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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第二章―引き寄せられるモノ―
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第二章 -17-

清宝の妖浄士達に打診された作戦のためには、いくつかやらなければならないことがあった。蛇魅をおびき寄せるための、城下の使用許可。そして、少しでも使える妖浄士を掻き集めることである。そしてそれには、王の許可が必要だった。権限事態は、神宮家と王族は同等だが、管轄というものがある。だからどうしても王の許可を取り付ける必要があった。


「馨、頼みます」

「お任せください、碧様」


随分と弱ってしまった主人にそう微笑んで返す。不安そうに瞳が揺れているのは、許可を取るのが難しいのを彼女が知っているからだ。

あの王に、今回の許可を取り付ける事は決して楽なことではない。現政権があの王でさえなければ、今のこの事態はもう少しましだったろうとさえ思われる。

だが、何としてもやり遂げなければ、碧と翠の命はない。責任は重大だった。

更に、許可を取り付ける他にもやらなければならないことがあった。


「今回のことは、いい契機になってくれたな」


碧に今から城に行くことを告げに行き、直に城を訪れていた私が、城の廊下を歩いている途中で落としたそんな独り言に、城への案内役を務めていた文官が訝しげな顔をした。

妖浄士達を虐げて地位を確立していた文官達には、今はわからないだろう。だが、妨害されても困るから、それでいい。いずれわかることで、その時に気付いても遅い。

碧や翠が苦しんでいるのに何も出来なかった自分が、酷く歯痒く情けないと思っていた。彼等を守ることは私の任務だが、それ以上に、彼等を大切に思っていたからだ。

護衛役兼教育係として、小さいころから彼等の傍にいた。職務以上に、守りたいと、そう思うようになったのは最近のことではない。そんな彼等が理不尽に苦しめられるのを見て、心の中まで冷静でいられるほど、私は出来た人間ではない。

清宝の妖浄士達には伝えていない、ある事実がある。

蛇魅が封印されていた祠は、王族と、神宮家のものしか知らない事実だった。単純な封印でしかなかった祠の存在を危機感のない国民が知れば、どうなるかなんていう結果は火を見るより明らかだった。しかし、その存在が、国民に、しかも問題児達に知られていた。

考えられる仮説は2つあった。神宮家の者が漏らしたか、王族が漏らしたか。仮説を明らかにするため、少数の本当に信用できる神宮家の者達と共に徹底的に調べ倒した。

そしてその結果は、大方予想道理のものだった。


「神宮の者が何の用かな?」


明らかに機嫌が悪そうに、ふてぶてしく王座に座りながらこちらを見てくる男に笑みを返せば、奇妙な物でも見るような目が向けられる。


「全ての原因の妖を退治するため、城下の使用と妖浄士の派遣の申し出に」

「そんなもの、認める訳がないだろう」


ふん、と鼻を鳴らす男の反応は、考えていたものと全く同じだ。だから次に出てくる言葉も予想がつく。


「そもそも、神宮家が起こした問題なのだから、神宮家で内々に対処すればいいことだ。我等を巻き込む等言語道断、分をわきまえるべきでは」

「お言葉ですが」


面倒くさそうに対応する男に、もう一度にっこりと笑って見せた。


「分をわきまえるのは、そちらだ」


何を言われたのかわかっていないのだろう、ぽかんとしている男が、正気に戻る隙など与えてやるつもりはない。


「全て、調べはついている。祠を壊させたのは、王の差し金だとな」


城下の悪ガキ共を誑かしたのは、王の手の者だった。

目撃者が多かったのは幸いだった。

祠を見てきた帰りに会った男子が話していたことは、大体正しい。こんなどうしようもない感覚が染みついた国にも、ある程度の良識がある人間は勿論存在する。この場合は、神宮家にそれ程悪意を持っていない者達を指すが、その良識のある人間達が、正直に見ていたことを話してくれたのだ。

城下の人間達は、直接何かを言う事が出来ずとも、悪餓鬼達の行動には始終目を光らせていた。いつ、自分達が被害に遭うかわからないからだ。人間というものは、自分に訪れる不利益には敏感である。だから、不審な動きをしっかり覚えていてくれた。


「城下で問題になっている子供の集団に、怪しい人間が接触していたという、証言が有った」


王は何も言わなかったが、明らかに一瞬肩をびくりと震わせた。私はそれには構わずに言葉を続ける。


「その怪しい人間は、事件が起こって暫くしてからも城下をうろついていたから、捕まえるのに手間はかからなかった。全て呆気ない程簡単に吐いてくれたよ。全て、な」

「わ、罠だ! 何を企んでいる!? 王族を嵌めて、実権を神宮のものにしようとでも――」

「黙れ」


今まで貼り付け続けていた笑みを崩し、ギッと睨みつければひっと声を上げて王の肩が跳ねた。


「妖浄士の力を奪った後、祠を壊し、全て神宮家の企みだと吹聴することで、権力を全て王族――自分に集中させようとしたようだが、考えが甘すぎたようだな。結界っていうものをここまで軽視しているのはこの国だけなんだよ、この大馬鹿が」


清宝側から、結界のことでの申し入れがあったのは非常に有難いことだった。現状力のない神宮家が、少しでも動くためには外部の力が必要だった。結界の弱まりのため妖浄士と共に来たあの少女には怖い思いもさせてしまったらしいが、清宝だってこの事態を利用したのだから問題はないだろう。彼女には気の毒な話だが。

何にせよ、結界というのは、他の国にとっては非常に重要な役割を占めている。消えた訳でもないのに直に行動を起こそう位には、だ。つまり、その結界を消失させるような行動を王族が取った等、非常に不味いことなのだ。


「結界の消失は、世界に脅威をもたらす大事だ。他国に知られたら、蓮葉という国家の存続すら危ぶまれる。故にこれ以上、放置している訳にはいかない」


幸い、実の息子である王太子は、本当に王の実子か疑う位には極まともな人間であるのだ。


「貴方はただ、必要なものを準備してそこに座っているだけでいいんですよ。コトの責任は、全てが終わった後にしっかりと追及させてもらいます」


もう一度にっこりと笑みを浮かべて言ってやれば、王は完全に脱力した。


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