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蒼龍姫  作者: 浅野 燈奈
第一章―暗闇に輝く瞳―
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第一章 ―3― 

その後常和と煉華が色々話しているのを私はただぼっーっと見ていた。兵士のような人が現れて少し常和と何か話してすぐに出て行く。城に伝令を送ったのだと煉華が教えてくれた。

常和と兵士の会話が少しだけ聞こえたが、それによると私は城に連れて行かれるらしい。頭の中に時代劇に出てくるような城が浮かぶ。

城に連れて行かれる。一般人を連れて行くときなんて、その人が不審人物だと思う時じゃないだろうか。

飛躍しすぎとも思えるような不安が私を襲う。


「殺されたり、しないよね……」


口に出すつもりはなかった。しかしどうやら無意識に言葉にしてしまっていたようで、ぎょっとしたような顔で二人は私を見た。

常和と煉華は私の言葉を即座に否定して、色々説明してくれた。

私は何らかの理由で――煉華がいうには階段から落ちたことが原因で――別次元からきたマヨイビトといわれる存在かも知れないという。マヨイビトならば何らかの対策を取らなければいけないらしい。そのためにはちゃんと判断できる人に色々相談をしなければならないので城にいく、と。

色々と混乱してしまうが、とりあえず私は壮大な迷子になっているらしい。

まるで漫画や小説みたいだ。夢を見ているのかも知れない。だとしたら早く覚めて欲しい。こうやってのんきに夢を見ている時に、夕月がどんな怪我をしているのかわからないのだから。



二人はすぐに支度を整え、私を連れて、女将さんらしき人にお礼をいって宿からでた。女将さんは私を見て元気になって良かったねぇ、と微笑んでくれた。とりあえず曖昧に笑ってお礼を言っておいた。

宿屋から出るとすぐに大きな城が見えた。

山というには低く、丘というのには高いそんな場所に、想像していた江戸時代の城というのとは違う、どちらかといえば平安時代のような城が存在を主張していた。

街を出てしまうと、細く坂になった一本道が続く。

城までの道のりは目に入っている程近くはなく、最近運動不足だったのもあって身体はすぐに悲鳴を上げた。しかし二人とも何の苦でもないようにスタスタ歩くから、それを口に出すのに躊躇する。


「疲れたら言えよ。……馬がいないから、背負って歩くことしか出来ないが」


先程から煉華と話しながらもチラチラとこちらを気にしていた常和が、少し躊躇するように間をおいて言う。

疲れていることを気付かれているのがわかり、気にしてくれたことが嬉しかった。

お礼を言ってもう少し頑張ることを告げると、そうかと言いつつも歩くペースを落としてくれた。煉華も気付かなくてごめんねと言ってペースを同じように落としてくれたから、歩くのも少し楽になる。

お城に着くころには足が棒のようだったけど、無事到着出来たことにほっとした。

煉華が門番の人と話すと、門番の人はこちらをみた後、怪しいものをみるような顔を一瞬した。本当に一瞬だったが、私はそれに気付いてしまった。

マヨイビトがなんなのかちゃんとはわからないけれど、確かに、怪しい人間なのだろうからしょうがないとは思う。でもあからさまに負の感情を向けられるのはやはり傷付く。

門番の人が門を開けて私達が城の中に入った後も嫌な視線をずっと感じたが、さり気なく煉華と常和が庇うように立ってくれた。


「ごめんね、気分悪いでしょう……?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


心配そうにそう小さな声で声を掛けてくる煉華に、平気だと伝えるためににこりと笑った。

でも時々、奇妙な服だとか、怪しい娘という声が聞こえて、泣きたくなるのをぐっとこらえた。


「悪いな、皆気が立っているんだ。この国も色々あったからな……」

「大丈夫です。平気ですよ。それに確かに奇妙な服だからしょうがないですよ」


常和も気にしてくれるから、スカートを摘んで苦笑いした。

周りの人が着ているのは着物とか、それに似た形式のものが多い。

制服を着ている私は明らかに浮いている。確かに奇妙に見えるだろう。


「それに、たいした事じゃないですからこのくらい。あいつに比べたら……」

「あいつ?」


常和がそういって不思議そうに見るので、慌てて何でもないと言って笑う。

その後私が黙り込んだので、二人も何もいわなかった。

無言で歩いていくうちに、大きな襖の前に着く。

金の上に、とても綺麗な紅い鳥があしらわれた豪華な美しい絵柄が書かれた襖の前に立つと、そのあまりの美しさに目を奪われた。


「綺麗な鳥」

灼朱(しゃくしゅ)っていうんだよ。この国の守り神様なんだ」


思わずため息をついてしまうくらいに感動していると、煉華がそう教えてくれた。

襖の前に立っていた人に常和が先程の伝令の件だ、というと、その人はご苦労様ですといって礼をしてから襖を開けた。

襖の向こうには、もう一枚別の絵柄で灼朱が描かれた襖があった。

襖と襖の間に一段高くなった板の間と靴箱があり、そこで靴を脱ぐように言われたので私は履いていた靴を脱いで靴箱にしまった。


「この先には陛下がいらっしゃる。でも心配するな。絶対に大丈夫だから」


常和がそう言って私に微笑んだ。

本当は、少しどころかかなり不安だった。王様なんて存在にいままで対面することなんかなかった。それが当たり前なのだ。当たり前だったのだ。

なのに、今この襖を開ければ王様がいる。

でも常和が本当に優しく笑うから、不思議と安心するような気もした。


「陛下。煉華、常和、ただ今戻りました」


煉華がそういった後、入れという声が聞こえて襖が開く。

部屋自体は小さいものだった。学校の教室よりも少し奥行きがあるぐらいで、床には畳が敷かれていた。想像していたものとは大分規模が小さかったが、だからこそすぐに目に入った。

