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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第二章―引き寄せられるモノ―
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第二章 -16-

夢を見た。

白い無機質な廊下を照らす赤い照明が、起こってしまった悲劇を象徴しているようで怖かった。隣には父方の叔父が座っていて、私の肩を抱き寄せて、慰めるように頭を撫でていた。


「私のせいだ」


私の意思とは関係なく、私の口から言葉が滑り出す。それは違う、という叔父の声が廊下に響く。


「全ての条件が悪かったんだ」


そういう彼の手には力がこもっていたし、彼もまた悔しさを噛み締めているのはわかっていた。条件が悪かった、それは確かにそうだとしても、私の行動がもう少し違えば、という思いが消えない。自分の浅はかさのせいで、本当に大事なものを失うかもしれない。

彼だけに全部背負わせて、安全な場所で一人怯えていた私が、何も悪くない筈がない。だから、私は最低の人間だ。そう、思った。

そう思ったら、目の前がぐるんと回って、次の瞬間には景色が変わっていた。無機質な廊下は、普通の温かみのある景色に変わる。先程まで隣に座っていた叔父は、今度は正面に座っていた。


「会いに行かないのか?」


叔父が悲しそうに、私にそう告げる。


「そんな資格、私にはありません。合わせる顔もないし……怖いんです」


ぎゅっと拳を膝の上で握りしめてそう返せば、叔父はそうか、と言って、私の頭を撫でた。


「でも、そう思うからには、本当にあいつのことを大事に思っているんだろう?」

「当たり前です、そんなの、でも」

「だったら、今度こそ、間違えないように、手を放しちゃいけないと俺は思う」


どういうことかわからなくて叔父の目を見れば、彼もまた泣き出しそうな顔をしていた。


「俺だって、夕澄と同じことを思うよ。もっと出来ることがあったかもしれない。なのに、出来る事なんてなにもないと、結局何もせず逃げた。俺だって会う資格はないのかもしれない。でもここで逃げたら同じことの繰り返しだと思うんだ」


だから、と叔父は続けた。


「今度こそあいつを守ろう、夕澄。大切だと思うものを、二度と手放さないように」



目が覚めると私は泣いていた。

涙を拭っていると、外から女の人の声が聞こえる。滞在の間、身の回りの世話をしてくれる人だ。

襖を開けた彼女は、泣いている私に驚いて、慌ててどうしたのかと尋ねてきたが、夢を見たからというと、安心したようだった。直に、目を冷やすものを持ってくるといって部屋を後にしてしまう。その間に、私は考えていた。

二度と後悔なんてしないように、決めた筈だった。大事なものがあるならば、躊躇している暇すら惜しいと私は知っている。だったら、私のやることは決まっている。迷っているその時間すら惜しい。何もしないなんて選択肢は、存在しない。

戻ってきた女性が持ってきてくれた、濡れた手拭で目を冷やし、身支度をしてから、私は直に雅人の元へ向かった。


「蒼龍姫の能力を、試させてください」


雅人と、同じ部屋にいる常和は目を丸くしていた。常和は昨日の話を知らないのだから、余計に驚いているかもしれない。


「……どうしてその気になったのか、聞いても?」

「大事なものを失いたくないからです。もう二度と、後悔なんかしたくない」


この世界でできた大切な人を守るため、そして、どこかにいるかもしれない夕月を守るために。そんな想いをこめてそういうと、そうか、と雅人は息をつく。


「昨日も言った通り、現時点ではまだ手は出せない。だから、それは蛇魅を倒してからになる。まあそれほど時間はかからないだろうし、かけている余裕もないが」

「蛇魅の対策はもう立っているんですか?」

「作戦はもう決まっている。常和、説明してやれ」

「その前に、俺のいないところで何の話をしたんですか……。蒼龍姫のことだとか、俺を置き去りにして進めないでもらえませんか?」


どこか不満げにそう言った常和に、そう拗ねるな、と雅人が笑い出した。

雅人が昨日のことを簡単に常和に伝えれば、常和は顔を顰めた。なんで教えてくれなかったんですか、と雅人に言うが、夕澄のためだと雅人はいう。


「俺はまだ夕澄との付き合いが浅いからな。だが、お前はそれなりに夕澄に信用されているようだし、嘘をつかれるのは衝撃だろう。それにお前はあまり嘘に向かないだろう、だからだ」

