉に力を得たかのように、強く頷き先制した。


「では行きましょう、キキョウさん! 場所はニダベリル、その入り口でお会いする予定です!」

「はい!」

「あたしらも行くんだからな? 置いてくなよ?」

「何だか置いていかれそうな雰囲気ね……」

「ワイら、ニダベリルには行ったことないからな? 置いてくなや?」


 エタナの様子から置き去りの方を心配し始める三人。

 そんな三人の様子には一切かまわず、エタナはクルソルのワープ機能を起動した。






 鉱山街ニダベリル。その入り口は錆びた鉄門の外枠で出来ており、やや傾いだ街の看板がやってきたプレイヤーたちを出迎える。

 そして今日のニダベリルの入り口には一人の男が立っていた。

 背を錆びた鉄柱に預け、瞑目する男はニダベリルへの新しい訪問者の気配に、ゆっくりと顔を上げた。


「……よかった、あたしらもワープしてる……」

「なんですか? 情報だけでなく私も信じられないと? そろそろ私も怒りますよ!!」

「いやその話はええやんかもう……。会ったらわかるんやろ? せやったらさっさと会おうや、そいつに」

「エタナちゃん、怒らないで!」

「ウォルフ君! エタナちゃんもごめんね? 私たち、少し言い過ぎたわね」


 男の視線の先では何かが原因で揉める一パーティの姿があった。おそらくワープ前の一件が原因だろう。

 男一人に女が四人。やや姦しい感じもするパーティへと近づいてゆき、男はゆっくり問いかけた。


「お取込み中すまないが、私に取材をしたいというのは君かな、エタナ君?」

「――っと、はいそうです! 私がエタナです」


 どこまでもめんどくさそうなウォルフの態度に、我慢が限界に達しようとしていたエタナだったが、横から声を掛けられさすがに感情を抑えてそちらの方へと振り返る。

 だが男はエタナからすぐに視線を外し、パーティ内唯一の男であるウォルフの方へと視線を向ける。


「しかしまあ……こんなにすぐに会えるとは思っていなかったぞ? ウォルフ君」

「あん? なんやねん、人の名前――」


 ウォルフはエタナに絡まれたおかげでだいぶ下がっていたテンションのまま、男をねめつける様に睨みつける。

 しかしその瞳はすぐさま見開かれ、驚いたような声を上げた。


「お、おま、ちょ……! なんでこんなとこおんねん、おっさん!?」

「そう、どストレートに呼ばれるとグサッと来るな」


 ウォルフのあまりといえばあまりの言い草に苦笑しつつ、男は腕を組み自己紹介を始める。


「私の名前はアーヘリア。ここ数年は引退していたが、最近復帰したプレイヤーだ。よろしく頼むよ、闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの諸君」

「え? は、はあ……」


 どこか親しげでさえある男……アーヘリアの言葉にキキョウは少し驚きながら頷く。

 エタナはアーヘリアとウォルフ、そしてキキョウを見やり、小さく呟いた。


「……お知り合いだったんですか? だったら最初に行ってくださいよ、もう……」

「いや、直接的な知り合いではないよ。以前、そこのウォルフ君とセードー君……闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの二人と戦ったことがあるだけさ」

「ようゆうわホンマ! この間のイベントん時、人のこと真っ二つに裂きおってからに……!」


 先ほどまでのローテンションから一点、一気にテンションの上がったウォルフは今にも飛び掛からんばかりに牙を剥きながら、周りへと叫んだ。


「注意せえよ! このおっさん、この間のマンスリイベントのボスやった男や! 腕前は折り紙つきやぞ!!」

「――ってーことはお前に黒星付けた奴か」

「まだいうかおんどりゃぁー!?」


 標的をアーヘリアからサンに切り替えたウォルフは拳を振り上げて彼女へと襲い掛かる。

 いつものじゃれ合いが始まる脇で、アーヘリアの経歴を聞き驚くキキョウ。


「イベントボス……? ということは、運営さんですか!」

「いや違うよ。この間のイベントはバイトのようなものさ。遊園地で着ぐるみを着るようなものだな」

「その例えは合ってるんでしょうか、間違ってるんでしょうか……?」

「半々、ってところじゃないかしら」


 ミツキは小さく咳払いし、一歩前に出てアーヘリアに向けて頭を下げる。


「すみません、私たちの仲間がいきなり無礼を働いてしまいまして……」

「いやいや。このくらいの方が親しみやすいもの。元気で何よりだ」


 アーヘリアは快活に笑い、改めてエタナの方へと向き直った。


「さて、エタナ君。今日の取材はシャドーマンについて……だったね」

「はい、そうです! まず、掲示板上でシャドーマンと戦い生き残ったと仰られましたが、それは事実なのでしょうか?」


 エタナは手帳とペンを取り出してメモを取る体勢に入る。

 そんな彼女の言葉を肯定したのはアーヘリア本人ではなく、サンとじゃれ合うウォルフだった。


「聞くまでもないやろ! そのおっさん、イベントボスで、引退したとはいえこのゲームの高レベルプレイヤーやったんで!? シャドーマン如き、負けるとも思われへんわ!」

「負け犬さんは黙ってていただけますでしょうか?」

「誰が負け犬っぼぁー!?」


 まだ先ほどまでのことを根に持っているらしいエタナの一言で激高するウォルフの頬を襲うサンの崩拳。

 コントかとツッコミを入れたくなるような一連の流れを前に、アーヘリアはくつくつと笑い声を上げる。


「クク……仲がいいんだな」

「ええ、まあ……」

「もう……」


 恥じ入る様に縮こまるキキョウ。ミツキは嘆息と共にウォルフたちを止めるべく動き出す。

 ミツキの思いがけず豪快な投げ技にアーヘリアが度肝を抜かされるのは、十秒後のことであった。




 なお、ミツキが参加したのはCNカンパニー主催のバーゲンの模様。

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