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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第二章―引き寄せられるモノ―
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第二章 -15-

馨に連れられて碧の部屋に行くと、辛そうな様子は隠せていなかったものの彼女は私ににこりと微笑んだ。


「急にごめんなさい。でも落ち着いて話をしたいと思って」


碧は緑姫という都合上自分と年が近い女の子とあまり話す機会がないらしく、どうしても少し話がしたかったのだと言った。

結界を張りながら外出することは体に負担がかかるために、あまり外に出る機会もないのだという。

外出すら満足に出来ないなんて、想像すら出来ない。

彼女の申し出を断る理由もなかったので、私は彼女と少し話をすることにした。

馨は終わるまで部屋の外にいると私達に告げて部屋から出て行った。


碧は異世界という未知の世界に興味があったようで、服装や食生活、文化など様々なことを私に聞いた。私自身は今まで住んでいた世界であり、改めて説明しようといろいろ思い出して言葉にするのは難しかったが、何を話しても驚いて、瞳を輝かせながら聞いてくれる彼女と話すのは私も楽しかった。緑姫という役目を負いながらも、そうして話している彼女はどこにでもいるような普通の女性なのだ。今更ながらにそんなことを思い、彼女を特別視していた自分を反省する。

暫くそうやって話した後に、ふと、疑問に思ったことを口に出してみた。


「碧様は、嫌じゃないんですか? 人のために命を掛けて、結界を張る事」


碧は軽く首を振って微笑んだが、すぐに表情を暗くした。


「結界を張るということは使命であって、私の生きる理由でもあります。たとえ、命を懸けてでも。小さい時から言い聞かされてきたことですし、それを不満に思ったこともありませんでした。私が人を救えるならってずっと思ってきた。でも……もう、自信がないんです」

「碧様……」

「私は緑姫として特殊な力を持っていても、所詮は人に過ぎません。守れるのはほんの一部の人だけ。それが今のこの状況を招いてしまった。私がもっと頑張れば、救えたかもしれない命なのに……それが、翠も……大事な弟さえも苦しめる結果になってしまって」


涙を浮かべる碧に私はかける言葉がみつからなかった。やがてその涙は静かに彼女の頬を伝い落ちて彼女の着物を濡らしていく。


「あの子は私のことを想って言ってくれた。私はそんなあの子を助けてあげることすらできない。結界なんて……なんの意味があるんでしょう。大事な人一人救えないのに。私はそれしかできないのに、そんなことしかできないのに」

「碧様……それは、違いますよ」


私は着物の上で握りしめられていた、濡れた彼女の手を取って首を振る。


「だって、碧様が守っている主要な都市の人達がいなければ、結界がない地域の人達を守ることはできないんじゃないですか?」


唖然とした目をして私をみてくる彼女に、私は続ける。


「私、訓練をしている妖浄士の人達をみました。皆一生懸命でした。私がこの世界にきてできた友達の一人は、人を守れることが誇りだといっていました。でも、その妖浄士の人達だって、碧様が守る場所で訓練してるんです。碧様が守っているから、訓練に集中できるんですよ。そして、強くなるんです。その人達が他の地域に出張したりして、結界のない地域の人達を守るんです。人だから限界はあるけど、もし、妖浄士がいなかったら、もっと悲惨なことになっているって、私は思います。だから、碧様は結果的に、皆を守ってるんですよ。これって凄いことじゃないですか?」


そうでしょう、と声をかけると、碧はさっきよりももっと沢山の涙を流しながらもうなずいた。


「夕澄様はとても、優しい方ですね。それに……不思議です。夕澄様の手は、とても暖かくて、優しい気持ちになります。体が少し楽になったような気もします」

「え、本当ですか? ならいくらでも、私の手を握ってください!」


そういうと、彼女は今度は微笑んだ。

私が優しい、という言葉は同意できないけれど、それで碧が楽になるのなら、それでいい。そう思って私は彼女の手をずっと握っていた。

暫くして、馨がもうさすがに遅い時間だからと呼びにくるまで。

帰り際、碧は私を呼び止めていった。


「夕澄様、もしよければ、弟の手も握ってあげてくれませんか。きっと、あの子も落ち着くと思うから……」


私が微笑んで頷くと、碧も微笑んだ。

私でも、出来ることがあるのならと少し安心する。こんなことしかできないけれど、それでも何もしないよりはきっといいはずだと信じた。


馨に連れられて部屋に戻ると、私は直に布団に横になる。今日は、なんだか疲れてしまった。

碧にはああいったものの、私は、自分の命を掛けても、という言葉に納得できてはいなかった。

死ぬのは、誰だって怖い。それなのに、小さい頃から言われ続けてきたからと言って、辛い思いをしてまで使命を果たし続ける彼女は凄いと思う。それを自分に当てはめて考えたとき、同じことを出来るとは思えない。今日の城下の国民達のように、碧のことを良く思っていない、しかも、結界の有難みすらわかっていない人間もいるというのに。

蓮葉に限った事ではない。どの国にもそういう人間は一定数いるのだろう。だとすれば本当に、碧が命を掛けてまで守る価値のある人間が、どれほどいるというのだろうか。

しかし碧が結界を張らなくなったら、沢山の人が死ぬことになるのも事実であって、そうなれば、この世界にきてから出逢った人たち――常和や煉華、雅人達は、仕事柄最も危険な立ち位置に立つことになる。そうなったとき、彼等がいなくなってしまう事を想像するのは怖かった。

また、碧がいなくなればやはり結界は消失し、同じことが起こるのだろう。

もしも私が万が一本当に蒼龍姫だとして、力を使えばそれを救える立場にたてることになる。

逆に言えば、力を使わなければ、私は世界を見捨てることになる。間接的な人殺しだと思い、ぞっとした。


「でも、私が特別なんて、そんなの……」


信じたくないよ。その言葉は、口にできなかった。


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