「……わかりました」


常和はやはり少し不満げだった。彼が知らないことに安心しただなんていったら怒られてしまうだろうか、と私は考える。

しかし取り敢えずは納得したのだろう、常和は昨日練った作戦のことを教えてくれた。


「蛇魅が人の悪意に吸い寄せられる妖だっていうのは、昨日一緒に聞いたよな。だから、それを利用しておびき寄せることになった」

「おびき寄せる?」

「城下を使う。悪意に満ちたこの国の城下は、妖にしてみれば恰好の餌だ。だから、あんなに結界の周りに集まっていたんだ」

「城下を使うって……大丈夫なの!?」


国民が暮らしている場所を使うリスクは高いのでは、と思いそう声を上げたが、釘を刺すことにもなるからな、と坦々と返されてしまい、言葉も出なかった。


「国民の“命には”被害がいかないように、しっかり練ってあるしな」


雅人が常和の言葉を補足する。命にはをやけに強調した物言いに、脱力感すら覚えてしまう。


「お前の身の安全については、戦闘中は神宮家に一任してあるから安心しろ。ただし、護衛の傍からは離れないように。今回は人妖じゃないからそれほど手こずりはしないだろうが、この国の妖浄士に期待できるような状況じゃない以上、俺達が守りきるのには限界があるからな……」

「それは、勿論ですけど……人妖って?」


雅人が発した、どこかで聞いたような気もする単語に首を傾げると、人型を取るような妖のことだと教えられる。


「人の姿が取れるほど力を蓄えた妖のことを纏めてそう呼ぶんだ。元々の妖にもよるが、大抵は普通の妖よりも妖力があって強い」

「それなら、この間の化け猫も人妖なんですね」


そんな強い妖を倒したのだから、常和はやっぱり凄いんだ。そう思っていると、化け猫は、と常和が呟いた。


「頭が悪かったから、他の人妖と比べるのもな」

「一般的に人妖は知能も人間並みだとされているが、煉華からも話を聞いたが、どうやら相当そいつは馬鹿だったみたいだな」


にやり、と笑った後、すぐに顔つきを厳しくして、だからといって、と雅人が続ける。


「お前はもう少し警戒心を持て。妖と対峙するときに侮っていると痛い目に遭うぞ。知能がないから楽に済むという訳でもない。周りの人間を危険に晒す可能性があるんだからな」

「……それも煉華から聞いたんですか」

「あいつがそういうのを第三者に告げ口する人間じゃないことをお前は分かっているだろう? 化け猫の話を聞いた時点で大体予想がつくさ。……お前は優秀だ。わかっているな?」


常和は苦虫を噛み潰したような顔をして、わかっています、と言った。

化け猫と常和が退治したときに彼の様子がおかしかったのはそういう訳だったのだろうか。確かに、余裕そうに戦っていたが、そういうものとは違うものを感じた気がする。

それでもなんとなく気まずくなった雰囲気は戻したいと思って私は話題を変えた。


「それで作戦って、いつ決行するんですか?」

「ああ、そうだな……向こう側の準備も少し手間取るだろうからな」

「なんとかなりそうなんですか?」


決まりが悪そうにしていた常和が表情をまた硬くさせて、そう雅人に尋ねる。


「なんとかしてもらう。それぐらいのことはしてもらわないとな」

「妖浄士の手配と、住民の避難の手配、それから万が一の時の建物等の修繕費、他にもありますけど、城側を相手取るのは大変そうですね」

「だが、なんとしても手早くやってもらわないと状況が悪くなる一方だ。遅くても一週間以内には片を付けてもらわないとな」


あの王を相手取って、一週間以内に様々な手配をするのは難しそうだ。誰かはわからないが、担当者に少し同情していまう。

その後は、常和や雅人はこれから訓練をする予定があったため、私は自室に戻ることになった。見学するかとも言われたが、少しだけ一人になりたいとも思ったのだ。蒼龍姫のことは、まだ完全に整理がついた訳ではない。

部屋に送ってくれた常和は、辛いことがあったら絶対に言えよ、と私にいった後に、ふっと微笑んだ。


「さっきはありがとうな」

「え?」

「じゃ、また後で」

言われたことを一瞬理解できなかったが、常和は直に戻って行ってしまった。

多分、化け猫の話の時に私が話題を変えたことだろうというのが、少し考えてだした結論だ。わざわざお礼を言ってくれるあたりが律儀だな、と思う。


結果として、向こう側の準備が整ったのは、雅人が言っていた期間よりは少し早く、話をした日の4日後だった。


「なかなか早かったじゃないか」


その報告を持ってきた馨ににやりと笑って雅人がそう言うと、馨は苦笑でそれに返した。


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