煌びやかな紅い着物に身を包み、短い濃い茶色の髪の毛の片耳の前の一房を、豪華な飾りで留めていた。その衣装の豪華さにまず圧倒される。

でも、衣装だけじゃなかった。こうして前にいるだけでわかる程身に纏っている雰囲気が違う。そんな私が圧倒された人は、部屋の奥の一段高くなったその場所に座っていた。まず間違いなく彼が王様なのだろうと思う。

その隣には、長い髪を首の後ろでまとめた男の人が座っていた。

男の人だとはわかるが、とても綺麗な人だと思う。誰が見ても美しいと表現しそうな容姿をしていた。とても艶やかな黒髪は、どんな女性でも羨ましいと思うだろう。彼の瞳は煉華と同じ、しかし煉華よりもより鮮やかな-沈む直前の夕陽のような-紅色をしていた。それに驚いたが何とか表には出さなかった。その紅色はとても黒髪と会っていて、むしろそれが自然だと思えた。

近くにきて座るように言われたので、王様の正面、少し離れた所に座る。


「二人共ご苦労だった。報告書は後程出すように。しかしその前に、その少女のことがあるな」

「先程送った伝令の通りで御座います、陛下。恐らくマヨイビトではないかと」


常和の答えに、王様は考えるように沈黙してから、口を開く。


「妖のことも、九重家の瞳のことも知らないということだったな。マヨイビトというのは俄には信じがたいが……。この世界の常識ともいえるようなことを知らないというのは妙だしな。燈樺(とうか)はどう思う」


王様に燈樺と呼ばれた人がチラッとこちらを見たので、思わずびくりとしてしまう。


「そうですね。確かにマヨイビトは伝承上の存在ですが、彼女の服装はこの世界には存在しないものだと思いますよ」

「ということはほぼ間違いないのか?」

「恐らくは。それに彼女が嘘をついているようには見えません」

「お前が言うのならばそうなのだろうな。ならば帰る方法がみつかるまで、彼女はこの国で保護するのが良いと思うのだが、どうだ?」

「陛下の御心のままに」


燈樺がにこりと微笑むと、決まりだな、といって王様も笑う。

それでいいか?と王様に聞かれたので、はいと答えたが多少上澄ってしまった。


「すぐに部屋を用意させよう。煉華の部屋の近くがいいか」

「丁度隣が開いておりましたので、準備させています」

「行動がはやいな。お前は私を本当によく理解していると思うよ」


王様がため息をついたあと、苦笑する。

燈樺はそれに微笑んでみせた。


「帰る方法がみつかるまでどれくらいかかるかはわからないが、出来る限り努力してみよう。すまないが、それまで我慢してくれ」

「いえ、ここにおいていただけるだけで十分嬉しいです!」


頭を下げると、いい子なのだな、といわれて、赤面してしまう。

なんだか、想像していたよりも簡単に進み、この城においてもらえることになってしまった。

元の世界のことは気になるが文句など言えない。おいてもらえるだけでも奇跡だとわかっている。それ以上を願うのは厚かましいだろう。


「名は何と?」

「椎名 夕澄といいます」

「年は」

「私の世界で誕生日が来れば17になります」

「そうか。それなら年が近い常和と煉華が暫くは護衛につくように。まあ、護衛といってもこの城内ならばそう心配もないだろう、外に出るときは二人がつくが、わからないことを聞く人間と夕澄殿は思っていてくれればいい」


常和と煉華が了承する返事を返す。


「大げさだと思うかも知れないが、マヨイビトは、この世界に繁栄をもたらすという言い伝えがあるんだ。だから夕澄殿のことは賓客として迎えさせて頂くがあまりそういうものを気負わずにいて欲しい。そういう扱いをする人間もいるかも知れないが気にしないでくれ……というのは、難しいことかも知れないが」


苦笑する王様にわかりましたと返事をすると、彼は有難うといって笑った。


「これから宜しく頼むよ。……ああ、そうだ。忘れていた。私は日向(ひゅうが)志輝(しき)。横にいるのが九重燈樺。この国の宰相代理だ」

「宰相代理、ですか?」

「宰相が不在の時に宰相の代わりを勤める役職のことだ。次期宰相候補といったところかな。正式な宰相は燈樺の師匠なんだが、現在は療養中なんだ。それで燈樺が宰相の代わりを勤めている。夕澄殿の国にはそういったものはなかったのか?」

「私の国は民主主義といって、国民が政治を行う国なんです。実際には、国民が選挙で選んだ代表が行うんですけど……。今は王様も宰相も私の国にはいません。政治を取り仕切るという意味なら総理大臣が宰相のようなものなんでしょうが、それでも宰相とは大分違いますね」

「民主主義……国民が政治を? 面白い国なのだな、夕澄殿の国は。だがだとすると、価値観などもこの国とは随分違うだろう。何か困ったことがあれば遠慮なくいってくれ」

「ありがとうございます」


優しい笑みを浮かべる王様にお礼をいって頭を下げる。王というのはもう少し厳格なイメージがあったが、良い人そうでほっとする。

その後、先ほど入ってきた扉から女官らしき人が入ってきて部屋の用意が出来たことを告げ、私は常和と煉華に連れられて自分のために用意された部屋に向かった。

随分な距離を歩いて疲れきっていたので、部屋につくとすぐに私は用意されたベッドのようなものに横になる。

ベッドのようなものに敷かれたふかふかの布団がこれほど幸せに感じたことはなく、自分の身に起きたことを整理しようと思っていたのに、すぐに眠りについてしまった。

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