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log138.CNカンパニー

 いったん別れ、それぞれに情報収集を行うこととなった闘者組合ギルド・オブ・ファイターズ+α。

 アレックス・タイガーを筆頭とするチームは、一路ミッドガルドへと向かった。


「――で、思わずついて来てんけど。おっさん、なんか心当たりあるんかいな?」

「何も考えてなかったの、ウォルフ君……?」

「うむ。吾輩もこのゲームは長いのでな」


 タイガーについてきたウォルフとミツキは、そのたくましい背中についてゆく。

 タイガーは鷹揚に頷きながら、二人に目指す先を示してみせる。


「あそこが目的地である」

「おん?」

「あそこって……」


 タイガーが指差すのは、ミッドガルドでも一等地と呼ばれる区画。

 多くの高級マンションが立ち並ぶ中、一種異様ともいえるほど巨大な、白亜の商業ビルであった。

 近隣に立ち並ぶマンションの中でもひときわ高いそのビルのてっぺん付近に取り付けられた看板には「CNカンパニー」と記されていた。


「……CNカンパニー?」

「左様。吾輩、あそこにも友人がいるので、多少顔が利く。情報と言えば、CNカンパニーである」

「はあ、まあ、せやろけど」


 迷いなくCNカンパニービルへと向かうタイガーを追いかけながら、ウォルフは半信半疑……というか不安そうに問いかけた。


「……けど、うまくいくんかいな? 目につく物資と違て、情報なんあてにならんこともざらやろ?」

「そうね……。いざ手に入れた情報が間違っていました、なんていう話もあるし……大枚はたいてそんな話じゃ、笑うに笑えませんよ?」


 ウォルフと同じ不安を抱いているらしいミツキ。彼女の言うことももっともだろう。

 情報は、武器や防具、あるいはレアアイテムと異なり、形はなく、人の伝聞という形で伝えられてゆくものだ。こうした情報はどうしたところで伝達者の主観は入り混じり、最終的な入手者の元にたどり着く際にはすっかり情報の形が変わっていたなんて話もざらだ。

 手紙やメールといった、情報伝達ツールが残る現代ではあるものの、それでもこの情報の誤差というのはどうしても生まれてしまう。特にこう言ったゲームの場合、そうした誤差を意図的にうむ情報屋もいるのだ。

 Aという情報があり、それを確定させるためにはBという情報が入り、さらにプラスでCなんていう情報がある……といった具合だ。もちろんABCの情報はそれぞれに値段が設定されており、後ろに近づくほど価格が高くなっていくわけだ。ここまで来るとぼったくりの領域だが、これに近いことは往々にして行われている。

 情報は鮮度が命、なんて言葉がある。それ故に一時的になりやすい情報を、なるたけ高く売るための手法であるわけだが、おかげで一般プレイヤーにとって情報はもっとも手が出しにくい商品の一つでもある。不確定要素満載の情報にひと財産つぎ込むくらいなら、ちょっとお安い遺物兵装(アーティファクト)一つ買った方がまだ建設的だと言われるくらいなのだから。


「まあ、そうであるな。とはいえ頼るべくがない以上、一つでも多くの情報は欲しいものであろう?」


 小さな不安を言葉の裏に隠す二人に同意しつつ、タイガーはまっすぐにCNカンパニーに突き進む。頼りなさげな言葉とは裏腹に、進む足に迷いは全くない。

 自信満々ともいえる背中を前に、ウォルフたちは互いに顔を見合わせた。


「なんやえらい自信満々なんですけど……」

「……まあ、このゲームに長じてるミスターのことですし、何か秘策があるのかも」


 他に頼る術もない二人は、大人しくタイガーの背中を追いかけていった。






 しばらくしてCNカンパニーの正面入り口から堂々と中へと入った三人は、見知った顔と見知らぬ顔に出くわした。


「あら。これは闘者組合ギルド・オブ・ファイターズの皆様」


 見知った顔は狐耳っ子のコハクである。

 いつものように読めない半目の表情に、ゆらりとモフモフ尻尾を揺らしながら、ウォルフたちに一つ頭を下げた。


「ようこそ、CNカンパニーに。本日はどのようなご用でしょうか?」

「うむ、会いたい者がいるのであるが……」


 タイガーは顎鬚を撫でながら、コハクの後ろで硬直している見知らぬ顔に目を向ける。


「どうかしたのであるか? 吾輩の顔に、何かついているだろうか」

「い、いやっ……!」


 タイガーに声を掛けられ、コハクの背後に立っていた大男は慌てて首を振った。

 小柄なコハクの倍はありそうな、身長二メートルは越えている大男だ。

 小指の太さでさえちょっとしたペットボトルの飲み口ほどもある。魔導師のローブに身を包んでいるが、襟から見える首の太さから察するに、その下にあるのは筋肉の鎧だろう。がっしりとした顔立ちに怠慢の証である脂肪は見受けられない。よほど鍛えているのだろう。

