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log105.動く者たち

 各ギルドのギルドマスターとアラーキーは協議を重ねた。

 円卓の騎士(アーサーナイツ)の助力を得るべきかどうか。このままで、城砦を攻略可能なのかどうか。

 各々のギルドのプライドをかけたともいえるこの協議は、混迷を極めた。

 あるギルドは円卓の騎士(アーサーナイツ)の助力を得るべきだという。やはり我々だけで城砦の完全攻略は難しいのではないか、と。

 あるギルドは円卓の騎士(アーサーナイツ)の助力はいらぬという。城砦は我々だけで攻略すべきだ。例え完全な攻略がならずともかまわない、と。

 別のギルドは円卓の騎士(アーサーナイツ)は疑わしいから別のギルドが良いといい、さらに別のギルドは円卓の騎士(アーサーナイツ)の一部を使い捨てるつもりで使えばよいのではないかという。

 中にはどちらでもよいという者もいたり、忙しいからそんなことで呼ぶなと叫ぶ者もいた。

 協議は一向に進まず、ログアウト時間になるまで円卓の騎士(アーサーナイツ)への助力に関してどう対処するかは結局決まらなかった。

 アラーキーはそれではめげずにもう一度ログインし、各ギルドのマスターたちへと呼びかけを行ったが、さすがに全員集まることはなく協議の再開すらままならず。


「……うーむ」


 結局次の日になるまで、円卓の騎士(アーサーナイツ)に助力を頼むかどうかの可否を決めることができなかった。

 いつもの集合場所にやってきたアラーキーは、顔をしかめて唸り声を上げる。

 それを見て、城砦へと通じるゲートを開こうとしていたセードーが声をかけた。


「先生? いかがしました?」

「ああ、いや……」


 セードーの呼びかけにアラーキーは軽く首を振る。

 しかし昨日のアラーキーの呼びかけを知っていたらしいセードーは、オーブを投げる手を止めアラーキーに向き直る。


「昨日の、円卓の騎士(アーサーナイツ)のことですか?」

「ん……」


 アラーキーは頬を掻く。

 その動作にアラーキーの迷いを感じ取ったセードーは、一つ頷き同盟の方へと振り返った。


「――皆! 城砦攻略を始める前に聞きたいことがある!」


 今までなかったセードーからの呼びかけを前に、同盟がざわめき始める。

 セードーは皆の注目が集まったことを確認してから、声を上げた。


「実は昨日、円卓の騎士(アーサーナイツ)から助力の提言があった! 各ギルドのマスターたちは知っているかもしれないが――」


 円卓の騎士(アーサーナイツ)の名を聞き、同盟のざわめきが大きくなる。

 誰もが名を知る大ギルドの一つであり、かつての功績はイノセント・ワールドで最も大きかったとも言われるギルド……。

 だが今はその功績も地に落ち、名声を利用して己の欲のままに行動する大ハイエナギルドの一つであるとも言われている。

 そんなギルドからの助力の提言……それはつまり、獲物として見定められたということに他なるまい。

 次第に大きくなってゆくざわめきを前に、セードーは声を張り上げる。


「彼らがなぜ今このタイミングで助力を申し出たのかはわからない! だが、実際問題我々には時間がないのも事実だ!」


 大きく手を振り、グッとセードーは握りしめた。


「果たして時間が足るのだろうか!? 果たして力が足るのだろうか!? そんな不安を胸に抱いているものが、少なからずいるのではないだろうか!!」


 その言葉を聞き、ハッと胸を押さえ、あるいは手を握りしめるものが同盟の中に現れる。

 心当たりがあるのだろう。考えたことがあるのだろう。

 そんな同盟の者たちの様子に構わず、セードーはさらに声を上げる。


「かくいう俺もその一人だ! この同盟を立ち上げ、初めてこうしたイベントに参加し……果たしてこのままで終わるのか、終われるのかと考える!」


 そうしてセードーは瞑目する。


「城砦を落として終わるのか……あるいは落とさずに終われるのか……誰もが思うことだ!」


 一呼吸置き、セードーは目を見開く。


「そんな中での円卓の騎士(アーサーナイツ)の提言! この上なくありがたいと言えるだろう! 彼らに二心がないと言えるのであれば!!」


 いつしかざわめきは止み、皆がセードーの言葉に耳を傾けている。

 キキョウは真面目な表情で、ウォルフはどこか斜に構えたまま、サンはいつになく真剣に、ミツキは静かな顔つきのまま。

 リュージもホークアイもスティールも、その場にいたギルド同盟の皆は一様にセードーの声を聴いていた。


「そんな保証は誰もしてくれない! だが断った程度で引いてくれるかも定かではない! それが今の彼らの姿だ!」


 セードーは一身に集まる同盟の者たちの視線を受け止め、大きく手を広げた。


「ならば我々はどうしたらよいか! それを考えた! 俺が思うに――!」


 セードーは、その場で皆に一つの提案を行った。

 彼の提案を聞き、その場にいた者たちは皆息を飲んだ。






「総隊長」

「はい、なんでしょう?」


 円卓の騎士(アーサーナイツ)の本拠地である、アバロンと呼ばれる空中要塞。

 イノセント・ワールドでも極めて珍しい、飛空艇の形をしたギルドハウスの一室でくつろいでいたランスロットの元に、一人の騎士が現れる。円卓の騎士(アーサーナイツ)の中でもランスロットに次ぐ地位を持つことの証である、四剣と呼ばれる騎士のみが着ることを許された鎧を身に纏った騎士で、ランスロットの後見人でもあるノースだった。

