log103.地下九階
イベント攻略開始四日目。地下六階からモンスターのレベルが上がったことを受け、闘者組合を旗本とするギルド同盟はダンジョン攻略の方向を転換。分散していた各ギルドの戦力や探索役を元に戻し、極力死に戻らないようダンジョンを攻略してゆくこととなった。
死に戻りの唯一にして最大のデメリットである、強制半ログアウト時間。例え最短で四分であるのだとしても、さほど戦力も多くないギルド同盟にとっては一人が四分欠けるだけで、残りの戦闘要員が総崩れになってしまう事態も散見された。こうなると囮の意味もなくなり、興奮状態に陥ったモンスターがそのまま探索班まで壊滅させられてしまうという状況も発生してしまうようになる。
大抵のギルドは元々のパーティが、一番バランスが良い形になる。やはり、元々のチームメンバーの方が連携も容易いし、戦う際のくせなどもよくわかっている。モンスターの方がレベルが高く強力である場合、最も重要なのはプレイヤー同士の連携と言われている。数値には表れないプレイヤースキルこそが、強敵を撃破するためのカギとなるわけだ。
そしてギルドを元鞘に戻すに当たり、レベルが低めのいくつかのギルドは一旦上層階まで戻り、埋め切れていないマップの残りを埋める作業へと割り振られることとなった。こうしたイベントダンジョンであれば、比較的浅い層でも相応の価値を持つレアアイテムなどを発掘することも可能となる。こうしたレアアイテムはギルドの貢献ポイントにこそならないが、自分たちのギルドに不要であれば同盟内でのアイテムトレードに利用すればよい。
当然、ダンジョンの奥に行けばいくほどよりレア度の高いアイテムを入手できる率は上がってゆく。そうしたレアアイテムを目指すギルドは、同じような目的のギルドと同盟内でさらに同盟を組んでダンジョンの奥地を目指すこととなる。
そうしたレアアイテムを目指すギルドの一つである異界探検隊は、セードー達闘者組合と小同盟を組み、城砦ダンジョンの奥地へのアタックを敢行していた。
地下九階。ひたすらまっすぐに階段を目指しつづけた一行は、次の階段が目に見えるところで、モンスターの大群に足止めを喰らっていた。
ダンジョン攻略可能の残り時間はあと5分。それまでに階段にたどり着き、マーカーを設置できれば明日からの攻略がぐっと楽になる。
「チェリャァ!」
裂帛の気合いと共に放たれた手刀が、シャドウアサシンのフードを中身ごと穿つ。
闇の波動を纏ったセードーはそのまま勢いよく腕を振り抜き、シャドウアサシンに止めを刺す。
残心を残し、手刀を引いたセードーはそのまま辺りを睥睨する。
「次ぃ!」
「あんま前に出すぎんな! 二体、そっちいったわよ!」
手にした拳銃のリロードを行いながら激を飛ばすマコ。
彼女の言葉通りにセードーを狙って二体のワイルドウルフが鋭い牙と爪をむき出しにしセードーへと襲い掛かろうとする。
セードーは無双構えにて内一体と正対。もう一体には視線を向けず。
「頼んだ、ウォルフ」
「任せい!」
背中を駆け抜けてゆくウォルフにもう一匹を譲り渡す。
固く拳を固めたウォルフは、一瞬でワイルドウルフの懐に踏み込む。
ワイルドウルフは刃のような爪でウォルフの体を引き裂こうとするが、完全に間合いを誤り彼の肩に虚しく腕を叩きつけるだけで終わった。
ウォルフは危なげなくその一撃を受け止め、鋭いジャブを連続で放つ。
「シャラァァァァ!!」
右手のみで放たれたジャブは散弾のごとくワイルドウルフの上半身を打ち据える。
拳に纏われた風の生む真空刃によって上半身をずたずたに引き裂かれたワイルドウルフは一歩二歩と後ろへと歩き。
「サイクロンナッコォ!」
追撃の竜巻によって上半身を容赦なく打ち砕かれてしまう。
その隣に立っていたワイルドウルフはセードーの前蹴りにより股下から一気に斬り裂かれ、崩れ落ちてゆく。
リロードを終えたマコは、残心を行う二人を見て化け物でも見るような表情を作った。
「相変わらず理不尽の塊ね……。一人だけならまだしも、まだいるとか」
「り、理不尽って、そんな言い方はないと思うよ……?」
回復魔法を準備しながらマコを諌めるレミであったが、彼女自身セードー達の戦い方に若干引いているようだった。
そんなセードー達の仲間の一人であるキキョウは、コータと共に四体のオーガセイバーと向き合っていた。
刃毀れしているオーガセイバーの剣は、その恐るべき膂力によって斬るよりも叩き潰すことに特化しているようだ。コータが交わした一撃が地面を抉り、容赦なくへこませた。
「うわっ!? またずいぶんと強烈だね……!」
驚きながらも不敵な笑みをこぼすコータ。
彼は鋼の剣を構え、オーガセイバーを睨みつける。
「でも、引けないよ……! 僕も、アーティファクトが欲しいからね!」
「コータさん! 私が牽制します! 続いてください!」
棍でもってオーガセイバーの一撃を捌いたキキョウはそう言って、一歩前に出る。
オーガセイバーは前に出たキキョウに狙いを定め、同時にその手にした剣を振り下ろす。
「光陰幻舞!」
同時に発動したキキョウのスキルによって、オーガセイバー達の一撃は受け止められる。
一瞬にして四人に増えたキキョウは、オーガセイバーの剣をそれぞれに受け止め、その刃を捌きオーガセイバー達の体勢を打ち崩す。
「「「「コータさん!」」」」