 おそらく大斧でも持って構えていれば様になるだろう。そんな彼の頭には、小さなクマ耳が可愛らしく添えられていた。


「……なんやこのクマ男」

「名うてのレスラーかしら……。なら、ミスターを前に緊張しているのも……」


 ひそひそと小声で話しながら、大男を注視し始めるウォルフとミツキ。その視線に気づいたのか、大男は視線をあちらこちらに彷徨わせ始めた。

 挙動不審と言えるほどにおろおろしだした大男のローブを引きながら、コハクはタイガーの方へと導こうとし始める。


「ダーリン、ダーリン。憧れのアレックス・タイガーですよ? せっかくですし、ベアハッグの一つくらい決めてもらいましょう。ゲームですし、骨は折れません」

「いや、そんなこと言われても……! というか、せめてそこは握手と……!」

「………だーりん?」


 思わず聞こえてきた聞きなれない単語に、ウォルフの目が点になる。

 コハクの頭の狐耳がピクリとその単語を捉え、改めて隣に立つ大男を紹介し始めた。


「ええ、そうですよ。こちら、私の愛しのダーリン、プレイヤー・アラシ君、私と同い年の中学生の男の子です」

「ど、どうも……」

「ふむ。輝かしい未来にあふれる若者であるな! さあ遠慮せず我が胸に飛び込んでくるがよい!」


 コハクの説明を受け、タイガーは力強く頷くと、大きな胸板を誇示するように両手を広げて見せた。

 そしてコハクの説明を受け入れられなかったウォルフたちは目が点になった。


「……ちゅーがくせー……? え、わいとおなじ……?」

「……最近の中学生って、進んでいるのね……」


 遠慮がちに、しかししっかりとタイガーのハグを受け、それから握手を交わすアラシ少年は、どう見たところでベテランレスラー(三十代)にしか見えない。


「感激です……。コハクから聞いてはいたんですが、あのアレックス・タイガーがこのゲームをプレイしているなんて……」

「吾輩とて人の子、こうしてゲームに興じることもあるとも! また今度、狩りを共にしようではないか!」

「私たちは魔導師ですし、丁度いいです。CNカンパニー直下のマーセナリギルドに頼むと余計なお金が要りますし、今度ゲームをご一緒しましょうダーリン」

「いや、まって。ええっと、ええっと」


 勝手に話が進む三名の間に割って入ろうと、言葉を探すウォルフ。

 だがしかし、かけられる言葉を見つけられず、おろおろと手をふらふらさせることしかできない。

 それでも何とか言葉を絞り出し、ツッコミチョップを繰り出すウォルフ。


「――だーりんてなんのじょうだんやねーん」

「大いにマジ、大マジですが何か?」


 しかし精一杯のツッコミは、飛び上がりアラシ少年の首根っこにかじりつくコハクのいつになく真剣な言葉に弾き返されてしまう。


「私は彼を愛しています。もうそれはぞっこんラブ、私の全てを捧げてもまだ足りないと言っても過言、いえ過言すら生ぬるいほどにまだまだです。何故誰しも私とダーリンの仲を疑うのでしょうか。きっと私の愛が足りないせいですね。ダーリン、ぜひ今度生中継LIVEでケッコン披露宴しましょう!」

「やめてくれ……そもそもそれってつまり、ラスボスに挑もうってことだろ……? 僕たち二人じゃどうしようもないじゃない……」

「はい、そうですね。ですので近親者だけ呼んでの小さな挙式です。世界に向けて、私たちの愛を発信しましょう」

「ラスボスは眼中にないのね……」


 ちなみにラスボスにカップルで挑み、エンディングに入りつつ愛の告白をすることをプレイヤー用語でケッコン披露宴と言う。ラスボス戦は問答無用でイノセント・ワールド内放送になる仕様を利用した、盛大な惚気話であり、こうして愛を誓い合ったカップルは永遠に一緒でいられるなんて伝説もある程度に有名な言葉である。

 何とも若々しい二人を前に、タイガーは愉快そうに声を上げて笑った。


「はっはっはっ! 何とも初々しいではないか! その暁には、吾輩からも何か祝儀を包もうではないか!」

「ありがとうございます、ミスター・タイガー」

「ケッコン……ああ、羨ましい……」


 目の前の現実が受け入れられず唖然となるウォルフに、コハクの明るい未来を見て嫉妬するミツキ。

 そして当初の目的も忘れ、目の前の若きカップルを遠慮なく祝福するタイガー。

 そんな彼に、ため息交じりに声をかける人物がいた。


「やれやれ……。人のギルドハウスに入ってきてまで何をしているかと思えば……。お前さんは、寄り道しかしないのか? アレックス・タイガーよ」

「ふふ、若き前途を祝うのは寄り道とは呼ばんよ。我々老人にとっては、それこそが本懐だろう?」


 タイガーは振り返り、やせ細った白髪の老人に快活な笑みを見せた。


「センチュリオン・ノーチラスよ? ……おぬし、少しやせたか?」

「七十越えても筋骨隆々の人外と一緒にするな、戯け。こちとらもう八十路越えだぞ?」

「あ、社長」


 腰を叩きつつ、長い階段を下りてきた老人、コハクに社長と呼ばれた彼……CNカンパニーのギルドマスター、センチュリオン・ノーチラスは何とも言えない自社ロビーの光景を見て、また一つため息をついた。




なお、アラシ少年はCNカンパニー所属ではない模様。

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