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log13.クエスト開始

 セードー達がクエストを受領した翌日。

 セードー、キキョウ、アラーキー、カネレの四人は町の各所に存在するゲートと呼ばれるものの近くへとやってきていた。

 このゲートは一度行ったことがある町やダンジョンへ一瞬で移動できるだけでなく、セードー達が持っているクエスト受領書を使用すれば特定の地域へと赴くこともできる。


「さて、と……」


 ゲート前に立つセードーとキキョウの背中を見ながら、アラーキーは二人に声をかける。


「じゃあ、他の連中と一緒にこのクエストをこなすってことでいいんだな?」

「はい、その通りです」


 セードーは振り返り、アラーキーの言葉に頷く。


「二人ではさすがに厳しいでしょう。であれば、今後のためにもこういう形でクエストはこなしておくべきでしょう」

「ンフフ~。やっぱり多人数プレイがこのゲームの醍醐味だからねぇ~」


 カネレはいつものようにギターを弾きながら歌うように二人に語りかける。


「恐れずなんでもトライ! 二人ともがんばってね~」

「は、はい。頑張ります!」


 キキョウはカネレの言葉に勢い良く頷く。

 それぞれに激励の言葉を受け止め、二人はゲートへと振り返る。

 そして手にしたクエスト受領書をゲートへと掲げ上げると、いくつかのモニターが空間に投影される。

 どうやらそれぞれ別のパーティや条件でクエストに望んでいる者たちの状態を写しているらしい。これを選択することで、そのクエスト部屋へと転移できるようになるようだ。

 鍵付であったり、すでに満員であったりする中で、わずかに空きのあるクエスト部屋があり、セードーとキキョウはそのクエスト部屋を選択する。

 するとモニターは収縮し、代わりにゲートの光が増大する。あとはこの中へと入れば転移先へと移動することができる。


「それでは行ってきます」

「必ず、クリアしてきますね!」

「おう、気を付けていって来い」

「がんばってねぇ~♪」


 セードーとキキョウは、二人の言葉を背にゲートを潜る。

 一瞬、視界がまばゆい光に包まれ、次の瞬間に二人は見慣れない場所へと足を踏み入れた。


「……っと」

「ここが……?」


 二人は辺りをぐるりと見回す。ゲートはまだ彼らの背後にあるようだが、大きく朱い丸印が浮かんでいる。これは、ゲートが通行禁止であることを示す印だ。

 辺りは薄暗く、さらに大地は赤茶け、草木のようなものは一切生えておらず、まるで大地が死んでいるかのような雰囲気を醸し出している。


「……なんだか、怖いです」

「そうだな」


 今回のクエストの舞台となるニダベリルは、鉱山から取れる良質の鉱石が特産品のドワーフの街である。

 ある程度レベルが上がったプレイヤーは、この街で自身の武器を新調するようになる、というのがセードーの聞いた話だ。

 草木も生えない不毛な大地であるが、このように暗い雰囲気の場所であるという話は聞いたことはない。

 おそらく、今回のクエスト専用のフィールドなのだろう。


「おぉーい、そこのお二人さん!」


 と、二人を呼ばわる声が響き渡る。

 セードー達がそちらを向くと、ゲートから少し離れた位置に人が固まって集まっているのが見えた。

 集団はがやがやと雑談に興じているようだが、その一部は小柄な少年を中心に形成されているように見える。容姿端麗な少年に、黄色い声を上げながら人が群がっている、という感じだ。

 そして、その集団から少し離れた場所に二人の男が立っており、長弓を肩にかけた男が手招きしているのが見えた。


「そんなところに突っ立ってないで、こっちに来いよ!」


 セードーとキキョウは顔を見合わせ、それから人だかりへと近づいていく。

 そもそもゲートで待っていてもクエストがクリアできるわけでもない。

 二人が男へと近づく。


「これで人数は集まった感じかね?」

「そうでありますねー」


 集団からやや離れて立っている二人の姿は一風変わったものだった。

 まず長弓を肩にかけた男は、ごく普通の盗賊ルックであったが、何故か片目をずっとつぶっていた。目を隠すだけなら、眼帯で事足りるはずだが、彼は眼帯を嵌めていない。

 そしてもう一方の男だが、なんというか戦闘に携わる者、という格好ではなかった。どちらかと言えば、コックだろう。白い帽子こそかぶっておらず衣服の色も違うが、腰に巻いているのは紛うことなきエプロンであった。