合図の声を上げるのと同時に一人に戻るキキョウ。
その彼女の背後で構えた剣から投影した光の刃を振るい、コータはオーガセイバーに踊りかかった。
「ファントムブレード! 乱れ斬りだぁ!!」
コータと共に踊り舞う光の刃はオーガセイバーの体を斬り裂いてゆく。
内一体は何とかHPを残し立ち上がろうとするが、キキョウの光陰流槍Lv1によって撃破されてしまった。
モンスターを倒し、一息つく彼らの頭上を緋色の大剣を持ったリュージが跳び越えてゆく。
「ヒャッハァー! 上段八双流れ斬りじゃぁー!」
「いや意味が解らん!」
そのままプチタイタンへと大上段から斬りかかるリュージにツッコミを入れるのはソフィアだ。
プチタイタンは手にした大槌でリュージの一撃を受け止め、そのまま跳ね返す。
リュージはマントを翻しながら、空中で三回転半を決める。
「おおっと!? なかなか華麗なパリィを決められた!」
「感心してる場合か!」
華麗に着地してみせるリュージに怒鳴りながら、ソフィアはレイピアで数回空を斬る。
そのレイピアの軌跡に従い、三日月形の真空刃が生まれ、プチタイタンへと狙いを定める。
「――斬り裂け、蒼空ッ!」
そしてソフィアが大きくレイピアを振るうのと同時に解き放たれ、プチタイタンの体に容赦なく斬撃跡を刻み込む。
見上げるような巨体を持つプチタイタンは痛みから咆哮を上げるが、その傷口は見る見るうちに塞がっていってしまう。
「そこに追撃の火斬じゃぁ!!」
その治癒を許さぬと言わんばかりに突貫したリュージは、手にした大剣から火を噴き上げながら一気に斬りかかる。
プチタイタンは再び大槌を構えてリュージの一撃を受け止めようとするが、拮抗したのは一瞬だけだった。
リュージの炎は飴のように大槌を融かし、そのままプチタイタンの巨体を斬り裂いてしまう。
リュージはニッカリと笑い、ソフィアに親指を立ててみせる。
そんなリュージの行動に、ソフィアはため息をつきながら手を振って見せる。
「いつもそうして黙っててくれればいいのだがな……」
「愛は自然と零れるもの!」
「そうか……」
リュージの言葉に、また諦めのため息をつくソフィア。そんな彼女の傍を、勢いよくゴブリンスカウトがすっ飛んでいった。
大きく震脚を踏み込んだサンが、拳を引いて気を吐く。
「ッハァ! まだまだだぜ! 次はどいつだ!?」
息巻くサンに駆け寄る小柄なゴブリンスカウト。
サンはそのゴブリンスカウトに向けて、再び足を踏み込む。
「裡門頂肘ッ!!」
掬い上げるように放たれたサンの鋭い肘が、ゴブリンスカウトの顔面を打ち砕く。
満面の笑みで牙を剥くサンだが、打ち倒されたゴブリンスカウトの影からまた一匹ゴブリンスカウトが姿を見せる。
「ッ!?」
その手には禍々しい形状をした刃が握られている。毒液なのだろうか、刃の表面はヌラリと怪しい輝きを放っていた。
大きく踏み込んだ震脚によって生まれた大きな隙が、ゴブリンスカウトの一瞬の接近を許してしまう。
「やら……!」
ここに来るまでに数回の死に戻りを経験していたサンはギュッと目を瞑る。
「――せませんよ?」
そんな彼女の耳に届いたのは、涼やかなミツキの声だ。
ハッと目を見開くと、一瞬でサンの傍を駆け抜けたミツキは、一撃でゴブリンスカウトを投げ飛ばしていた。
歩くような動作で進むミツキは、さらに近づいてきたゴブリンスカウトに手を伸ばす。
「どうやらこのモンスター、ツーマンセルで行動するタイプのようね?」
そしてゴブリンに触れた瞬間、大きく腕を振るう。
すると、前を走っていたゴブリンは天井へと跳ね飛ばされ、後ろを走っていたゴブリンは顔から地面へと倒れる。
仲間を倒され、激高したかのようにゴブリンスカウトがミツキへと殺到するが、奴らが手にした刃はミツキの着ている衣服にさえ掠らない。
まるで舞でも舞うかのように優雅な動作で近づいてくるゴブリンスカウトを千切っては投げ千切っては投げを繰り返すミツキ。
彼女は迫るゴブリンスカウトたちを捌きながら、サンに笑顔を向けてみせる。
「いつだって余裕を持って事にあたるべし……水月流護身術の教えの一つです」
「あいにくあたしは通信八極拳流だよ! フンッ!!」
馬鹿にされたわけではないだろうが、わけもなく腹がたったサンは苛立ち紛れに傍に立っていたゴブリンスカウトに崩拳を叩き込んだ。
並み居るモンスターたちをその身に付けた技と武器でもって打ち砕く闘者組合と異界探検隊。その戦いぶりは危なげないものであったが、彼らの足は階段に向くことなくただただ時間ばかり過ぎてゆく。
いよいよダンジョン攻略可能時間が1分を切ったことを示すブザーが鳴り始めた……その時。
「みなさん! マーカーセットしたでありますよ!」
頭から中華鍋をかぶったままのサンシターが、階段の傍でそう叫んだ。
戦うセードー達を囮にし、サンシターが安全にマーカーをセットする……つまりそう言う作戦だったのだ。
それを確認したマコは満足そうに頷き、周りの仲間たちに叫んだ。
「よっし! 目的達成! あとは好きにしなさい!」
「「「「「おう!」」」」」
マコの激励を受け、セードー達は己の武器を握りしめる。
そして、残り時間いっぱいまで、群がるモンスターたちを打ち倒しつづけるのであった。
なお、サンシターはひたすら中華鍋で防御に徹している模様。




