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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第二章―引き寄せられるモノ―
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第二章 -24-

「ごめんね、常和。服、濡らしちゃって」

「いいっていっただろ? 気にするなって」


散々泣いた後、先程の部屋へむかう道の途中で、何度もそんな会話をした。涙がしばらく止まらなかったせいか、彼の服は本当にびっしょりと濡れてしまっていた。散々泣いたことが恥ずかしく、彼の服を汚してしまったことがとても申し訳ないと思うが、常和は何度も、気にするなと私にいった。

正直なところ気持ちのもやもやはまだ取れていない。気持ちの切り替えにはまだ時間がかかりそうだった。これからこの世界で私は、蒼龍姫として生きなければならないのだ。私の意思には関係なく。何をすることになるのかすら全く分からないが、考えると、どうしようもない感情が心を支配する。だから取り敢えずは意識の外へと追いやることにした。


「ねえ、常和」

「なんだ?」

「なんか、頭がぼーっとする……」

「あれだけ泣けばな。……というかお前、さっきから少し体が熱い気がするんだが。足を挫いたので熱でも出たのか?」


常和に指摘されて、確かに、体中が熱いようなそんな気がした。自覚したから余計なのか、考えることすら放棄したくなるほどの気持ち悪さが襲ってくる。うめき声をあげていると、常和が心配そうに声を掛けてきた。


「足、痛むのか」

「足は別にそれほどじゃない、けどなんか、すごく体が重い気がするし、気持ち悪い……」


風邪を引いた時のような怠さだ。頭もぼーっとしてきてその場に寝転がりたくなる位の。

直に医務室に向かった方がいいか、と常和が声を掛けてくるが、言葉を発することさえも辛くなり始めていた。常和の肩に顔を埋めると、心配そうに名前を呼ばれるが、返す気力もない。暫く歩いていると、雅人さん、という常和の声が聞こえた。



「遅いから、こっちから馨殿の言葉を伝えに来た。医務室に向かえだと。……夕澄はどうかしたのか?」

「具合が悪いみたいで。発熱もしているようです」

「発熱? 捻挫のせいか……いや、もしかしたら副作用かもしれないな」

「蒼龍姫にもあるんですか?」

「他の能力者にある以上、ないとはいえないだろう。どっちにしろ、さっさと捻挫の治療をして寝かせておいたほうがいいだろう」


そんなやり取りを常和と雅人がしているのが聞こえた。

が、最後のほうがぼんやりとしか聞こえなかった。怠さが増して限界が近づいてきたからだろう。視界等がぼやけるのと同じように、私の意識はだんだんと遠のいていった。


結果からいってしまえば、私は2、3日起き上がれなかった。

いつのまにか屋敷に戻ってきて目を覚ましたときには足の手当ては済んでいて、今までに体験したことのないようなだるさが体を襲っていた。

雅人曰く、捻挫も影響しているかもしれないが、能力の副作用の可能性が高いらしい。碧が生命力を削って出る症状と同じようなものが、私にもあるのだろうということだった。

正直、こんな思いをずっと碧がしていたのかと思うと感動すら覚えてしまう。

常和も雅人も事後処理に追われているようだったが、時折私の様子を身にきていた。2人だけではなく馨もきた。碧が来たときには流石に驚いた。

この世界の地位や身分という概念が少しわからなくなってきていた。


「さて、夕澄の体調も良くなったことだし、帰るか」


ある程度体調が戻った後、雅人がそういった。まだ全快とはいえなかったものの、私は馬に乗るわけではないので多少だるいくらいならなんの問題もない。

出る前に翠に挨拶にいくと、彼もまた、まだだるそうにしていたものの話す余裕くらいは戻っていたようで、かなりお礼を言われた。こちらが照れてしまうくらい言うものだから、最終的には馨が止める自体になった。


「また会いにきてください! 今度は、もっと歓迎しますから!」


そうニコニコ笑う翠に、私も笑った。本当に、何事もなくて良かったと思った。


帰り際、馬車に乗り込むところまで馨が見送りにきてくれた。

律儀だなと思ったが、彼の目的は見送りではなかったらしい。

一連の事態の礼をにこやかに述べた彼はしかし、酷く悩んでいるような顔で口を開いた。


「雅人様、例の事は彼女に?」

「いや。まだ言っていない。具合の悪い時に気を高ぶらせるのは問題だからな」


そう会話する二人に、常和と2人で訝しげな視線を向けていると、雅人は、また同じことを話してくれるかと馨に言った。馨は、私をじっと見た後、ためらうように何度か口を開けたり閉じたりしていたが、やがて、意を決したように言葉を発した。



「落ち着いて、聞いて下さい。これは小耳に挟んだ情報で確証がある訳ではないんですが」


雰囲気がおかしいことに気付いて、常和も私も何事だろうと思った。

そして続けられた言葉は、私に今までと比較にならないほどの衝撃を与えた。


「この国に出入りしている隊商が、涼優に立ち寄った時に聞いた噂なんですが……。見たこともないような衣服を着た少年が涼優のはずれに倒れていたそうで。――その少年は、重傷を負っていると」


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