 セードーは二人に近づき、集団を見やり、そして頷く。


「ずいぶんな数が集まっているな。いつもこんな感じなのか?」

「いや知らねぇよ。俺だって初めてなんだから」


 片目を瞑った男はそう言って笑う。

 代わりに隣に立っていたコック風の男が答えてくれた。


「自分の所属しているギルドの仲間によると、だいたいこんなもんなんだそうであります。大抵はまずソロで挑んで、無理ゲーの雰囲気を感じ取ったらみんなで集まって、って感じらしいでありますよ?」

「そうなんですかー。あ! 私、キキョウって言います!」


 キキョウはそう言って、ぺこりと頭を下げる。

 それに倣い、セードーと他の二人も自らの名を名乗った。


「セードーという」

「自分、サンシターというであります」

「ホークアイ。それか、鷹の目って呼んでくれ」


 それぞれの自己紹介を終えた四人は、しばらく雑談に興じることにした。


「今回のこのクエスト、標的はサイクロプスとのことだが……戦ったことは?」

「ないでありますよー。自分、そもそも戦い向きのスキル取ってないでありますから……」


 そう言って、サンシターと名乗った男は苦笑する。

 聞いてみれば、彼は戦うことではなく、仲間たちのサポートに徹することでレベルを上げてきたそうな。


「それは経験値効率が悪いのでは?」

「ハイであります。おかげで、このゲーム初めて一年近いのに、ようやくレベル10でありますよ……」

「それは相当悪いな」


 ホークアイが顔をひきつらせた。


「ちなみに武器は?」

「一応包丁を……」


 そう言ってサンシターが取り出したのは、ごく普通の包丁であった。

 それを見て、ホークアイは軽く笑った。


「巨人にそれは役に立ちそうにないな。ちなみに俺は見ての通り弓だ。そのうち、銃に乗り換える予定だけどな」


 ホークアイはそう言って弓を担ぐが、キキョウは別のところに驚く。


「このゲーム、銃もあるんですか?」


 中世然としたこのゲーム内で、銃などという近代的な装備が手に入るとは思わなかったのだろう。

 ホークアイは頷き、弓を肩にかけ直す。


「ああ。ただまあ、入手するにはレシピブックをどっかから見つけるか、ドワーフと仲良くなる必要があるらしいんだがな……そう言うあんたらの武器は?」


 問われ、セードーとキキョウは顔を見合わせてから各々の武器を掲げ上げて見せた。


「あ、私の武器は棒です」

「我が武器はこの拳のみ」

「マジかよ」


 二人の武器を見て、ホークアイは顔をひきつらせた。

 どちらの武器も、普通は武器として使用するようなものではない。

 だが無駄に自信満々な二人の様子を見て、ホークアイは軽く首を横に振った。


「……んん、まあ、このレベルまでそれで来てるんなら、別にかまわない……か?」

「自分の仲間の中には、花瓶を武器にする人もいるでありますから……」

「マジか。そっちの方がびっくりだな……」

「私もびっくりです……」

「花瓶が武器、か」


 花瓶さえ武器になる、という珍妙な話を聞いて驚く三人。

 そんな風に、雑談で時間が過ぎていく。

 と、その時。


 ドズゥーン……――。


「ん?」


 遠くの方から、ずいぶん重い音が響き渡った。


 ドズゥーン……――。ドズゥーン……――。


 その音は、一定の感覚で大きくなっていく。

 ありていに言えば、巨大な人型の何かがゆっくり歩いている音だった。


「……来たか?」

「……みたいだな」


 拳を固めるセードーに、弓を構えるホークアイ。

 キキョウとサンシターも、それぞれ自らの武器を構えた。


 ドズゥーン……――。ドズゥーン……――。


 音はずいぶん遠くから響いてくるように聞こえてくる。

 辺りには、先ほどまではなかった霧まで現れてきている。