 ノースは恭しく首を垂れると、ランスロットへの進言をはじめる。


「総隊長が気にしていらしたギルド……闘者組合ギルド・オブ・ファイターズを初めとするギルド同盟が、マンスリーイベントの攻略を開始したようです」

「そうですか……」


 ランスロットは少し気落ちしたようにため息をついた。

 あれからアラーキーからの返事を待っていたが、結局ランスロットのクルソルに返事が返ってくることはなかった。

 おそらく、自分たちのギルドの悪名が祟ってしまったのだろう。先代……自らの祖父の跡目をついで就任した円卓の騎士(アーサーナイツ)のギルドマスターの職であるが、自分がその地位についてからの円卓の騎士(アーサーナイツ)の暴挙は留まるところを知らない。

 ランスロットとて、自分たちの噂を知らぬわけではなく、その噂を改めようと日々奮闘している。

 だが、ランスロットが見る限り円卓の騎士(アーサーナイツ)にハイエナと言われるような所以はないのだ。

 強敵に苦心する初心者たちを手助けし、さらに彼らのためにアイテムを施す……。この行為のどこにハイエナと呼ばれるような場所があるのか、ランスロットにはわからなかった。

 しかし噂というものは火元がなくても立つものだ。かつてのギルドマスターの功績を妬み、そうした噂を流す者がいないとも限らない。彼がこのゲームを引退したのをきっかけにそうした噂が爆発的に増え、今の円卓の騎士(アーサーナイツ)の状況を生み出したとも考えられる。

 そうした噂を覆すことのできない己の未熟を恥じながら、ランスロットは立ち上がる。


「それでは仕方ありません……。また彼からの返事を待つことにします」

「待つだけで、よろしいので?」

「イベントは今日で終わりではありません……。最後の一日に助力を申し出ていただいたとしても、それで……」


 そうランスロットは告げるが、ノースはそうは思わなかったようだ。


「総隊長。お言葉ですが、それでは遅いと思われます」

「そうでしょうか?」

「ええ。力なきものの助力は、早ければ早いほど良いかと」


 ノースはゆっくり立ち上がり、まっすぐにランスロットを見つめる。


「確かに彼らにも矜持はあり、それ故に我らの手を借りぬということもありましょう。ですが、結果としてイベントを攻略できずに泣くのは彼らなのです。そんな彼らに救いの手を差し伸べるのが、果たして悪行なのでしょうか?」

「ええ、そうですね……」


 ノースの言葉に、ランスロットは頷く。


「けれど、アラーキーさんは僕に返事を……」

「返事を寄越さない、というのはまだ迷っているからかもしれません。果たして助力を得るべきか否か。我らの助力がいらぬというのであれば、いらぬと返事を寄越すでしょう」

「んむ……」


 ノースの言葉に納得するように、ランスロットは一つ頷く。

 その表情はいささか迷いが見える。アラーキーの返事を待たなくてよいのか、という。

 ノースはそんな彼に、さらに言葉を重ねた。


「迷っているのであれば、手を差し伸べるべきです。彼らの弱さは彼らのせいではない……なれば、力ある我らが手を伸ばすべきなのです」

「……そうですね」


 ノースの言葉にランスロットは迷いを振り切り、顔を上げる。


「ノースの言う通りかもしれません。では、さっそく彼らに手を差し伸べに行きましょう!」

「はい。隊の編成はいかがいたしましょう?」

「まだアラーキーさんから正式に助力の申請があるわけではありませんから……50名ほどの手練れで構成しましょう」

「御意に」

「では、いきましょうか!」


 ランスロットはノースにそう告げ、自らの装備を身に纏い意気揚々と部屋を出る。

 そんな彼を追うノース……その瞳が何やら怪しげに揺らめいていることに気が付かずに……。






 ガシャリと音を立ててオーブが割れ、城砦への扉が開く。

 同盟の者たちは今日の城砦攻略に向け、押し黙り、高ぶった気持ちを溜めこんでゆく。

 先頭に立つセードーの合図とともに、いつでも飛び出せるように。

 それを見据えて拳を握るセードーに、アラーキーが声をかけた。


「セードー、すまないな」

「ん? 何がでしょうか?」

「いやなに、さっきの演説さ。……助かったよ。おかげで俺も吹っ切れた」


 アラーキーは迷いの晴れたような晴れ晴れとした表情で、小さく笑った。


「考えてみればお前の言うとおりだ。別に迷う必要はなかったわけだ」

「そう思っていただければ、恥を飲み込んだ甲斐はありました」


 セードーはそう言っていささか照れくさそうに笑う。

 そんなセードーを軽くつつきながら、アラーキーはおどけた声を上げる。


「まったまたぁ。さっきのお前さんの演説は迫真に迫ってたじゃないか、うん。人を率いるの苦手とか言っておいて、そっちの才能あるんじゃないのか?」

「ああ、いえ……実はさっきの、ミスターの……ギルドマスターの入れ知恵なんです」


 そう言ってセードーは頬を掻く。


「セリフやなんかも、教えていただいたもので……まあ、要するに盛り上げてしまえばあとは何とかなるだろうと」

「んん、そうだったか……だがまあ、言ったのはお前だ。なら、お前の言葉でいいだろ、うん!」


 アラーキーはバシンとセードーの背中を叩いて、活を入れる。


「さあって! 張り切っていこうじゃないか、セードー!」

「ええ」


 セードーは小さく頷き、息を吸い。


「――さあ、行くぞみんな!」


 後ろに並び立つ同盟の者たちに聞こえるように声を張り上げる。


「「「「「応ッ!!」」」」」


 それに応え、同盟の者たちが大気を揺るがす。

 そして一糸乱れぬまま、ギルド同盟たちは城砦へと乗り込んでいった。




なお、アレックス・タイガーはリアルでは州知事である模様。

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