「………っ」

「うう……」


 なかなか姿を現さない音源の存在に、キキョウとサンシターも緊張を強くする。l

 談笑していた人だかりも、すでにそれぞれに武器を構え終え、音のする方に武器を向けている。


 ドズゥーン…――。ドズゥーン――。


 やがて、音が身近に聞こえるほどに周囲へと響き渡り。


 ドズゥーン!


 その姿が、その場にいた全員の前に現れた。


「……嘘だろ、オイ」


 目の前に現れたそれを見て、ホークアイが引きつった声を出す。

 彼らの目の前に現れたのは、足だ。

 大きな大きな人間の足が、目の前に現れた。

 その太さたるや、人間が二十人が手を繋いでぐるりと回れるかどうか、といったものだ。

 そしてその先を見上げると、やや太ったようにも見える胴体に、筋肉がみっちりと詰まった腕が見え、大きな一つ目を備えた頭部がかすんで見える。

 ……古の伝説に残る、巨人の末裔。サイクロプスがその場に立っていた。

 その巨体を見上げ、キキョウは呆然とつぶやいた。


「………………確か、幼体、ですよね……」

「うむ。クエストの受領書にはそう書いてあったな」


 セードーは頷きながら、油断なく構える。

 もはや幼体というのもおこがましいほどの巨体であるが、あるいは成体はこれよりも巨大なのかもしれない、などと考えつつサイクロプスの動向を観察する。

 サイクロプスは、こちらの存在など気が付いていないかのように、足を上げまた一歩進む。


 ドズゥーン!


 けたたましい音を立て、地面が揺れる。

 サイクロプスが踏んだ地面から、亀裂が走り、こちらへと向かってきた。

 その場にいた全員が、思わず息を呑んだ。

 あんな足に踏まれてしまえば……一発で死に戻ってしまうのは間違いないだろう。

 誰もが恐れ、緊張を露わにするが……。


「―――みんな!!」


 その輪の中の中心にいた一人の少年が声を張り上げた。


「恐れることはない! 今ここにいる皆で! 力を合わせて戦えばいいんだ!」


 剣を抜き放ち天に掲げ上げ、どこか芝居がかった様子で周りを鼓舞する。

 その声に、周りにいたプレイヤーたちも己の目的を思い出す。

 そう。ここにはクエストの達成にやってきているのだ。決して、サイクロプスの威容に恐れ、立ちすくむために来ているのではないのだ。


「さあ、いこう! あいつを倒して、クエストクリアだ!!」

「「「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」」」


 少年の呼びかけに、周りの者たちが鬨の声を持って答える。

 皆、己の武器を手にサイクロプスへと駆け出していく。

 ホークアイは、そんなプレイヤーたちの姿を見てどこか皮肉げに笑った。


「へぇ、やるじゃん」


 輪の中心に立ち、まっすぐにサイクロプスを睨みつける少年。装備している武器防具は、そこそこの物のようだ。

 彼を守るように数人のプレイヤーが立っているあたり、おそらくパーティでこのクエストの参加しているのだろう。だが、彼らはサイクロプスに直接攻撃を仕掛けに行くようなそぶりはない。

 サイクロプスへと攻撃を仕掛けているのは、それ以外の者たちばかり。まるで鉄砲玉のようだ。

 意図しているのか、いないのか。あの少年は己の言葉だけで、周りを扇動しているようにも見えた。


「……まあ、せっかくのサイクロプスだ。こっちも攻めなきゃもったいない、ってねぇ!」


 ホークアイはそう叫び、弓を構えて己も駆けだす。

 そんな彼の背中を、セードーは静かに見守っていた。




なお、サンシターさんはビビって動けない模様。

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